2019年6月16日日曜日

16- 消費税を凍結・減税すべし! (14) (藤井聡 教授)

 藤井聡・京大教授によるシリーズ「消費税を凍結・減税すべし!」の「<14> 『老後2000万円必要』だったら、消費『減』税せよ!」を紹介します。
 
 今回は例の「老後に2000万円必要」の問題に関連し、政府が、そのためにも「消費税を増税しないといけない」と働きかけようとするのは根本的に間違っているということを強調しています。
          ( 註 文中の太字強調部分は原文に拠っています)
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<14>「老後2000万円必要」だったら、消費「減」税せよ!

日刊ゲンダイ 2019/06/14

国民の怒りを誘発した「老後2000万円必要」論

 今、金融庁の報告書における「政府が用意する年金は不十分で、個人で2000万円用意しておかないと、生活できなくなる」という衝撃の分析結果が世間を騒がせている。多くの国民が、
「何⁉ 2000万円も貯金しておかないと、老後は暮らしていけないのか⁉」
と驚いたわけだ。しかも、それを示したのが、「年金100年安心」を口にしていた政府の報告書だったことが、国民の怒りに火をつけた。
「自分で年金100年安心だといっておいたクセに、自分の制度設計の失敗をタナにあげて、私達に2000万円も貯金しておけなんて、滅茶苦茶じゃないか!」
 という次第だ。(たとえば<年金100年安心とは何だったのか? 報告書で嘘露呈に怒りの声>6月6日付「女性自身」
 
 政府はいろいろと説明しているようだが、今回の報告書が示した前提で考えれば、2000万円の貯蓄が必要となるのは周知の事実であったようだ。つまり、こうした試算は何も今回新たに示されたものなのではなく、かねてから報告書にて記載されていたもので、専門家からみれば、当たり前の話として共有認識されていたというのだ。(たとえば残念ながら「老後資金2000万円必要」は歴然とした現実である6月13日付「ダイアモンド・オンライン」)

 そして今、この専門的な試算が、大手新聞に取り上げられたことを契機として大きな話題となり、上記のように政府に対する国民の怒りを誘発している次第だ。
 

「老後のために消費増税を!」論は真っ赤なウソである

 
 ただし、それと共に、次のような意見もささやかれ始めている。
 それは、「今の社会保障の仕組みのままでは、2000万円も足らなくなるのだから、消費税をしっかりあげて、社会保障制度をもっと強化する必要がある!」という形で、今回の試算を「消費増税への伏線」だと見做す向きだ。
(たとえば「老後2000万円」に困惑“事実”の声も・・・。どう受け止めるべき?6月11日付「mbs news」)

 つまり、消費税を上げたいと考える勢力が、国民に対して「今のままだと社会保障のオカネが足らなくなるよ」という「脅し」をかけて、消費税を上げさせようとしているのではないかという観測だ。
 この観測の審議はさておくとしても、2000万円も貯められない――と強い不安を持った国民が、藁をもすがる思いで消費増税に賛成するということは十二分に考えられるだろう。
 しかし、2000万円の老後資金を確保するのなら、消費税を上げるのではなく、下げなければならない。

 第一に、消費税を上げるということは、国民からカネを吸い上げると言う話だから、貯金がさらに減ることになる。
 第二に、消費税が上がれば、景気が悪化して政府の財政はさらに悪化し、社会保障に回す資金がさらに下落する。

 つまり、日本経済を激しく傷つける消費税を増税すれば、政府の社会保障財源を減らし、人々の貯蓄も減らす。その結果、だれも日本国民の老後の暮らしを支えることができなくなってしまうのである
 

「年金100年安心」のために消費減税せよ!

 
 逆に消費税を減税すれば、国民の貯蓄は拡大すると同時に経済が回復し、政府の財政も健全化して社会保障財源もより豊富なものとなる。
 もちろん、短期的には消費税を減税すれば、その年次においては国債発行が追加的に必要となるだろうが、それがまた経済を刺激し、将来の見通しをさらに明るいものとさせ、将来の税収をさらに拡大させるだろう。
 事実、筆者の試算によれば、1997年の消費増税さえなければ、成長率が年率2~3%程度の水準で確保され、その後20年間デフレで税収が伸び悩むということもなく、毎年着実に税収が拡大し、今よりも40兆円以上も税収が多かったであろうことが示されている。
 それだけの税収があれば政府はまさに、「年金100年安心」と声高らかに宣言することもできただろうし、国民も皆それを信用し、実際に安心することもできたことだろう。
 老後の不安を払拭するためにも、今われわれは消費増税でなく消費「減」税をせねばならないのである。