6日、国民投票法改定案が衆院憲法審査会で可決されました。
懸念されていたCM規制については、CMのほかインターネット広告、運動資金の規制について「検討を加え、施行後3年をめどに法制上の措置、その他の措置を講じる」との一文が改定案の付則に加えられました。
しかし付則は付帯決議と同様に法的な拘束力に乏しく、努力義務のような扱い(本澤二郎氏)といわれます。本当に3年以内に意図した「措置」がおこなわれるかは、その時になってみないと分かりません。それに3年以内に自民党の憲法改正案が提出されないという保証もありません。
それなのに共産党以外の全野党がその改定案に賛成し成立しました(維新が反対したのは立民党により「附則」をつけられたことへの反対で、本案には賛成)。
しかもこの国民投票法改定案は、18年から9国会にわたって採決が先延ばしされてきたもので、今国会で成立しなければ秋までには必ず行われる解散・総選挙で廃案になる筈でした。
一体野党には、自民の改憲案に反対しようという意思があったのか、と思わざるを得ない経過でした。
日刊ゲンダイの記事を紹介します。
+しんぶん赤旗の2本の記事を追加します。
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火事場ドロボーにもほどがある
国民の不幸に付け込む 憲法破壊政権の極悪非道
日刊ゲンダイ 2021年5月6日
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
このコロナ禍に乗じた改憲派の蠢動が、いよいよ露骨になってきた。
3日の憲法記念日、改憲派が開いた「憲法フォーラム」では、自民党の下村政調会長が「緊急事態条項」の創設をまたぞろ主張。「日本は今、国難だ。今回のコロナのピンチをチャンスとして捉えるべきだ」と訴えた。大規模災害など有事の際に内閣の権限を強める緊急事態条項は、安倍前政権下でいきなり提示された自民党の「改憲4項目」のひとつだが、その対象に新型コロナウイルス感染症を含めるべきだというのだ。
コロナで家族を亡くした人、後遺症に苦しんでいる人、仕事を失い途方に暮れている人もいる。多くの国民が苦しみ、感染に怯え、長引く自粛生活に耐えている状況で、政治家から「チャンス」という言葉が出てくること自体が信じられない。国民の不幸に付け込んで、自分たちのいいように利用することしか考えていないのだ。
「下村氏の改憲発言は首相の座を狙う野心の表れと同時に、今の政権与党の考え方そのものでもある。自民党はずっと新型コロナという国難を憲法改正に利用しようとしてきました。感染拡大が懸念され始めた昨年1月末には、早くも伊吹文明元衆院議長が『コロナは緊急事態のひとつ』『憲法改正の大きな実験台』などと言っていた。危機に便乗した“ショック・ドクトリン”の手法で、国民の不安を煽る形で憲法改正をやってしまおうというのです。しかし、コロナのどさくさで改正なんて憲法の趣旨にそぐわないし、そんな改憲が主権者の国民を幸せにすることは決してありません」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)
コロナ禍を利用した改憲とは火事場ドロボーにもほどがあるというもので、しかも、自分たちが後手後手で延焼させておきながら、その役立たずを棚に上げて憲法の問題にスリ替えようというのだから悪辣だ。
憲法ではなく政権の無能のせい
「改憲派はこれまで、災害も利用しようと画策してきた。憲法審査会は第1次安倍政権の2007年に設置されたものの、国民の側から憲法改正が必要という要請はないものだから長く休眠状態だった。衆院で実質審議が始まったのが2011年11月で、東日本大震災の直後です。当時も憲法に緊急事態条項がないから危機に対応できないなどと主張していた。そんなのは大嘘で、災害だろうが感染症だろうが、憲法の範囲内で対応可能だし、対応できないのは憲法のせいではなく、政府が無能だからです。コロナ対策で緊急事態宣言を3回も発令して効果が出ないのに、これ以上、内閣に権限を集中してもロクなことになりません」(政治評論家・本澤二郎氏)
憲法記念日の改憲派集会には、菅首相もビデオメッセージを送る形で参加。緊急事態条項の創設について「緊急時の国家、国民の役割を憲法にどう位置づけるかは極めて重く大切な課題」とか言っていた。
