中国が貿易戦争をめぐる米国への対抗手段として、世界最大の生産量を誇るレアアース(希土類)を利用するとの観測が出ています。
それを受け、ニューヨーク・タイムズは「中国はレアアースの精製における最も重要な工程を完全に支配し、そのコストの低さと生産能力の大きさは他の企業が資本を投じて精製工場を設立するのを諦めさせるほどのもの。レアアースにおいて、米国が追いつくのはすでに困難だ」とし、フォーリン・ポリシーも「中国がレアアースの対米輸出を制限すれば、レアアース需要の約80%を中国からの輸入に頼っている米国は、電子製品だけでなく、石油精製から航空機エンジンに至る多くの経済分野が打撃を受けることになる」(中国・環球時評)と述べています。
中国は20年以上にわたって世界のレアアースの90%以上を供給しています。
レアアースは、スマートフォンやラップトップのような大半の電子装置で使用されているほか、原子力潜水艦、イージス艦、F-35戦闘機などの主要兵器システム、さらには高精度誘導弾、レーザー、衛星通信、レーダー、ソナーなどの兵器に必要で、要するに国防総省とアメリカ軍隊にとって絶対的に不可欠なのです。
1995年までアメリカは、精製されたレアアースの世界最大の生産国でしたが、その後環境汚染問題で閉鎖されたり、中国の安いレアアースに押されて倒産したりして、現在はレアアース採掘・精製から完全に撤退しています。当然技術者もいなくなったため、アメリカがこれから高品位のレアアースを採掘し、精製する施設を再建するのには何年もかかるということです。
中国は100兆円以上の米国債を所有しているので、それを手放して暴落させるという手段もあるのですが、それはある意味で「両刃の剣」です。それに対してレアアースの禁輸にはそうした危険性はなく、より直接的な効果があります。
「マスコミに載らない海外記事」を紹介します。
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レアアースは中国の究極の武器か?
マスコミに載らない海外記事 2019年6月 1日
F. William Engdahl 2019年5月26日
中国とアメリカ間の関税エスカレーションと貿易戦争の緊張が劇的にエスカレーションする中、習近平中国主席は、贛州市にある国有企業JL Magレアアース社に、時宜を得た訪問をした。彼は公然と脅迫はしなかったが、中国はトランプ政権に圧力をかけて従わせるための兵器庫に、より多くの武器を持っているという明確な心理的メッセージをワシントンに送ったのだ。レアアース鉱物採掘における中国の役割はどのようなものなのだろう、彼らがそれを兵器として利用する可能性はどれぐらいたかいのだろう?
5月20日に、中国政府の新聞、環球時報が、習近平訪問について書いた「訪問は国内レアアース産業に対する指導部幹部による支持の印と見なされた」という記事で 彼らはさらにそれほど遠まわしにではなく「中国商品に対して関税を課し、中国企業向けの半導体供給を削減するというアメリカ決定に対し、対策として中国は、アメリカへのレアアース輸出を限定するべきだと多くの人々が提案している」ことを指摘した。新聞は中国のレアアース金属が「最新のアメリカ関税リストから除外された少数の項目の中に」あったことを強調して指摘している。
もし中国がアメリカへのレアアース輸出を禁止したら、アメリカ経済に対する影響はどれほど深刻だろうかという疑問がわく? 簡潔な答えは、非常に深刻だ。
スマートフォンやラップトップのような大半の電子装置での使用のほかに、レアアース鉱物は、国防総省とアメリカ軍隊に絶対的に不可欠なのだ。ニュースレターのブレーキング・ディフェンスによれば、レアアース要素は、原子力で動くSSN -774バージニア級の高速攻撃潜水艦や、DDG -51イージス艦や、F-35次世代主力戦闘機のような主要兵器システムに不可欠なのだ。彼らは「レアアースが同じく高精度誘導弾や、レーザーや、衛星通信や、レーダーやソナーや他の軍装備品に欠くことができないと、2013年の議会調査施設報告にある」ことを指摘している。
輸入依存
次の疑問は、現在、アメリカ経済、特にその防衛産業基盤が、どれほど中国のレアアース輸入に依存しているかだ。答えはほとんど100%だ。アメリカ地質調査局による2017年12月の報告によれば、中国は現在世界レアアースの90%以上を供給している。これは中国政府が重要な鉱物の開発に優先順位を付けた1990年代後期から事実だった。
