2019年12月31日火曜日

31- 中東海域への自衛隊派遣に反対する声明 日弁連/真宗大谷派

 27日、政府日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集活動を目的として、護衛艦1隻哨戒機1機を、中東アデン湾等へ派遣することを閣議決定したことに対して、日弁連と真宗大谷派が27日、それぞれ自衛隊派遣に反対する声明を出しました。 
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中東海域への自衛隊派遣に反対する会長声明

2019年12月27日、日本政府は日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集活動を目的として、護衛艦1隻及び海賊対策のためにソマリア沖に派遣中の固定翼哨戒機P-3C1機を、中東アデン湾等へ派遣することを閣議決定した。 

2018年5月に米国がイラン核合意を離脱後、ホルムズ海峡を通過するタンカーへの攻撃等が発生していることから、米国はホルムズ海峡の航行安全のため、日本を含む同盟国に対して有志連合方式による艦隊派遣を求めてきた。 

これに対し日本は、イランとの伝統的な友好関係に配慮し、米国の有志連合には参加せずに上記派遣を決定するに至った。 

今般の自衛隊の中東海域への派遣は、防衛省設置法第4条第1項第18号の「調査及び研究」を根拠としている。しかし、同条は防衛省のつかさどる事務として定めている。 

そもそも、自衛隊の任務、行動及び権限等は「自衛隊法の定めるところによる」とされている(防衛省設置法第5条)。自衛隊の調査研究に関しても、自衛隊法は個別規定により対象となる分野を限定的に定めている(第25条、第26条、第27条及び第27条の2など)。ところが、今般の自衛隊の中東海域への派遣は、自衛隊法に基づかずに実施されるものであり、防衛省設置法第5条に違反する疑いがある。 

日本国憲法は、平和的生存権保障(前文)、戦争放棄(第9条第1項)、戦力不保持・交戦権否認(第9条第2項)という徹底した恒久平和主義の下、自衛隊に認められる任務・権限を自衛隊法で定められているものに限定し、自衛隊法に定められていない任務・権限は認めないとすることで、自衛隊の活動を規制している。自衛隊法ではなく、防衛省設置法第4条第1項第18号の「調査及び研究」を自衛隊の活動の法的根拠とすることが許されるならば、自衛隊の活動に対する歯止めがなくなり、憲法で国家機関を縛るという立憲主義の趣旨に反する危険性がある。 

しかも、今般の自衛隊の中東海域への派遣に関しては、「諸外国等と必要な意思疎通や連携を行う」としていることから米国等有志連合諸国の軍隊との間で情報共有が行われる可能性は否定できず、武力行使を許容されている有志連合諸国の軍隊に対して自衛隊が情報提供を行った場合には、日本国憲法第9条が禁じている「武力の行使」と一体化するおそれがある。また、今般の閣議決定では、日本関係船舶の安全確保に必要な情報の収集について、中東海域で不測の事態の発生など状況が変化する場合における日本関係船舶防護のための海上警備行動(自衛隊法第82条及び第93条)に関し、その要否に係る判断や発令時の円滑な実施に必要であるとしているが、海上警備行動や武器等防護(自衛隊法第95条及び第95条の2)での武器使用が国又は国に準ずる組織に対して行われた場合には、日本国憲法第9条の「武力の行使」の禁止に抵触し、更に戦闘行為に発展するおそれもある。このようなおそれのある活動を自衛隊法に基づかずに自衛隊員に行わせることには、重大な問題があると言わざるを得ない。 

政府は、今回の措置について、活動期間を1年間とし、延長時には再び閣議決定を行い、閣議決定と活動終了時には国会報告を行うこととしている。しかし、今般の自衛隊の中東海域への派遣には憲法上重大な問題が含まれており、国会への事後報告等によりその問題が解消されるわけではない。中東海域における日本関係船舶の安全確保が日本政府として対処すべき課題であると認識するのであれば、政府は国会においてその対処の必要性や法的根拠について説明責任を果たし、十分に審議を行った上で、憲法上許容される対処措置が決められるべきである。 

よって、当連合会は、今般の自衛隊の中東海域への派遣について、防衛省設置法第5条や、恒久平和主義、立憲主義の趣旨に反するおそれがあるにもかかわらず、国会における審議すら十分になされずに閣議決定のみで自衛隊の海外派遣が決められたことに対して反対する。 
 2019年(令和元年)12月27日
日本弁護士連合会  
会長 菊地 裕太郎


海上自衛隊の中東派遣の閣議決定に対する宗派声明
 
 このたび、安倍晋三内閣が中東海域での航行の「安全確保」を目的とした海上自衛隊の派遣を閣議決定したことに、深い悲しみを覚えます。
 真宗大谷派は、先の大戦において国家体制に追従し、仏法を人間の都合で解釈して戦争への積極的な加担をしました。その過ちを繰り返してはならないとの決意から、これまでに集団的自衛権の行使容認や安全保障関連法の成立にあたり、反対の意を表明してまいりました。その背景には、人間が思い定める「正義」に絶対はないということを明らかにしてきた仏の教えがあるにもかかわらず、そのことに背いてきた当派の歴史があるためです。

 このたびの閣議決定に際しては、防衛省設置法に基づく「調査・研究」が目的であることが強調されるとともに、「不測の事態」への対応として武器使用も伴う海上警備行動の発令がなされることが定められています。それは、いのちに関わる重大な事柄であるにもかかわらず、十分な国民的議論のないままに進められた拙速な方途であるといわざるを得ません。そして「安全確保」という大義名分のもと、国民の不安を煽りつつ武器使用の可能性を認めることによって、自他に怨みや敵意を生じさせ、報復の連鎖へと転じていくのではないかと危惧いたします。

 人間とは、自らの立場をどこまでも正当化して、その危うさを問い直すことのできない愚かな存在です。だからこそ、それぞれが自身の愚かさに目覚め、人種、民族、文化、宗教、国家などの差異を超えて、他者と水平に出あう道に立たなければなりません。
 私たちは、仏の教えに基づく教団として、このたびの閣議決定の見直しを求めるとともに、今後も引き続き、戦争に繋がるあらゆる行為を未然に防ぐ努力を惜しみません。そして、武力に頼るのではなく、積極的な「対話」によって「真の平和」を希求することをここに表明いたします。
2019年12月27日  
真宗大谷派(東本願寺)宗務総長  但馬 弘