共同通信の編集委員兼論説委員の佐藤大介氏が日刊ゲンダイに、【日本マネーが支える韓国「統一教」に迫る】を12回にわたって連載しました(12月20日号~1月8日号)。
これまで全12編を4編ずつに分けて紹介してきました。今回が最終回です。
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【日本マネーが支える韓国「統一教」に迫る】#9
韓国の「世界日報」社員の大半は教団とは無関係 朴槿恵政権の不祥事をスクープする実力
日刊ゲンダイ 2023/01/05
数々の企業を傘下に有している韓国の「統一教」だが、メディア業界にも進出している。
1989年に創刊した日刊紙「世界日報」だ。日本にも旧統一教会系の新聞「世界日報」があるが、こちらは1975年に創刊され、韓国の世界日報より歴史は古い。2つの「世界日報」は姉妹関係にある会社だが、そのスタンスや社会からの見方は異なる。
最も特徴的なのは、日本の世界日報が旧統一教会への批判を「宗教弾圧」と記すなど教団色を前面に出しているのに対し、韓国の紙面にはそうしたトーンは見られないということ。韓国の世界日報のホームページで「企業理念」の項目をクリックすると教祖の文鮮明氏と妻の韓鶴子氏の写真が出てくるものの、紙面上はほかの一般紙と大差はない。
ソウルの本社に勤務する世界日報の韓国人記者は「社内で(統一教の)信者は記者上がりの社長くらいで、自分も含めて大半は教団と無関係だ」と話し、編集部内で統一教が話題になることは「ほとんどない」と言う。
韓国では世界日報は、朝鮮日報や東亜日報などの有力紙と同じく大統領府や各省庁に記者を常駐させ、東京や北京などに特派員を送っている。朴槿恵政権下では、側近による国政介入問題をスクープするなど、特ダネも少なくない。大手メディアへの就職が難しい韓国では、中堅メディアと位置付けられている世界日報に就職し、経験を積んだうえで「より大手の新聞社に転職するケースもある」(世界日報記者)という。
韓国の世界日報に教団色が薄い背景には、社会的に影響力のあるキリスト教の団体が、統一教を敵視していることが挙げられる。
プロテスタント系の日刊紙「国民日報」も一般紙として発行されており、世界日報とは「ライバル関係」にある。韓国紙の記者は「世界日報が教団色の濃い紙面にすれば、キリスト教信者からの批判が巻き起こり、一般紙として省庁などを取材することは難しくなる」と話し、企業体としてのイメージを維持するために、現在の方針をとっているのではないかとみる。
日本では、政治家が世界日報から取材を受けただけで問題視されているが、そうした感覚は韓国とは大きく異なる。韓国の世界日報記者が「最近、日系企業に取材を申し込むと、すぐに電話を切られるようになった」と嘆いていたのが印象的だった。=つづく
(共同通信編集委員兼論説委員・佐藤大介)
【日本マネーが支える韓国「統一教」に迫る】#10
「勝共」掲げた文鮮明の訪朝 旧統一教会と北朝鮮の双方の思惑は…
日刊ゲンダイ 2023/01/06
旧統一教会は、関連団体に政治組織の「国際勝共連合」を創設し、共産主義勢力への対抗心を前面に出すなど「反共」のイメージが強い。だが、1991年12月に教祖の文鮮明氏が平壌で金日成主席と会談するなど、北朝鮮と親密な関係を築いてきた。
外部からは「敵対関係」と映る旧統一教会と北朝鮮は、なぜ接近したのだろうか。
文氏が北朝鮮を訪問したのは、冷戦が終結してソ連や東欧の社会主義国が崩壊してから間もない時期だ。共産主義の敗北と退潮が明らかになる中、経済をどう立て直していくか頭を抱えていた北朝鮮が目をつけたのが旧統一教会だった。
北朝鮮が「苦難の行軍」と呼ばれる経済危機に直面していた1998年、旧統一教会は北朝鮮との合弁で「平和自動車」を設立し、自動車工場も建設した。「平和自動車」は文氏が死去した2012年、経営権を北朝鮮に譲渡しているが、朝鮮労働党幹部の専用車に「平和自動車」が用いられるなど、北朝鮮内での存在感は大きかった。
旧統一教会は平壌市にある普通江ホテルやレストラン「安山館」の経営権を手にするなど、北朝鮮経済へ浸透していく。こうした蜜月ぶりと深く関係しているのが、文氏の故郷が北朝鮮の平安北道定州という事実だ。
■東京からツアー送り出し
「成功した宗教家、実業家」として文氏は故郷に錦を飾り、定州は旧統一教会にとっての「聖地」になった。東京にある関連の旅行会社を通じて「聖地巡礼」の北朝鮮ツアーが組まれ、多額の「旧統一教会マネー」が北朝鮮に落とされた。
文氏が死去した際は、朝鮮労働党の金正恩第1書記(当時)から弔電や花輪が送られ、その業績を高く評価している。祖父の代に築かれた旧統一教会との関係は、現在まで引き継がれてきた。
しかし、なぜ「勝共」の理念と北朝鮮との友好関係が両立するのだろうか。韓国の現役信者に質問すると、「勝共とは、単に共産主義に反対するのではなく、共産主義に愛で勝つという意味だ」と前置きした上で、北朝鮮を訪問した文氏の行動について、こう説明した。
「『愛することのできない者までも愛する精神』で、南北分断によって別れ別れになっている離散家族の願いをかなえ、朝鮮半島で再び同族が殺し合う事態を避けるための命がけの訪問だった」
