29日の早朝、北朝鮮が太平洋に向けて中間弾道ミサイルを試射した件では、事前に察知していた安倍政権がJアラートを鳴らし、大平洋に着弾した後も、ミサイルの軌道から700キロも離れたところの新幹線や電車を止めました。
TVは一斉に大事件が起きたと報じ、NHKに至っては6時過ぎから10時過ぎまで延々と4時間もその話題を引っ張りました。しかし報じるべき内容は殆どなかったので、同じことを延々と繰り返すしかありませんでした。
安倍政権のこの大騒ぎは、この際北朝鮮の脅威を煽り政権の浮揚に繋げたいとする意図が見え見えで、当然国民からは大ブーイングを受けました。
その一方で、ダイヤモンドオンライン(2017.8.31)には早くも 「呑気にJアラート批判の日本人は日米開戦前夜にそっくりだ」 とするノンフィクションライター窪田順生氏の記事が載りました。
記事の書き出しは
〈「Jアラートは意味がない」など、北朝鮮のミサイルに対する政府の取り組みを批判する声が数多い。テレビでは専門家たちが「本気で攻撃してくることはない」と解説をするなど、「ミサイル着弾はない」と信じている日本人が多いからだろう。しかし、現実はそんなに甘くないかもしれない ・・・〉
となっています。
〈「Jアラートは意味がない」など、北朝鮮のミサイルに対する政府の取り組みを批判する声が数多い。テレビでは専門家たちが「本気で攻撃してくることはない」と解説をするなど、「ミサイル着弾はない」と信じている日本人が多いからだろう。しかし、現実はそんなに甘くないかもしれない ・・・〉
となっています。
しかしこれまで政府が主催して各地で行った避難訓練は、結局、小学校や体育館に頭を抱えて逃げ込むだけのもので、『永続敗戦論』の著書を持つ白井聡・京都精華大講師が寄稿した26日付神奈川新聞の記事の
〈なぜそんな無意味なことを政府は国民にさせるのか。そこに別の意味があるからだ。戦時中、竹槍でB29を落とす訓練に「そんなのは無意味だ」などと言おうものなら、「お前は何を言っているんだ。非国民だ!」と爪はじきにされた。いま行われている弾道ミサイル避難訓練はこの構造とよく似ている。つまり不合理に屈する国民を生産するという社会的効果がある〉
という主張の方がよほど説得力があります。
日刊ゲンダイが電子版に「常軌を逸した北朝鮮ミサイル騒動の裏に何があるのか」という長い記事を載せました。記事は上・中・下に分かれ、このうち「上」のみが閲覧できるようになっています。
幸い「中」の部分が「阿修羅」に掲載されましたので、以下に「上・中」を紹介します。
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常軌を逸した北朝鮮ミサイル騒動の裏に何があるのか<上>
日刊ゲンダイ 2017年8月30日
まるで空襲警報だったJアラートは恐怖を煽るだけが目的なのか
朝早くに鳴り響いた「ウォーン」という警報音に、多くが異様な気配を感じたはずだ。
29日午前6時2分、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したのを受け、政府は北海道など12道県のJアラート(全国瞬時警報システム)を作動。自治体の防災無線の他、携帯電話に緊急速報メールが流された。テレビ各局の画面も一斉に切り替わり、アナウンサーが屋内への避難を呼びかけるコメントを繰り返す。6時10分すぎにNHKが流した速報は、「北朝鮮からミサイルが東北地方の方向に発射されたもよう」。その後、ミサイルが日本上空を通過したことが伝えられたが、まるで日本列島を直撃する「空襲警報」かというような緊迫感だった。
だから住民がパニックになったのも無理はない。北海道警には「どこへ逃げればいいんだ」という110番が90件以上あった。新幹線や在来線は一時運転を見合わせ。自治体は大わらわで、休校にする学校も相次いだ。
だが、Jアラートからミサイル上空通過までわずか5分、襟裳岬東約1180キロの太平洋上に落下するまで10分。そんな短時間に避難などできるわけがない。「地下に行けと言われたって、この辺りは地下がない」「頑丈な建物へ逃げようと山形県庁に行ったが、入れてもらえなかった」という冗談みたいな光景が各地で展開された。政府は全国でミサイル避難訓練を行ってきたが、これが現実なのである。
北朝鮮のミサイル強行発射はとんでもない。しかし、ミサイルは日本列島上空を通過しただけであり、人的物的被害は一切出ていないのに、テレビも交通機関も自治体も大騒ぎしすぎじゃないのか。
