自民党青年部は例年通り5月31日~6月16日の期間、全47都道府県を一巡する、「拉致問題の解決」と「憲法改正」についての街宣活動を展開しています。
憲法学者の小林節名誉教授が、その憲法改正街宣活動の関連資料に明白な嘘があると批判しました。同教授は、嘘の内容を3項目に分けて述べた上で、権力者は国民に誠実に向き合ってほしいと述べました。
それとは別に日刊ゲンダイは、最近「引きこもり」の問題がクローズアップされていることに関連して、もしも自民党の改憲案が通れば「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」とされ、「家族問題は相互扶助せよ」ということが強調される結果、「引きこもり」の問題はますます深刻化すると警告しています。
自民党は当面の改憲目標を4項目に絞っているため、現在はそのことに議論が集中していますが、そもそも自民党の改憲案は、「国民の権利及び義務」についても、現行の憲法が、国民に保障する自由と権利は「濫用しないで、公共の福祉のために利用する責任を負う」(12条)となっているのを、改憲案では「公益及び公の秩序に反してはならない」と、法律でいくらでも制限できるように変えるなど、全体として非常に反動的な内容になっていることに注意すべきです。
日刊ゲンダイの二つの記事を紹介します。
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ここがおかしい 小林節が斬る!
国民に誠実さを…嘘の改憲キャンペーンを展開する自民党
日刊ゲンダイ 2019/06/06
5月28日付の自民党青年局ニュースによれば、同党は、例年通り5月31日の大分県を皮切りに6月16日の福岡県に至るまで、全47都道府県で、「青年部・青年局全国一斉街頭行動」として「拉致問題の解決」と「憲法改正」について街宣活動を展開している。
添付された資料によれば、改憲の論点は、党大会で承認された ①「自衛隊」の憲法条文への明記 ②緊急事態条項の新設 ③参院選挙区の合区解消 ④教育の充実である。
ところが、冒頭に掲げられた資料の第一の説明文が、「現行憲法の『国民主権』『基本的人権の尊重』『平和主義』の三つの基本原理は堅持しつつ、憲法改正を目指します」とある。
しかし、これは明白な嘘である。
第一に、憲法条文中に「自衛隊」と明記する案は、公刊された自民党の説明を読めば明らかなように、これまでは公式に「必要・最小限」の自衛とされてきたものを「必要」な自衛に拡大するものである。つまり、これまでは政府見解で「必要・『最小限』の自衛」とされてきたものを、「必要」に拡大することにより、今でも公式には原則としてできない海外派兵も政府が「必要」だと判断すればできるようになる。
これは、米国と同様に対外的な交渉の前面に簡単に軍隊を出す「軍国主義」に通じるもので、対外交渉の最後の手段としての「専守防衛」しか認めていない現憲法の「平和主義」を否定するものである。
第二に、緊急事態条項は、自民党案では、非常時には首相に、行政権に加えて立法権、財政権、自治体への命令権を与え、国民には命令に従う義務を課すものである。このような制度が大震災でも必要ないことは明白で、これが「国民主権」と「基本的人権の尊重」を否定することは明らかである。
第三に、合区解消の自民党案は、議席配分について、人口比例をやめ、過疎地に有利に変えるものである。これが法の下の平等に反し、議員を人口比例で選出する民主制に反することは、世界の常識である。つまり、これは「国民主権」と「基本的人権の尊重」を否定することは明白である。
権力者は国民に誠実に向き合ってほしい。
小林節 慶応大名誉教授
1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院のロ客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著)
自民党のトンデモ改憲草案 成立なら引きこもりは家族任せ
日刊ゲンダイ 2019/06/06
包丁で長男(44)の胸を刺して殺害した元農水省事務次官、熊沢英昭容疑者(76)は、長男の引きこもりや家庭内暴力を役所に一切相談しなかったという。この報道を受け、一部のネトウヨからは「親がけじめをつけた」などと“持ち上げる”声も出ているが、とんでもない話だろう。
厚労省は都道府県や政令市に設置している相談窓口「ひきこもり地域支援センター」の活用を呼びかけている。霞が関官庁の次官まで務めた熊沢容疑者が制度を知らなかったはずがなく、本来であれば早い段階で相談するべきだったのに、そうしなかったのはなぜか。考えられるのは長年の役所暮らしで、悪しき自民党政権の空気を肌感覚で感じ取っていたからではないか――ということだ。というのも、安倍首相がもくろむ改憲で自民党草案の第24条に設けた項目にはこう書いてあるからだ。
〈家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない〉
家族道徳をあえて憲法に盛り込むこと自体が時代錯誤のトンデモ論なのだが、ここで強調しているのは「家族問題は相互扶助せよ」ということ。「安倍応援団」の「日本会議」が公表している〈新憲法の大綱〉でも、〈国民の権利及び義務〉として〈自由を享受し、権利を行使するに当たっては、自助努力と自己責任の原則に従う〉〈国は国家・社会の存立の基盤である家族を尊重、保護、育成すべきことを明記する〉などとある。
つまり、これらの考えに照らし合わせれば、家族における介護や不登校、引きこもりは、公的機関を利用するなどの「公助」ではなく、家族が自己責任のもとに面倒を見る「自助」を優先すべしということだ。4日付の朝日新聞で、立正大の関水徹平准教授(社会学)が〈ひきこもりの支援に対して『国がお金を出してやるようなことか。家族の責任だ』と言われるような、家族主義的な風潮が背景にあり、追い詰めている〉と、ズバリ指摘していたが、熊沢容疑者もそんな空気を身に染みて感じていたから相談しなかったのではないのか。
仮に自民改憲案が成立すれば、今以上に「家族の責任」が強調され、引きこもり問題がますます、深刻化するのは間違いない。
そもそも、引きこもり問題は今に始まったことじゃない。安倍も過去、〈不登校やいわゆる引きこもりの原因については(略)極めて重要な課題と認識しております〉(2007年4月の衆院本会議)、〈ニートや引きこもりの方々には(略)きめ細やかな相談支援や就労に向けた支援を進めております〉(13年5月の参院予算委)――などと言っていたが、結局、言葉だけでナ~ンもしてこなかった。「家族で何とかしろ」というのがホンネなのだから、何もやる気がなかったのだろう。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)がこう言う。
「改憲草案が成立すれば、介護や引きこもりは家族任せにしても構わないという考え方が合法化してしまう。例えば、児童虐待問題で児童相談所の後手後手の対応が度々、問題になりますが、介護や引きこもり問題でも同じような状況に陥りかねないのです」
やはり改憲は何が何でも阻止すべきだ。