それによって北朝鮮にもたらされた「旧統一教会マネー」の行方は、杳として知れない。 =つづく
(共同通信編集委員兼論説委員・佐藤大介)
【日本マネーが支える韓国「統一教」に迫る】#11
旧統一教会が韓国MBCの調査報道番組に猛反発 同国新聞13紙に抗議声明文も話題にならず
日刊ゲンダイ 2023/01/07
2022年9月7日、韓国の新聞13紙に「世界平和統一家庭連合 声明文」と題された全面広告が掲載された。同連合は旧統一教会の新たな名称だ。広告の扱いとはいえ、主要紙以外も含めた多数の新聞に旧統一教会の主張が載るのは、極めて異例といえる。
声明文の内容は、同年8月30日に韓国の放送局MBCが調査報道番組「PD手帳」で、安倍晋三元首相の銃撃事件と教団の関係を特集したことへの反論だった。「安倍元首相、銃撃犯、そして統一教会」と題された特集では、銃撃事件の背後にあるとされる高額献金や家庭崩壊の実態について、元信者らの証言を交えて放送された。
旧統一教会はこれに強く反発し、声明文で「真実かどうか検証されていない内容を、あたかも真実であるかのように報道することは、あってはならない」と述べ、放送の内容を全面的に否定した。放送翌日には、再三の放送中止要請にもかかわらず「悪意的な偏向放送と宗教弾圧を扇動した」として数千人の信者がソウルのMBC本社前に集まり、抗議活動を行っている。
だが、こうした動きは韓国内でほとんど報道されず、話題になることはなかった。たまたま抗議集会を目にしたという30代の韓国人男性は「信者の姿を初めて見た。統一教は名前を聞いたことがあるだけで、どんな団体なのか全く知らない」と素っ気ない。
■宗教団体が政界進出を阻止
韓国内では目立った布教活動をしていない旧統一教会だが、過去には政界進出をもくろんだ時期もあった。2003年に「天宙平和統一家庭党」という政党をつくり、2008年の総選挙に候補者を擁立したが、当選者はゼロで惨敗した。その後、政党は解散し、政界との関係は「まったく聞こえてこない」(韓国紙記者)という点で日本とは大きく異なる。
2008年の総選挙前、韓国のキリスト教系団体は旧統一教会が候補者擁立に動いていることを警戒し、対策本部を設けて「落選運動」を展開した。こうした社会の目が、旧統一教会が政治と関わることのハードルとなって立ちはだかったことは間違いない。企業体としてだけではなく、政治にも影響力を持つ組織として社会に認知されたいという焦りが、日本で保守政治家との結びつきを深めた背景として浮かび上がってくる。(つづく)
(共同通信編集委員兼論説委員・佐藤大介)
【日本マネーが支える韓国「統一教」に迫る】#12
「自民党に教団を切る覚悟はあるのか」韓国に住む日本人信者は怒りをぶちまけた
日刊ゲンダイ 2023/01/08
安倍晋三元首相の銃撃をきっかけに、旧統一教会の霊感商法や高額献金の問題がクローズアップされ、国会では昨年12月10日、被害者救済を図るための新たな法律が成立した。
新法では、献金のために借金や生活に不可欠な資産の処分で資金を調達させたり、「霊感」で不安に付け込んだりすることなどを禁止している。献金した本人ではなくても、子どもなどが本来受け取るはずだった養育費など、一定の範囲で本人に代わって取り消しや寄付金返還を求めることも可能になった。
最大の課題は、教団のマインドコントロールによって信者が献金することを、どのように規制するかだった。「法律の条文で規制すべき」という野党側と、信教の自由や財産権の問題から難色を示す与党側との意見の隔たりは大きかった。
だが、世論に後押しされる形で与野党が歩み寄り、新法の成立にこぎ着けた。内容が不十分との批判もあるが、旧統一教会にとって大きな圧力となったのは間違いない。
■交錯する不安と怒り
韓国人の元信者は「資金源だった日本からの献金が減れば、教団の運営自体が立ち行かなくなる。(教団が所有する)不動産などが売却される可能性もある」と指摘する。日本での法規制は、旧統一教会の根幹を直撃する問題なのだ。
旧統一教会への「包囲網」といった動きに、信者の抱える不満は大きい。韓国に住む日本人の男性信者は「自民党は教団と本気で手を切るつもりなのか。本当に、その覚悟はあるのか」と、怒りをぶちまけた。マスコミが教団を「ロシアのような戦争犯罪集団と同じ扱い」にしていると、怒り心頭な様子だった。
男性信者に「覚悟とはどういった意味か」と聞いてみた。自民党が教団に握られている弱みを暴露される、という意味かと思えたからだ。
その問いに、男性信者は「教団は世界各国に基盤を持っており、さまざまな人脈がある。安倍首相が、当選直後のトランプ米大統領と会談できたのも、そうした人脈のおかげだからです」とした上で、こう言い切った。「教団が自民党や日本のためにしてきたことはたくさんある。そうした協力を得ることができなくなることへの『覚悟』という意味です」
自民党や日本のために、教団が「してきたこと」とは何なのか。それを尋ねても、明確な答えはなかった。 (おわり)
(共同通信編集委員兼論説委員・佐藤大介)
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。