2019年12月13日金曜日

官邸が介入「NHK新会長人事」~ (日刊ゲンダイ)

 NHK経営委員会は新会長にみずほフィナンシャルグループ元会長の前田晃伸氏を全会一致で選出し、来年1月に任期満了を迎える上田良一会長は1期で退任することになりました。前田氏は安倍を囲む財界人の「四季の会」にも顔を出す安倍首相のオトモダチで
 NHK会長は一応NHK経営委員会という第3者機関で決められますが、経営委が実質的に官邸の意向に沿ってことを進めているのは明らかです。

 今年大問題となった「かんぽ生命保険の不正販売問題」は、実はNHKが昨年4月にいち早く「クローズアップ現代+」で取り上げており、第2弾の報道を準備していましたが、 そのことを知った郵政側が昨年10月、NHK経営委員会に宛てて「ガバナンス体制の検証」などを求める文書を送り付け、それを受けて経営委が同月23日、上田NHK会長を厳重注意し、上田会長が不本意ながら郵政側に謝罪する(かんぽ不正問題の追及はそこで頓挫)という、善悪がひっくり返った何とも不可解な事象が起きました。
 その過程で郵政側で暗躍した人物は元総務省事務次官の鈴木康雄・日本郵政上級副社長でした。さすがにそのときには経営委内部で意見が分かれたのですが、委員長が強引に「厳重注意」をし謝罪要求をしたということです。

 NHKが久しく政府の広報機関・プロパガンダ機関に成り下がっていることは多くの人たちが知っているところですが、それでも政府から見るとまだまだ不十分だということで今回の会長交代につながりました。毎日新聞は、複数の関係者「首相官邸は『上田会長は野党に気を使いすぎだし、政権批判の番組へのグリップが弱い』と不満を持っていた」と明かしたことを伝えました。
 今度の「桜を見る会」でも、NHKが報じたことのいくつかが政府にとって大いに気に入らなかったとされています。
 真実を伝えることが許されないとは安倍政権はどこまで狂っているのでしょうか。

 日刊ゲンダイが「官邸が介入「NHK新会長人事」~ 」とする記事を出しました。
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官邸が介入「NHK新会長人事」聞き捨てならない裏側と今後
 日刊ゲンダイ 2019/12/11
 NHKの官邸支配が一層進み、公共性がますます失われかねない。NHKの新会長人事をめぐり、聞き捨てならない裏側が報じられ、臆測が飛び交っている。

 NHK経営委員会は新会長にみずほフィナンシャルグループ元会長の前田晃伸氏を全会一致で選出。任期は来年1月25日から3年間。来年1月に任期満了を迎える上田良一会長は退任することになった。9日に会見した石原進経営委員長(JR九州相談役)は交代理由として「やはりガバナンスの問題とか、経費コストの見直しとか。問題があるんじゃないかという意見もあった」と説明。「たとえば受信料着服とか、いろんな不祥事が起こったことも事実」「かんぽ問題も当然含まれる。私は大変な問題だったと思っている」とした。

 確かにかんぽ問題は「大変な問題」だ。かんぽ生命保険の不正販売を追及した昨年の「クローズアップ現代+」をめぐり、日本郵政グループが昨年夏から秋にかけて番組編集権に関する会長の回答を執拗に要求。郵政側の抗議に同調した経営委が昨年10月に上田氏をガバナンス名目で厳重注意し、上田氏は渋々ながら事実上の謝罪文を日本郵政の鈴木康雄上級副社長に届けさせた。鈴木氏は放送行政を所管する総務省の元事務次官で、NHKを「まるで暴力団と一緒」と言い放った人物である。そして総務省には大臣経験者の菅官房長官が強い影響力を持ち続けている。権力を笠に着た外部から不当な圧力を加えられたにもかかわらず、郵政の肩を持つとは石原氏は一体どういう了見なのか

「政権批判へのグリップが弱い」と不満
 毎日新聞(10日付朝刊)は〈人選に官邸の影〉と見出しを打って、新会長人事の内幕をこう報じていた。
〈首相官邸に近い複数の関係者によると、官邸では上田会長の「今期限りの交代」は既定路線で、官邸の意を体した石原氏らが、財界関係者やNHK幹部などを対象に人選を進めてきた。複数の関係者は「首相官邸は『上田会長は野党に気を使いすぎだし、政権批判の番組へのグリップが弱い』と不満を持っていた」と明かす〉

 安倍首相が疑惑のド真ん中にいる「桜を見る会」についてNHKは当初、積極的に報道していた。疑惑がはじけて間もない11月中旬には〈「桜を見る会」安倍首相の国会答弁と食い違う証言〉などと詳報し、ホテルニューオータニで会費5000円で開かれた「前夜祭」も取り上げて独自取材。それがいつの間にやら尻すぼみだ。そうでなくても、“腹心の友”に獣医学部新設で優遇した加計学園問題を告発した前川喜平元文科次官のインタビューはお蔵入り。安倍に最も近い記者と呼ばれる女性解説委員をしょっちゅうスタジオ出演させ、ヨイショを垂れ流しているこの程度の政権批判で会長のクビが飛ぶとは戦慄だ。

