近年多くの地方自治体で、9条擁護などを謳う市民運動に対して「政治的中立」に反するという珍妙な言いがかりをつけて会場を貸さないなどの、護憲運動への妨害行為が目立っています。
それは自治体が、改憲に奔る安倍政権の意向を忖度して自主規制するだけでなく、そうした市民団体に自治体が会場を提供したりすると、それに対して執拗にクレームをつけるグループがあるためでもあり、そうしたクレームへの対応に窮して「事なかれ主義」から会場の提供を拒否するという事情もあるようです。
しかしそれこそはクレームをつける集団にすればまさに思うつぼで、それを狙ったものと思われます。
東京新聞が「くらし デモクラシー」のシリーズでこの問題を取り上げました。
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<くらし デモクラシー>
過剰規制、萎縮する自治体 「中立」に透ける「事なかれ」
東京新聞 2019年6月19日
政治的に意見が分かれる問題を扱う展覧会やデモなどを巡り、自治体が公共施設の利用に難色を示すケースが相次いでいる。表現の自由の「自主規制」につながり、過剰な規制は表現の萎縮を招く恐れがある。背景には、外部からの抗議などのトラブルを避けたいという「事なかれ主義」も見え隠れする。(小倉貞俊)
「狭い視野で判断してしまったが、後悔している」。一月、神奈川県茅ケ崎市の市民文化会館であった教職員OBの美術展で、会期中に出展した作品を取り下げた元教員の石黒良行さん(72)=同県寒川町=が表情を曇らせた。
美術展は毎年恒例で、市教委や地元の教職員福利厚生会などの共催。六日間の会期中に、石黒さんは市教委から辞退を求められた。これまで十年以上も出展してきた石黒さんにとって、初めてのことだった。
作品は、二年前に訪れた沖縄・辺野古(へのこ)の米軍キャンプ・シュワブのゲート前を描いた木版画。「新基地反対」「辺野古の海埋めるな!」といった横断幕の文字も見たまま描いた。市教委は「政治的中立性を保てない」として問題視。共催を降りると告げられ、石黒さんは「皆さんに迷惑が掛かる」と、会期を二日残して作品を取り下げた。
市教委は取材に「開催初日に自民党市議や複数の市民から『政治的中立であるべき教員の作品としてふさわしくない』との指摘や抗議があった」と説明。茅ケ崎市では昨年十月、従軍慰安婦問題の映画を上映した際に右翼団体が街宣活動をしたことがあり、「共催者でもあり、市施設でのトラブルを避けたかった」と明かした。石黒さんは「沖縄の問題を多くの人に伝えたかったが退いてしまい、沖縄の方たちに申し訳ない。表現の自由を貫くべきだった」と悔やむ。
鎌倉市役所の前庭を集合場所に二〇一五年から、年二回開かれている平和行進デモは、昨年六月と九月に前庭の使用が認められなかった。主催団体「鎌倉ピースパレード」が申請したチラシの「九条改憲No!」の文言が、「特定の政治的信条の普及が目的の行為」に該当し、市の内規に反するとされた。内規は一七年につくられたという。六月九日の今年のデモは文言を外して申請し、許可された。団体共同代表の小堀諭さん(70)は「許可されてももろ手を挙げては喜べず、複雑な心境」と話している。
◆政権批判を排除
<山田健太・専修大教授(言論法)の話> 中立と言いながら行政が排除しているのは政権批判。そこにあるのは忖度(そんたく)だ。自治体はわずかな人数のクレームにも過剰反応し過ぎている。表現の自由の可動域が狭まっている。本来、公共空間は民主主義の情報交換の場であって、市民社会全体の共有物。覚悟を持ち、毅然(きぜん)とした対応を取るべきだ。