「大学の危機をのりこえ、明日を拓くフォーラム」が「日本学術会議の独立性を否定する法改正の試みをただちに中止すべきである」とする声明を出しました。
菅元政権は、日本学術会議の会員候補者のうち6名を任命拒否して人事に介入しました。それは内閣による不当介入でしたが、拒否の理由を明らかにしないままで退場しました。それに対して岸田政権は、第三者委員会による人事介入を明文化した「日本学術会議法改正案」を通常国会に提出し、次期の会員選考は改正法にもとづいて行なうと一方的に宣言しました。
それは日本学術会議への人事介入を公然と且つ恒常的に行えるようにするというものであり、これまで歴代政権が尊重してきた平和憲法を岸田政権が一挙に踏みにじったことと同様の暴挙を、学術会議に対しても行うということに他なりません。
その目的が軍事研究への学会の協力を確立することにあるのは明瞭で、岸田氏という人は節度というものを知らないだけでなく、「国を誤る」ということの認識自体を持っていないようです(政権の延命だけが至上命題なのでしょう)。
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同じく「安全保障関連法に反対する学者の会」が「日本学術会議つぶしを阻止し、平和と学問の自由を擁護しよう」とする声明を出しましたので併せて紹介します。
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【声明】
日本学術会議の独立性を否定する法改正の試みをただちに中止すべきである
2023 年 1 月7日
大学の危機をのりこえ、明日を拓くフォーラム
(略称:大学フォーラム)
日本学術会議のゆくえを左右する重大な事態が生まれている。
内閣府は、2022 年 12 月 8 日に行なわれた学術会議総会のわずか 2 日前の 6 日、日本学術会議法の改正を前提とした「日本学術会議の在り方についての方針」を示した。総会ではこの「方針」についての質疑応答が行なわれ、これを踏まえて、学術会議は「『日本学術会議の在り方についての方針』に関する懸念事項」を会長名で明らかにした(同 15 日)。内閣府は「方針」を敷衍した「具体化検討案」を 21 日の総会に示したが、そこでの質疑は学術会議側の懸念や疑問を解消するには至らず、総会は「方針」の再考を求める声明を採択した。声明は「日本学術会議の独立性を危うくしかねない法制化」について、「強く再考を求めたい」という言葉で結ばれている。
私たちは、このような危機感を学術会議と共有し、以下のように声明する。
内閣府は、2020 年 10 月に行なわれた学術会議会員候補 6 名の任命拒否を既成事実化するだけでなく、2023 年 10 月に始まる次期の会員の推薦手続がすでに進行中であることを無視して、通常国会に日本学術会議法改正案を提出し、次期の会員選考は改正法にもとづいて行なうと一方的に宣言している。学術会議に対する敬意を欠いたこのように強引なやり方は、任命拒否によって毀損された学術会議と政府との信頼関係を根本的に破壊するのものであり、二重に許されない。
学術会議はすでに、「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」(2021 年 4 月)にもとづいて、意思の表出と科学的助言機能の強化や会員選考プロセスの透明性の向上を含む広範囲にわたる自主改革を実施に移しつつある。内閣府は、「方針」が学術会議の自主改革の方向と一致したものであるとしながら、それではなぜ法改正が必要なのかをまったく説明することができない。それは、内閣府自身が総会での説明において示唆しているように、2020年 12 月の「提言」において学術会議を国から切り離すことを主張している自民党プロジェクト・チームからの圧力を受けつつ、「国の機関」でありながら政府からも「独立して」職務を執行する(学術会議法 3 条)という性格をもつ学術会議の存在を理解することができず、法改正をつうじてそれを実質的に改変しようとしているからにほかならない。それこそが、学術会議の懸念や疑問に対して正面から答えることができない理由である。
