日本の人口10万人当たりコロナ死者数は8・26人で台湾の165倍、中国の24倍、韓国の2倍です。また直近の大阪の100万人当たりの新規死亡者数は19・6人で、いま感染爆発が起きているインドの15・5人を上回っています。
これらの数字は今後まだ増加していく過程にあるもので、五輪・パラの開催日には、死者数が現行の累積数の約2倍の2万人に達するという推測があります。とても五輪・パラを開けるような状況ではありません。
東京五輪・パラ競技大会組織委員会関係者の目黒一郎氏が、「 ~『五輪中止』決定が早いほどダメージが小さい理由」とする記事を出しました。
政府は開催中止の決定権は日本にはないとして、「もしも中止すれば莫大な違約金を払わんければならない」と強調します。まさにそれを「錦の御旗」乃至は「水戸黄門の印籠」として活用していますが、目黒氏はそのような文言は契約文書上見当たらないとしています。そして中止決定は早いほどダメージは小さいことを具体的に述べています。
万一「莫大な」違約金を払うことになったとしても、五輪を機に、日本が世界一の致死率に陥る悲劇に比べれば遥かに軽微な被害です。
この記事は五輪組織委員会関係者によるものであるだけに、これまであまり知られていない事柄も知ることが出来ます。
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【DOL特選記事】
組織委関係者が激白!「五輪中止」決定が早いほどダメージが小さい理由
目黒一郎 ダイヤモンド・オンライン 2021/05/14
新型コロナウイルスの国内重症者数は過去最高を更新。ワクチン接種は遅々として進まず、医療崩壊が起きているといわれる。にもかかわらず政府は、東京オリンピック・パラリンピックを強行する姿勢を崩さない。国内外の感染状況や金銭的、社会的コストの実情を踏まえれば、日本側の中止表明は早ければ早いほど、私たちが被るダメージは小さいといえる。
(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会関係者 目黒一郎)
世論の6割弱が中止を訴える「社会悪」の五輪
菅首相、丸川大臣は実情を分かっていない
「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じ、安心して参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守ることが開催にあたっての私の基本的な考え方だ」――。
5月10日の衆議院予算委員会で菅義偉首相は、野党議員の質問に何度も同じ答弁を繰り返しており、え、大丈夫か?と自分の目と耳を疑いました。質問に対する答えになっていないやり取りも多かったですし。菅首相には正しい情報が入っていないのか、正常な判断ができない状態なのか…。
読売新聞が5月7~9日に実施した世論調査では、東京オリンピック・パラリンピックの開催について、実に59%が「中止」と回答。「観客を入れず」は23%、「観客数を制限して」は16%であり、まさに世論の6割弱が中止を望んでいる状況です。
五輪は「平和の祭典」といわれてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化している中、東京大会は今や一つの「社会悪」と化しており、それがアスリートや開催賛成派へのバッシングにつながっているように見えます。
また、丸川珠代五輪担当相は同じ日の参議院予算委員会で、五輪を取材しに来る海外の報道関係者の行動管理について「指定されていない行動範囲を管理されない状況で、うろうろするということは絶対にない状況にしていく」と述べていました。
詳しくは後述しますが、まずあり得ないでしょう(笑)。丸川大臣は本当にテレビ朝日のアナウンサーだったのかと思えるほど、報道機関の実態について無知だと言わざるを得ません。
五輪組織委員会の内情を知る者として、日本国と日本国民、そして五輪やスポーツを愛する全ての人々にとっての最善策について、考えてみたいと思います。
無観客なら大幅なコスト削減が可能に
中止も観客の有無も決めずコストを“浪費”
