2019年12月22日日曜日

詩織さん全面勝訴でも山口敬之氏と安倍首相の関係には触れないテレビ局

「レイプ後進国」の日本では被害者の9割が泣き寝入りをしているということです。そうした中で伊藤詩織さんが実名を公表して告発したのは真に勇気のいることでした。
 彼女の件では「官邸の介入」という“あってはならない”要素が含まれていました。そのことも実名を公表して闘うしかなった理由であるかも知れません。
 とにかく彼女は「ただ一人で」国家権力に立ち向かい民事訴訟で勝ったのでした。彼女を口汚くののしり、セカンドレイプを加えた一部の勢力がその対極に位置するものであるのは言うまでもありません。

 彼女が記者会見を開いて、自身が受けた性的暴力と告訴後の官憲の理不尽な対応を訴えた時のメディアの対応は極めて冷淡でした。「官邸事案」であることを殊更に斟酌したからに他なりません。
 今回の民事訴訟一審での完勝でようやく報道自体は「解禁」になった感がありますが、それでも山口敬之氏と安倍首相の親密な関係にTVのほとんどが触れませんでした。官邸の「威令」が行き渡っているからとしか考えられせん。
 二審でひっくり返される可能性を考慮している可能性もあります。日本では二審以降は政権の意向(すなわち最高裁の意向)を忖度した判決に変わるからです。
 しかし一審の判決は、判事が「良心に基づいて判断」するならば必ず行きつくものなので、三権分立の理念に基づいて二審にもそれを求めることこそがメディアの責務です。

 LITERAが「 ~ 山口敬之氏と安倍首相の関係には触れないテレビ局! ~ 」とする記事を出しました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
詩織さん全面勝訴を報じても 山口敬之氏と安倍首相の関係には触れないテレビ局!  踏み込んだのは玉川徹だけ
LITERA 2019.12.21
「本当にこの2年間、いろいろなことが変わって報道のされ方も大きく変わったなと思っています」
伊藤詩織さんは山口敬之氏との裁判で全面勝訴を勝ち取ったあと、その性暴力をはじめて実名告発したときの反応と比較するかたちでこう語った。
 たしかに、2年前の伊藤さんの告発会見では、裁判所内の司法記者クラブに新聞・テレビ全社が勢揃いしていたにもかかわらず、NHKや読売新聞など、大マスコミの半数近くがこの会見のことを報道しなかった。民放各局も事件発覚直前まで山口氏をコメンテーターとして起用していたためか、積極的にこの問題を取り上げようとしなかった。
 だが、今回、伊藤さんが民事で勝訴したことを受け、さすがの国内マスコミも大きく報道している。全国紙はネット版で速報や会見詳報を打ち、19日朝刊でも判決を伝えた。NHKと民放各局も判決当日にストレートニュースを流したほか、プライムタイムのニュース番組や翌日以降のワイドショーで特集を組むなど大々的に報じている。

 たとえば19日の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)では、事件のあらましを詳しく伝えるなかで、山口氏に逮捕状が出ていたにもかかわらず「上からの指示」によって逮捕が取りやめになったことにも言及。スタジオでは萩谷麻衣子弁護士が「何か働きかけや忖度があったかはわかりませんが、ただ、身柄拘束が必要だと判断して捜査機関が逮捕状を請求した。それを執行する直前で刑事部長の判断で止めたということは、異常なことだと思います」とコメントした。玉川徹氏も直前の逮捕取り止めは異常としたうえで、山口氏と安倍首相の関係の近さについて語った。
山口さんは安倍総理とものすごく親しいですよ。番組にも何回も出てもらったけども、直接電話できるんですから。直前でも直接話をして情報をとってもらったことも、たしかありました。(普通は)そんなことできないですから、いくら総理番だって言ったって。そこはものすごく近いということ。もうひとつ一方で、安倍総理に関しては、あったことがなかったことになるようなことがいっぱいあるわけですよ。僕はそれを『あったことがなかったことになる症候群』と言ってますけども、そういうふうなことすらもちょっと疑いたくなる結果になったんですね。今回裁判所で(合意のない性行為だったと)事実認定がされたということで。その疑惑は僕ら、もしかしたら追わなければいけない。メディアとして、ジャーナリズムとして追わなければいけないことなのかもしれないと思いますね」

 今回、合意なき性行為だったことが事実認定されたことで、なぜ警察は逮捕を中止したのか追及する必要が高まったのではないか。そして玉川氏は萩谷弁護士に「もし警察が逮捕していたら公判が維持できないようなケースだったんですか」と問いかけた。それに対し萩谷弁護士は、法律家の見地からこのような認識を示した。
「私は民事の裁判のこの判決を見る限り、刑事訴訟でも耐えられたんじゃないかなという印象を持ちます。ただし、不起訴の処分の判断をしたときの証拠がどれだけのものがあったのかということがわからないんですね。被害者が開示請求しても出てくるものは非常に限られているし、出てきても黒塗りになっていることが多いので。どういう証拠があったのかがわからないので、どういう証拠に基づいて不起訴の判断をしたのか、警察審査会で不起訴相当の判断をしたのかがわからないです。ただ、(仮に)その時になかった証拠が民事訴訟で出てきた、それが新たな証拠で重要な証拠だとしたら、捜査するのが相当じゃないかと思いますし、でもそうだとしたら捜査が不十分だったなということを裏付けますよね」

