2021年5月14日金曜日

入管法改定案 難民申請者「命の心配をせずに暮らしたいだけ」

 出入国管理法改定案をめぐり対立が続くなか野党側が、難民申請中でも3回目以降は強制送還できるとする規定を削除することや収容期間の上限を設けることなど10項目の修正案を提示したのを受けて、14日、与野党の間で案の修正協議が行われる見通しですが、政府・与党内では、野党側が示した項目は改案を根本的に変えるもので受け入れは難しいという意見が出ているということです。

 野党側の人道的な修正案が、「政府の案を根本的に変えるものだ」とは語るに落ちるもので、菅政権が如何に強権的で非人道的な改定を意図しているかを示しています。
 難民申請者は「命の心配をせずに暮らしたいだけ」と訴えていますが、日本の難民認定率は19年度が0・4%、20年度が1・1%と、諸外国に比べて実に数十分の1に抑えられています。
 そして認定されなければ不法滞在者として無期限で入管の劣悪な施設に収容され、命にかかわるような非人道的な扱いを受けることになります。
 ジャーナリスト『労働情報』編集委員安田浩一氏は、「戦前の入管実務の担い手は特高警察で、戦後の一時期も旧特高出身者に引き継がれ、朝鮮半島出身者などの監視を主業務としたということで、入管の隠蔽体質や強権的な姿勢は、こうした出自が影響してと疑わざるを得ない」と述べています(後掲記事参照)。
 そうした非人道的な要素をこの際全面的に改めることこそが求められているのに、政府与党はそれに逆行するものを目指しているわけです。
 しんぶん赤旗、東京新聞、毎日新聞の記事を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
入管法改定 許さない 採決見送りも与党週内狙う「死亡事件解明が大前提」
国会前 市民が座り込み
                        しんぶん赤旗 2021年5月13日
 入管法改定案をめぐり、与党が衆院法務委員会での採決を狙う緊迫した情勢のなか、日本共産党など野党は12日の同委員会で、採決強行を許さないと結束し、政府を追及しました。国会前では、市民が廃案を求めて座り込みなど反対行動に取り組みました。同日の採決は見送られたものの、与党側は依然として週内の採決を狙っています
衆院委で藤野氏
 同法案は、入管収容施設での死亡事件が相次ぎ、国際的にも批判を受けている入管行政の権限を拡大し、厳罰化を進めるもの。
 日本共産党の藤野保史議員は同委員会で、3月に名古屋出入国管理局でスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなった事件の真相解明が大前提だとして、関連資料の提出を要求。これまで開示された資料では、死因とされる甲状腺に関する数値が、1月末の血液検査結果には記されているのに、3月の検査結果には記載がなく、急減していた体重の死亡時の数字も分からないと強調しました。
 藤野氏は、同法案は、過酷な環境に耐えかねて逃げ出し在留資格を失う事態が多発している技能実習制度などの構造的な問題を放置し、「出口」の退去強制手続きばかりを強化するものだと批判。「断固廃案にすべきだ」と主張しました。
 立憲民主党、国民民主党の議員は、真相解明に不可欠だとしてウィシュマさんの様子を撮影したビデオ映像の開示を求め、採決を急ぐ政府・与党を批判しました。しかし、上川陽子法相はビデオの開示を拒否しました。