結論から言うと、日本政府や東京都、組織委員会はいち早く五輪の中止を表明すべきだと私は思います。それでもどうしても開催するというなら、無観客でやるしかありません。
無観客の場合、チケット販売による組織委の収入900億円が消失すると報じられています。900億円はあくまで全席が完売したケースですのであり得ませんが、チケット収入は確かに失われます。それでも無観客にすると、場合によってはその減収を上回る金銭的、人的なメリットがあると私は考えます。
まず無観客にすれば、観客のコロナ感染対策、熱中症などの暑さ対策、そして誘導や警備のための費用が削減できます。
ボランティアのスタッフを大量に動員するとはいえ、彼らのユニフォーム代などの備品も、いかんせん人数が多いのでバカにできない金額になります。他にも体温計やアルコール消毒液などのコロナ対策の備品も必要です。
無観客にするかどうか、観客を入れるとするとどの程度まで入れるのか、という問題は6月に決めるそうなので、組織委内部ではそれまで、観客を入れても対応できるように準備を進めることになります。準備を進めるほど、備品の調達のための契約が進んでいくわけですから、無観客でやると決めるのも、早ければ早いほどいいのですが…。
逆に、もし観客数を一定程度制限するとしても、その場合に座席の割り振りをどうするのか、という問題が生じます。すでにチケットを購入した人の中から、観戦できる人とできない人を、どうやって決めるのでしょうか? 一部のVIP客を優遇したとなれば、彼らや組織委が非難を浴びることになります。
組織委内部の最前線の職員は、無観客、あるいは一定程度観客ありなど複数の条件で、コストなどさまざまなシミュレーションを行っています。職員はこれらの業務で多忙を極めており、超長時間の残業を強いられているケースもあります。
また、組織委の職員の多くは東京都から出向している職員です。都は開催都市ですから、彼らにとっては都の仕事の延長といえますが、それ以外の職員は、都の内外の自治体や民間企業からの出向者です。
全国の自治体では今、コロナ対策や感染者の治療やケア、これから本格化するワクチン接種に忙殺されています。中止になるかもしれず、開催を強行しても最悪の場合、それが原因でウイルスが蔓延してしまう――。そんな五輪の業務に振り回されるくらいなら、一人でも多くの命を救うため、本来の現場で力を発揮させるべきではないでしょうか。
それでも組織委の職員は、歯を食いしばって業務に取り組んでいますが、五輪はすでに「政争の具」と化しています。菅首相や丸川大臣、小池百合子都知事や橋本聖子組織委会長の言動を見ていますと、重大な決断を下す覚悟は感じられず、互いにリスクと責任を押し付け合っているようにみえます。これでは、現場の職員は浮かばれません。
「うろうろ絶対ない」丸川発言は非現実的
PCR、ワクチン対象外の報道関係者をどう制限?
さて、海外から来る報道関係者について、丸川大臣の「うろうろするということは絶対にない」発言を検証してみましょう。
五輪で来日する外国人について、政府は各国に減らすよう要請しているようです。丸川大臣はその人数について「組織委で精査している」と国会で答弁していますが、おおむね6万人程度になるとの見方があります。そのうち五輪の選手は約1万1000人、パラリンピックの選手は4500人程度です。残り4万5000人近くは選手に付き添う各国の競技団体の役員やコーチなどの指導者、そしてスポンサーや報道関係者なのです。
報道関係者は、日本で雇われる制作会社のテレビスタッフなどを含めると、選手よりも多い2万人程度に上ります。
よく考えてください。海外で五輪の大会が開かれたとき、日本のメディアの特派員は開催都市の街頭に出て、その様子や市民の声を伝えていませんでしたか?コロナ禍という特殊な状況で、海外のまともな記者が、浅草や渋谷、六本木でこうした取材を行わないとは考えられません。
ましてや、欧米など報道の自由が日本より重んじられる国の記者は、取材の制限に対して日本の記者よりもはるかに激しく抗議し、法的根拠について説明を求めるでしょう。海外から入国した外国人の強制隔離すらできず、コロナの水際対策の不備を指摘されている日本政府に果たして、まともな説明ができるのでしょうか?
