ロイター通信によれば、国際オリンピック委員会(IOC)のコーツ調整委員長は8日、東京五輪について「菅首相がバイデンと会談した際にも開催すると言ったし、IOCにも開催を言い続けている」として、「絶対に開催される」との見通しを示しました、また日本で五輪開催の中止を求める署名が集まっていることについては「懸念事項だ」と述べ、ワクチン接種が進めば状況は改善するとの見方を示しました。
5日にスタートした東京五輪の中止を求めるオンライン署名(Chage org主催)は、過去最大のスピードで拡大しつつあり、9日午前11時すぎまでに30万人近い賛同数に達しました(日刊スポーツ)。
新型コロナは全国的に急拡大の様相を見せていて、8日の新規感染者数は6985人/日(過去5位)、死者数121人/日(過去1位タイ)でした。
東京都の新規感染者数は9日に大阪府を抜き1032人/日(大阪府は874人/日)に達し、変異株が主流になったことも確認されました。インド株もすでに市中感染化していると推定されるので、この先、事態が何処まで拡大するのか全く予断を許しません。
こうして事態のさらなる深刻化が予想される中で東京五輪を開催するのはとても無理です。
しんぶん赤旗が、「『五輪無理』内外で噴出『一大感染イベントになりかねない』」とする記事を出しました。
東京新聞も「東京五輪、もはや『詰んだ』状況ではないのか 高まる一方の中止論『早く目を覚まして』『即刻決断を』」とする記事を出しました。
以下に紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「五輪無理」 内外で噴出 「一大感染イベントになりかねない」
しんぶん赤旗 2021年5月9日
今夏の東京五輪・パラリンピック開催の「中止」「見直し」を求める声が国内外で噴出しています。「新型コロナ感染対策の決め手」(菅義偉首相)とした日本のワクチン接種の遅れ、「フェアな大会」をいっそう困難にする各国の感染状況の広がりと深刻化、疲弊する医療従事者にさらに負荷をもたらす動員 ― 。どうみても、コロナ対策と五輪開催は両立しません。
識者やスポーツ関係者からも、「五輪でも『ノー』と言って、将来『あの時の判断で世界が救われた』と言われる国になってほしい」(演出家の宮本亞門さん、「東京」8日付)、「日本国民の命ファーストですから、医療体制がひっ迫した中で(五輪が)行われてほしいかと言ったら、それは間違っていると思いますし、アスリートも望んでいないと思います」(元テニスプレーヤーの杉山愛さん、7日放送の民放テレビ)などの発言が出ています。
ところが菅首相は「IOC(国際オリンピック委員会)が開催権限を持っている」と責任を丸投げする一方、緊急事態宣言延長を決めた7日の記者会見では、「開催できるのか、開催していいのか」と問われ、「安全安心の大会を実現することは可能」などと、あくまでも開催に固執しました。コロナ禍での五輪開催に道理がないことがここまで明らかになっているもとで、責任逃れは許されません。日本政府は直ちに中止の決断をして、IOCに伝え、関係方面と調整するべきときです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「コロナ対応未解決」「事態悪化するだけ」 海外メディア次々
海外メディアは、開催自体への不安や懸念を表明する論評や記事を掲載しています。日本の医療従事者の反対行動にも注目しています。
米紙サンフランシスコ・クロニクル4日付は、開催すべきでないとする論評を掲載しました。昨年の五輪の延期決定は新型コロナウイルスの抑止、ワクチン普及のための時間稼ぎだったが「パンデミック(世界的流行)は終わっていないし、そこに近づいてもいない」、残された11週間では「時間が足りない」と述べています。
また、インドや南米は「ウイルスにどっぷりとつかったまま」だと指摘。日本はワクチン接種率が「世界で最低水準」で、東京や大阪などに緊急事態宣言が出され、感染が収まっていないとし、「海外に門戸を開き、一大感染イベントになりかねないものを開催するには、理想的な時期ではない」と述べています。
仏紙ルモンド(電子版4月23日付)も論評で開催を批判しました。
論評は、「オリンピックなんかやっているところではない」との山梨県知事の発言や、自民党の二階俊博幹事長の「五輪中止」発言を紹介。病院がひっ迫していることや、検査が限定されて感染規模がいまだ不明であることなどを列挙し、開催延期を決めた1年前より状況は深刻だと指摘しました。
さらに世界中から外国人が集まる五輪は、「変異株の祭典」となり、「感染を加速させる危険性がある」と批判しています。
また、菅政権が開催に固執するのは「国家の威信」や「金銭的利害」によるものと論じ、政官財の癒着や利権集団の構造的問題が、長期的な対策よりも短期的な対策を優先する「危機管理の欠陥」につながっているとする日本の識者の分析を紹介しています。
