先にアンゲラ・メルケル元独首相は独ツァイト誌のインタビューで、「ミンスク合意はウクライナの戦力を増強するための時間稼ぎに過ぎなかった」と話して驚かせましたが、今度はフランソワ・オランド元仏大統領が、やはりインタビュー記事で、「2022年のウクライナの回復力の成功は、2014年から2015年の彼自身の外交努力(ミンスク合意Ⅰ及びⅡ)に部分的に起因している」という表現で、メルケルの発言を肯定しました(「キエフ独立」紙12月28日付他)。
⇒(12月11日)ミンスク合意はウクライナ軍の戦力を強化するための時間稼ぎだったと前独首相
何のことはない、ミンスク合意に立ち会った独仏の指導者二人が揃って「実は時間稼ぎ(の欺瞞の合意)だった」と述懐したわけです。
そしてキエフ政権はその後5年余り、合意を実行する代わりに軍備を充実させて、いよいよ22年の3月からドンバス地方を総攻撃する準備が整った段階で、バイデンが盛んにプーチンを挑発し、その結果現在の悲惨な事態に立ち至ったのでした。
ミンスク合意が「時間稼ぎのため」ということは、米国をはじめキエフ政権、NATOの主要国はすべて承知であった訳です。こうした経過を知れば,ロシアが「悪の権化」で、それに対してウクライナ政権は「正義のシンボル」という評価は正しいとは思えません。「正義の戦だから引けない」「引くべきではない」という主張も疑問です。またウクライナ侵攻は「絶対悪」なのだから、「どっちもどっち」という議論はすべきではないという主張も同様です。
いまは何が「正義」であるかにこだわるのではなく、戦争を終結させることに全力を集中すべきです。
植草一秀氏が大晦日と元日の2日、ウクライナ戦争に関する記事を出しました。
併せて櫻井ジャーナルの記事:「ミンスク合意は西側がキエフ政権の戦力を増強するための時間稼ぎだと元仏大統領」を紹介します。
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戦争推進でなく終結目指せ
植草一秀の「知られざる真実」 2022年12月31日
激動の2022年が間もなく終わる。
この1年の出来事を振り返り、新年に活かすことが大切だ。
何よりも大切なことは平和と共生。
2月24日にウクライナ戦乱が勃発した。
この戦乱がいまも続いている。
この日にロシアが特別軍事作戦を始動させたが、戦乱そのものは、その前から発生していた。
2014年にウクライナ政権が転覆されて以降、ウクライナ西部で内戦が勃発していた。
この内戦を収束するために関係諸国が協議し、合意が成立した。
この合意を関係国が遵守していればウクライナ内戦は収束したはず。
ウクライナ内戦が収束していれば、今回の戦乱も発生していない。
2月24日以前にウクライナ政府は東部地域に対する軍事攻撃を激化させた。
これに呼応するかたちでロシアが軍事作戦を始動させた
ロシアがウクライナ国内に軍を進め、軍事行動を取ったことは批判されるべきだ。
しかし、それ以前にウクライナ国内で内戦が発生しており、この内戦を収束するための合意が成立したにもかかわらず、ウクライナ政府が合意を踏みにじって戦乱を誘発した点を見落とせない。
2022年のウクライナ戦乱について、日本のメディアはロシアが悪でウクライナが正義の図式で報道する。
しかし、真実とは異なる。
戦乱を誘発したウクライナと米国の責任は重大である。
日本のメディアは戦乱を可能な限り早期に収束することを模索する方向で報道しない。
ウクライナのロシアに対する攻撃を支援するスタンスで報道する。
戦乱の早期収束ではなく、ウクライナがロシアに勝利することが重要とのスタンスで報道を展開する。
これは戦争抑止でなく、戦争推進を目指すもの。
ロシアの軍事行動を批判する見解を報じるが、ウクライナの軍事行動を批判する見解を報じない。
ウクライナ国内でもウクライナの戦争に反対する市民は多数存在する。
ウクライナ市民の人権が侵害されて、ウクライナ市民の犠牲が拡大している。
戦争を推進するウクライナ政府の姿勢を批判するウクライナ市民が多数存在するが、この声をまったく伝えない。
「国際社会」という言葉が多用されるが、日本のメディアが用いる「国際社会」は、「米国の支配者」のこと。
「米国の支配者の主張」を「国際社会の主張」として報じているだけだ。
いま、何よりも求められることは戦争の終結。
ロシアが軍事行動を実行した理由がある。
ロシアが紛争の解決のために武力行使した点を除けば、非はウクライナの側にある。
2015年に制定された「ミンスク合意」はウクライナ東部2地域に対して高度の自治権を付与することにより停戦を終結することを内容とした。
合意は国連安保理で決議され、国際法の地位を獲得した。
