2019年6月9日日曜日

消費税を凍結・減税すべし! (13) (藤井聡 教授)

 藤井聡・京大教授によるシリーズ「消費税を凍結・減税すべし!」の「<13> 有識者40人が予言する「安倍令和恐慌」のリアルな危機」を紹介します。
 
 安倍政権はいまだに10月の消費増税を否定していません。いつの場合でも消費増税を行うのは愚の骨頂ですが、とりわけ今回実施するのは「本降りになって出ていく雨宿り」を地でいくものです。
 
 521に開かれた国内の様々な有識者による「消費税増税の『リスク』に関する有識者会議  では以下の点が合意されたということです。
1)現時点は消費増税のタイミングとして最悪である。
2)そのタイミングでの消費増税は、日本経済に対して、マクロ、ミクロ両面から破壊的影響を与える。
3)その結果、消費増税の目的である財政再建の基準からして、最悪の悪影響が生ずる。
4)それらに加えて、消費増税には公平性の観点から極めて深刻な問題がある。
 
 識者たちの発言の要点が紹介されています
          ( 註 文中の太字強調部分は原文に拠っています)
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<13> 有識者40人が予言する「安倍令和恐慌」のリアルな危機

日刊ゲンダイ 2019/06/07
 今年の10月、もしも本当に10%への消費増税を断行してしまったら、もう間違いなく日本は「安倍令和恐慌」とでも言うべき、とてつもない不況に陥ってしまうことになる ―― 
 ここで重要なのは、こう感じているのは、決して筆者一人ではない、という点だ。

■消費増税を考える有識者会議を開催
 去る5月21日、アベノミクスを中央銀行と中央政府というそれぞれの立場から理論的にサポートしてきた元日本銀行副総裁の岩田規久男氏と元内閣官房参与の筆者の両者が連名で、日本国内の様々な有識者に声をかける形で、「消費税増税の『リスク』に関する有識者会議~合理的な判断を支援するインフォームドコンセントのために~」を開催した。
 
 この会議の基本的な趣旨は、消費増税について政治的に賛成するか反対するかは、いったんさておき、「学術的、客観的な視点から考えて、消費増税にはどのような危険性があると考えられるか?」を、それぞれの有識者からの理性的かつ冷静な見解を公表していただくというものであった。そして、医療で言う「インフォームドコンセント」、すなわち、自らが激しく傷つくリスクをはらんだ意思決定を、十分にそのリスクについての客観的な情報を得たうえで下すということを、日本の為政者たちに促すことを目指したものであった。

 この会議を開催するにあたり、インターネットなどを通してこれまで、消費増税のリスクについて公言されている有識者を検索し、彼ら一人一人にわれわれから呼びかけ、おおよそ1カ月程度の時間をかけてコメント供出を依頼した。
 その結果、こちらのホームページに掲載した40名の有識者の皆さんから、実にさまざまな見解が、われわれ呼びかけ人の元に届けられた。
 それぞれの見解はそれぞれの独自の視点を含んだ実に多様なものであり、どれ一つとして同一のものは見られなかったのだが、共通して指摘された論点もいくつか見られた。

■重要な4つの論点
 会議では全員のコメントを参加者たちが確認し、最終的に以下の4点が、とりわけ重要な論点であるとして会議にて合意された。

1)現時点は消費増税のタイミングとして最悪である。
2)そのタイミングでの消費増税は、日本経済に対して、マクロ、ミクロ両面から破壊的影響を与える。
3)その結果、消費増税の目的である財政再建の基準からして、最悪の悪影響が生ずる。
4)それらに加えて、消費増税には公平性の観点から極めて深刻な問題がある。

 その詳細はぜひ、40名のコメント全文を掲載したホームページ「消費増税に関する有識者コメント」をじっくりとご覧いただきたいが、これらの中でも特に共通して指摘されたのが、上記の第一点として合意された、「今は最悪のタイミングだ」という点だった。