「分割民営化」の脅し文句でプロパガンダ機関化
 NHKは「安倍さま礼賛一色」になるのか。元NHK政治部記者で評論家の川崎泰資氏は言う。
NHKはすでに独裁国家の広報機関であり、諜報機関です。政権の宣伝に徹し、取材で得た情報を差し出している。安倍政権が倒れない限り、こうした状況を変えることはもはやできないでしょう。新会長人事をめぐり、石原委員長が口にした交代理由はとんでもないバカな話で、笑い話にもなりません。もともと上田会長は経営委の一員で、そうした人物が会長に就くこと自体がルール違反だった。上田会長はかんぽ問題での対応を批判されていますが、一方では官邸の言いなりの側面もあった。それでも官邸は不服で、もっと安倍首相の意のままの放送をしろということなのでしょう。第2次安倍政権発足以降の7年間でNHKはガタガタにされましたが、この新会長人事で来るところまで来てしまった。安倍首相も経営委も公共放送というものをまったく理解せず、会長にはどんな資質が求められるのかを考えたこともないのでしょう」

 年明けに会長に就く前田氏は中小企業研究センター理事長、国家公安委員会委員などを歴任し、安倍を囲む財界人の「四季の会」にも顔を出す官邸人脈。アベ応援団のひとりでもあり、オトモダチでもある。10日の会見では「権力を持った政権が報道機関からチェックされるのは当たり前。キチンとした距離を保つ」と断言し、「どこかの政権とベッタリということはない。その気もない」と歯切れが良かったが、果たしてどうなるか。朝日新聞(10日付朝刊)は〈NHK会長 続投論一転〉との見出しで、内部の声をこう報じていた。
〈あるNHK関係者は「現会長を官邸は快く思っていない節があり、辞めさせるために無理やりこじつけた印象がある」と交代理由を疑問視する〉
 日本郵政をめぐるゴタゴタは菅官邸の上田外しの謀略だったのではないか。経営委員長が会見で現職批判の異様、首相ベッタリ財界人の起用、ガバナンスという番組介入・検閲強化を目指す露骨である。

 高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。
「NHKは国民の目に最も触れやすいメディアであるため、何としてもコントロールしたいという安倍政権の強い欲望が表れています。NHKに対する政治の圧力は2005年の安倍官房長官時代、06年の第1次安倍政権、そして12年末の第2次政権発足以降、着実に強まってきた。英国のBBCとは異なり、NHKだけに適用される法律のあるNHKは半国営のような位置付け。政権のプロパガンダ機関として機能させるべく締め付けてきたのがアベ政治のやり方です。NHKが表立って反発しないのは民営化という揺さぶりが効いているからでしょう。NTT東日本と西日本に分割された電電公社や、JR東日本などの12法人に分けられた国鉄のようになれば地域によっては弱体化し、競争力が低下しかねない。それに国からの予算措置も失う。NHKにとっての民営化は、民放に対する停波と同様の脅し文句。『あいちトリエンナーレ』の問題もそうですが、国のカネが欲しければ政権の意向に従え、というのが現政権のスタンスなのです」

ジャパンライフは大メディアにブーメラン
 もっとも、官邸支配はNHKだけの問題にとどまらない。大メディアもまた影響下に置かれているのだ。
 桜疑惑をめぐる野党の追及から逃げ回る安倍は、この1カ月で国会答弁に立ったのは参院本会議の2回だけ。野党が求める会期延長も与党が阻止し、サッサと国会を閉じてしまった。
 この間、安倍はマスコミをあの手この手で丸め込み。政権寄りのフジサンケイグループや読売新聞の幹部らとハイペースで会食し、憲政史上最長の通算在職日数を更新した先月20日には内閣記者会加盟報道各社のキャップとも懇談。桜疑惑で大炎上の折も折、2日前に官邸側が呼び掛けたという。3つのテーブルに分かれた記者たちの席を安倍は20~30分ずつ回り、「いつまで続くのかな」「ワイドショーはまだやるのかな? 昭恵のことももうやったし、後援会の話も出たからもういいんじゃないのかね」などと懐柔を試みていたという。
 疑惑追及の真っただ中にマスコミを呼び出し、報道に口出し。あからさまな圧力に唖然とするばかりである。

「桜疑惑はマルチ商法のジャパンライフにまで飛び火してしまった。15年の桜を見る会に『総理枠』で山口隆祥元会長が招待されたことで、約7000人が総額2000億円をだまし取られた事件を拡大させた可能性があるとしたら、世論の怒りはどこまで燃え盛るのか。自民党内は戦々恐々だった。ですが、幹部らは〈マスコミの追及は直に収まる〉と余裕の構えでした。というのは、大手メディアの幹部の多くが『桜を見る会』に出席している。ジャパンライフ問題の追及がブーメランのごとくはね返ってきかねないのです」(与党関係者)
 アメとムチで官邸に抱き込まれ、共犯関係にあるメディアが蔓延した先に何が起きるのか。想像するだけでゾッとするが、それがこの国の近未来となりかねない。