2023年1月28日土曜日

28- 千葉県市役所「生活保護担当職員」の実態 タメ口で「嘘つき」「泥棒」呼ばわり

 ご承知のように日本国憲法第25条には
 「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
 2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増
  進に努めなければならない。
と国の「義務」が謳われています。生活保護制度はこの精神を具体化したもので、生活困窮者がそれを受けるのは国民の「権利」とされています。
 これは自由主義・資本主義社会では構造的に勝者と敗者(とその中間層)が生れるもので、決して怠慢の故に敗者になるのではないという考えに基づいています。
 ところが日本ではこの生活保護を受けることを潔しとしないムードが、政府与党の主導で醸成されてきました。小泉・竹中政権時には、地方自治体の生活保護担当部署が「水際対策」と称して、『生活程申請を極力受け付けない』ようにすることを厚労省によって指導されました。いまでは申請時には近親者から生活援助を断られたことの証明まで要求されるという有様です。
 その結果、日本においては有資格者の生活保護受給率は諸外国に比べて著しく低く抑えられています。理不尽に受付を断られた結果、餓死に追い込まれた人たちもいます。
 東洋経済オンラインに「千葉県の市役所「生活保護担当職員」の呆れた実態 衆人環視でのタメ口に『嘘つき』『「泥棒』呼ばわり」という、まさに呆れるしかない記事が載りました。地方自治体の受付の部署がすべてこうだなどとは思いませんが、この市役所が「例外」という風にも思えません。むしろ概してそうなのではないかと思わされます。
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千葉県の市役所「生活保護担当職員」の呆れた実態 衆人環視でのタメ口に「嘘つき」「泥棒」呼ばわり
                  藤田 和恵 東洋経済オンライン 2023/01/27
現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。
昨年7月。KDDIによる大規模な通信障害が発生した最中の出来事だ。auユーザーのタケアキさん(仮名、46歳)は携帯の着信履歴に気がつくとすぐに折り返した。相手は当時利用していた生活保護の担当ケースワーカー。電話がつながると、強い口調でこう言われた。
「何度も電話してるのになんで出ないんですか。(タケアキさんが)保護費だけもらって逃げたと市役所で噂になってますよ。それって泥棒ですよね!」
泥棒呼ばわりにムッとした。自ら折り返しの電話をしていることや、通信障害の影響の可能性もあることを訴えた。しかし、ケースワーカーは「うそつかないでください。逆切れしないでください」と譲らなかったという。

「失礼だと思っても強くは言い返せない」
「『税金で飯を食ってるくせに』と言わんばかりの口ぶりでした。こっちはこっちで『生活保護は恥ずかしい』という負い目があります。失礼だと思っても強くは言い返せない」
行政との出合いは最初から不穏だった。
千葉県内の小さな自治体。生活保護を申請するために訪れた市役所の窓口で、相談員と思われる年配の女性に声をかけると「何? 生活保護を受けたいの?」と返された。続いて所持金を尋ねられたので300円くらいだと答えると「そんなになるまで何やってたの?」とまたしてもタメ口。この日は事前に相談していたNPO法人のスタッフに同行してもらっていた。相談員はタケアキさんとスタッフに向かってこう続けた。
「なんで民間に頼る前にうちに相談に来なかったの? お宅らはどういう関係? もしかしてこの子を(市役所に)紹介すると、国からお金をもらえるとか、そんな感じ?」
「この子」呼ばわりや「国からお金」うんぬんの話に驚くと同時に、タケアキさんには相談員の声がことのほか大きく聞こえた。「周りの人たちからの汚いモノでも見るような視線を感じました」。奥のほうに相談室と思われる個室が見えたので一刻も早くそちらに移りたかったが、その願いもむなしく、“衆人環視”の下で手続きは進んだ。

「無低」への転居を執拗に促された
中でも住まいの問題と車の利用をめぐってはなかなか折り合いがつかなかった。
当時タケアキさんが住んでいたのは家賃4万円の物件。一方、この自治体の住宅扶助の上限は3万7200円で2800円オーバーしていた。するとケースワーカーが無料低額宿泊所(無低)への転居を勧めてきたのだ。
私が取材する限り、数千円程度の超過であれば、生活費からのやりくりを認めるといった対応が一般的だ。そのほうが仕事も探しやすく、自立にもつながりやすい。無低の中には劣悪な環境にもかかわらず、生活保護費のほとんどを巻き上げる悪質施設も少なくない。わざわざそんなところに引っ越しをさせる意図は何なのか。そもそも生活保護法にはアパートなど居宅での保護の原則がある。
施設には入りたくないというタケアキさんに対して、執拗に転居を促すケースワーカー。見かねた同行スタッフが「施設の強要は違法ですよね」と口をはさむと、ムッとしながらもようやく引き下がったという。
一方で車の利用についてはケースワーカーは「認められない」の一点張りだった。たしかに生活保護の利用中は車の所持は原則NGだ。ただ通院・通勤に必要な場合など例外的に認められることもある。
タケアキさんは車は持っていなかったが、知り合いでもある大家の車を借りていた。通院と仕事探しに必要だったからだ。自宅から最寄り駅までは歩いて1時間近くかかる。車なしの生活は難しい。しかし、ケースワーカーがこうしたタケアキさん側の事情に耳を傾けることはなく、ただ「今日から絶対に乗ったらダメですよ」と言い渡された。
さらにストレスだったのは、こうしたやり取りをケースワーカー以外の職員たちにも見られたことだという。タケアキさんは「3、4人の職員がケースワーカーの後ろでポケットに手を突っ込んだり、腕組みをしたりしながら机の上の書類や僕のことをのぞいていました」と振り返る。
タケアキさんが生活保護を利用するのは初めて。申請の前日は緊張のあまり一睡もできなかった。市役所に行く途中、嘔吐もしたという。生活保護利用者に対する社会の偏見や理不尽なバッシングを思えば、こうした“反応”もやむをえまい。
「精神的に弱っていて、窓口に行くだけでかなりエネルギーが必要でした。それなのにプライベートな話を聞かれているところを、ほかの市民や職員にもさらされて。(相談員のタメ口は)小バカにされていると感じました。同行者がいなければどうなっていたか……」