「日本国内が過剰に反応すればするほど、北朝鮮の思うツボですよ。騒ぎを起こして、世界に見せつけようというのが北の狙いなのですから。それに、国民が不安を感じざるを得なくなってしまったのは外交・安保政策の失敗にあるのに、安倍政権は不安を煽って対外緊張を支持率回復につなげようとしている。ひどい話です」(政治学者の五十嵐仁氏)
常軌を逸した反応は、そんないかがわしい安倍政権を後押しすることになるだけなのである。
米朝の戦争に首を突っ込んで、ついに脅しの標的にされるアホらしさ
ミサイル発射後、官邸でぶら下がり会見を行った安倍首相は「わが国を飛び越えるミサイル発射という暴挙は、これまでにない深刻かつ重大な脅威である」とイキリ立った。過去にも北朝鮮のミサイルが事前通告なく日本上空を通過したことはあるのだが、今回の脅威はレベルが違うと言わんばかりだ。
「そもそも、北朝鮮が見ているのは米国の反応だけです。もし、本当に日本に対してミサイル攻撃を仕掛けてきたとしたら、北朝鮮にそんな行動を許した日本外交の大失敗ですよ。なぜ米国や韓国ではなく、日本が真っ先に標的にされなければならないのか。それだけで内閣総辞職ものの責任問題です」(元外交官の天木直人氏)
北朝鮮が米国を敵視するのは分かる。1953年、米国を主体とする国連軍と北朝鮮・中国軍との間で休戦協定が結ばれて60年以上が経つが、まだ朝鮮戦争は終わっていない。停戦状態にあるだけだからだ。
米朝が交戦状態になれば、在日米軍基地が攻撃対象になる可能性はあるが、本来は日本が軍事攻撃の標的にされる理由はない。米朝の戦争に首を突っ込んで、脅しの標的にされるなんてアホみたいな話なのである。
ところが2年前、安倍は「米国の戦争に巻き込まれることは絶対にありえない」と言って、集団的自衛権の行使を可能にする安保法を強行成立させた。同盟強化の名のもとに米軍との一体化が進めば、日本がミサイル攻撃の標的になるリスクは高まる。自分で危機を招き入れておいて、ミサイルが上空を通過するとJアラートを鳴らして大騒ぎ。この裏にはどんな狙いがあるのか、気づく必要がある。
北朝鮮がこのタイミングで様々な強硬手段に出ている理由
北朝鮮は今年になって13回も弾道ミサイルを発射しているが、特に最近、その攻勢を強めていた。
7月にはICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星14号」を2度発射し、今月9日には、米領グアム沖への「火星12号」の発射計画を発表。21日から米韓合同軍事演習が始まると、「火遊びする愚か者の行動を黙って見ているだけではない」と警告。26日には日本海に向けて新型多連装ロケット砲弾3発を発射した。そしてわずか3日後に弾道ミサイル「火星12号」の発射を強行したのである。
なぜ、北はこのタイミングで立て続けに強硬手段に打って出るのか。
元韓国国防省分析官で拓殖大学国際開発研究所の高永テツ客員研究員はこうみる。
「金正恩朝鮮労働党委員長の暴走のように見えますが、優秀なコンサルタントがいて、北は“一石三鳥”とも言えるシタタカな戦略を持っています。米韓合同軍事演習への牽制、先軍節など記念日に合わせた国威発揚、確実に進化している技術力の誇示です。先月28日深夜の火星14号はロフテッド軌道で、米本土までの射程を示した。今回は通常軌道では難易度が上がる大気圏再突入にも成功したのです。北には焦りがある。国内には韓国などからの情報が流入していて、金正恩体制に疑問を抱く国民が現在3割近くに上ります。北はオバマと違ってトランプなら挑発に乗ってくると踏んでいます。米国からの攻撃をギリギリ避けながら挑発を繰り返し、この機に米朝交渉まで持っていこうという算段です」
北は着々と歩を進めているというわけである。
常軌を逸した北朝鮮ミサイル騒動の裏に何があるのか<中>
日刊ゲンダイ 2017年8月30日
阿修羅 投稿者 赤かぶ 日時 2017年8月30日より転載)
バカの一つ覚え、制裁強化では1ミリも解決に動かないだろう
弾道ミサイル発射を受け、米国のトランプ大統領と電話会談した安倍は「北朝鮮に対し、圧力をさらに強めていくということで日米は完全に一致した」という。国連の安全保障理事会に対しても、緊急会合を要請。国際社会に制裁強化を求める方針だが、それで何かが劇的に好転することは考えづらい。
なぜ、国際社会から制裁を受けても、北朝鮮は核・ミサイル開発をやめないのか。その狙いはハッキリしている。現在の金正恩体制を維持することだ。核保有への思いを強めたのは、イラクのフセイン政権が米国の先制攻撃によって崩壊したことが最大の理由だとされる。