入管法改正案、山積みの課題とは? 難民申請3回以上は送還可能に...申請者「命の心配をせずに暮らしたいだけ」
                         東京新聞 2021年5月12日
 外国人の収容や強制送還ルールを見直す衆院法務委員会で審議中の入管難民法改正案に対し、外国人収容者の人権を侵害する懸念が広がっている。3月には名古屋の入管施設でスリランカ人女性が死亡、施設内で過去20年に24人が亡くなるなど法務省出入国在留管理庁(入管)の対応が批判が集まる中、改正案の問題点を探った。(望月衣塑子)
◆入管局長通知「不安を与える外国人を大幅に縮減」
 「五輪の年までに安全・安心な社会の実現を図る」「社会に不安を与える外国人を大幅に縮減する」
 2016年、当時の入管局長の通知以降、半年超の長期収容者が倍近くに増加。抗議のハンガーストライキが全国で拡大し、19年6月、茨城県牛久市の入管施設でナイジェリア人男性がハンスト中に餓死した
 これを機に法務省は長期収容を見直すための専門部会を設置。部会の提言を受けた改正案は日本社会で生活を認める仕組みを作る一方、国連人権理事会や国連難民高等弁務官事務所が懸念を示してきた収容期間の上限設定や司法審査の導入を盛り込まなかった。立憲民主党の枝野幸男代表は10日の衆院予算委で「法案には国際基準に反する重大な問題がある」と批判した。
◆送還停止は難民申請2回まで、送還拒否で罰則も
 改正案で支援者らから批判が強いのが、現行法では何度でも申請を繰り返すことが可能な難民申請を、3回以上には原則、送還停止を認めず拒否すれば送還忌避罪などの罰を科す点だ。
 20年末時点で、送還忌避者3103人のうち難民認定申請中は1938人で、3回目以降の申請者は504人。改正案が成立すれば、504人は「相当な理由」を示さない限り、送還忌避罪が適用される。
 上川陽子法相は「過去に3回目の申請で難民認定された人はいない」と説明するが、イラン出身の男性は3回目の申請中に「宗教を理由とする難民に該当する」との判決が出て昨年、難民認定された。
◆外国人を支援する「監理人」にも罰則規定
 長期収容の解決策として改正案に盛り込まれた「監理措置制度」にも批判が集まる。同制度は収容者の弁護士や支援団体を入管が「監理人」に指定。入管が認めれば就労も可能になるが、監理人は収容者の生活などを監督・報告義務を負い、違反すれば10万円以下の過料も科す。 
 制度について、NPO法人「なんみんフォーラム」が支援に関わる弁護士や支援団体から意見を聴取した結果、「監理人を引き受けたいか」の質問に90%が「なれない・なりたくない」と回答、「罰則が規定されているから」との理由が多くなり手不足は必至だ。
◆在留特別許可も条件厳しく...
 改正案では、在留特別許可申請で運用のガイドラインになかった「1年を超える懲役・禁錮の実刑前科等の場合、原則許可しない」という趣旨の文言も盛り込む。これまで3年以上の懲役刑を受けた人でも、日本で育ったなどの事情を考慮して在特が認められたケースもあったが、今後は原則認められなくなる。
 丸山由紀弁護士は「現場の運用は改正にそった厳しいものになる」と指摘、日本弁護士連合会も意見書で「刑罰前科を原則的な不許可事由とすべきでない」とし、「『家族の統合と子どもの最善の利益を積極的に考慮すべき事情として』を明記すべきだ」と批判する。
◆日本の難民認定率は0.4%と極端に低い
 長期収容の原因の一つが低い日本の難民認定率だ。19年は10375人の申請者のうち、認定は44人で認定率は0.4%。ドイツの25.9%、米国の29.6%、カナダの55.7%と比べても極端に低い。
 19年のUNHCR統計によると、難民の出身国別で、ミャンマーは世界で5番目に多い110万人。国軍のクーデター以前から政情は不安定で政治迫害を受ける恐れがある難民が多いが、ミャンマー出身者の昨年の難民申請者は602人だったが、認定者はゼロだった。
 父親がミャンマー反政府武装組織の将校で、家族も迫害を受け14年前に来日したカチン族のラパイさん(仮名)は、2度の申請が却下され3度目の申請中。「命が危ないから申請している。私たちは人間。命の心配をせずに暮らしたいだけ」と訴える。
 クルド人の男子大学生ハルさん(仮名)も10歳の時に母と来日、現在4回目の難民申請中だ。「高校入学後、入管職員から『あなたは日本で学校行っても就職できない。時間と金の無駄だから帰って』。良い成績を入管に見せると『頑張っても意味ない』と言われ、ショック受けた」と話す。
 入管の規定ではクルド人は他県に移動したり働くのも駄目で、人権が保障されていない。日本の大学で学び日本で働きたい。日本社会と世界のために貢献したい」と訴えた。
◆「人権保護の観点で国際的な基準に満たず」 国連批判にも向き合わず
 国連人権理事会の特別報告者は3月末、法案について「人権保護の観点から国際的な基準を複数の点で満たしてない」と批判したが上川陽子法相は「一方的に見解を公表されたことに抗議せざるを得ない」と反論、国際的な批判に向き合う気配はない
 日本が加盟する難民条約では「保護求めた国へ不法入国したことや不法にいることを理由に罰してはいけない」と定めるが、改正案は難民条約にも矛盾する
 19年末で日本にいる外国人は293万人。安倍前政権は、労働力を求める財界の要望を背景に入管難民法を改正し、5年で最大34万人の外国人労働者の受け入れを認め、実質的な「移民政策」が進む。一方、死者が出ても入管の収容状況は改善されず、国際社会に批判されても難民認定制度を見直す動きは皆無だ。


