2023年1月20日金曜日

トマホークは敵基地攻撃には使えない(高野孟氏)

 国防費は、日本をどのようにして守るべきかの構想のもとに、兵器の種類やその量を決めて予算を立てるものですが、岸田政権は「5年後には軍事費を現行の2倍にする」ことを至上命題にしているので、5年間に43兆円という予算だけは早々に決めたものの兵器の内容は一向に明らかにされていません。

 その中で唯一 種類と数量が明らかになっているのが27年度までに米国製の巡航ミサイル「トマホーク」を500発、推計1500億円で購入するということです。ではその趣旨(それによって発揮されるべき効果)は明確なのでしょうか。
 ジャーナリストの高野孟氏が、「先制攻撃して発射を阻止する『敵基地攻撃能力(政府によれば反撃能力)』には使えない」ことを明らかにしました。これは一事が万事と見るべきでしょう。
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永田町の裏を読む
トマホークは敵基地攻撃には使えない 米国からの爆買いを岸田首相はどう説明するのか?
                      高野孟 日刊ゲンダイ 2023/01/19
 岸田文雄首相を迎えたホワイトハウスは「お祝いムード」だったと、米シンクタンクの研究員が述べている(15日付朝日新聞)。
 そりゃあそうだろう、岸田内閣はいわゆる「反撃能力」を飛躍的に向上させ北朝鮮のミサイル攻撃を抑止するため、2027年度までに米国製の巡航ミサイル「トマホーク」を一挙500発、推計1500億円で購入することを決めていて、それを今回、正式にバイデン大統領に伝えたのだ。
 現在はウクライナ戦争支援で米軍需企業は通常兵器の在庫が払底するほどの需要増に潤っているが、いずれこの戦争も終わる。その先に早くも日本の爆買いが確定するなら、軍需企業もそれに連なるバイデン以下、議会の軍事・外交族も大いに潤うことになるわけで、岸田が大歓迎されるのは当然だ。
 しかし、このトマホークはどう使うのだろうか。
 防衛担当記者に聞くと、「対地攻撃用のタイプを潜水艦や水上艦に搭載し、日本海から撃つが、時速880キロと遅いので目標まで20分かそこらかかる。高野さんが先週のコラム(本欄)で書いていたように、今のミサイルは移動式でパッと出てパッと撃ってパッと引っ込んでしまうから、先制攻撃して発射を阻止する『敵基地攻撃能力』には使えない」と言うではないか。
 だとすると、ますます何のための爆買いなのか。彼はこう言う。
 「軍事アナリストの小川和久さんが『文芸春秋』2月号に書いている『トマホークはなぜ必要か』を読むと、北朝鮮が日本や韓国に撃ってきたら、まず米韓の短距離ミサイルが逆襲し、その後を受けて重要目標をピンポイントで潰していくのが日米のトマホークの使い方だと言っている」
 えっ、では発射基地を先制攻撃するという構想は諦めたのか
 「高野さんが書いていたように、そもそもそんなことは不可能なんだから、その議論はやめようということだろう」
 とすると、第1撃が飛んでくるのは防げない? ミサイル防衛も役立たずだし。
「小川さんによれば、シェルターで被害を軽減する。そして、できもしない先制攻撃をしようとするよりも、『撃たれたら100倍返し』でいくのだと」
 それは防衛省の意見なのか?
 「小川さんの考えでしょうが、省内で出ている議論の少なくとも一部を反映しているかもしれない……」
 さて、この複雑骨折的なトマホーク導入論を岸田は通常国会で国民が納得するように説明できるのだろうか

高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。