2023年1月10日火曜日

10- 連載【日本マネーが支える韓国「統一教」に迫る】#1~#4

 共同通信の編集委員兼論説委員の佐藤大介氏が日刊ゲンダイに、【日本マネーが支える韓国「統一教」に迫る】を12回にわたって連載しました。連載開始が12月20日号で、終了したのが1月8日号でした。

 韓国における統一教会(韓国では「統一教」という)の創設当時から現在に至るまでの経過を日本との関係から辿っています。
 全12編を4編ずつ3回に分けて紹介します。#1と#2は既に紹介済みなのですが、全部まとめた方が分かりやすいので1回目に含めました。
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     (12月22日)旧統一教会が日本での布教に活路を見出した経緯/
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【日本マネーが支える韓国「統一教」に迫る】#1
竹島から約90kmの僻地「鬱陵島」に5人暮らす日本人女性信者の暮らしぶり
                          日刊ゲンダイ 2022/12/20
 大手製鉄会社「ポスコ」の本社がある韓国南東部・浦項から、フェリーで約3時間。日本海に浮かぶ人口約1万人の鬱陵島を訪れたのは、2008年9月のことだ。
 島から東南に約90キロ離れた場所には、韓国が実効支配し、日本が領有権を主張する竹島(韓国名・独島)がある。日韓対立の象徴となってきた竹島に程近い鬱陵島の人たちは、日韓関係についてどう考えているのか。島の住民や訪れる人に話を聞くのが目的だった。
 鬱陵島は、韓国語で「ウルルンド」と発音する。どこか明るい響きだが、平地が少なく海岸は絶壁が続き、厳しい自然環境にさらされている島で、漢字のイメージがよく似合う。嵐に見舞われる日が多く、海がしければ本土と結ぶ唯一のルートである船は欠航し、島から出ることはできなくなる。
 この時も悪天候で帰りの船が欠航となり、昼食をとるために近くの食堂に入った。食事を終えてお茶を飲んでいた時のことだ。「日本の方ですか」と日本語で話しかけられ、顔を向けると40歳くらいの店員の女性が立っていた。
 サンダル履きにエプロンという質素ないでたちで、頬は赤みがかっている。現地の韓国人だと思い込み、韓国語で「はい、日本人です」と答えると、やはり日本語で「私も日本人です」と返してきた。10年ほど前から韓国人の夫と鬱陵島で暮らし、家計のために食堂で働いているという。
 ここに日本人が暮らしているとは思わず、話を聞くと、島には自分を含めて5人の日本人女性が住んでいると教えてくれた。いずれも韓国人の夫がいて、食堂や漁港で働いているという。
 漁業や農業が中心の島に、なぜ日本から来たのか。その理由を尋ねると、女性は笑顔で「私、統一教会の信者なんです。合同結婚式で相手が島の男性だったので、ここに来ました5人とも、みんなそうですよ」と答えた。旧統一教会は本拠地の韓国では統一教と呼ばれる。
 韓国内でも「僻地」である島に渡るとなった時は、大きな不安があったことだろう。女性は「選んでいただいた相手ですから」と言葉を濁したが、表情や雰囲気には日々の苦労がにじみ出ていた。
 合同結婚式によって、韓国の各地で暮らす日本人女性の存在を知って衝撃を覚えてから14年。安倍晋三元首相の銃撃を機に、旧統一教会の問題が再びクローズアップされている。関連のニュースに触れるたびに、絶海の孤島に暮らしていた女性の姿を思い出す。彼女たちは果たして今も、鬱陵島で暮らしているのだろうか。=つづく
                     (共同通信編集委員兼論説委員・佐藤大介)

【日本マネーが支える韓国「統一教」に迫る】#2
韓国では「キリスト教の異端」扱い 旧統一教会が日本での布教に活路を見出した経緯
                          日刊ゲンダイ 2022/12/21
 旧統一教会は、教祖である故・文鮮明氏が1954年、韓国で創設した宗教団体だ。日本では2015年、「世界基督教統一神霊協会」(統一教会)から「世界平和統一家庭連合」へ名称変更が認証された。だが、日本では霊感商法で高価なつぼや印鑑を買わされたなどとする被害の訴えが相次ぎ、社会問題化したことから「統一教会」という名称が現在まで広く知られてきた。韓国では「統一教」と呼ばれている。
 旧統一教会は、韓国でどれくらいの規模を有しているのだろうか。2016年2月、有力紙の中央日報が「統一教 改革と和合の“希望の4年”」と題した、教団幹部へのインタビュー記事を掲載した。2世信者として初めて教団の韓国会長に就任したというユ・ギョンソク氏は「(信者数が)2020年までに、世界で1000万人を目指している」とぶち上げている。
 現在の信者数について問われると、ユ氏は「世界的に300万人程度で、韓国では約30万人」と答えている。一方で、日本の信者数は公称約60万人と、その規模は倍だ。韓国内では目立った布教活動は行っておらず、実際には韓国での信者数は2万人程度との見方もある。この差はどこから生まれてきたものなのだろうか。
  
