安倍首相は、北朝鮮が自国防衛のために「核兵器+弾道ミサイル」路線に突き進んでいる事情を全く理解しないままで、ことあるごとに「圧力強化で米国と完全に一致」などと米国との一体化を強調しています。
安倍政権が、北朝鮮が真底恐怖心を抱いている米国といつも一体であると語り、「北朝鮮がこの道をさらに進めば明るい未来はない」などと絶えず上から目線の物言いをするのを見ていると、まるで日本が北朝鮮の標的になりたいと言わんばかりです。
北の弾道ミサイルが北海道・青森県間の海峡の上を通過した後でも、本州の広い範囲までJアラートを鳴らして恐怖を煽ろうとする政府の意図は明確です。勿論国民に求心力を訴えて政権を浮揚させたいからですが、NHKと民報、それに大新聞は何故そんな政府の策動に同調するのでしょうか。
日清・日露戦争以降 日本軍の戦勝を報道する度に新聞が飛ぶように売れ、発行部数が飛躍的に増大しました。それに味を占めた大新聞は、その後も国民と政府に対して対外強硬路線を煽り戦線拡大を煽りました。その挙句が太平洋戦争への突入でした。
いまのメディアの浅薄な同調ぶりをみていると、あたかもその再来を目指しているかのようです。
「米国に対抗するために発射された弾道ミサイルについて、なぜ日本が大騒ぎしなくてはならないのか(孫崎享氏)」… ミサイルの試射が日本の危機ではないことは当の安倍政権が一番良く承知していることです。そのことをメディアが報じようとしないのは許せません。
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北ミサイル発射で危機煽り 日本メディアはまるで従軍報道
日刊ゲンダイ 2017年9月17日
「北朝鮮がこの道をさらに進めば明るい未来はない」。15日早朝、弾道ミサイル1発をブッ放した北朝鮮に対し、強気の姿勢を見せた安倍首相。最も冷静になるべき国のトップが、感情ムキ出しで「戦意高揚」とも受け取られかねない発言をしているのだから呆れるばかりだが、そんな安倍以上に前のめりになっているのが日本のメディアだ。
大体、北のミサイルが「日本の上空を通過」と騒いでいるが、高度800キロは宇宙空間と変わらないし、落下場所は日本列島から2200キロも離れているのだ。国民にとっては、どこを飛んでいるのかさえも分からないミサイルの脅威よりも、しょっちゅう墜落している米軍輸送機のオスプレイの飛行コースの方が切実な問題だ。それなのに、NHKも民放も、同じ映像を繰り返し流して「北のミサイル」危機を報じていた。大新聞も似たり寄ったりで煽っていたからどうかしている。
メディアが政府と一体化して北朝鮮の敵対感情を刺激しまくってどうするのか。行き着く先は「戦争」しかないだろう。米国の政治学者、故ハロルド・ラスウェル氏は〈(戦争は)ニュースのネタを供給するだけでなく、需要も生み出す。新聞はそのプラカードに売り上げを増大させてくれる『偉大な戦争』と掲げるしかない〉と皮肉っていたが、カネもうけのために安倍政権と二人三脚で北朝鮮危機を叫んでいるとしたら言語道断だ。
■「明るい未来がない」のは日本国民
そもそも、安倍は対北朝鮮について「圧力強化で米国と完全に一致」とか言っているが、米国の本心は極めて疑わしい。「真珠湾の真実 ルーズベルト欺瞞の日々」(文芸春秋)によると、ルーズベルト大統領はヨーロッパ戦線の参戦に反対する国民を一致団結させるため、日本を挑発して真珠湾攻撃に追い込み、開戦の道を開いた――という。真偽は不明だが、支持率低迷にあえぐトランプ政権が北朝鮮を挑発し、日本、韓国を攻撃させ、それを口実に開戦して求心力を回復――なんてシナリオを描いていても不思議じゃない。
だからこそ、日本メディアには冷静さが求められるのに、そんな姿勢はてんでない。
2015年に韓国の国立ソウル大法科大学主催の「鶴峰賞」を受賞した論文「日本人従軍記者の韓国戦争報道とその性格」(米津篤八著)では、米軍の検閲下で朝鮮戦争を取材した日本の従軍記者が、米軍のヨイショ記事ばかり書いていた事実を明らかにしているが、今の大新聞・テレビも従軍報道と同じだ。
「米国に対抗するために発射された弾道ミサイルについて、なぜ日本メディアが大騒ぎする必要があるのか。北の脅威を煽るほど、米国は武器を日韓に売りつけることができ、安倍政権の支持率も安泰――。日米ともに、そんな思惑で一致しているのでしょうが、今こそ冷静に考えるべきです」(元外務省国際情報局長の孫崎享氏)
メディアが安倍政権の暴走を許せば「明るい未来がない」のは日本国民だ。