米国は安倍首相にイラン訪問を依頼しておきながら、会談の前日(12日)にはイランへの追加制裁を宣言するなどしてイランとの緊張関係を更に高めようとしました。不可解といえば不可解ですが、天木直人氏が、米国は安倍首相のイラン訪問を契機にイランへの攻勢を強めようとしているという指摘を思い出せば、十分に納得できることです。
会談の行われた13日には、タンカー2隻が砲撃で被災し、米国は間髪を入れずにイランの仕業だと宣言しました。しかし米国との対立の深刻化を望まないイランにはそんな一触即発の危険を冒す動機はありません。
むしろ「ことあれかし」と期待するグループは米国を筆頭にイスラエルやサウジアラビアなどいくつも存在します。米国が証拠だと提示した動画も、いくらでも捏造が可能なので真実の証明にはなりません。
そもそも米国・イランの対立で緊張緩和のために説得する相手は、イランへの経済制裁を順次強め、空母や爆撃機を中東に派遣して軍事圧力を掛けている米国なのに、逆に米国の言い分を伝えるためだけに訪問するというのでは、イランにすれば余りにも的外れで大いに迷惑な話です。
トランプ大統領の代理人としてイランを説得しに行っても、話がまとまる可能生は端からありません。「仲介役をやれるのは世界で安倍首相だけだ」と本気で考えていたかはともかく、戦後70年間、米国に服従しながら、中東に関しては米国と一定の距離を保って紛争に介入しなかったことで、中東の諸国から一定の信頼を得ていたのに、今回の安倍首相のイラン訪問は、“日本外交の遺産”を根底から食いつぶしました。
いまはただ、今回のイラン訪問が“成果ゼロ”に終わったことを、アメリカが「友好国である日本の説得にも応じなかった」と、開戦の口実に使わないようにと祈るしかありません。
日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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向こう見ずな首相のイラン訪問 取り返しのつかない大失敗
日刊ゲンダイ 2019/06/15
阿修羅文字起こしより転載
とんだ赤っ恥だ。安倍首相のイラン訪問は案の定、成果ゼロに終わった。
一触即発の緊張状態がつづく、アメリカとイランとの“橋渡し役”を果たそうと意気揚々とイランに乗り込んだ安倍。目的は、イランを対話の場に引っ張り出すことだった。出発前、日本の大手メディアは「日本の首相として41年ぶりに訪れる」「最高指導者ハメネイ師とも会談する」と期待をあおり、安倍本人も「アメリカからは『絶対に行ってくれ』、イランからは『絶対に来てくれ』と言われているんだよ」と、成果を上げられると自信満々だった。
ところが、結果は見るも無残。まともに相手にもされなかった。成果を示すどころか、ハメネイ師との会談中、日本の海運会社が運航するタンカーがホルムズ海峡で砲撃を受ける事件まで勃発した。まだ犯人は特定されていないが、アメリカは「イランがやった」と断定し、時事通信は「日本に警告か」と解説している。
13日、ハメネイ師と50分間、会った安倍は、アメリカとの対話を促し、トランプ大統領からの伝言を次々に伝えた。
ところが、ハメネイ師は、アメリカとの対話を拒否。安倍が「アメリカはイラン革命体制の転覆を望んでいない」と話すと、「体制転覆の意図がないというのは嘘だ」と反発。取りつく島もなかった。さらに、会談後、ハメネイ師はツイッターに「トランプ大統領は意見交換するにふさわしい相手ではない。私からの返答はないし、今後、答えることもない」と、投稿までしている。安倍のイラン訪問は、何の役にも立たなかった。さすがに、独誌シュピーゲルも「仲介役としての試みに失敗した」と酷評したほどだ。
元外務省国際情報局長の孫崎享氏はこう言う。
「外交は相手の顔を立てるものですが、今回、イランはけんもほろろ、大人の対応もしてくれなかった。安倍首相は子どもの使いになってしまった。悲惨なのは、トランプ大統領に頼まれて仲介役としてイランに渡ったのに、アメリカにハシゴを外されたことです。ハメネイ師との会談直前、アメリカはイランへの追加制裁を発表している。あれでは安倍首相も立つ瀬がないでしょう」
身の程もわきまえず、喜々としてトランプ大統領のパシリを買って出たが、結果はアメリカとイランとの対立を際立たせただけなのだから最悪である。どこが“外交の安倍”なのか。