しかも、選手やコーチには毎日のPCR検査の実施が検討され、さらに製薬大手のファイザーが選手に優先的にワクチンを供与すると公表して賛否両論を呼んでいますが、これは報道関係者やスポンサー関係者を対象にするとは言われていません。
東京都医師会の尾崎治夫会長は11日の記者会見で、選手以外の関係者について「どういう形で日本にいる間に感染症対策をするのか。全く情報がない」と批判しましたが、まさにその通りです。
選手であれば、出場資格の停止という“伝家の宝刀”で行動を制限することができるでしょうが、報道関係者にワクチン接種も毎日のPCR検査も行わないまま、一体どんなルールでその行動を縛るのか、想像もつきません。
「日本が違約金負担」の指摘は本当か
“ぼったくり男爵”IOCの評判は前から悪い
では中止となった場合、日本政府や東京都、つまり日本の経済や納税者にとってどれほどのダメージがあるのでしょうか。
「国際オリンピック委員会(IOC)への違約金負担が発生する」との見方がありますが、現在私が知り得る情報では、必ずしもそうではないという印象です。
都のホームページに掲載されている「開催都市契約2020」( https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/hostcitycontract-JP.pdf )の第66条に以下の文言があります。
「理由の如何を問わず IOCによる本大会の中止またはIOCによる本契約の解除が生じた場合、開催都市、NOC(日本五輪委員会) およびOCOG(組織委) は、ここにいかなる形態の補償、損害賠償またはその他の賠償またはいかなる種類の救済に対する請求および権利を放棄し、また、ここに、当該中止または解除に関するいかなる第三者からの請求、訴訟、または判断からIOC被賠償者を補償し、無害に保つものとする。OCOGが契約を締結している全ての相手方に本条の内容を通知するのはOCOGの責任である」
IOCが開催都市やその国の政府に違約金を請求すると、明確に書かれているわけではありません。
またIOCの主な収入は、全世界の放送局が支払う放送権料(放映権料とも言います)で、IOCの収入の約7割ともいわれています。中でも米国NBCは夏季、冬季合わせて10大会で1兆3000億円を支払います。
日本のNHKと民放で構成するジャパンコンソーシアム(JC)も2018年の平昌、22年の北京、24年のパリ、そして東京の4大会に合計1100億円を支払っていますが、もし東京大会が中止になって五輪中継の広告収入が吹き飛んでも、保険でカバーされるのだそうです。
JCですら保険に入っているのですから、米NBCテレビも当然そうしていると考えるべきでしょう。
それでも都や日本政府に何らかの損害が生じるかもしれませんが、ワクチン接種が進んでいるのは一部の国にとどまり、国内外で今なお多くの命が失われているわけですから、日本側からの中止の表明には十分な大義名分があります。
そもそも五輪という「金食い虫」の評判はコロナの前からすこぶる悪く、イタリアのローマ市が16年に24年大会への立候補を取りやめたように、先進国の都市が五輪を忌避する風潮があります。先日もIOCのトーマス・バッハ会長が米ワシントン・ポスト紙に「ぼったくり男爵」などと嘲笑されたほどですから、彼らも各国の評判を考えるでしょうし、五輪を少しでも持続可能なものにしたいのであれば、少しは考えるべきです。
「五輪の経済効果は無視できない」との声もあるでしょう。しかし、海外の観客は呼ばないことに決まりました。ですので、コロナ禍で瀕死ながらも大会スポンサーとして多額の資金を拠出している大手航空会社や大手旅行会社は、たとえ大会が強行されても、実入りはごくわずかです。
また、新国立競技場や水泳会場のアクアティクスセンターなどの施設は、すでに工事が完了してゼネコンにその費用が支払われており、開催の有無は建設業界の収益に影響しません。
五輪に合わせて開かれるスポンサー企業の展示を請け負う中小プロダクションの売り上げや、大量に売れ残っているとされる五輪関連グッズは、確かに心配ではありますが。
それどころか組織委は、中止するのかしないのか、観客の有無、観客ありの場合はどの程度入れるのかをはっきりさせないままずるずると準備だけを進めているため、前述のように、無駄になるかもしれないのに確保する人手や備品が増え、余分なコストがかかり続けています。
世論調査の結果や国内外の批判の声に見られるように、東京大会は歓迎されるどころか、冒頭で申し上げたように「社会悪」のような扱いになっています。アスリートのみなさんには気の毒ですが、速やかに中止を決定することで、私たちが受けるさまざまなダメージを減らせるのではないでしょうか。