2021年5月2日日曜日

このままでは日本は「焼け野原に」五輪中止を決断できない「戦前と同じ国」

 どこから見ても東京五輪を開催できる客観的条件はありません。勿論新型コロナの勢いが止まりそうもないからです。医療崩壊を起こした大阪府では加速度的拡大は一応止まり、今のところ定速的拡大に変わってはいますが、新規感染者数は半月以上1100人/日程度の増加速度を維持したまま高止まりしています。

 東京都も2週間後には2000人./日を超える可能性があるということで、そうなれば東京都も医療崩壊に繋がります。
 これにさらにインド型の二重変異株の蔓延が加われば底知れない惨状に至ります。そんな中で、東京五輪の開催こそが菅政権の延命につながる唯一の命綱ということだけで、五輪の開催にこだわるのは許されません。
 これまでは菅首相の言い分を追認するだけだった政府分科会の尾身茂会長が28日、ついに五輪開催について、「議論すべき時期にきている」「その時になって判断するというのでは遅い」と発言しました。ということはこれほどの重大事を「議論」すらしてこなかったわけです。

 しんぶん赤旗が「五輪中止すぐ議論を 田村氏会見 専門家も危機感」との記事を出しました。
 日刊ゲンダイは「このままでは本土決戦、焼け野原 五輪中止を決断できない『戦前と同じ国』」との記事を出しました。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
五輪中止すぐ議論を 田村氏会見 専門家も危機感
                        しんぶん赤旗 2021年5月1日
 日本共産党の田村智子政策委員長は30日、国会内で記者会見し、新型コロナウイルスの感染拡大により専門家からも東京五輪・パラリンピック開催の是非に関わる議論を求める意見が出ているとして、改めて中止を含めた議論を早急に行うべきだと主張しました。
 田村氏は、政府分科会の尾身茂会長が五輪開催について、「議論すべき時期にきている」「その時になって判断するというのでは遅い」と発言していることに触れ、「専門家からも危機感を持った提起が示されている」と指摘しました。
 大型連休中の人出が昨年に比べ減っていないとの報道を示し、「昨年はゴールデンウイーク直前に安倍晋三前首相が五輪の延期を表明している」と強調。一方で、今年は聖火リレーが続行され、東京都では五輪のテストイベントが取り組まれるとして、「政府や東京都が発信するメッセージとしてあまりにも間違っている」と批判しました。

 また、大会組織委員会が日本看護協会に看護師約500人の動員を要請したことに多くの医療関係者から批判の声が上がっていると指摘。選手に毎日PCR検査を行う方針に対して、千葉県の一宮町が対応できる医療機関がないことを理由に選手への検査協力を断る事態になっているとして、「五輪開催はコロナ対策と矛盾すると認めなければアスリートと国民の分断が生まれてしまう。今夏の開催を中止することを強く求める」と主張しました。


このままでは本土決戦、焼け野原 五輪中止を決断できない「戦前と同じ国」
                       日刊ゲンダイ 2021年4月30日
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 こんな状況で、どうやったら「安全・安心」な五輪の開催が可能だと言えるのか。根拠なき楽観論で突き進めば、どういう結末を迎えるかは歴史が証明している
 緊急事態宣言下でのゴールデンウイーク初日の29日、五輪開催都市の東京都では、新たに1027人の新型コロナウイルス感染者が確認された。1000人を超えるのは1月28日以来で約3カ月ぶりだ。しかも、感染者は今後さらに増えると予想されている。東京でも感染力の高い変異株が猛威を振るいつつあるからだ。
 28日の都のモニタリング会議では、都内の感染者の約60%が「N501Y」型の変異ウイルス感染者と推計。このままいくと、2週間後には1日の新規感染者が2000人を超える可能性もあるという。それでは予定されている5月11日の宣言解除はとても無理だし、海外と比べてはるかに遅れている日本のワクチン接種の実態を鑑みれば、3カ月後に世紀の祭典を開催することは夢物語と言うほかない。
 ウイルス蔓延を防ぐため、東京都の小池知事は「東京に来ないでください」と言い、政府も都道府県境をまたぐ移動の自粛を求めている。それなのに、五輪が東京で開催される予定に変わりはなく、聖火リレーが今も都道府県を回っているという矛盾撞着。1%でも感染リスクを減らすため、都民に“禁酒法”や“灯火管制”まで強いているのではないのか。
 もっとも、聖火リレーにしても、各地で“寸断”されているのが実情だ。密を避けるために公道を走らなかったり、ランナー辞退も相次ぐ。聖火もつなげない大会で、本番は万全の体制で開催できると考える方が無理というものだ。