スリランカ人女性死亡 入管報告と病院カルテ、内容に食い違い
                             毎日新聞 2021/5/12
 名古屋出入国在留管理局(名古屋市)に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が3月6日に死亡した問題で、毎日新聞は2月5日に外部病院で受けた胃の内視鏡(胃カメラ)の診療記録を関係者から入手した。診療記録には、(薬を)内服できないのであれば点滴、入院」と指示が書かれていた。しかし、法務省・出入国在留管理庁が作成した中間報告には、「医師から点滴や入院の指示がなされたこともなかった」と反対の内容が書かれている。医師が書いた記録と入管の報告が食い違う事態になった。【和田浩明、上東麻子/デジタル報道センター】
 毎日新聞が入手したのはウィシュマさんが亡くなる1カ月前に、外部病院で受けた胃カメラの画像を含む検査報告書、診療情報。
 中間報告書(4月9日公表)によると、ウィシュマさんは2020年8月に名古屋入管の収容施設に収容された。今年1月中旬から嘔吐(おうと)や食欲不振、体重減少、体のしびれなどを訴え始めた。入管側は「容態観察」のため監視カメラ付きの単独室に移した。1月下旬からは1日に何度も嘔吐を繰り返していた。2月4日には収容施設内の内科医が診察し、外部病院での診察を指示した。入所後4カ月で体重が12キロ減った。
 2月5日、ウィシュマさんは名古屋市内の病院で消化器内科を受診し、食道、胃、十二指腸の内視鏡検査を受けた。毎日新聞が入手したのはこの時の診療記録だ。この記録には、「これだけ嘔吐があれば出血ある。GERD(胃食道逆流症)であろう」として薬剤名を挙げ「内服できないのであれば点滴、入院(入院は状況的に無理でしょう)」と記されている
 内視鏡の検査では、胃に部分的にただれが目立つが、食道や腸に異常はないとの診断だった。また、「脳のしびれとか続くのであれば神経内科など」と別の科の受診を勧めていた。
 支援者の記録にも、点滴について医師から提案があったと記されている。
 ウィシュマさんと頻繁に面会を続けてきた名古屋市の支援団体START(外国人労働者・難民と共に歩む会)の同じ日の面会記録には、入管の処遇部門の職員から聞き取った話として、「点滴を打つことについて話があった」との記述がある。


子宮筋腫の悪化でも出られず、手首を…入管法改正の問題点、収容された女性が訴え
                         東京新聞 2021年5月12日
 外国人の収容や送還のルールを見直す入管難民法の改正を巡り、入国管理局に収容中に体調が悪化した経験のあるネパール人女性バビタさん(35)らが12日、東京都内で記者会見し、入管の医療対応などの問題を指摘した。バビタさんは「法改正が進めば、私たちはさらに厳しくなる。人間として扱ってほしい」と訴えた。(望月衣塑子)
 バビタさんは難民申請中で、「入管収容施設面会ボランティアの会」主催の会見に参加した。2018年6月から2年10カ月間、品川入国管理局などに収容。18年3月に難民申請したが拒否され、昨年5月に2回目の申請を行い、在留特別許可を求める裁判も起こした。
 収容中に貧血が悪化し、昨年10月、外部の病院で検査すると、2年前の子宮筋腫が大きくなり悪化していることが分かったが、仮放免許可は出なかった。体重が激減してリストカットなど自傷行為を繰り返し、1月には柔軟剤を飲み自殺を図った。病院に運ばれ、回復して戻ると懲罰房に入れられた。支援者が署名活動を続け、4月にようやく仮放免許可が出た。
 仮放免後に病院を受診すると、入管で処方されていたのとは全く別の薬を処方されたという。現在は少しずつ回復し、手術も含めた治療を検討している。
 バビタさんは会見で「施設内の病院でどんな症状を訴えても、全部『ストレスだ』と同じ薬しか出されなかった。外部の病院に行けても職員が全部説明し、私が伝えたいことは全然言えなかった」と入管への不信感を口にした。「人の命は、元気そうに見えても収容されると心も体も弱くなる。新しい法律では私はもっと厳しくなる。どうか人間として扱ってほしい」と訴えた。
 支援団体メンバーの織田朝日さん(48)は「腹の痛みを訴えても精神安定剤を大量に与えるなど、入管の医療や職員の対応は問題だらけだ。政府は法改正の前に、入管の現実を直視し、その改善に目を向けるべきだ」と話した。


