2019年6月23日日曜日

トランプ政権は対イラン戦争を模索している

 22日の日刊ゲンダイに、現代イスラム研究センター宮田律理事長が特別に寄稿した記事「トランプ政権はイラン戦争を模索している」が載りました。
 
 トランプ氏個人の意向はともかく、米政権のポンペオやボルトンらは熱心にイラン戦争を模索していると思われます。6月末のG20大阪サミット首脳会議が終われば、何が起こるか分からないと見る人もいます。
 万一米国がイランへの攻撃を開始すれば当然日本に協力を求めて来ますが、安保法制で集団的自衛権の行使を決めた安倍政権に協力を断ることが出来るのでしょうか。もしも唯々諾々と従うようであればこんどこそ日本はイランの敵ということになります。
 
 宮田氏が、イラク戦争に協力したスペインでは2004年3月にマドリードで同時多発テロが発生し191人が死亡、同様に米国のイラク攻撃と一体となったイギリスでも2005年7月にロンドンで起きた同時多発テロで56人が犠牲になった例を挙げている意味を、安倍政権にはよく考えてもらいたいものです。 
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【寄稿 宮田律】
トランプ政権は対イラン戦争を模索している
日刊ゲンダイ 2019/06/22 10:52 
 安倍首相がイラン訪問に旅立つ前日(6月11日)に、日本に在住経験のあるイラン人と話をする機会があった。
「イランでは『日本は米国のニワトリ(ペルシア語ではモルグ)』と呼ばれていますが、それでもイランが米国の制裁強化によって経済的苦境にある中で期待している人は少なくないと思います」ということだった。
 この場合の「ニワトリ」は日本でいう「犬」とか「ポチ」の意味かもしれないが、イランでは犬は嫌われていて、イランで使われるペルシア語では「バカヤロウ」は「ペダレ・サグ(おまえのオヤジは犬だ)」になる。
「ニワトリ」は「犬」よりは愛嬌があるのかもしれないが、日本の外交姿勢が米国に追随していることはイランばかりではなく、中東イスラム諸国では広く知られ、認められている。
 
 戦争によってイラクが混乱していた2006年6月末に小泉首相(当時)は、テネシー州メンフィスにあるエルビス・プレスリー邸をブッシュ大統領とともに訪れ、プレスリーのふりまねをしたが、その後パキスタンに行くと、「コイズミってあのブッシュと一緒に踊った男か」という半ば嘲笑が混ざった発言に接したことがある。
 
 訪問したイランで2015年に成立した核合意を安倍首相が改めて支持したことは評価できる。イラン核合意は国際的合意であり、国連安保理決議2231号によっても追認された。それから離脱することは明白な国際法違反である。国連憲章第25条「決定の拘束力」には「国際連合加盟国は、安全保障理事会の決定をこの憲章に従って受諾し且つ履行することに同意する」とある。理不尽にも核合意から離脱したトランプ政権は国連憲章第25条にも違反したことになる。
 
■2つの違反を犯した米国の核合意離脱
 安倍首相は、イランを訪問する前にイスラエル、サウジアラビア、米国とイランと対立する国ばかりと意見調整を行い、ドイツ、フランス、イギリス、ロシア、中国など核合意にとどまる国々と、核合意をいかに維持していくかについて対話することがなかった。ヨーロッパの特にドイツ、フランスはイランで戦争になる事態は、シリア内戦と同様に難民が流入する事態になるので、核合意を継続させることは切実な問題であり、これらの国は日本と協議する余地が大いにあるはずである。ハメネイ最高指導者は「トランプ政権とは対話しない」と安倍首相に語ったが、本音の部分では日本を含めた米国に影響力がある国々にイランの意向を伝えてほしいという思いがあったのだろう。イラン政府のバザール(市場)商人的な交渉は自らの感情をストレートに言葉に表わすことが少ないことも心得ておいたほうがいい。
 
 安倍首相がイランでハメネイ最高指導者と会談した当日(6月13日)に日本のタンカーが攻撃を受け、トランプ大統領は「イランがやった」という声明を出したが、安倍首相のイラン訪問のタイミングでイランがタンカーを攻撃することは考えにくく、イランには動機が見当たらない。米国はイラン革命防衛隊が不発だった機雷を除去する動画をイランによる「犯行」の証拠だと公表したが、普通に考えて機雷をしかけた当事者がそれを除去するというのはあり得ない。米国はイランが証拠を隠すため不発機雷を処理したと主張するが、イランは米国にわざわざ「証拠」を与えるようなことはしないだろう。タンカーの乗組員を救助したのはイランだからイランの船舶がタンカーに横づけしたとしても不思議ではない。
 
■タンカー攻撃を「イランの犯行」と断定した米国の不可解
 日本政府は米国のポンペオ国務長官がタンカー攻撃について「イランに責任がある」と結論づけた6月13日以降、裏づけとなる証拠を示してほしいと強く求めていることが報じられている。米国が開示する「証拠」が不確かな中でこれも適切な対応だ。
 20日、米国の無人偵察機がイランに撃墜されトランプ大統領はイランに対する攻撃をいったんは承認したが撤回した。トランプ政権内部のボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)やポンペオ国務長官はイランに対する戦争を視野に入れているのだろうが、経済的利益を優先するトランプ大統領は莫大な資源を消費する戦争に踏み切れないでいる。
 ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツは、イラク戦争には3兆ドル(約320兆円)の戦費がかかったと見積もっているが、イランは面積ではイラクの4倍、人口では2倍ある国である。トランプ大統領はイラン戦争の「損得」を測りかねているのではないか。
 
■対イラン戦争を支持しかねない安倍政権
 2014年5月28日、国会答弁にて安倍首相は「累次にわたる国連決議に違反したのはイラク」であり、「イラク戦争は大量破壊兵器を持っていないことを証明できなかったイラクが悪い」という発言した。
 安倍首相は、その後、森友学園に寄付をしていないことを証明するのは「悪魔の証明」だと語っている。イラン戦争となれば、トランプ大統領は日本に何らかの協力を求めてくるだろう。
 イラク戦争に協力したスペインでは2004年3月にマドリードで同時多発テロが発生し191人が死亡、また同様に米国のイラク攻撃と一体となったイギリスでも2005年7月にロンドンで起きた同時多発テロで56人が犠牲になった。戦争の前触れとなるような緊張があれば、米国のメディアは一気に国防総省の発表をうのみにしてそのまま報道するようになる。
 
 米国とイランの高まる緊張の中で、過去のイラク戦争の経緯からも安倍首相は米国のイランとの戦争を支持しかねない。日本政府に求められているのは冷静に情報を分析し、「米国のニワトリ」と見られるような対応をしないことで、イランとの対話を継続することが求められている
 
▽宮田律(みやた・おさむ) 現代イスラム研究センター理事長。1955年、山梨県甲府市生まれ。83年、慶應義塾大学大学院文学研究科史学専攻修了。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院修士課程修了。専門は現代イスラム政治、イラン政治史。「イラン 世界の火薬庫」(光文社新書)、「物語 イランの歴史」(中公新書)、「イラン革命防衛隊」(武田ランダムハウスジャパン)などの著書がある。