2017年9月27日水曜日

麻生氏の「武装難民射殺」発言に 難民弁護団連が抗議声明

 失言(妄言?)の宝庫である麻生副総理が、今度は「武装難民は射殺か」と発言しました。
 日本はこれまで難民の受け入れについて極めて拒絶的でした。副総理としてその辺を改善しようと提起するのであれば順当なことですが、北朝鮮で有事が発生すれば日本に武装難民が押し寄せる可能性に言及し「警察で対応できるか。自衛隊、防衛出動か。じゃあ射殺か。真剣に考えた方がいい」と問題提起したのですから穏当ではありません

 24日のサンダーモーニングで国際フォトジャーナリストの安田菜津紀さんは、「武装難民という言葉はありません。武装難民と言う定義はありません」という趣旨のことを発言しました早速ネット右翼からはそういう用法もあるなどの攻撃が行われていますが、そういう意味合いではないと思います。
 これについては、全国難民弁護団連絡会議が声明の中で
「武装した上で日本に侵入しようとする集団は難民とはいえず、難民の流出と武装した集団による侵入とを混同している」
と述べています。

 LITERAも
麻生副総理の発言は、朝鮮半島情勢の緊迫化のなかにおいて、戦争によって北朝鮮で発生する大勢の難民を念頭に置き、そのなかに武装難民がいるかもしれないという妄想を加えたうえで、射殺ですかと言い放っているのである。主語は難民全体であって、これは難民問題をどうするのかという話だ。
 加えて言えば、麻生副総理の武装難民は射殺発言は、現実的に難民の生命を脅かす恫喝として機能するだろう
と述べています。

 麻生氏には「副総理の発言」として自分の発言が世界にどう伝わるかについての斟酌は全くないようです。

 全国難民弁護団連絡会議は24日、麻生氏の発言に対し、
「同発言を直ちに撤回するよう求めると共に、政府においても責任ある対応をするよう求める」
とする抗議声明を出しました。

 以下に毎日新聞と併せて紹介します。
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麻生氏「武装難民は射殺か」朝鮮半島有事対応で
毎日新聞2017年9月24日
 麻生太郎副総理兼財務相は23日、宇都宮市で講演し、北朝鮮で有事が発生すれば日本に武装難民が押し寄せる可能性に言及し「警察で対応できるか。自衛隊、防衛出動か。じゃあ射殺か。真剣に考えた方がいい」と問題提起した。
 北朝鮮有事について「今の時代、結構やばくなった時のことを考えておかないと」と指摘。「難民が船に乗って新潟、山形、青森の方には間違いなく漂着する。不法入国で10万人単位。どこに収容するのか」と強調した。その上で「対応を考えるのは政治の仕事だ。遠い話ではない」と述べた。(共同)

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内閣総理大臣 安倍晋三殿
内閣副総理大臣 麻生太郎殿
平成29(2017)年9月25日
   
全国難民弁護団連絡会議
代表弁護士  渡邉彰悟
事務局長弁護 士難波満

 全国難民弁護団連絡会議(代表世話人弁護士渡邉彰悟)は、難民に関する2017年9月23日の麻生太郎副総理大臣の発言に対し、以下のとおり強く抗議し、麻生副総理においては同発言を直ちに撤回するよう求めると共に、政府においても責任ある対応をするよう求める。
第1 麻生副総理の発言の概要
 報道によれば、麻生副総理は、シリアやイラクにおける難民の流出について述べた上、朝鮮半島有事を前提として日本にも朝鮮半島からの難民が押し寄せる可能性があり、このような難民に対する対応として、全体を逮捕することが考えられるが、大量の難民を収容することは困難であるという旨の発言をしたとされている。
 さらに、麻生副総理は、これに続き、これらの難民は武装難民である可能性があり、警察では対応できない可能性がある一方、自衛隊の防衛出動によって対応することを検討する必要があり、射殺することを含めて検討する必要があるという旨の発言をしたとされている。

第2 全体的な問題点
 しかし、麻生副総理の発言は、難民条約締約国として難民を保護するという義務を履行しようとする姿勢が日本政府に欠如していることを示している。また、瀋陽領事館への駆け込み事件で国内外の非難を浴びた日本政府の不寛容な対応が改まっていないどころか、むしろ悪化しているというおそれを裏付ける。
 以下に具体的に述べるとおり、これらの発言は、国際法にも国内法にも反する内容を含んでおり、人道に対する罪にすら該当するような行為を政府の要職にある政治家が認めるかのような発言を行い、難民について誤ったイメージを広め、徒に恐怖をあおることは決して容認できない。

第3 個別の問題点
 まず、麻生副総理の発言は、難民が武装をして日本に押し寄せる可能性があるとしているが、そもそも、武装した上で日本に侵入しようとする集団は難民とはいえず、難民の流出と武装した集団による侵入とを混同している。入管法が準用する難民条約上の難民の定義では、難民は、国家当局等からの迫害の被害者であって、後者のような侵入目的の武装集団は難民の定義に該当しないか、除外される。発言中の「武装難民」なる用語は、およそ一般的ではなく、麻生氏の難民に対する偏見を表すものと言わざるを得ず、実際に、迫害から逃げてくる難民が、まるで武装して侵入してくるような誤ったイメージを与えている。
 そもそも朝鮮半島有事の際の難民として日本にたどり着く人々は、本国での重大な人権侵害の危険から逃れようとしているのであって、まさに庇護の手を差し伸べなければならない対象である。シリアやイラクから流出した難民についてみても、これらの難民が武装して他国に侵入したことによって他国が武力による対応を迫られたという事実は認め難い。仮に難民が武装していることを前提として、これらの難民を射殺するとすれば、防衛法制や刑事法制といった関連する国内法に違反することはもとより、人権条約をはじめとする国際人権法に違反する上、国際刑事法上の人道に対する罪にも該当し得るものである。そもそも、このような発言自体、差別敵意を扇動するものとして、「戦争宣伝及び憎悪唱道の禁止」を定めた自由権規約20条2項に違反するものともいいうる。
 また、難民条約31条1項は、締約国は、当該締約国に逃げてきた難民に対し、不法に入国しまたは不法にいることを理由として刑罰を科してはならないと規定している1。朝鮮半島から流出した難民全体を不法入国で逮捕するとすれば、難民条約にも違反するものである。

第4 結語
 以上のとおり、麻生副総理の発言は、国際社会において決して許されるものではなく、それが副総理という立場の人物から発せられたことは、日本の難民保護に対する姿勢をはじめ、条約遵守に対する姿勢を問われかねない。当会議は、麻生副総理の発言に強く抗議し、日本政府が難民条約及びこれに関連する各種人権条約締約国としての責務を果たすことを改めて求めるとともに、麻生副総理においては同発言を直ちに撤回し、また、政府においても責任ある対応をするよう、要求する。
以上

本件に関する連絡先
全国難民弁護団連絡会議事務局
160-0004東京都新宿区四谷1-18-6四谷プラザビル4階
電話:03-5312-4826FAX:03-5312-45431
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1 日本の刑事法制上も難民の不法入国につき、一定の要件の下、刑を免除することとしている(出入国管理及び難民認定法第70条の2)