同志社大学の浜矩子教授が「きな臭さと狂気で澱んだ新年 感性なき政権による軍拡をスルーしてはいけない」とする記事を特別寄稿しました。
防衛3文書の中身には震撼したとして、「これほどの方針転換を閣議決定だけでやってしまうとは、一体どういう政府なのか」と呆れ、「協調による平和維持からどんどん遠ざかっている」として、「環境が変化していればしているほど、やはり日本は『平和憲法を順守し、その姿勢を貫く』と声を大にして言って欲しい」と述べています。
岸田首相はほんのいっときだけ、「聞く力がある」とかと評された瞬間もありましたが、いまや都合の悪い正論は全く耳に入らない人間であることが暴露されました。
併せて、不動産アナリストの長谷川高氏の特別寄稿「物価上昇、金利上昇、不景気到来…2023年には3つを覚悟し『備える』必要がある」を紹介します。
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特別寄稿(浜矩子教授)
きな臭さと狂気で澱んだ新年 感性なき政権による軍拡をスルーしてはいけない
浜矩子 日刊ゲンダイ 2023/01/08
2023年。新年になったというのに爽やかさはありません。ロシアのウクライナ侵攻、繰り返される北朝鮮のミサイル発射、そして中国と、いずれも昨年末に閣議決定された防衛3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)に記された通りではあるのですが、それにかこつけて日本も軍備を増強する。各国が「我が為、我が為」のご都合主義に突き進み、協調による平和維持からどんどん遠ざかっている。きな臭さと狂気が、新年の空気を澱ませています。
防衛3文書の中身には震撼しました。岸田首相は「非核三原則や専守防衛は崩さない」と言ってはいますが、文書からは軍拡へ舵を切ったことが染み出てきている。安全保障政策の大転換だと言い切ったことにも怖さを覚えました。これほどの方針転換を閣議決定だけでやってしまうとは、一体どういう政府なのか。
敵基地攻撃能力の保有など、憲法に抵触する可能性はないのかという疑問への明確な説明もありません。「日本周辺の安全保障環境が激変した」と強調されれば、国民は納得するだろうと考えているのでしょう。しかし、環境が変化していればしているほど、やはり日本は「平和憲法を順守し、その姿勢を貫く」と声を大にして言って欲しい。
防衛費増額のための財源手当ての議論にも愕然としました。復興特別所得税の一部流用まで持ち出すとは。被災地の人たちがどう感じるか、おもんぱかる感性がまったくないのでしょう。復興税の期間を延長するので復興のための総額は変わらないからいいだろう、みたいな言い方も無神経。どうしたら人の神経を逆なでするのか、まるで分かってない人たちが政策立案していることが今回もよく見えました。
中でも一番驚いたのは防衛費増額の一部を建設国債で賄うことです。建設国債は国民にとって有益な資産として将来に残る建設的な投資に限って発行を許されるわけですが、自衛隊
宿舎や倉庫の修繕のどこが建設的なのか。さらには自衛隊の艦船まで対象にすることになった。軍拡につながる可能性のある事業に建設国債を発行するのは筋違い。これまで一応は遠慮してきたのに前例を作ってしまうと、次はアベノミクスの大将が主張していた防衛国債が現実になってしまいかねません。
今月下旬に始まる通常国会で厳しく議論して欲しいですが、「安全保障環境の激変」という理屈に対し、野党は腰が定まらない対応になってしまわないかと懸念しています。しかし、野党も国民も、この軍拡問題を決してスルーしてはいけない。
とにかく、しつこくしつこく、この問題を大きな争点にしていかねば。インフレなど生活に密接した問題も気に留めなければならないけれど、戦後日本の安保姿勢を完全に覆すものを勝手に進めていくというのですからね。毎日国会を包囲するくらいの危機感をもつべきテーマです。片時も忘れてはならないと思います。
アホダノミクス男が防衛増税について、「いまを生きる国民が自らの責任として、しっかりその重みを背負って対応すべきだ」とほざいたと批判され、その後「国民」を「我々」に訂正しましたが、むしろ「我々」などと言っておまえと一緒にするな、と言いたい。
浜矩子 同志社大学教授
1952年、東京生まれ。一橋大経済学部卒業後、三菱総研に入社し英国駐在員事務所長、主席研究員を経て、2002年から現職。「2015年日本経済景気大失速の年になる!」(東洋経済新報社、共著)、「国民なき経済成長」(角川新書)など著書多数。
特別寄稿(長谷川高 不動産アナリスト)
物価上昇、金利上昇、不景気到来…2023年には3つを覚悟し「備える」必要がある
長谷川高 日刊ゲンダイ 2023/01/09
2023年はどういった年になるのでしょうか。投資家的立場から、また不動産コンサルティングを行っている者から申しますと、今年は「経済的に要注意な年」になりそうです。
ご存じの通り現在、世界中で激しいインフレが起こっています。それを抑え込もうと日本を除く先進各国は政策金利を急激に上昇させてきました。米国では昨年12月、今年の政策金利を5%台まで上昇させると連邦準備制度理事会(FRB)が決定しています。
一方、日本は超低金利を固持している黒田日銀総裁がこの4月に退任予定です。同氏の退任後、誰が日銀総裁になろうと、日本国内のインフレがさらに高まることは避けられないと思います。
仮に、ある意味まっとうな経済政策として、わずかでも政策金利を上昇させた場合、借り入れを起こしている事業者、投資家、一般の住宅ローン利用者に激しい動揺が起こると思われます。
実は、すでに昨年から、これまで低金利での借り入れに頼って事業を拡大してきた投資家や資産家から、事業計画の見直しをしたいとの依頼が増えています。皆、近い将来の金利高を警戒しはじめています。借入金額が多い人ほど急激な金利上昇は死活問題なのです。
ところで、私は東京在住ですが、講演などの依頼で度々地方へ行きます。北は稚内から南は沖縄まで、これまで47都道府県全てを巡ってきました。日本各地で著しい少子高齢化と人口の流出が起きています。この地方の様子と東京郊外、及び東京近県の風景が極めて似てきたと感じています。
端的に言えば、大都市圏の一部を除いて、日本各地の風景は、明らかに経済的な勢いを失っています。残念な表現をすれば、元気のない寂れた風景なのです。全国各地で聞かれる声は「景気はずっと悪い」といった言葉ばかりです。これに金利上昇が加わった場合、経済的に破綻していく個人や事業者が増えていくのは明らかだと思います。
さらにもう一点、最近、鉄道の人身事故が増え、鉄道が止まることが増えてきたように感じます。不動産バブルが崩壊した1990年代初頭の大不況時にも同じことが起こりました。3年前から続くコロナ禍の影響もあり、すでに多くの方々にとって厳しい時代が始まっているのかもしれません。
今年、我々は、3つのことを覚悟し、そして「備える」必要があると考えます。覚悟の1つ目は「物価上昇」、2つ目は「金利上昇」、そして3つ目は、その結果としての「不景気の到来」です。それに備えるためには、「個人も法人も緊縮財政」「拡大的な事業計画の見直し」「資産の整理↓借り入れの圧縮」「変動金利を固定金利へ」といった「守りの体制」への転換です。備えあれば憂いなしです。
長谷川高 不動産アナリスト
長谷川不動産経済社代表。著書「家を買いたくなったら~令和版」「家を借りたくなったら」(WAVE出版)は初版から累計10万部を突破。新刊「不動産2.0」(イースト・プレス)で人口減少、供給過剰で大転換期を迎えるマーケットを制するための不動産の必須知識を伝えている。