2015年8月29日土曜日

政府答弁の混乱は法案の欠陥を映すもの 廃案しかない

 いま行われている参院特別委での安保法案の審議では、政府がまともな答弁ができなくなって実に77回も審議が中断したということです。審議途中で散会するという事態も起こっています。しんぶん赤旗はここまでボロボロになった法案は廃案しかないと述べています。
 
 26~28日の地方紙の社説は安保法案の審議について、「目に余る政府答弁の混乱」(神戸新聞)、「集団的自衛権行使の根拠が薄弱だ」(東京新聞)、「防衛相答弁 迷走が映す法案の欠陥」(信濃毎日新聞)、「法律上の歯止め 政策判断でごまかすな」(北海道新聞)などという具合(全てタイトルの抜粋)で、法案は法律の体をなしていないとしています。
 
 そして各社説はそれぞれ、「問題だらけの法案は取り下げる。それが政府の取るべき道である(神戸新聞)、「法案の瑕疵(かし)を認め、撤回もしくは廃案を決断すべきである」(東京新聞)、「担当大臣が明快に説明できない法案を成立させるわけにはいかない」(信濃毎日新聞)、「首相は法案の欠陥を率直に認め、撤回を決断すべきだ」(北海道新聞)と結んでいます。
 
 いま参院の特別委で審議されている安保法案がどういうものなのかを明瞭に語っていますが、これらはそのまま国民の多くが実感として持っているものです。
 国民の圧倒的多数が反対している安保法案を強硬に成立させる権利は誰にもありません。
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社説 安保法案審議 目に余る政府答弁の混乱
神戸新聞 2015年8月28日
 安全保障関連法案の審議が、ますます混迷の度を深めてきた
 参院の特別委員会はこのところ中断を繰り返している。野党が答弁に納得せず反発しているためだが、本はといえば、政府側の答弁が従来と異なるなど、首尾一貫していないことが原因だ。
 野党の質問に対して閣僚が答えに窮する場面も珍しくない。説明をすればするほど、つじつまが合わなくなり、ほころびが見えてくる
 国の安保政策を根底から転換させる問題なのに、政府の対応は心もとないというしかない。
 それでなくても「あれ?」と首をかしげるやりとりが毎日のように続く。端的な例が、邦人を輸送する米艦船保護の事例だろう。
 「日本人を輸送する米艦船が攻撃を受けても、日本が直接攻撃されなければ助けることができない」
 安倍晋三首相はこの例を何度も持ち出し、集団的自衛権行使が必要と強調してきた。だが、実はそう単純ではないことが分かってきた。
 集団的自衛権行使には、米艦船への攻撃が「存立危機事態」に当たると政府が認定する必要がある。
 邦人輸送中の米艦船が攻撃されただけで日本の存立を脅かす事態といえるか。その質問に対し、中谷元・防衛相は「邦人が乗っているかは絶対的なものではない」と答弁した。
 さらに、存立危機事態に当たるかどうかは「総合的に判断する」と述べ、事態の認定には米国の要請や同意が必要なことも明らかにした。
 首相の説明は、自衛隊がすぐに救出できるかのように受け取れる。しかし、実際には集団的自衛権行使の対象外となる可能性もあり、政府答弁とはかなりずれがある。
 何ができて、何ができないのか、いまだにきちんと示せないようでは国民の疑念は増すばかりだ。
 多くの憲法学者の「違憲」の指摘にも誠実に応えたとはいえない。若い世代に広がる不安や反対の声も日々、強くなっている。世論調査では多くの国民が法案に懸念を示し、慎重な対応を求めている。
 国会会期末まで1カ月を切った。もしも採決を強行すれば、政府、与党が民意に背を向ける形になる。
 与党は成立に向けた道筋を描こうとするが、先行きは不透明だ。問題だらけの法案は取り下げる。それが政府の取るべき道である。
 
 
社説 集団的自衛権 行使の根拠が薄弱だ
東京新聞 2015年8月28日
 集団的自衛権の行使がなぜ必要か政府が当初の説明を変え、その根拠が揺らぎ始めている。国民の多数が反対する安全保障法制関連法案。根拠も薄弱となれば、いよいよ撤回か廃案しかあるまい
 集団的自衛権を行使できるようにする安保法案は現在、参院特別委員会で審議中だ。与党側は九月十一日までの成立を目指すが、野党側の追及が続いており、法案成立の見通しは立っていない。
 そんな中、中谷元・防衛相から驚くべき答弁が飛び出した。二十六日の参院特別委で、政府が集団的自衛権行使の代表例として挙げてきた米艦防護について「邦人が米艦に乗っているかどうかは絶対的なものではない」と述べたのだ。
 ちょっと待ってほしい。
 安倍晋三首相は昨年来、記者会見で、紛争国から避難するお年寄りや母子を米艦が輸送するイラストを掲げ、「日本人の命を守るため、自衛隊が米国の船を守る」と説明していたではないか。
 私たちはこれまで、邦人輸送中の米艦防護は、現実から懸け離れた極端な例だと指摘してきた。邦人が乗船していなくても米艦を守るなら、集団的自衛権行使の目的は結局、日本人ではなく、戦争中の米国を守ることにならないか。
 それとも、首相の説明自体が誇張、もしくは虚構だったのか。
 首相が集団的自衛権の行使例の一つに挙げた、中東・ホルムズ海峡での機雷除去も同様に、根拠の薄弱さが指摘されている
 首相は海峡が機雷で封鎖され、石油や天然ガスが途絶えれば「人が亡くなる、大変寒い時期には家や人を暖める器具が停止する危険性もある」と、自衛隊が機雷を除去する必要性を強調してきた。
 しかし、機雷を敷設した過去があるイランは穏健派大統領の下、国際社会との対話路線にかじを切った。石油輸送はパイプラインが代替手段となるため、集団的自衛権を行使する存立危機事態には発展し得ないとも指摘される。
 極端で非現実的な例を挙げ、集団的自衛権行使の必要性を強調するのはすでに限界にきていると、安倍政権は悟るべきだ。
 そもそも、政府による説明のずさんさを見抜いているからこそ、国民の多数が安保法案への反対を貫いているのだろう。
 必要性の乏しい法案を、憲法が権力を律する立憲主義を侵してまで成立させてはならない。安倍政権は法案の瑕疵(かし)を認め、撤回もしくは廃案を決断すべきである。
 