■キリスト教信者が3割を占める韓国
 旧統一教会は、韓国でキリスト教系の新宗教として創設された。教団内で文氏は「真のお父さま」と呼ばれ、絶対的な影響力を持っていた。妻で現総裁の韓鶴子氏は「真のお母さま」という位置づけになっている。
 だが、それは教団という限られた世界のみで通用する話だ。韓国は人口の約2割がプロテスタントの信者で、カトリックも加えるとキリスト教の信者が3割ほどを占める。仏教は2割程度で、キリスト教が社会に与える影響は大きい。そうした中で、新宗教として登場した旧統一教会が「キリスト教の異端」とみられるのは当然のことだろう。
 文氏を教祖としてあがめる教義を持つ旧統一教会と、既存のキリスト教は路線が大きく異なる。旧統一教会はキリスト教団体の批判にさらされ、布教活動を行うのは困難だった。
 こうした中、旧統一教会は新たな活路を見いだす。それが日本での布教だった。=つづく
                    (共同通信編集委員兼論説委員・佐藤大介)

【日本マネーが支える韓国「統一教」に迫る】#3
60年代後半に日本での足場を固めた旧統一教会は“KCIA日本支部”のような役割を果たしていた
                          日刊ゲンダイ 2022/12/22
 1954年に韓国で創設された旧統一教会は、50年代後半から日本での布教活動を始め、64年7月には日本で宗教法人として認証された。日本の初代会長に就いたのは、立正佼成会の会長秘書をしていた久保木修己氏だった。
 同じ年の11月、教団は東京都渋谷区に本部教会を移転する。その場所は、4年前に首相を引退した岸信介氏の自宅の隣で、首相公邸として用いられた建物を利用していたという。
 韓国で「キリスト教の異端」とされた旧統一教会は、個人崇拝的な教義から厳しい批判を浴び、韓国内での布教は困難な状況に陥っていた。だが、伝統的な家族観を重視するなど保守的な色彩の濃い教義は、東西冷戦下で共産主義陣営と対峙する日本や韓国の政府にとっては好都合でもあった。そのキーワードとなったのが、共産主義に打ち勝つという意味の「勝共」だった。
 68年には教団の「友好団体」として、政治組織の「国際勝共連合」が韓国と日本で発足した。日本で名誉会長の職に就いたのは、右翼活動家として知られた笹川良一氏だ。笹川氏と岸氏は、いずれも戦後にA級戦犯として巣鴨プリズンに収監された「刑務所仲間」でもある。
 日韓をまたいだ反共団体をテコに、岸氏といった有力政治家の後ろ盾も得て、旧統一教会は日本での足場を固めていく。岸氏らの大物保守政治家は、韓国の朴正熙政権とも深いつながりがあった。韓国人の元信者は「当時の教団は、KCIA(韓国中央情報部)の日本支部といった役割を果たしていた」と指摘する。
 教団創設者の故・文鮮明氏が来日した際は、岸氏をはじめ自民党の重鎮と面会している。教団は勝共連合を通じて自民党と深い関係を持ち、選挙の際は投票依頼や事務作業をこなすスタッフとして動き回った。70年代以降に、教団の「霊感商法」が社会問題になっても、こうした関係が変わることはなかった。
 共産主義勢力との対抗という名目で、教団は自民党とのつながりを強める一方、霊感商法や献金によって、日本で多額の資金を集めるようになる。バブル景気に向かう日本は、教団にとっての「資金源」となっていった。=つづく
                    (共同通信編集委員兼論説委員・佐藤大介)

【日本マネーが支える韓国「統一教」に迫る】#4
「サタンの国」日本の経済的支援は当然だ 金浦空港で現金入りカバンを受け渡し
                          日刊ゲンダイ 2022/12/23
 1970年代から日本では旧統一教会の「霊感商法」や高額献金が社会問題となったが、教団発祥の地である韓国で、そうした問題はほとんど聞かれない。信者に対する献金要求が緩く、霊感商法が広がりを見せることもなかったためだ。この「落差」はどこから来るのだろうか。
 教団に20年以上在籍していたという50歳代の韓国人元信者は「日本は植民地支配を行った『エバ国家』であり、韓国を助けるために日本の人たちが財産を提供するのは当然だと思っていた」と話す。
「エバ国家」の「エバ」とは、旧約聖書に出てくるアダムとエバ(イブ)の物語に由来する。「禁断の木の実」を最初に食べたエバには、アダムを堕落させた責任があるとするのと同じく、植民地支配によって「アダム国家」の韓国を堕落させた日本は「エバ国家」であるという理屈だ。
 教団の教義では、韓国はキリストが再臨する国であり全世界の文明の中心と解されている。その韓国を植民地とした日本は「サタンの国」とも呼ばれ、過去の贖罪のために経済的に支援をするのは当然だという理論を展開する。
 そうした考えに支配されてしまえば、財産を霊感商法や献金につぎ込むのは「正しい行動」となる。全国から集められた多額の現金は、信者たちがカバンに詰め込み、韓国に運んでいったという。別の韓国人信者は「金浦空港に到着した日本人信者から現金の入ったカバンを受け取り、本部に運ぶのが仕事の教団職員もいた」と証言する。

■アジア通貨危機で苛烈化
 1997年にアジア通貨危機が起き、韓国経済に影響が直撃した際には日本人信者に高額な献金が求められたという。現役の日本人信者は「献金額の多い人ほど偉い、という感覚が教団内であるのは事実。そうした空気は問題だと思う人もいるが、なかなか変わらない」と明かす。
 自民党と深い関係を築いた教団だが、日本を「エバ国家」として過去の責任を取らせようとする教義は、日本の保守勢力の考えとはまったく相いれないはずだ。しかし、教団はそうした考えの下、日本全国で資金を集め、そのカネは最終的に韓国の本部に吸い上げられていった。 =つづく
                     (共同通信編集委員兼論説委員・佐藤大介)