入管法「改悪」 日本は難民を「犯罪者」に仕立て上げるか
          <寄稿> 安田浩一さん
                          東京新聞 2021年5月12日
 2014年3月、寒風が吹きこむパブの中庭で、志を同じくする者たちが“誓い”を立てた。ロンドン郊外のハマースミス地区。英国の入国管理事情を視察に来た日本の弁護士グループは、寒さに身をすぼめながらグラスを突き合わせた。
 基本的人権を無視した日本の入管制度に、弁護士として真っ向から戦いを挑む―。凍てつく夜の熱い決意は「ハマースミスの誓い」と名付けられた。その場でつくられた誓約書にサインした10名の弁護士は、日本と大きく違う英国の入管行政に衝撃を受けていた。収容施設で、被収容者は自由に動き回っていた。ジムや図書室も完備され、インターネットの利用も可能だ。権限と独立性を持つ視察委員会が、施設の運営状況に問題がないか、厳しいチェックを繰り返してもいる
 「そこには日本の収容施設では目にすることのできない人権が生きていた」
 “誓い”の音頭を取った児玉晃一弁護士はそう振り返る。日本の収容施設では、人権は施設の門前で立ち止まる。刑務所と見まがうばかりの閉鎖性、上限の定めがない無期限収容が特徴だ。だからこそこれまで、国連の恣意的拘禁作業部会をはじめ、さまざまな国際機関が日本の入管施設運営に懸念を寄せてきた。
 今年3月、名古屋入管の収容施設に収容されていたスリランカ人女性ラスナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリさん(33)が亡くなった。面会を重ねた支援者によれば、彼女は年初から体調を崩し、誰の目にも衰弱は明らかだった。入管側に何度も外部の病院に移すよう求めたが、認められることはなかった
 ウィシュマさんの死亡後、実は病状が即入院すべきレベルで、一時的に収容を解く「仮放免」を医師が勧めていたことも明らかとなった。だが、入管は自らの責任を一切認めていない。それどころか収容中の監視映像を求める遺族の切実な訴えも、保安上問題があるとして拒否している
 収容施設での死亡事例は後を絶たない。過去15年間で、少なくとも17人の外国人の死亡が報告されている。長期収容が横行し、医療も精神的ケアも不十分。問題の根源が収容者に対する入管の人権軽視政策にあることは明らかだ。
 政府はこうした実態を放置したまま、さらに入管の権限を拡大させるだけの入管難民法改正案を今国会で成立させようと躍起になっている。改正案は難民申請の回数に制限を加え、国外退去に従わない者には刑事罰の適用も検討されている。祖国に帰れないやむを得ない事情がある外国人を、保護するどころか、法の運用で「犯罪者」に仕立てあげるものだ。
 法学者の大沼保昭が著した『単一民族社会の神話を超えて』によると、戦前の入管は内務省の管轄で、実務の担い手は特高警察だった。戦後の一時期も旧特高出身者に引き継がれ、朝鮮人などの監視を主業務としたという。入管の隠蔽体質や強権的な姿勢は、こうした出自が影響しているのでは、と疑わざるを得ない。
 前出の児玉弁護士は、いま、入管法「改悪」反対運動の先頭に立つ。「改めるべきは、在留資格を持たない外国人を問答無用で収容施設に追いやることのできる“全件収容主義”だ」と語気を強める。
 外国人政策は、国の人権意識を測る試薬だ。日本で生きたいと願う人々を守るのか、追い出すのか。難民認定率が1%にも満たないこの国で、問われているのはそこだ。命の問題だ。国際人権法に照らしても、これ以上の後退は絶対に許されない。 (やすだ・こういち=ノンフィクションライター)