東京新聞が、連載記事「参院選 争点」をスタートさせました。
第1回目は「(1)憲法 改憲加速か歯止めか」です。
憲法、くらしと年金、外交、原発・エネルギー、モリカケ問題等について、争点ごとに取り上げるとしています。
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<参院選> 争点(1)憲法 改憲加速か歯止めか
東京新聞 2019年6月27日
通常国会が二十六日閉幕し、与野党は第二十五回参院選に事実上突入した。政府は臨時閣議を開き、参院選を「七月四日公示、二十一日投票」とする日程を決めた。即日開票する。選挙区と比例代表合わせて三百二十四人が立候補を予定している。
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「あの判決は、法律に従って裁判をやっただけのこと。良心の問題だ」
一九七三年、札幌地裁の「長沼ナイキ基地訴訟」一審判決で、「自衛隊は憲法九条違反」との判決を裁判長として下した弁護士の福島重雄さん(88)=富山市=は、そう振り返る。
北海道長沼町での航空自衛隊の地対空ミサイル「ナイキJ」基地建設計画に対し、原告の住民が、自衛隊は違憲などと訴えた訴訟。判決は「自衛隊は九条二項が保持を禁じる『陸海空軍』という『戦力』に該当する」と判示。さらに、有事の際に基地は最初の攻撃目標になるため、憲法前文の「平和のうちに生存する権利」(平和的生存権)が侵害される可能性があるとした。
二審の札幌高裁、最高裁は住民の訴えを認めず、基地は建設された。福島さんはその後、家裁などを転々とし、「冷や飯」を食わされ続ける形に。それでも、自らの判決について「現行憲法である限り、結論は同じ」と主張は揺るがない。
憲法に忠実な司法人生を貫いてきた福島さんから見て納得しがたいのが、安倍晋三首相の改憲論だ。
首相は第二次安倍政権発足後、憲法解釈を変更し、他国を武力で守る集団的自衛権行使を容認。安全保障関連法も成立させ、地球規模で米軍を後方支援できるようにした。自衛隊の活動を違憲の疑いが濃い範囲にまで広げた上で、今、自衛隊違憲論をなくすという理由で自衛隊の存在を書く改憲を主張している。
福島さんは「違憲状態を先行させ、後になって『憲法に合わない』と言う。最初から憲法を守る気がないのではないか」と疑問視。九条二項を残し、自衛隊を明記する自民党案も「九条本来の条項とつじつまが合わない」と批判する。
首相は政権発足直後は、改憲発議の要件を衆参両院議員の「三分の二」から「過半数」に緩める九六条改憲を目指していた。中身を問わず、在任中に改憲を実現したい思いが強い。今回の参院選でも、二〇二〇年の新憲法施行を念頭に「早期の憲法改正」を掲げ、国会の憲法審査会での議論に前向きかどうかを判断基準に挙げた。
参院選の結果、改憲勢力が三分の二以上の議席を維持すれば、議論に前向きな政党が支持されたとして、批判を押し切って改憲原案を国会に提出するなど、来年の新憲法施行に向けてギアを上げる可能性が高い。三分の二をわずかに下回る程度の結果でも、選挙後、改憲に理解を示す野党議員を個別に抱き込み、三分の二の回復を目指すとみられる。
逆に、改憲勢力が三分の二を大きく下回れば、首相の改憲戦略には確実に歯止めがかかる。有権者は、そのいずれを選ぶのか。七月二十一日に答えが出る。 (村上一樹、写真も)
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七月四日公示、二十一日投開票の参院選は、憲法、くらしと年金、外交、原発・エネルギーが主要争点。森友・加計問題に代表される政治の在り方も問われる。私たちは何を選択するのか、争点ごとに考える。