日本外交の遺産を食いつぶしている
安倍のイラン訪問が大失敗に終わることは、最初から分かっていたことだ。
個人と個人のケンカでも、“仲裁役”は公平中立でなくては務まらない。両者から信頼されるのはもちろん、ケンカの当事者を話し合いのテーブルに着かせる権威や腕力も必要である。
しかし、安倍がトランプのイエスマンだということは、世界中が知っていることだ。公平中立には程遠い。イランの有力紙も「トランプ大統領のメッセンジャーにすぎない」と連日、批判していた。仲裁役などハナからムリだったのだ。
そもそも、本気でアメリカとイランとの対立を収拾させるつもりなら、説得するのは、イランではなくアメリカだったはずである。
アメリカとイランが抜き差しならなくなったのは、アメリカに原因があるからだ。
核開発に固執し、孤立していたイランは2015年、米英仏独ロ中の6カ国と“核合意”を結び、国際社会に復帰した。ところが、トランプは昨年5月、一方的に“核合意”から離脱してしまった。そのうえ、イランへの経済制裁を順次復活させ、さらに空母や爆撃機を中東に派遣して軍事圧力までかけている。
説得するのはイランではなくアメリカだ
仲介役を買って出るなら、まずアメリカに「核合意に戻れ」「軍事的な脅しはやめろ」と、強く要求するのが当然だった。なのに、トランプにはモノひとつ言わない。これでは、イランの新聞が「日本が仲介したいのなら、イランではなくアメリカに行くべきだ」と主張するのも当たり前である。
ジャーナリストの高野孟氏はこう言う。
「国際社会が話し合って決めた“核合意”は、イランに核開発をさせない枠組みで、それなりに成果を上げていました。ところが、トランプ大統領が一方的に枠組みを覆してしまった。しかも、中東に空母を派遣するなど、明らかにイランを挑発している。本来、同盟国の日本は、アメリカをいさめる立場にあるはずです。なのに、トランプ大統領の代理人として、イランを説得しに行った。これでは話がまとまるはずがありません」
いったい安倍は、イランまで何をしに行ったのか。イランの怒りに油を注いだだけである。
それにしても、日本の大新聞テレビはどうかしている。
さんざん「アメリカとイランの仲介役をやれるのは世界で安倍首相だけだ」と前宣伝をあおり、この期に及んでも「ハメネイ師が外国首脳に会うことは珍しい」などと、政権サイドの言い分を垂れ流しているのだから、どうしようもない。
最悪なのは今回、安倍が“日本外交の遺産”を食いつぶしたことを百も承知のくせに、まったく指摘しないことだ。
「イランが安倍首相の訪問を受け入れたのは、もともと“親日国”だったからです。安倍首相の力量とは関係ない。イランだけでなく、中東の多くの国が、日本に親近感を持っている。それは、戦後70年間、アメリカの同盟国でありながら、アメリカと一定の距離を保ち、中東の紛争に介入しなかったからです。なのに今回、安倍首相はアメリカ側に立って、イランに注文をつけている。恐らく中東諸国は、日本への評価を下げたはずです。戦後、日本が築いてきた外交遺産が、安倍首相に食いつぶされている形です」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
いま心配されていることは、安倍のイラン訪問が“成果ゼロ”に終わったことを、アメリカが「友好国である日本の説得にも応じなかった」と、開戦の口実に使いかねないことだ。
前出の孫崎享氏が改めてこう言う。
「どこまで安倍首相は、“核合意”について理解しているのでしょうか。ひょっとして核合意の全文も読んでいないのではないか。それよりなにより、今回のイラン訪問を見ると、本気でアメリカとイランとの対立を解消しようと考えているのか疑問です。安倍外交の特徴は北方領土にしろ、拉致問題にしろ、国民受けを狙ってちょっと手を出しては途中で放り投げ、結局、成果が上がらないことです。“やってる感”を出そうとしているだけに見えます。イラン訪問も、参院選前に“やってる感”を演出しようとしただけなのではないか。中東問題は、一歩間違えると大変なことになる。もし、参院選前に点数稼ぎをしようと考えたなら、許されないことですよ」
安倍は、今月末に大阪で開かれるG20の議長をつとめて、外交成果を国民にアピールすれば、支持率が急上昇し、7月の参院選も圧勝できると計算しているという。
国民は絶対に“外交の安倍”などという大手メディアの宣伝にだまされてはダメだ。