2019年6月3日月曜日

03- 消費税を凍結・減税すべし! (12) (藤井聡教授)

 藤井聡・京大教授によるシリーズ「消費税を凍結・減税すべし!」の「<12> MMT(現代貨幣理論)から見た「消費増税」凍結論」を紹介します。
 
 MMTは、現在「財政収支」を黒字化する(または赤字を縮小するという財政規律基づいて、支出の総額が調整されているのに対して、インフレ率が適切な水準になることを目指して政府の支出額を増減させ、調整していくべきだという主張で、財政規律改善を目指すものということです。
 ただ安倍政権が6年あまり異次元の手法をもってしてもなかなかインフレ率が2%に達しない現実を見ると、それほど簡単なことではないようです。
 
 MMTを推進する立場から、国会で安倍首相に質問を繰り返している自民党の西田昌司・参院議員が、経済評論家・三橋貴明氏、藤井聡・京大教授と安倍首相の4人で写っている写真が、このところネットで盛んに宣伝されています。多分3人から提案されたのでしょう。安倍首相がMMTについてどう考えているかは気になるところです。
 ( 註 文中の太字強調部分は原文に拠っています)
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<12> MMT(現代貨幣理論)から見た「消費増税」凍結論

日刊ゲンダイ 2019/05/31 06:00
 昨今話題のMMT(Modern Monetary Theory=現代貨幣理論)。日本国内で紹介され始めた当初、「財政赤字を無制限に許容するトンデモ理論」と揶揄されることが多かったが、筆者も含めた複数の論者がネット上で記事を配信し、国会でも西田昌司議員らが総理や財務大臣にMMTについて質問を繰り返しているうちに、じょじょにその概要が世間一般にも理解されるようになってきた。
 その概要というのは次のようなものだ。

■税収に基づく財政規律では経済が疲弊する
【MMTの政策的定義】
 国債発行に基づく政府支出がインフレ率に影響するという事実を踏まえつつ、『税収』ではなく『インフレ率』に基づいて財政支出を調整すべきだという新たな財政規律を主張する経済理論。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56429 

 現在の日本では、プライマリーバランス等の「財政収支」(税収から支出を差し引いた値)を黒字化する、あるいは、その赤字を縮小するというルール(財政規律)に基づいて、政府支出の総額が調整されている。しかしそうではなくて、インフレ率(物価上昇率)が適切な水準になることを目指して政府の支出額を増減させ、調整していくべきだという「新しい財政規律」を主張するのがMMTなのだ。
 つまりMMTは「財政規律を撤廃せよ」と叫ぶものなのではなく、「財政規律を改善せよ」と主張するものなのである。
 MMTがこうした新たな規律を主張しているのは、現状の税収に基づく財政規律、すなわち「プライマリーバランス黒字化」や「財政赤字縮小」では経済が疲弊してしまうからだ。そして経済が疲弊すれば当然、税収も縮小し、財政が悪化する。つまり「税収に基づく財政規律」を守っていては、結果として当初の意図に反して「財政が悪化する」のである。
 
■MMTと財政再建は両立する
 では一体何を基準に財政を調整すべきかと言えば、MMTでは「インフレ率」(つまり、物価上昇率)が重要だと考える。たとえばインフレ率が2%、3%程度の水準であれば、「賃金」は必然的にあがっていく。なぜなら、物価が上がれば企業収益が上がり、結果、労働者への賃金もじょじょに上がっていくからだ。
 逆にインフレ率が低く、物価が停滞、ないしは下落していく「デフレ」の状況では、企業収益が悪化し、賃金も下落し、その結果、人びとは貧困化していく。MMTは、そうした「人びとの貧困化」こそが、最悪の帰結だと考える。だから、MMTは一定のインフレ率を確保できるまで、財政支出を拡大していくことを主張する。
 しかも、人々が一定のインフレ率の下で豊かになっていけば企業収益も伸びていく。その結果、所得税も法人税も上がっていき、おのずと財政は拡大していく。
 もちろん、MMT論者は必ずしも財政の健全化のために、インフレ率を一定水準に保つべきだとは主張しているわけではない。しかし財政再建をかたくなに主張する人びとにとっても、MMTが主張する「一定のインフレ率の確保」は望ましい帰結を導くのである。

 だから本来なら、MMT論者と一般的な財政健全化論者が主張する経済政策は、(少なくともデフレ状況下では)おおむね一致するはずなのである。

■財政健全化論者のなにが問題か
 それにもかかわらず両者の違いがあるのは、一般的な財政健全化論者が財政再建というものを中期的、長期的な視野を持たずに過剰に近視眼的に考えているからにほかならない。彼らもMMT論者と同様に、中長期的案視野で問題を眺めれば、おのずと、中長期的な財政健全化のために、一時的な財政悪化を許容する筈なのだ。
 
 その典型的な問題が、消費増税問題だ。
 もしも財政健全化論者達がみな、中長期的な視野を持っているのならば、このタイミングでの消費増税はMMT論者同様、絶対回避しなければならないという結論を導くはず。彼らが今年の10月の消費増税に固執するのはひとえに、来年以降の「税収の下落」にともなう「さらなる財政悪化」を忘れている(あるいは、想像していない)からにほかならない。
 つまり、これからの財政が本当に健全化するか否かは、財務省を中心とした財政健全化論者たちの視野が近視眼的で偏狭なものにすぎないのか、それとも将来を見すえる最低限の「知性」を持っているのか否かにかかっているのである。
 
 藤井聡 京都大学大学院工学部研究科教授
1968年、奈良県生まれ。。ニューディール政策等についての安倍晋三政権内閣官房参与に2012年着任、10%消費税増税の深刻な問題を指摘しつつ2018年12月28日に辞職。著書に経済レジリエンス宣言(編著・日本評論社)『国民所得を80万円増やす経済政策──アベノミクスに対する5つの提案 』『「10%消費税」が日本経済を破壊する──今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を(いずれも晶文社)など多数。