憲法にまったく関心がなさそうだった菅が、改憲は「たくさんの先達が挑戦し、到達できなかった道だ。大きく社会が変化する今だからこそしっかり挑戦していきたい」などと言い出し、今国会で審議中の国民投票法改正案について「憲法改正議論の最初の一歩として成立を目指さなければならない」と強調したことは、意外なほどの前のめりだ。
そうしたら、この連休中に事態が一気呵成に動き出した。菅自民党が改憲の「第一歩」と位置づける国民投票法改正案が、6日の衆院憲法審査会で採決され、今国会で成立する見通しになったのだ。
解散・総選挙で廃案になる寸前にドサクサ採決
この国民投票法改正案は、2018年から9国会にわたって採決が先延ばしされてきた。投票の公平性を確保する「CM規制」や、一定の投票率に達しなかった場合に不成立とする「最低投票率」に関する規定もなく、生煮えだからだ。今国会で成立しなければ、秋までに必ず行われる解散・総選挙で廃案になるはずだった。
そういうタイミングで急転直下、与野党が採決に合意したのである。CM規制や外国人寄付規制について、改正案の付則に「改正法施行後3年をめどに検討を加え、必要な法制上の措置を講ずる」と明記する立憲民主党の修正案を与党側が丸のみして採決するという。6日の衆院憲法審査会で採決されれば、11日の本会議で衆院を通過、参院に送られる。与党内では、7日に急いで衆院本会議を開く案まで出ているという。いずれにせよ、今国会での成立は確実な情勢だ。
国の在り方、国民生活を根本から変える憲法改正に大きな影響を与える国民投票法が、こんな拙速に進められていいのか。
「付則は法的な拘束力に乏しく、努力義務のような扱いです。平気で約束を反故にするのが現政権だから、まったく信用ならない。一昨年の参院広島選挙区で起きた買収事件で分かるように、カネで票を買って主義主張を押し通そうとする政権なのです。改憲の国民投票の予行演習のような大阪府の“都構想”をめぐる住民投票でも、CMに巨額の資金が投下され、少なからず投票行動に影響を与えた。カネで改憲の世論を動かそうとするのは明白です。廃案を恐れて採決を急ぐ与党に対し、野党があと数週間粘れば成立を阻止できるのだし、『不要不急の改憲よりコロナ対策に集中しろ!』と不信任決議案を出して抵抗してもいいくらいなのに、立憲民主党は何を考えているのか。そもそも、ことごとく法を無視し、国民の権利を蹂躙してきた自公政権に改憲を言い出す資格などありません」(本澤二郎氏=前出)
「ナチスの手口に学ぶ」が現実に
第2次安倍政権の発足直後、麻生財務相は全権委任法でワイマール憲法を無効化した「ナチスの手口に学んだらどうかね」と言っていた。本来なら、この発言だけで更迭ものだが、その後もデカい顔で居座り続けた結果、ついに現実になろうとしている。安倍の改憲ルサンチマン(⇒憤り、怨恨)が亡霊のように蘇っていることも不気味だ。4月20日には自民党の憲法改正推進本部の最高顧問に就任し、菅政権に改憲をせっついている。本気でやりたかったのなら、自身が首相の1強時代に進めればよかったのに、なぜ退任した今になってシャシャリ出てくるのか。コロナ禍のどさくさで菅に進めさせ、改憲機運が整ったところで再々登板とでも夢見ているのか。
「安倍前政権から続く憲法無視は著しく、安保法に始まり、憲法違反の集団的自衛権の行使を容認したり、検察官の違法な定年延長もゴリ押ししようとするなど、立法府も司法府も支配下に置いて三権分立の破壊に邁進してきた。憲法が保護する国民の権利をことごとく蹂躙してきたのです。そういう政権が改憲を言い出すのは倒錯している。何より今は憲法改正よりコロナ対策に集中すべき時でしょう。コロナ禍を利用し、法的不備も無視して国民投票法改正案を成立させるような手続きが認められるわけはありません。改憲の中身以前の問題です」(金子勝氏=前出)
憲法学者の水島朝穂早大教授も3日付のネットコラム「直言」でこう書いていた。
<憲法蔑視の安倍・菅政権の8年5カ月は、立憲主義の根本を破壊する「壊憲」の政治だった。安倍・菅政権に対案は不要である。ルールのルールを破壊するこの政権には退場を求める以外に「対案」はない>
野党も国民も、憲法破壊政権が仕掛けてくる罠に乗ってはいけないのだ。国家と国民生活を守るには、コロナより改憲で国民の不幸に付け込む極悪非道政権を退陣させるしかない。それが結局はコロナ収束への近道でもあるはずだ。
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衆院憲法審 国民投票法改定案 可決 共産党反対 政権の改憲策動 断固阻止