レアアース(希土類)は一般に、原子番号で57(ランタン)から「ランタノイド」と呼ばれる71(ルテチウム)までの15の要素を意味する。リストによっては、イットリウムも含む。石油精製での触媒としての利用と同様、知られている最も強い磁石、ネオジム-鉄-ホウ素磁石もレアアースを使っている。
既知の埋蔵量に関して、アメリカ地質調査局は中国には、5500万トンのレア・アース元素、その大半が内蒙古にあると推定している。世界的なレア・アース元素埋蔵は、約1億3000万トンで、中国、ブラジル、オーストラリアとインドの順にあるとされている。
アメリカ・レアアースの死
レアアースの長編歴史物語で驚くことは、レア・アース元素の主要産出国としてのアメリカの歴史だ。1995年までアメリカは、処理されたレアアースの世界最大の生産国だった。アメリカ地質調査局によれば、アメリカには、主にカリフォルニア、アラスカとワイオミングとテキサスに、約1300万トンのレアアース元素がある。
最大の採掘施設は、元来はユニオン石油、後のシェブロン、そして様々な権益組織が所有していたカリフォルニアのモハベ砂漠のマウンテン・パス鉱山だった。しかし、2002年に、マウンテン・パスは環境汚染流出のかどで閉鎖を強いられたが、2010年に日本を狙った中国レアアース禁輸で、世界の金属価格が急騰した時に再開された。日本の住友金属がマウンテン・パスの改良に参加した。高価格のおかげで、2014年まで、年間4,700トンのレアアースを産出していた。しかしながら、中国が2014年末にレアアース輸出禁止令を終わらせ、世界の供給が豊富になった際、価格が崩壊し、マウンテン・パス所有者、今のモリコープが2015年に破産申請を強いられた。
わずか四半世紀のうちに、アメリカ・レアアース採鉱、処理産業が丸ごと崩壊し、中国が世界の首位として台頭した長編歴史物語全体は、別記事が必要だ。かつてGMが所有していたが、アーチボルド・コックス・ジュニアによって率いられていた株主グループに売られたマグネクエンチと呼ばれるもう一つの重要なレアアース企業の売却が重要な役割を演じた。マグネクエンチは、それから中国投資家のグループに売られ、2000年にそのアメリカ施設が閉鎖し、全ての装置が中国に移転した。1998年、クリントン大統領任期中に、驚くことに、国防総省にレアアースの全戦略的備蓄を売却させる決定がなされた。同じ年、レアアース金属と合金生産の最後のアメリカ企業ロディア社が、テキサスの処理施設を閉じ、モンゴルで新施設を作った。
皮肉にも、ディフェンス・ワン・ジャーナルが「アメリカ採鉱企業が、他の金属の採鉱を通じ、世界需要の85%に対応するのに十分なレアアース鉱石を採掘しているが、規制が、その採掘を経済的でなくしているため、それは捨てられている」と指摘している。
アメリカ会計検査院の警告
2016年、オバマ政権時、議会の会計検査院はレアアースの状態に関する報告を公表した。それは「レアアースはアメリカ軍装備品の生産、補充と運用に欠くことができない。必要な原料の確実な入手は、防衛需要の全体水準にかかわらず、国防省にとって基礎必要条件だ。」と警告していた。アシュトン・カーター国防長官は脆弱さに対処する処置をとり損ねた。
大統領として最初の行動の一つとして、ドナルド・トランプは最も包括的な政府部門間の国防産業基盤見直しを命じる政令に署名した。去る12月、報告書公表の直前、アメリカ防衛産業が、極めて重要な鉱物で、中国に対する依存を詳細に調べた結果は「非常に憂慮すべきで、我々は中国に、驚くほどの量を依存している。彼らはレアアース鉱物や、一部のエネルギーや他のものでの唯一の供給源だ。我々が前進する上で、これは我々にとって問題だ」とエレン・ロード国防次官(調達担当)が述べた。
問題はそれに不可欠な技術者やと他の人たちのリクルートは言うまでもなく、高度なレアアース採掘、処理施設を再建するのには何年もかかることだ。国防総省が密かにレアアースを備蓄していなければ、中国レアアース輸出禁止宣言は、巨大な戦略上のエスカレーションとなるはずだ。だがそれは、あっと言う間に制御が利かなくなるエスカレーションになりかねず、中国にとっても同様に重大な結果を招くはずだ。現時点では、中国レアアース禁止は語られない脅威の状態にすぎない。世界平和のため、そのままであるよう願うばかりだ。
F. William Engdahlは戦略リスク・コンサルタント、講師。プリンストン大学の政治学位を持つ石油と地政学のベストセラー作家。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。