「北朝鮮は、核開発がイラクの二の舞いにならないための『強力な抑止力』だと主張している。核開発や軍事挑発を本気でやめさせようと思うのなら、米国との直接対話しかありません。平和協定交渉の過程で核凍結を受け入れる可能性はありますが、制裁措置などの強硬策に対して軟化したことは一度もない。米国内でも、制裁強化では何も解決しないという意見が主流になっています」(元外務省国際情報局長の孫崎享氏)
ところが、25日付の日経新聞は「日本狙うミサイル・拉致、米朝対話で置き去り?」と題し、米朝が軍事衝突を回避して対話による問題解決に向かうことは<日本にとって望ましい結果になるとは限らない>と書いていたから驚く。米国が対話路線でICBMの脅威を取り除いても、日本を射程に収める中距離ミサイルは残る。拉致問題と核・ミサイル問題の同時解決を主張してきた日本の立場も弱くなる。<こうした置き去りリスクが起きないよう日本は米国に思いとどまらせることができるのか>というのだ。じゃあ、対話によらない解決を望むというのか? 衝突が起これば、被害を受けるのは日本だ。平和的な対話交渉に反対するなんて、あまりにバカげている。制裁強化で北朝鮮を孤立化させたところで何も解決しないのだ。
9日に北は核実験をするのか
9月9日は北朝鮮にとって1948年に共和国樹立を宣言して独立した建国記念日だ。昨年のこの日、北は過去最大の爆発規模の核実験を行っている。米韓合同軍事演習の終了直後だった。今年も9日に、6度目となる核実験を強行するのだろうか。
すでに兆候はある。韓国の情報機関、国家情報院(NIS)は28日、北東部・咸鏡北道吉州郡豊渓里の核実験場で核実験の準備が整っている可能性があるとの見方を示した。2番トンネルと3番トンネルで核実験を実施する用意を完了し、昨年、掘削作業が止まっていた4番トンネルについても、建設工事の準備が進められているという。
前出の高永テツ氏が言う。
「9月9日その日か、もしくは朝鮮労働党創建記念日の10月10日までの期間に核実験が行われるのは、ほぼ確実と言っていいでしょう。昨年行っていますので、今年見送るとメンツが立ちません。それに、昨年の実施から1年、核実験をしていない。その間、技術的にも大きく向上している可能性が高い。核技術をアピールしたいと考えるのが自然です」
北の狙いが米国を交渉のテーブルに着かせることである限り、挑発をやめることはないということか。
国民全体が戦争ムードに踊らされているが、これは冷静な判断能力を失わせるための洗脳ではないのか
29日の大騒ぎは過剰と言うしかないが、それでなくても既に日本列島は、各地で政府主催の避難訓練が開催され、“戦時ムード”が醸成される異常な状態にあった。だが、訓練なんて、小学校や体育館に頭を抱えて逃げ込むだけ。実際、きのうのJアラートに対して、多くの住民が「どうしようもなかった」「避難のしようがなかった」と口を揃えていた。
なぜそんな無意味なことを政府は国民にさせるのか――。京都精華大専任講師(政治学)の白井聡氏の神奈川新聞(26日)への寄稿が興味深い。
〈そこに別の意味があるからだ。戦時中、竹槍でB29を落とす訓練に「そんなのは無意味だ」などと言おうものなら、「お前は何を言っているんだ。非国民だ!」と爪はじきにされた。いま行われている弾道ミサイル避難訓練はこの構造とよく似ている。つまり不合理に屈する国民を生産するという社会的効果がある〉
訓練を繰り返す中で、国民は「とにかく頭を抱えてミサイルから身を守るべきなのだ」としか考えられなくなり、冷静な判断を失う。それが政府の目的なのではないのか。洗脳である。だが、思考停止してしまったら、いつか来た道になりかねない。
あらためて白井氏が言う。
「安倍首相は今回のミサイル発射について、『これまでにない深刻かつ重大な脅威』と言いましたが、北朝鮮のミサイルが日本列島を越えたのは既に5回目です。日本への直接攻撃でもなく、今さら驚くことでもない。それなのに、なぜこんなに危険が高まっているかのようなムードになるのか。それは、安倍首相が日米同盟を強化してきたからです。朝鮮戦争は休戦しているにすぎないので、北朝鮮は米国に対抗するために核とミサイルの開発をやめない。そんな中で新安保法制を制定し、安倍政権は『日米同盟を強化すればより安全になる』と言ってきましたが、現実はその逆でした。国民は頭を抱えて避難するだけでは、何の解決にもなりません」
安倍政権のドス黒い野望を見抜かなければならない。