しんぶん赤旗 2021年5月7日
衆院憲法審査会で6日、与党提出の改憲のための国民投票法改定案が採決され、賛成多数で修正のうえ可決されました。日本共産党は反対しました。国会の外から採決に反対する国民の声が委員会室に響くなか、日本共産党の赤嶺政賢議員が反対討論。法案の採決をもって自民党の「改憲4項目」の議論に進むことは許されないと述べ「安倍・菅政権による改憲策動を断固として阻止する決意だ」と表明しました。
討論で赤嶺氏は、与党案について安倍晋三前政権の下で9条への自衛隊明記や緊急事態条項創設など自民党の「改憲4項目」の議論を進める“呼び水”として提出されたものだと指摘。菅義偉首相が改定案成立を「改憲4項目」の議論を進める一歩と述べていることを批判し、「国民は改憲を政治の優先課題とは考えていない。政治がなすべきは新型コロナ対策に全力をあげること」だと主張しました。
また、現行の投票法は最低投票率の問題など、民意をくみつくし正確に反映させる上で根本的な欠陥があると指摘。3年をめどにCM規制などを検討する修正をしたからといって、欠陥を放置したままの与党案の採決は許されないと強調しました。
日本共産党の本村伸子議員は質疑で、投票所の削減や政党への外資企業への献金問題をとりあげ、「審議は尽くされていない」と審議継続を求めました。
採決後の自由討議で自民党の新藤義孝議員は、採決は「一つの通過点」と述べ、憲法本体の議論を進めるべきだと主張。来週以降の審査会開催を求めました。立憲民主党の奥野総一郎議員はCM規制などの議論をきちんとすべきだと述べました。
自民党は11日の衆院本会議で改定案を採決しようとしています。
国民投票法改定案・修正案に対する赤嶺議員の反対討論 衆院憲法審
しんぶん赤旗 2021年5月7日
6日の衆院憲法審査会で採決が行われた、与党提出の国民投票法改定案と修正案に対する、日本共産党の赤嶺政賢議員の反対討論は次の通りです。
与党案に反対する第一の理由は、安倍晋三前首相が2020年と期限を区切って改憲を主張する下で、改憲議論に進む「呼び水」とするために提出されたものだからです。
自民党は、4年前の安倍前首相の号令の下、「改憲4項目」を策定し、これを審査会に提示し、改憲原案のすり合わせをしようと画策しました。野党が「安倍改憲」に反対するもとで、自民党は審査会を動かそうと、突如与党案を持ち出してきたのです。
しかしこの3年間、安倍政権が改憲を叫べば叫ぶほど、「安倍改憲」に反対する国民世論は大きくなりました。安倍氏自身が退陣にあたって「国民世論が盛り上がらなかったのは事実だ」と認めた通りです。
にもかかわらず、菅義偉首相がまた、国民投票法改定案の成立を「改憲4項目」の議論を進める一歩とすると述べていることは看過できません。
国民はいま、憲法改定を政治の優先課題とは考えていません。いま政治がすべきは新型コロナ対策に全力を挙げることであり、改憲を優先する必要は全くありません。
第二に、与党案は国民投票法がもつ根本的な欠陥を放置していることです。
現行の国民投票法は、最低投票率の問題や、公務員の運動を不当に制限している問題、資金力の多寡によって広告の量が左右される問題など、民意を酌み尽くし正確に反映させるという点で、重大な欠陥があります。これらの問題は、2007年の法制定時や14年の改定時にも国会の附帯決議で指摘され、与党も賛成したものです。この根本問題にこそ真摯(しんし)に向き合うべきであり、これを脇に置いたまま、7項目のみ採決することは許されません。
さらに、この間の審議で、公職選挙法並びで本当に民意を酌み尽くすことができるのかという問題が浮き彫りになりました。公選法も含め、いまの選挙制度に問題があるということに他なりません。国民の意思を正確に反映する制度のあり方へと抜本的に見直すべきです。
なお、修正案については、有料広告のあり方などの問題について3年間検討するというものですが、それをもって欠陥を放置したままの与党案を採決してよいということにはなりません。審議は続行すべきです。
ましてや、この問題を済んだこととして、「改憲4項目」の議論に入ることなど断じて認められません。安倍・菅政権による改憲策動を断固として阻止する決意を申し上げて、反対討論とします。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。