 改めて確認しておくが、この事件の最大の特異性は、2015年6月8日、逮捕状を持った捜査員が成田空港で山口氏を逮捕すべく待ち構えていたところに、突然、上層部から「取り止め」のストップがかかったことだ。指示したのは“菅義偉官房長官の子飼い”である当時の中村格・警視庁刑事部長(現・警察庁官房長)。中村氏自らが「週刊新潮」(新潮社)の直撃に対し「(逮捕は必要ないと)私が決裁した」と認めている。だからこそ、自他共に認める“安倍首相に最も近い記者のひとり”である山口氏と安倍官邸との関係が、捜査に何らかの影響を与えたのではないのかと取り沙汰されたのである。
 しかし、伊藤さんが民事の地裁で勝訴した後も、この点を掘り下げたのはその『モーニングショー』くらいで、国内のマスコミのほとんどは“安倍首相と山口氏の距離の近さ”を報じていない。『モーニングショー』以外のニュースやワイドショーは逮捕が取り消されたことに触れなかったり、あるいは山口氏を「元TBS記者」としか報じず、安倍首相ヨイショ本を出していることなど安倍首相との関係を完全にネグるものまであった。
 むしろ、捜査に政治的な動きが関与した疑惑については、国内マスコミよりも、海外メディアのほうが積極的に報じているくらいだ。アメリカ、イギリス、フランスなど欧米のほか、中国や韓国でも伊藤さんの勝訴は大きく伝えられた。

ワシントンポストやロイター、BBCは安倍首相との関係に言及したのに……
 たとえば米ワシントンポストは、〈山口氏に逮捕状が発行されたが、その後突然、警察幹部の指示で取りやめになった〉と書き、〈山口氏は事件当時はTBSのワシントン支局長であり、安倍晋三首相に関する複数の本を書いたことがある。野党議員は2017年のヒアリングで、山口氏が安倍首相と親密な関係を築いているがゆえにこの事件は取りやめになったのではないかと質したが、当局はこれを否定し、起訴するには証拠が不十分だったと説明した〉と続けている(「Japanese journalist Shiori Ito is awarded damages in landmark rape case」)。
 ロイター通信も、山口氏について〈安倍晋三首相についての報道で知られるベテランテレビ記者〉と説明し、検察審査会が「不起訴相当」と判断した際、〈野党議員が安倍首相と親密な関係にあるがゆえに特別扱いされたのではないかと疑義を呈した〉ことにも触れた。また、〈伊藤さんは著書で、警察は山口氏に対する逮捕状をとったが逮捕されなかったと書いた。この逮捕は土壇場で警察幹部によって取りやめになったとも書いている〉と伝えた(「Japanese journalist wins damages in high-profile lawsuit over alleged rape」)。
 ほか、BBCは〈53歳の山口氏(彼は安倍晋三首相と親密な関係を持っていると言われる)は〜〉と注釈を入れ(「Shiori Ito: Japanese journalist awarded $30,000 in damages in rape case」)、米ニューヨークタイムズは〈山口氏は元TBSワシントン支局長で安倍晋三首相のバイオグラフィーの著者〉と説明(「Woman Wins High-Profile #MeToo Case in Japan Against TV Journalist」)。英ガーディアンは〈元TBSワシントン支局長で安倍晋三首相と親しい山口氏〉と直接的に表現した(「Shiori Ito, symbol of Japan's MeToo movement, wins rape lawsuit damages」)。AFPなどフランスメディアも同様に、山口氏が安倍首相の本を発表してきたことなど、その繋がりに触れている。
 フランスで生活している辻仁成氏はブログで〈この問題は日本で考えられている以上に欧州では大きな話題になっていることは間違いない〉〈伊藤さんの場合は権力者と対峙する一人の若い女性の戦いとして、世界のメディアが日本のメディアが思っている以上にかなり注目している〉と指摘していたが、海外では明らかに、安倍政権と関係が深いという理由で性犯罪捜査が止まることの異常さが大きな話題になっているのだ。

 しかし、こうした海外メディアの報道に内容をみていると、改めて痛感するのが、日本のメディアのだらしなさだ。国内のテレビマスコミや新聞がこの事件や詩織さんの告発をMeToo運動の文脈で捉え、報じるようになったことはたしかに前進だが、一方で、“安倍首相と山口氏の親密な関係”や“逮捕取りやめの圧力”については、不可解なくらい触れようとしないのである。
 これは山口氏への“配慮”ではなく、明らかに、安倍官邸に睨まれることを恐れているからだろう。もし、安倍首相との距離の近さが逮捕や起訴に影響するのならば、この国はもはや法治国家ではない。そのことをどのくらい深刻に受け止めているのだろうか。まだまだ、この国のマスコミは変わってはいない。(編集部)