オーストラリアの公共放送(ABC)のウェブサイトは5日、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する中での東京五輪開催について、「コロナ対応や選手への潜在的影響について問題が解決されていない」と題する記事を掲載しました。選手への検査体制などを公平に運営していく手順がまだ確立されていない問題点を伝えています。
国際オリンピック委員会(IOC)が、来日する選手に、損害への免責同意書への署名を求めているとも報道。新型コロナの感染拡大のなかで、数々の制約の下で開催されることから「楽しいオリンピックにはならない」と述べました。
大衆の疑問高まる
また記事は、オーストラリア・オリンピック委員会がオーストラリアの選手は心配の声を上げていないと述べているが、「一般大衆は、大会はそもそも開催されるのか、との疑問しか抱いていないようだ」と指摘。感染が拡大するインドで、選手に厳しい隔離を課して開催していたクリケットリーグが中止されたことに触れ、東京大会への疑問がさらに高まっていると述べています。
ニュージーランドのオタゴ大学マイケル・ベーカー教授は「パンデミック(世界的流行)のさなかの開催は、まさに意味がない」と述べ、開催延期を求めました。ニュージーランドの公共放送(TVNZ)が3日の番組で報じました。
ベーカー氏は「もう1年、延期することが正しい判断だ」と語りました。同氏は、「科学は、広範な国際的移動を伴う大規模な集まりを開催すべきではないと言っている」と指摘し、オリンピック開催は「間違いになる」と述べました。日本の状況について、国民や医療関係者が開催を望んでいないと紹介。「自らも現瞬間の感染拡大の制御に苦労している」なかでの開催は「事態を悪化させるだけだ」と述べました。
安全も安心もない
英紙ガーディアン3日付は、東京五輪・パラリンピック組織委員会が日本看護協会に対し、大会期間中に500人のボランティア派遣を要請したことについて、「日本の医療関係者の間で怒りの声が上がっている」と報じました。
記事は、新型コロナウイルス感染の拡大が深刻化している下での今回の要請は「いかに人命が軽んじられているかを示している」と述べた名古屋の看護師の声を紹介しました。
尾﨑治夫・東京都医師会会長の「国内でも海外でも、感染症を増やさずに大会を開くことは非常に困難だ」とする見解を掲載。また、英医学誌が「依然として安全でも安心でもない」とし、日本に五輪開催を「再考すべきだ」と促していることを紹介しました。
日本共産党の田村智子参院議員が「感染状況は極めて深刻。物理的に(開催は)不可能だ」と述べたことも報じています。
東京五輪、もはや「詰んだ」状況ではないのか 高まる一方の中止論「早く目を覚まして」「即刻決断を」
東京新聞 2021年5月8日
今夏の東京五輪開催をめぐり、中止を求める声がさらに強まっている。元日弁連会長の宇都宮健児氏が立ち上げたインターネット上の中止要望の署名は、開設から2日で22万筆(7日午後6時現在)を超え、まだ増加中だ。米有力紙は国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長を「ぼったくり男爵」と痛烈に批判した。緊急事態宣言も5月末まで延長。もはや「詰んだ」状況ではないのか。 (佐藤直子、榊原崇仁)
◆「救える命が救えていない」
「コロナに感染しても今や、入院もできずに家で亡くなるなど、救える命が救えていない。こんな状況で五輪開催を強行されても、国民は歓迎できません」
「人々の命と暮らしを守るために、東京五輪の開催中止を求めます」と題して、署名サイト「Change org」でインターネット上での署名集めを始めた宇都宮健児弁護士(74)は7日、「こちら特報部」の取材にこう訴えた。
今や、コロナ感染は東京や大阪など都市部だけではない。全国で猛威をふるう。遅れたワクチン接種も一部地域で始まっただけで、現場では看護師や医師らの人手不足が指摘されている。にもかかわらず政府は五輪のために医療従事者の大量派遣要請まで言い出した。
宇都宮氏は「不足する医療従事者を五輪に割くことは、コロナ禍で疲弊した医療関係者をさらに苦しめ、五輪にかかわる人々の命も危険にさらす。『平和の祭典』という五輪の理念にも反する」と指摘する。
宇都宮氏は、昨夏の都知事選に3度目の出馬をした際にも、「当選後、専門家が五輪開催が困難だと判断した場合は、IOCに中止を働きかける」と語っている。当時の「公約」にも沿う今回の署名集めは、「バッハ会長が来日予定とされていた17日までに中止を求める国民世論を形にしたい」と、5日から始めた。
署名サイトのバナーは、「進入禁止」の交通標識5つを五輪マークのように並べたデザイン。5日午後にスタートした署名は、1日で5万6312筆に上り、7日午後6時には22万筆を突破した。この賛同者の伸びは、2012年のChange org日本語版開設以来、最速ペースだという。