GW明けの感染者数がカギ
 東京五輪関連の著書がある作家の本間龍氏が言う。
「前回の緊急事態宣言は聖火リレーをスタートさせるために解除し、そうしたらまた感染者が増えて緊急事態宣言という泥縄になっているのは、すべて五輪開催を最優先に場当たりの対応をしているからです。五輪が開催される7月には感染拡大も収まっているのではないかという願望に基づいて進めているのでしょうが、それも変異ウイルスの蔓延で収拾がつかなくなってきた。いつになったら緊急事態宣言を解除できるのかは、このゴールデンウイーク明けの感染者数の動向がポイントですが、普通に考えたら五輪を開催できる状況ではない。無理を重ねて開催して欲しいとは国民も思っていません」
 世論調査では国民の大多数が五輪中止や延期を願っている。しかし、政府や都知事、東京五輪・パラリンピック組織委は五輪開催に固執し、猛進する姿勢を一向に変えようとしないのだ。 
 28日にも国際オリンピック委員会(IOC)、大会組織委、日本政府、東京都などの代表が大会の準備状況などを確認し合う「5者協議」がオンラインで開かれたが、IOCのバッハ会長は「日本の社会は連帯感をもってしなやかに対応しており、粘り強さと、へこたれない精神をもっている。それで逆境を乗り越えてきているから五輪も乗り越えることが可能だ。献身的な努力で未曽有のチャレンジをしている」とか言っていた。何だ、そりゃ。このコロナ禍でも精神力で五輪を開催できるとは、フザけているか、日本をバカにしているとしか思えない。

責任回避と保身、呆れた精神論にすがる希望的観測
 菅首相は3回目の緊急事態を発令する23日の会見で、五輪開催について問われると、「五輪の開催はIOCが権限を持っている」「開催することを世界のそれぞれのIOCの中で決めている」と意味不明なことを言い、自分には権限も責任もないような態度だった。そのIOCの開催根拠が、バッハ発言の通りに根性論なら目も当てられないのだ。
 このコロナ感染拡大で医療体制が逼迫する中、ワクチン接種にもマンパワーが必要なのに、そこへ加えて組織委が日本看護協会に五輪の医療スタッフとして看護師500人の確保を依頼。反発する医療関係者らによるツイッターデモも拡大している。
 医療体制に関しては、丸川五輪相が「東京都がどのように取り組んでいくのか示されていない」「主催者としての責任をどう果たすのか」と責任を押し付け、小池知事が「実務的には詰めている」と反論するなど、公然と罵り合う醜態を演じているが、五輪開催のために医療従事者が動員され、国民医療は後回しにされるなんて、いつの時代の話なのか。
「IOCは、開催国の日本が『やる』と言うなら止めはしません。IOCも、莫大な費用を投下してきた日本財界も、開催すれば多少は投資を回収できる。やりきったというカタルシスも得られます。結局は日本政府の政治判断しかないのですが、国会で中止に踏み込む議論も少なく、膠着状態に陥っているように見えます。しかし、一刻も早く中止を決断して、医療資源や財源を国内の感染症対策に集中させるべきなのは間違いない。それが政治の責任です」(本間龍氏=前出)

科学的データのない戦力逐次投入
 さすがに、政府の意向を追認する御用機関と化した感染症対策分科会の尾身会長も、28日の国会で「五輪開催の可否を議論すべき時だ」と言い出した。当然の話で、遅すぎるくらいだ。
 ここへきて政府は東京と大阪に高齢者向けのワクチン大規模接種センターを設置し、自衛隊を駆り出して3カ月間をメドに運営する方針を打ち出したが、これも目先のパフォーマンスに過ぎない
 全国3600万人のうち首都圏に住む65歳以上の高齢者は約900万人だが、5月末に東京で始まる予定の大規模接種センターが想定しているのは1日1万人への接種とされる。3カ月後の8月末でも90万人で、1割がやっとだ。
 米国では1日に約300万人が接種を受け、すでに2億回に達したというのに、日本はまだ全国で200万回強で100分の1だ。この差は何なのか。国力を総動員の準戦時体制でもこのありさまでは、常識的にも能力的にも五輪開催は不可能だろう。自衛隊の医官を動員する国難なのは間違いないが、それは国民の安全と健康を維持するためであり、決して五輪のためではないはずだ。
「国民の多くは、五輪開催は無理だと思っているはずです。五輪のために医療リソースが割かれ、国民の健康や生命を犠牲にすることなど倫理的にもあり得ないし、それは近代五輪の精神にも反する。しかし菅首相は、五輪を開催さえすれば国民世論が盛り上がり、秋までの解散・総選挙で有利だという思惑から、撤退は念頭にないのでしょう。五輪の成功しか政権浮揚の打開策がないからです。神風が吹くことをひたすら願っている。強行開催すれば、日本がウイルスをバラまいて国際的な批判を受ける可能性もありますが、もし不測の事態が起きても、五輪スポンサーでもあるメディアを使って『大成功』の虚偽報道を繰り返し、選挙になだれ込むつもりでしょう」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
 海外メディアが懸念を示したように“一大感染イベント”になる可能性も、日本発のウイルスをバラまいて国際的な批判を浴びるリスクもおそらく分かっているが、希望的観測にすがっている。国民世論を考慮すれば、五輪中止をブチ上げた方が支持を得られる可能性は高いのだが、非科学的な精神論で突き進もうとしているのだ。
「いまの政府がやっていることは、科学的データを軽視して戦線を見誤り、戦力の逐次投入で失敗し、最後は精神論で乗り越えようとした戦前の軍部と同じ神頼みです。上層部のメンツのために中止を決断できず、我慢を強いられる一方の国民が犠牲になる。仮になんとか五輪を開催できても、その後の感染爆発の引き金になり、本土決戦は焼け野原になりかねません」(五十嵐仁氏=前出)
 一度決めたことは止められない。それで誰も責任を取らない。そういう「国の在り方」が戦前と変わっていないことが恐ろしい。この国は何度、同じ過ちを繰り返せば気が済むのか。