2023年1月6日金曜日

賃金にインフレ追わせる発想が誤り(植草一秀氏)

 岸田首相は5日の経済3団体合同賀詞交歓会であいさつし、物価上昇に賃上げが追いつかないとスタグフレーションの可能性があるとして、「ぜひインフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」と強調したということです。

 岸田氏は5%程度の賃上げを考えた筈ですが、これまで労働者に分配せずに莫大な内部留保をしてきた財界に対してあまりにも単純素朴な要求で、一体、国のトップとして何か意味のある発言をしたのだろうかと、頭が混乱する思いです。
 経済学者の植草一秀氏が「賃金にインフレ追わせる発想が誤り」という記事を出しました。
 植草氏は多年、政府・財界の「インフレ誘導」の目的は実質賃金を下げることにあり、労働者のための政策ではなく、デフレは実質賃金を上昇させインフレは実質賃金を下落させると説いてきた人です
 それが外部要因もあってインフレが進行する中で、岸田首相が「インフレ以上の賃上げを求める」と唱えても、「日本全体でこんなことが実現する可能性はゼロである」と述べています。「岸田経済政策は基本ができていない」とも、
 この際正論に接して、頭の混乱を修正する必要がありそうです。
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賃金にインフレ追わせる発想が誤り
                植草一秀の「知られざる真実」 2023年1月 5日
日本経済の停滞が続いている。世界でもっとも成長できない国。それが日本だ。
ドル表示の名目GDP。
1995年の水準を100としたときに2020年にどの水準に変化したか。
米国は273。中国は2034。これに対して日本は91である。
日本経済は25年かけて縮小した。中国経済の規模は同じ期間に20倍に拡大した。

2012年12月に発足した第2次安倍内閣。安倍晋三氏は「アベノミクス」を掲げた。
「アベノミクス」によって日本経済の成長を実現すると豪語した。
しかし、無残な結果に終わった。
2013年第1四半期から2022年第3四半期までの実質GDP成長率(前期比年率)単純平均値は08%
「暗がり経済」だった2009年第4四半期から2012年第4四半期の民主党政権下の実質GDP成長率単純平均値16%の半分にとどまった

企業収益だけは増えた。
法人企業当期純利益は2012年から2017年までの5年間に23倍の水準に膨張した。
経済が超停滞を続けるなかで法人企業の利益だけが倍増した。
このことは、労働者の分配所得が激減したことを意味する。

安倍首相は「雇用が増えた」ことをアベノミクスの成果だと主張したが、そうとは言えない。
働く人数が増えただけのこと。
労働者全体の分配所得が減少したから、労働者一人当たりの賃金所得は激減してしまったのだ。
労働者一人当たりの実質賃金指数は1996年から2020年までの期間に142%も激減した。
第2次安倍内閣発足後の2012年から2020年までの8年間だけでも56%も減少した。
日本は世界最悪の賃金減少国になった。

「アベノミクス」では「インフレ誘導」が公約として掲げられた。
この公約が実現しなかったことは不幸中の幸い。
そもそも「インフレ誘導政策」が正しくない。
「インフレ誘導政策」の正体を知っておくべきだ。
「インフレ誘導」が何を目的に唱えられたのかを知る必要がある。

「インフレ誘導」の目的は実質賃金を下げることにあった。
名目賃金を引下げるのは難しい。
冷戦が終焉し、世界の大競争が激化した。
先進国が新興国との競争で生き延びるには賃金コストの削減が必要不可欠になった。
名目賃金を引下げることは難しいからインフレ誘導が求められた。
インフレが実現すれば名目賃金を据え置くだけでインフレ分だけ実質賃金が下がる。
このプロセスで実質賃金を引下げるためにインフレ誘導が求められたのだ。
したがって、そもそも「インフレ誘導政策」は労働者のための政策ではなかった
企業利益を拡大させるための政策だったのだ。

実際に過去20年間に実質賃金が小幅増えた年があるが、そのすべては、物価が下落した年である。
デフレは実質賃金を上昇させる。インフレは実質賃金を下落させる。
インフレが進行して、岸田首相が「インフレ以上の賃上げを求める」と唱えているが、日本全体でこんなことが実現する可能性はゼロである。
そもそもインフレ誘導政策が誤りであったことを認めるところから始めなければ、正しい経済政策運営はできない。
岸田経済政策は基本ができていないのだ。

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