署名集約を担うボランティアの「チーム宇都宮けんじ」によると、署名とともに寄せられたコメントには、「もう、医療は崩壊しているのに、オリンピックをやる意味がわからない」「国民の犠牲の上で開かれる祭典になります 早く目を覚まして」「オリンピック中止こそ最大のコロナ対策」などコロナ禍での開催への批判が目立つ。
長年、反貧困を掲げて活動し、連休中もNPOなどが生活困窮者のために食糧配布や生活相談を行うイベント「大人食堂」会場で相談を受けていた宇都宮氏。
「コロナ禍で若者、女性、外国人の困窮者が増えた。2008年から09年に日比谷公園で開かれた『年越し派遣村』とは比べものにならないほど貧困が進んだと実感した」と言う。
東京五輪にはすでに総額1兆6000億円が投じられた。「人々の命と暮らしを守ることが政府・自治体の本義なら、一刻も早く開催中止を宣言し、窮乏にあえぐ人々に資源を割くべきではないか」と語る。
署名の宛先はバッハ会長や菅義偉首相、丸川珠代五輪相、小池百合子東京都知事、東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長ら。「政府や都がいまだに五輪中止の判断や要請をしていないのはあまりに遅いが、今からでも中止の即刻決断を」と訴えた。
◆バッハ会長の来日も暗雲
日本国内で高まる五輪中止論。海外からも中止を促す声が相次ぐ。米有力紙ワシントン・ポスト(電子版)が今月5日に報じたコラムもその一つだ。
国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長を「ぼったくり男爵」と皮肉った上、「地方行脚で食料を食い尽くす王族」「開催国を食い物にする悪癖がある」と指弾。五輪開催の目的は「カネ」と断じ、五輪の中止は「苦痛を伴うが、浄化になる」と訴えた。
そのバッハ会長は17~18日に来日する予定だったが、ここに来て雲行きが怪しくなっている。「こちら特報部」が大会組織委に問い合わせると、「バッハ会長の来日の意向は承知しており、実現すれば歓迎したい。ただし、具体的には決まっておりません」と返答があった。
◆遅れが目立つ国内のワクチン接種
一方、IOCは五輪とパラリンピックに参加する各国・地域の選手団にワクチンを提供すると発表した。5月末にも供給が始まり、7月23日の五輪開幕までに2回の接種を目指す。
ただ日本国内に目を向けると、接種の遅れが目立っている。首相官邸サイトによれば、医療従事者480万人のうち2回の接種を終えたのは110万人ほどで、全体の2割にとどまる。高齢者も3600万人のうち、初回の接種が済んだのは0.7%程度の24万人だけ。2回目は「0」と記されていた。
3度目の緊急事態宣言が7日、今月末まで延長されるなど、コロナ禍がますます厳しさを増す中、理解しがたい選手優遇ではないかと、組織委に尋ねると、「国内の優先接種対象者への影響が出ないことを前提に、検討されるべきものと理解しております」と返ってきた。
インターパーク倉持呼吸器内科の倉持仁院長は「医療現場は今でもコロナ対応に追われている。五輪のために医師や看護師を割けば現場はより深刻な状況に置かれる。人手が足りないばかりに重症化した人たちに手が回らず、救えるはずの命が救えないケースが増えかねない」と語る。
さらに「選手の間で感染が広まったときに対処できるのか。医師や病棟が足りず、十分な医療が提供できない可能性もある。日本で対応できない場合に帰国するのか、移動手段をどうするかも各国と協議が必要なはずだが、具体的な話は聞こえてこない。準備不足が顕著な中で五輪を開くのは非現実的だ」と指摘する。
長崎大感染症共同研究拠点の安田二朗教授は「各国から来日することで海外の変異株が今以上に入ってこないか」と懸念する。「既に全世界で1億数千万人が感染した。これだけ多くの人が感染するといろいろな形で変異しうる。既存のワクチンが効かない変異株があるかもしれない。もし持ち込まれたらワクチン接種の進め方を抜本的に見直さないといけなくなる」
◆中止のシナリオも政局を念頭?
これだけマイナス材料がそろう中、政治ジャーナリストの泉宏氏は「菅首相も小池知事も中止のシナリオを考えているだろう」と語る。ただそれは「ポスト五輪の政局を念頭に置いたもの。『中止を切り出すと世論が自分になびくか』『中止しても権勢を保てるか』が焦点になっているはず。機を見るにたけた小池知事の場合、6月の都議選告示を前に五輪中止と知事辞職を打ち出した上、世論の関心を引きつけて国政復帰という道筋まで思い描いているかもしれない」とみる。
そんなシナリオは国民が望むはずもない。泉氏は「利己的な振る舞いは政治に対する不信感を増幅させるだけ。感染防止の協力も得られなくなる。私利私欲を捨てて深刻な現状に向き合い、何を選択することが国民のためになるかを第一に考えるべきだ」と語った。
▽デスクメモ 菅首相は7日の記者会見で、五輪選手にはワクチンを優先接種し、PCR検査を毎日行うので、「安心安全な大会」になると述べたが、そんな優遇を受けられず、安心でも安全でもない状況の一般国民が、選手たちを素直に応援できるだろうか。首相の認識はあきれるほどズレている。(歩)