ミンスク合意を履行しないことは国際法違反である。
ウクライナ政府はミンスク合意を踏みにじり、ロシアとの軍事対決路線を鮮明にした。
同時にロシアが嫌うNATO加盟方針を鮮明にした。
そもそも、ミンスク合意が成立したのは、東部2地域への自治権付与がウクライナのNATO加盟を不可能とする意味を有したからだった。ウクライナのNATO加盟を不可能にするミンスク合意であるからロシアが同意したのである。
ウクライナ政府はミンスク合意を踏みにじっただけでなく、ウクライナ東部のロシア語系住民に対する軍事攻撃を激化させた。
その結果としてウクライナ戦乱が誘発された。
ウクライナとその背後で糸を引いた米国の責任が重大だ。
これらの経緯を踏まえて問題解決を目指さなければ戦乱収束は実現しない。
ロシアの主張に十分に耳を傾けることが必要不可欠だ。
この問題にこそ「聞く力」が求められる。
岸田首相は米国の命令に服従するだけで、ロシアの主張を「聞く力」を一切示さない。
日本の報道は第二次大戦下の大政翼賛報道と変わらない。
ロシアを批難し、ウクライナの軍事行動を支援する行為は、戦乱収束ではなく戦乱拡大しかもたらさない。
2022年が幕を閉じようとするいま、私たちは戦争推進ではなく、戦争の一刻も早い収束のための道を模索するべきだ。
日本政府の対応、日本メディアの対応は平和を希求するものではなく、戦争を推進するものになっている。
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ウクライナ戦乱のゆくえ
植草一秀の「知られざる真実」 2023年1月 1日
癸卯(みずのとう)2023年の新しい年が明けました。
みなさまにとりまして今年一年が佳き年になりますことをお祈りいたします。
本年もよろしくお願い申し上げます。
世界で戦乱が繰り広げられるなかでの年明けとなりました。
日本は戦争の悲惨さと愚かさを誰よりもよく知る国の一つです。
現代の戦争では一般市民が戦争に巻き込まれ、多大の被害に直面することが大きな特徴になっています。
ウクライナで一般市民の犠牲が生じていることが報じられますが、日本では第二次大戦中に日本各地の大都市で大規模空襲が挙行され、さらに原爆が投下されて驚くべき数の一般市民が犠牲になりました。
一般市民に対する殺戮行為は国際法によって戦争犯罪とされますが、戦争後に戦争犯罪を問うのは戦勝国です。戦勝国の戦争犯罪は問われることがありません。
日本国民に対する殺戮行為が戦争犯罪として追及されることはありませんでした。
ウクライナにおける戦乱について、日本のメディアはウクライナを正義とし、ロシアを悪と位置付けて、ウクライナがロシアに対して軍事攻撃で勝利することを支援するスタンスを取っていますが、これが正しい姿勢だと言えるでしょうか。
ウクライナが軍事的にロシアを撃破するためには戦闘の拡大を避けることができません。
両国が総力戦に移行すれば、比例して被害が拡大することを避けることができません。
「聞く力」という言葉が使われていますが、ロシアの主張にも耳を傾ける必要があります。
ウクライナで問題が発生したのは2022年になってではありません。
1991年に独立したウクライナは独立してまだ31年しか経過していない歴史の非常に浅い国です。
ウクライナはかつてのソ連邦を構成する一つの共和国でした。
この時代の国境線には大きな意味がありませんでした。
ソ連邦の一つの地域に過ぎず、国境線は便宜的に定められていたに過ぎません。
そのウクライナは特異な特性を有していました。
西北部に居住する住民と南東部に居住する住民に大きな相違が存在しているのです。
西北部はウクライナ人、カソリック、ウクライナ語を基本属性とします。
南東部はロシア人、ロシア正教、ロシア語を基本属性とします。
この属性の相違が存在することがウクライナの大きな特徴になっています。
このことについて、元米国務長官のヘンリー・キッシンジャー氏は次のように指摘しました。
「この国で一方の地域が他の一方の地域を支配しようとすれば必ず分裂か戦争になる」
このような特性をウクライナが保持していることを踏まえることが必要です。
ウクライナでは当初、親ロシア政権が樹立されましたが、2004年と2014年に親ロシア政権が反ロシア政権に差し替えられる政変が生じています。
いずれも、米国が地下工作を展開して親ロシア政権を反ロシア政権に差し替えたものでした。
とりわけ、2014年の政変は暴力行為を伴う野蛮な政権転覆でした。
その内実を知る手がかりを与えてくれているのがオリバーストーン監督の『ウクライナ・オン・ファイヤー』というドキュメンタリー映画です。https://bit.ly/3jCZfPX
