2019年6月5日水曜日

沖縄知事が政府に米軍基地汚染の調査要請へ 地位協定改定は不可欠

 沖縄の米軍嘉手納基地や普天間飛行場周辺の浄水場や河川から高濃度の有機フッ素化合物が検出されています。
 玉城デニー知事は今月にも上京し、基地内の立ち入り調査を米軍に認めさせるよう政府に要請するということです。
 
 日米地位協定環境補足協定が15年9月に発効しましたが、米軍基地内を調査できるのは返還日の約7カ月前からとか、日本側が立ち入りを申請できるのは、環境事故について米側が日本側に通報した場合とか、米軍の運用を妨げないなどと米側が判断した場合に限るとかの、「基地調査は実施できない」と考えるしかない条件がつけられています。
 それでは基地周りの環境保全など出来ようがなく、政府が何故そんな条件付けに同意したのか全く理解できません。
 
 フッ素化合物による水源の汚染はきわめて重大な問題で、米国が立ち入りを認めないのは人道上許されることではありません。
 政府は有名無実の環境補足協定の締結を反省し、国民の健康を守る義務を果たすべく玉城デニー知事の要請に応えるべきです。
 そもそも全国知事会からの要請を受けたにもかかわらず、日米地位協定の改善に全く取り組もうとしない安倍政権の態度は許せません。
 
 琉球新報の社説と併せて東京新聞の社説「日米地位協定 不平等を放置するな」を紹介します。
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<社説> 基地汚染の調査要請 地位協定改定が不可欠だ
琉球新報 2019年6月4日 06:01
 玉城デニー知事は今月にも上京し、基地内の立ち入り調査を米軍に認めさせるよう政府に要請する。米軍の嘉手納基地や普天間飛行場周辺の浄水場や河川から高濃度の有機フッ素化合物(PFOS、PFOA)が検出されているためだ。
 
 ただ立ち入りの実現は厳しい見通しだ。背景には、日米地位協定の環境補足協定がある。2015年9月の発効から3年半が過ぎたが、補足協定に基づき自治体が申請する米軍基地内の立ち入りは一度も実現していないことが、国会での外務省答弁で判明した。
 協定の条件が壁になっているからだ。条件とは、基地内を調査できるのは返還日の約7カ月前からという内容だ。さらに日本側が立ち入りを申請できるのは、環境事故について米側が日本側に通報することも前提条件だ。しかも米軍の運用を妨げないなどと米側が判断した場合に限って、調査は認められる。
 
 協定を締結した際、菅義偉官房長官や岸田文雄外相は「歴史的な意義を有する」と評価した。安倍晋三首相に至っては「事実上の地位協定の改定を行うことができた」と成果を強調した。
 しかし協定はむしろ米軍に都合が良い内容だ。自治体による調査へのハードルを上げただけの「忖度(そんたく)改定」と断じざるを得ない。調査実績ゼロの結果がそれを雄弁に物語る。
 
 米本国や海外との対応の差は一層際立った。米軍は、米本国では、汚染の有無や地点、物質の使用履歴などを厳密に記録する。使用履歴がない場合は退役軍人の聴き取り調査まで実施する。今回のような事案が発生すれば、重大案件として国や州の環境保護機関が調査に乗り出し、問題化するに違いない。
 ドイツでは米軍に国内法順守の義務があり、自治体は予告なしで立ち入って調査できる。環境汚染も米国が浄化の義務を負う。韓国でも汚染があれば、自治体は米軍と共同で調査ができる。
 一方、日本では、立ち入りどころか、米本国では常識である有害物質の使用履歴もなく、基地内の管理実態さえも公表されない。これでは環境保全とは名ばかりで、無法地帯と言っても過言ではない
 
 その元凶は、日米地位協定が定める「排他的管理権」にある。基地内は米国が全権を持ち、日本側は一切口出しできないという他国ではあり得ない権利を与えてしまっている。とはいえ、水源の汚染は重大な問題だ。米国が立ち入りを認めないのは、人道上許されることではない
 国民の安全安心を確保するのは政府にとって当然の責務である。そのためには、日米地位協定の抜本改定が不可欠だ。自治体の立ち入り調査を認めることや汚染の浄化を米側に義務付ける必要がある。基地内の有害物質の管理と汚染時の対応を米国内の基準に準じて制度化し、順守徹底を米側に求めるべきだ。
 
 
社説】日米地位協定 不平等を放置するな
東京新聞 2019年6月3日
 日米地位協定の不条理がより鮮明になった。沖縄県が二年かけて調査した欧州各国との比較では、米軍の活動に国内法を原則適用しないのは日本だけである。政府は抜本改定に本気で取り組むべきだ。
 沖縄県は昨年と今年、米軍駐留を受け入れているドイツ、イタリア、ベルギー、英国に職員を派遣し、地位協定の内容や運用実態を調べた。四月に発表した報告書の核心は、米軍に国内法が原則として適用されない日本と、自国の法律や規則を厳格に適用している各国との差だ。
 北大西洋条約機構(NATO)本部があるベルギーは、憲法で外国軍の活動を基本的に制限。外国軍機の飛行には自国軍より厳しい規制を設けている。英国は国内法の駐留軍法を米軍に適用。英側が米軍基地の占有権を持ち、英軍司令官を置くことを定めている。
 ドイツ、イタリアも含め各国が米軍基地の管理権を確保し、訓練や演習に主体的に関与している状況が明らかになった。
 
 翻って日本の立場は正反対だ。外務省はホームページの解説で、外国軍の活動について「一般に…派遣国と受け入れ国の間で個別の取り決めがない限り、受け入れ国の法令は適用されない」と言い切る。根拠として以前は「一般国際法上」と説明していたが、具体的な「国際法」を示せず削除した
 沖縄県の調査について、河野太郎外相は国会答弁や記者会見で「相互防衛義務を負うNATOの国と日本で地位協定が異なることはあり得る」「一部を取り出しての比較は意味がない」などと述べている。「違いがあって当然」との開き直りに聞こえる。
 
 沖縄では一九七二年の本土復帰以降平均して年一件以上の米軍機墜落事故、月一件以上の米軍絡みの凶悪事件が起きている。訓練の規制や事件事故の捜査が日本の手で十分に行えず、再発防止につながらない。本土でも米軍が管制する広大な横田空域の返還が進まないといった問題が山積しており、全国知事会は昨夏、抜本見直しを提言した。地方議会でも同趣旨の意見書可決が相次ぐ
 ドイツ、イタリアは、日本と同じ敗戦国ながら、米軍機事故への世論の反発を背に改定を実現した。日本政府も、国際常識から乖離(かいり)した不平等協定を締結から五十九年も放置していいはずがない。
 沖縄県は報告書で、協定見直しは「日本の主権についてどう考えるかという極めて国民的な問題」と訴えた。真摯(しんし)に受け止めたい。