「派遣」しか仕事がなかった
タケアキさんは沖縄出身。5年ほど前、知人から仕事を紹介するからと声をかけられ、千葉に移り住んだ。故郷での生活に大きな不満はなかったが、もう少しだけ豊かな暮らしをしたいという夢を抱いたのだという。フォークリフトや大型トラックの運転免許なども持っており、いざとなれば何とかなるという自信もあった。しかし、いつまでたってもまともな仕事を紹介されることはなかった。たまに建物の解体作業に駆り出されてもただ働き同然。数年前に知人との縁を切った後は複数の派遣会社に登録して仕事を探した。
「本当は派遣じゃなくて普通に就職したかったですよ。でも、ネットで『フォークマン』『仕事』で検索しても、派遣しかないんです」
しかし、40社、50社と連絡をしても、求人情報どおりの仕事が得られることはまずなかった。面接に行くと「その仕事はもう埋まってしまいました」と言われるのだという。結局紹介されるのはより待遇の悪いものばかり。
1年余り勤めた会社もあったが、住民税を滞納していた沖縄の自治体から会社あてに給与差し押さえの連絡があったことで退職を余儀なくされた。上司から同僚らの面前で「お前、沖縄で何かやらかしたのか」と問い詰められたのだ。タケアキさんによると、自治体の担当者とは、生活に余裕がないので納付期限について相談をしていた最中のことだった。
「担当者と音信不通になったわけでもないのに。どうして行政は僕の足を引っ張るようなことをするのか……」
次第に生活は厳しくなり、2日で豆腐1丁しか食べられないこともあった。「お金がなかったのもありますが、食欲そのものがなかった」とタケアキさん。沖縄に戻ることも考えたものの、すでに生活の拠点はない。家族との関係も良好とはいえなかった。「死にたい。でも、死ぬのは怖いし、痛いだろうな」と思い詰めるようになったころ、職業紹介の会社の面接担当者が「まずは生活を立て直して」と紹介してくれたのが、生活困窮者の支援活動している東京のNPO法人だったという。

行政への不信感が募る出来事
生活保護に話を戻すと、このNPO法人のスタッフ同行の下、何とか申請はできたものの、その後も行政への不信感が募る出来事は続いた。
まず利用が決まるまでの1カ月の間に支給されたのはたったの1万円と、菓子パンと乾麺、缶詰数個だけ。これでは餓死してしまうと、最低限の食料を差し入れたのは、またしてNPO法人だった。
この間、タケアキさんの自宅を訪れたケースワーカーがやったことといえば、大家の車の外観や内部を撮影すること。「車を運転したらわかりますからね」と言って帰っていったので、走行距離メーターを監視しているという意味なのだろう。
また、行政側のミスで保護費が多く払われたことがあったが、このときは3万円ほどを一括で返還させられた。保護費の支給額は文字どおり最低限の生活ができる水準である。過払いがあった場合、通常は分割での返還とする。「財布の中に小銭しか残らなかった」というタケアキさんはさすがに「(次の支給日まで)これで生きろっていうんですか」と訴えた。これに対してケースワーカーはこう返したという。
「(返還は)義務ですから。(タケアキさんは)税金とかをちゃんと払える人になりたいって言ってましたよね。これも立派な支払いです。気持ちのいいことじゃないですか」
電話でのやりとりで待ちぼうけを食わされたこともある。ケースワーカーからハローワーク経由の仕事があると連絡があったので、ぜひ紹介してほしいと答えたところ、通話はいったん保留に。小一時間待っても応答がないことから、いったん切ってかけなおすと、ケースワーカーはすでに退庁したと告げられた。
結局、タケアキさんがこの自治体で生活保護を利用したのは半年足らず。NPO法人の支援もあり、現在は契約社員として働いている。ダメ押しのエピソードを紹介すると、ケースワーカーとの最後の面談では「今後、NPO法人から『面倒見たんだから、給料からいくらか払え』などと言わるようなことがあったら、すぐに私たちに教えてくださいね」と言われたという。

専門知識や経験が不足している
まともなNPO法人が給料のピンハネなどするわけがない。生活困窮者支援に取り組む民間組織に対するこの手の偏見は、最近とみに目に余る。いったい何を根拠にしているのか、つくづく謎だ。
私は、ケースワーカーの過重労働が常態化していることも、意思を持ったケースワーカーがいることも知っている。一方で専門知識や経験が不足しているケースワーカーが少なくないのも事実だ。何より問題なのは、一部のケースワーカー自身に生活保護利用者への偏見があることなのではないか。
タケアキさんに話を聞いた後、実際に千葉県内の市役所に運んでみた。職員に、一般に配布している生活保護のしおりはあるかと尋ねると、「申請者ご本人ですか?」という質問に始まり、申請者は知人か家族か? 住まいは? 収入は? と矢継ぎ早に聞かれた。
私が「一般向けの配布物がないなら結構です」と言うと、「そういうわけではないのですが……」と担当者。すったもんだの揚げ句ようやく別室からしおりを持ってきてくれた。その表紙には「生活保護の申請は国民の権利です」との記載があった。多くの質問に答えなければアクセスできない権利とは──。残念ながらいまだ“水際”のハードルは高い。

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