■マクロ・ミクロの経済で最悪との意見ばかり
 そもそも「国内経済」が最悪の状況にあるというのだ。

「低迷し続ける消費を19年10月にさらに消費増税により弱体化させれば、デフレ脱却は不可能になる」(岩田規久男、前日本銀行副総裁)
 
「景気後退局面に入った現状での消費税増税は、深刻な消費不況を引き起こし、企業倒産の増加、失業率の上昇をもたらす可能性が高い」(伊藤周平、鹿児島大学教授)

「インフレ率が低い以上、消費税は増税ではなく、減税や廃止にすべき」(池戸万作、経済政策アナリスト)

 それはミクロで見ても全く同じだ。

「時事通信が実施した『生活のゆとりに関する世論調査』で10月に予定される消費税率の10%への引き上げに際して『家計を見直す』と答えた人が57.2%に上った」(小野盛司、日本経済復活の会・会長)

「しかも、5%から8%への引き上げでは、消費意欲が減っただけでなく、なるべく物を買わない工夫こそ美徳という新しい価値観が生まれ、ネットでしか物を買わないという人も増えました」(荻原博子、経済ジャーナリスト)
 
 そんな国内経済が疲弊している状況での消費増税は破壊的な帰結を導く。

「目下のデフレを導いた消費税が、この上さらに増税されれば、日本の経済社会は完全に根腐れしてしまう」(斎藤貴男、ジャーナリスト)

「消費増税がデフレ圧力を招き、日本経済再生を困難にし、政府債務を増やしてきたデータを無視する。それこそ日本自滅の道だ」(田村秀男、産経新聞特別記者)

■国内外での経済状況も厳しい状況
 しかも、最悪なのは国内経済だけでは無い。世界経済もまた、きわめて厳しい状況にいたっているのだ。

「世界的に金融市場の動きが不安定になっていることを考えても、タイミングは最悪だ」(柴山桂太、京都大学准教授)
 
「世界経済が明らかに変調をきたしている今、さらなる増税を行えば、我が国の経済活動や国民生活に取り返しのつかないダメージを与えかねない」(島倉原、株式会社クレディセゾン主任研究員)

「米中貿易戦争、イギリスの合意なき離脱、日米貿易摩擦が日本経済に及ぼす悪影響に、消費税増税の悪影響が上乗せされてしまい、日本経済の復活を目指す現在までのアベノミクスの成果を帳消しにしてしまうことは、ほぼ確実」(浅田統一郎、中央大学経済学部教授)

「米国の景況,中華人民共和国の経済成長ともに陰りが見えており,斯くの如き状況での消費増税は日本経済への大きなリスク」(飯田泰之、明治大学政治経済学部准教授)

 つまり、国内も国外の経済状態は最悪なのであり、この中での消費増税など、正気の沙汰とはとうてい思えない話なのだ。
 
「デフレ完全脱却が果たされていない中で世界経済が悪化していく状況における消費増税は、確実に深刻な経済財政被害をももたらす」(宮崎哲弥、評論家)

「10月の消費税引き上げは最悪のタイミングである。グローバル経済では、中国から米国への全輸出品に対する追加関税リスクとそれによる影響が懸念され、また10月頃には米国の債務上限による資金枯渇に伴う米国債格下げリスクが市場を大きく動かすリスクがある」青木大樹氏(UBS証券株式会社日本地域最高投資責任者)

「日本経済はマイナス成長に落ち込んでおり、さらに米中の貿易戦争の激化などを考えると、消費税を引き上げは日本経済に壊滅的な悪影響を及ぼす」(菊池英博、日本金融財政研究所所長)
「今、消費税を上げることは、風邪のひきはじめに冷水に飛び込むようなものです。」(松尾匡、立命館大学経済学部教授)

 この状況下での消費増税は、「安倍令和恐慌」をもたらす事は避けがたいのである。それはアベノミクスの成功云々以前の問題なのである。
 安倍内閣、そして何より安倍総理の賢明なる判断を心から祈念したい。