 
社説 安保をただす 防衛相答弁 迷走が映す法案の欠陥
信濃毎日新聞 2015年8月27日
 法案を提出したのは政府なのに、担当大臣が中身の理解も整理もできていないことがまた露呈した。
 中谷元・防衛相である。国会での答弁が迷走し続けている
 一昨日の参院特別委員会で、集団的自衛権の行使要件となる存立危機事態に関し、武力攻撃を受けた他国からの要請や同意がなければ事態認定をすることはない、との見解を示した。
 その4日前には「事態認定には必要ない」としていた。一方、集団的自衛権行使には要請が要るとも述べ、野党が批判していた。
 軌道修正で沈静化を図ったとみられるが、整合性が取れない答弁とのそしりは免れない。
 集団的自衛権は、密接な関係にある他国が武力攻撃を受けた場合、日本が直接攻撃されていなくても自国への攻撃と見なして実力で阻止できるものだ。他国の戦争に加担する恐れがある。
 行使の判断基準の曖昧さがかねて問題視されている。安倍晋三首相は「総合的に判断する」と繰り返すばかり。政府の判断でいかようにも利用される懸念が強い。担当大臣の分かりにくい答弁は国民の不安を募らせている。
 中谷氏のあやふやな答弁はこれだけではない。
 一昨日の委員会では民主党の福山哲郎氏が「存立危機事態の際に米軍を後方支援する米軍行動円滑化法改正案に自衛官の安全確保の規定がない」とただした。
 最初、中谷氏は「(規定は)ない」と明言。自衛隊員の安全は法案に明確に定めたとする政府側の説明と矛盾していると追及されると、「指針に必要な措置を盛り込んで安全を確保する」と答えるのが精いっぱいだった。
 議論がかみ合うことはなく、審議は紛糾。自民党の鴻池祥肇委員長が政府側に答弁の整理を求める場面があったほどだ。
 中谷氏はこれまでも中東の過激派組織「イスラム国」への軍事作戦を行う有志国連合の後方支援について「法律上可能」と述べたり、核兵器の運搬を「法文上は排除していない」と答えたりし、野党から追及されている。
 このように伸縮自在の解釈ができることに法案の根本的な問題がある。迷走する答弁が裏書きしている。安倍首相は早くも参院採決に言及したけれど、担当大臣が明快に説明できない法案を成立させるわけにはいかない。
 
 
社説 新安保法制 法律上の歯止め 政策判断でごまかすな
北海道新聞 2015年8月26日
 参院特別委員会はきのう、安倍晋三首相が出席して安全保障関連法案の集中審議を行った。
 衆院も含むこれまでの審議で目立つのは、法案上、できるかできないのかという野党の追及を、自身の政策判断としてやる、やらないという議論に意図的にすり替える首相の不誠実な答弁である
 法律上の歯止めの脆弱(ぜいじゃく)さが明白になるのを恐れるためだろう。
 現政権が政策判断でやらないと言っても、法的に可能なら別の政権はやるかもしれない。問われているのは政策ではなく法案である。首相は正面から答えてほしい。
 首相は集団的自衛権を行使して他国領域に戦闘目的で部隊を派遣する「海外派兵」について、「一般に自衛のための必要最小限度を超える」として否定している。
 ただ中東・ホルムズ海峡での機雷掃海は「受動的かつ限定的な行為」だから「例外」として認められると説明している。
 機雷掃海だけを例外とするのは首相の判断であり、法案に書いてあるわけではない
 法律上の歯止めは武力行使の新3要件だけで、それは海外派兵を禁じていない。例外が際限なく広がるのではないか。
 野党はこの点を繰り返し追及しているが、首相は「現時点で念頭にあるのはホルムズ海峡の機雷除去だけだ」などと述べるにとどまっている。とても納得できない。
 他国軍の後方支援に関し、中谷元・防衛相は、法文上は核兵器の輸送も排除されないと答弁した。
 だが首相は、非核三原則が日本の国是であり、「政策論として(核兵器を)運ぶことは120パーセントあり得ない」と否定した。
 国是だからあり得ないと言うが、武器輸出三原則という国是を撤廃し、武器の輸出に道を開いたのは、ほかならぬ安倍政権である。
 首相の答弁はまったく説得力を欠いていると言わざるを得ない。
 米軍などが実施する過激派組織「イスラム国」に対する空爆作戦への支援について、中谷氏は「法律的にはあり得る」と言明した
 しかし首相はこれについても「政策判断として参加する考えはない」と政策論にすり替えている。
 首相は衆院審議で「法理上でき得ると答弁すると、いきなりそれを(政策として)やるんだと紙面に踊る場合がある」と述べた。
 こんな言い訳を認めるわけにはいかない。首相は法案の欠陥を率直に認め、撤回を決断すべきだ。