学術会議の独立性についての無理解は、学術会議が政府等と「問題意識や時間軸を共有」することをくり返し求めている点に現われている。学術会議は、政府からの諮問や審議依頼に応じるだけではなく、国境を越えた普遍性を追求する学術の立場から、自ら問題を設定し、自律的な審議体制のもとで独立して見解を形成し表明するところにその存在意義があるのであり、その時々の政治的判断にもとづいて決定を行なう政府とは立脚点を異にする。「問題意識や時間軸を共有」することを強調する発想は、もっぱら政府等の諮問にもとづいて活動し、人選も諮問者が行なう諮問機関と学術会議との基本的な相違が理解されていないことを物語っている。そこで想定されているのは、政府から見て有用と考えられるような答えのみを提供し、例えば「軍事的安全保障に関する声明」(2017 年 3 月)のように、学術とそれを支える学問の自由の立場から必要があれば政府の政策に懸念を表明するというようなことのない従順な組織の姿である。それは、70 年以上維持され、アカデミーの国際的スタンダードにも合致する科学者の「代表機関」(日本学術会議法 2 条)としての学術会議のあり方を否定するものにほかならない。
学術会議の独立性の根幹を揺るがすもっとも深刻な問題は、以上のような学術会議の「在り方」から導き出される会員選考についての考え方である。それは、「高い透明性の下で厳格な選考プロセスが運用され、国の機関であることも踏まえ、選考・推薦及び内閣総理大臣による任命が適正かつ円滑に行われるよう必要な措置を講じる」という一文に表現されている。選考方針の公表や、内閣総理大臣に推薦されるべき会員候補をそこから選び出すべき候補者のプールに科学者を推薦する資格を従来の会員・連携会員や協力学術研究団体(学協会)よりも広げることをはじめ、選考過程の透明性を高めること自体は、学術会議自身がすでに実施しつつあるところである。問題は、「第三者から構成される委員会」が「選考について意見を述べ」、学術会議は委員会の「意見を尊重する」ものとされていることである。第三者委員会の構成や権限などについてはなお明確にされていないとはいえ、ここでは、科学者の代表機関としての責任において「優れた研究又は業績のある科学者」の中から選考を行なうべき学術会議の自律性に対する、「第三者」の名による政治的介入が意図されていると考えざるをえない。このことは、内閣総理大臣は学術会議が推薦した候補者を任命するか否かの実質的判断権をもっているという任命拒否の前提となっている立場は不変であるとされ、学術会議に求められている「透明性」の要請は内閣総理大臣の任命行為には向けられていない(したがって任命拒否の具体的な理由が示されないことは問題視されていない)ことと表裏一体である。学術会議の会員選考についてのこのような考え方は、例えば内閣法制局長官の人事に見られるように、独立性が尊重されるべき機関や組織を人事を通じて支配しようとする近年の歴代政権の志向の、新たな、そしていっそう重大な事例にほかならない。
以上のことから、「方針」のはらむ問題性は部分的な修正によっては解消することのできない根本的なものであるといわざるをえない。したがって、これにもとづいて法改正案を作成する作業はただちに中止すべきである。このことは、単なる現状維持を意味するものではない。すでに述べたように、学術会議は科学的助言や会員選考のあり方などについての改革を進め、それについて国民に説明する積極的な努力を行なっているところである。学術会議のあり方は、その成果をも踏まえ、あくまでも事実にもとづいて議論されるべきものである。
いま、真に問われるべきことは、学術会議やそれが担う学術に対して政府がこれまでどのような態度をとってきたのか、ということである。問われるべきことの中には、例えば、科学技術政策の「司令塔」とされ、「国際卓越研究大学」構想に示されるように大きく変貌しつつある近年の大学政策を主導してきた総合科学技術・イノベーション会議の役割やその意思決定のあり方なども含まれる。そのような問いの中で、「学術の中心」としての大学の危機をどのように克服すべきか、大学が担う〈学術〉と〈科学技術〉とはどのような関係にあるべきなのかということを、市民とともに考えてゆかなければならない。
声明
日本学術会議つぶしを阻止し、平和と学問の自由を擁護しよう
安全保障関連法に反対する学者の会
日本学術会議は、2022 年 12 月 8 日および 21 日に臨時総会を開催し、12 月 6 日および21 日に内閣府が示した「日本学術会議の在り方についての方針」とその「具体化検討案」の説明をうけ、審議検討を行いました。総会は、同方針が日本学術会議の職務の独立性およびその保障としての会員選考の自主性に照らして疑義があり、「日本学術会議の存在意義の根幹」に関わるとして、政府に再考を求める声明を採択しました。私たち安全保障関連法に反対する学者の会は、この声明に賛同し、以下のように意見を表明いたします。