ウクライナ問題について考察する際に、この映画を視聴し、問題の背景を知ることは必須であると思います。
2013年11月21日から2014年2月22日にかけて発生したウクライナにおける市民運動は、当初は平和的活動でしたが、途上から暴力行為がエスカレートし、14年2月22日にはデモ隊とウクライナ警官が多数狙撃される暴力革命騒乱に転じました。
この暴力化を工作したのが米国および米国と連携するウクライナネオナチ勢力でした。
ウクライナの親ロシア政権は米国が画策した暴力革命によって破壊されました。
この暴力革命によって創設された新政府=非合法政府がウクライナ東部のロシア系住民に対する弾圧、人権侵害行為を断行したのです。
ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク地域のロシア系住民が抵抗して、ウクライナ東部で内戦が発生しました。
この内戦を収束するために2015年にミンスク合意が締結され、国連安保理で決議されました。東部2地域に高度の自治権を付与することにより、内戦を収束することが取り決められました。
ウクライナのゼレンスキー政権がミンスク合意を誠実に履行していればウクライナの戦乱は発生していません。
ところが、ゼレンスキー大統領はミンスク合意を一方的に破棄する行動を加速し、ロシアとの軍事対決路線を鮮明にしたのです。その延長線上でウクライナ戦乱が勃発したのです。
このような経緯を踏まえたときに、ウクライナがロシアを軍事的に撃破することを応援することが正しい対応と言えるのでしょうか。
私たちが求めるべきゴールは平和と安定です。メディアが主導するウクライナによる戦乱拡大路線に洗脳されることなく、平和と安定を確保するための方策を日本国民が提唱することが求められていると思います。
(後 略)
ミンスク合意は西側がキエフ政権の戦力を増強するための時間稼ぎだと元仏大統領
櫻井ジャーナル 2023.01.01
アンゲラ・メルケル元独首相 はツァイト誌のインタビューで、「ミンスク合意」はウクライナの戦力を増強するための時間稼ぎに過ぎなかったと口にしたが、その発言を事実だとフランソワ・オランド元仏大統領 は語っている。メルケルが首相を務めたのは2005年11月から21年12月まで、オランドが大統領を務めたのは2012年5月から17年5月まで。ふたりとも「ミンスク合意」の当事者だ。
ミンスク合意の目的は停戦の実現にあるとされていた。ドイツとフランスが調停役になり、ウクライナ、ロシア、OSCE(欧州安全保障協力機構)が起草、この3者のほかドネツクとルガンスクの代表が2014年9月、協定書に署名している。この合意をキエフのクーデター政権が守らないため、2015年2月に新たな合意、いわゆる「ミンスク2」が調印された。
結局、これも守られなかったのだが、ドイツやフランスもこの合意で戦争を集結させるつもりはなかったことをメルケルとオランドは確認したわけだ。当時からこの「合意」はクーデター体制の戦力を増強するための時間稼ぎにすぎないと言われていたが、この推測は正しかった。
このクーデターを仕掛けたのはアメリカのバラク・オバマ政権にほかならない。2013年11月にウクライナでビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒すためにクーデターを始動させ、翌年の2月に目的を達成した。その際、混乱を話し合いで解決しようとしたEUについて国務次官補だったビクトリア・ヌランドはウクライナ駐在アメリカ大使のジェオフリー・パイアットに対し、電話で「EUなんかくそくらえ」と口にしている。アメリカ政府は暴力でヤヌコビッチ政権を倒そうと決めていたのだ。オバマ政権はウクライナ征服を暴力で実現するときめていたと言える。
このクーデターに反対するドンバスの住民は立ち上がり、軍事衝突に発展する。オバマ政権を後ろ盾とするネオ・ナチのクーデター政権はドンバスの反クーデター軍を制圧する力がなく、クーデター体制の軍事力を強めるためには時間が必要だった。そのためのミンスク合意だ。
この現実をロシアのウラジミル・プーチン政権は理解したようで、新たな軍事作戦の準備を進め、近いうちに作戦を開始するはずだ。アメリカ/NATOはロシア軍の戦車部隊による攻撃を想定、応戦の準備をしているようだが、それをロシア軍はミサイル攻撃などで破壊している。
アメリカの統合参謀本部はロシアとの戦争を望んでいない。2003年のイラクへの先制攻撃以来、アメリカの戦争には大義がなく無謀だと考えているようだ。ウクライナでの戦争も同じように考えている。NATOの内部でもロシアとの戦争に反対する国が少なくないようだ。その戦争がヨーロッパを破滅させることは確実で、正常な思考の持ち主なら反対するだろう。