2020 年 10 月、菅前首相が第 25 期会員候補者 6 名の任命を拒否したことに対して、私たちはこの措置が日本学術会議法に反して違法・不当であることを批判し、同措置の明確な説明と 6 名の即時の任命を要求しました(10 月 14 日抗議声明)。さらに岸田内閣の発足に際しても政権に同じ要求を行いました(2021 年 10 月 1 日声明)。この間、政府は、世論によって任命拒否が大きく批判されるなか、逆にこれを利用して学術会議の改革を言い出し、2020 年 12 月に自民党プロジェクトチームは、学術会議を国の機関から民間の法人に変更するなどの改革案を発表します。これに対して、学術会議は、日本学術会議法が保障し、かつ、国際的にも承認されるナショナル・アカデミーとしての 5 条件の維持を大前提とする改革案を提示し、すでに自主的な運営の改善を進めてきました。
今回の内閣府の方針(以下「方針」)は、学術会議改革の改正法案を今月開会される 2023年通常国会中に提出すると宣告し、具体案を示しています。その内容は、学術会議の自主改革案を考慮せず、これまでの対話や合意も無視し、「国家機関としての存置」を認めつつも、それ以外は自民党プロジェクトチーム案の内容を盛り込むものとなっており、実質的に「存置」の意義を失わせるものです。さらには、法改正後 3 年ないし 6 年後のフォローアップによって「存置」そのものを見直すことも明らかにしています。
「方針」は、任命制度の「適正・円滑化」を言い、あたかも 6 名の任命拒否は適正だったかのごとく構えていますが、任命拒否の違法性・不当性は揺るぎません。そのうえ、会員選考のすべてに関し拘束力ある意思を表明できる第三者委員会の設置など、学術会議による会員選考の自主性をふみにじる案を示しています。あまつさえ、学術会議によって本年秋の改選のため次期会員選考手続が、現行制度のもとですでに開始しているにもかかわらず、1年半ほどの会員の任期延長措置によって次期会員選考を新制度で行うことを断言しています。問答無用の対応としかいいようがありません。
「方針」は、科学的助言機関である学術会議の組織と活動のあり方につき、法改正のために様々な具体的な方策を提示していますが、そこでは「政府等と問題意識や時間軸等を共有」することが強調されています。法によって保障された学術会議の職務の独立性は、助言の前提である「問題意識や時間軸等」が自主的に科学的見地により形成されることが当然であり、国際的に認められた本質的なことがらです。にもかかわらず、「方針」はこれを無視しています。「方針」の種々の改革方策の狙いが、政府と問題意識や時間軸等を「共有する」との名目で、その実、時々の政府の意向を忖度し追従する政府に使い勝手のよい科学者組織への変質であることは、まったく明白です。
おりしも、岸田政権は、12 月 16 日「安保3文書」の閣議決定によって、「抑止力」たる「反撃能力」と称して敵基地攻撃能力の拡大強化を防衛力整備の核心とし、増税や軍事国債を財源とする防衛費倍増の計画を決定しました。日本は、これにより専守防衛をこえて他国領域攻撃の軍事力を常備し、同時に防衛費について米中につづく軍事大国となります。国家安全保障戦略は、「強化すべき国内基盤」に「知的基盤」をあげ、政府と企業・学術界との実践的な連携強化を指示しており、軍需産業の振興とそのための科学技術の動員、軍事研究の推進は主要課題とされます。憲法 9 条の平和主義は、安倍政権による集団的自衛権の制度化に続いて決定的な危機に直面しています。
日本学術会議は、日本の科学者の代表機関として創設以来、平和と学問の自由を擁護し、軍事研究を否定してきました。直近では、2017 年 3 月「軍事的安全保障研究に関する声明」がこれを示しています。学術会議のこうした基本的立場は、岸田政権による「安保政策の大転換」と相いれません。「方針」は、まさに「大転換」に適合的な科学者組織に学術会議を改造することを狙いとし、そのような意味で学術会議つぶしを企図するものといわなくてはなりません。
私たちは、岸田首相に対して、6 名をただちに任命し日本学術会議との関係を正常化すること、同時に自民党プロジェクトチーム案に依拠した学術会議つぶしの「方針」の撤回を要求します。学術会議改革は、学術会議の自主改革を基本にして、広く国民との対話、そして政府との協議によって進めるべきです。
安全保障関連法に反対する学者の会は、平和と学問の自由のために、市民とともに、安保3文書の実現を許さない運動を急速に大きくひろげ、学術会議つぶしの法案が国会に提出されるようなことになれば、これを断固阻止する闘いを進める決意です。
2023 年1月 14 日
安全保障関連法に反対する学者の会・呼びかけ人有志
(後 略)