伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之氏に性的暴行を受けたと訴えた裁判で、東京地裁は詩織さんの主張を認め山口氏に330万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。一方、詩織さんの告訴で名誉やプライバシーを傷つけられたとして、1億3000万円の賠償を求めた山口氏の反訴は却下されました。
山口敬之応援団のメンバーだった上念司・加計学園客員教授は「この判決を受けて山口さんを擁護するのは難しいと思いました」と、また足立康史議員は「本判決を踏まえ、当面、同番組への出演は自粛することといたします」とそれぞれコメントしました。様々に批判のある二人ですがコメント自体は潔いものでした。
この事案は、官邸の意向を受けた警視庁刑事部長が山口氏の逮捕を寸前で中止させるなど、端から官邸の介入が問題視されていました。そして当然のように山口氏は不起訴となりました。
それで詩織さんは「検察審査会」に訴えましたが、そこでも審査会を主管する最高裁事務総局は何故か助言すべき弁護士を付けないまま審査させ、審査会は「不起訴相当」の結論を出しました。まことに山口氏にとっては何もかもがこれ以上ないほど都合よく運ばれました。
日刊ゲンダイが「徹底検証が必要 安倍首相のお友達はなぜ逮捕を免れたのか」とする記事を出しました。
天木直人氏は「山口敬之被告の控訴断念とともに終わる安倍権力私物化政権」とするブログを出しました。天木氏の主張は酩酊状態の詩織さんを抱きかかえて連れ込んだホテルのドアマンの証言に関するもので、証言の概要は下記の記事に載っています。
二つの記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
巻頭特集
徹底検証が必要 安倍首相のお友達はなぜ逮捕を免れたのか
日刊ゲンダイ 2019/12/19
「日本の#MeToo運動のシンボルが勝訴」「レイプ容疑の損害賠償で勝訴」――。英BBCや仏AFP通信など海外メディアが続々と速報したことからも、注目度の高さが分かる。
ジャーナリストの伊藤詩織さん(30)が、望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして、“総理ベッタリ記者”こと元TBSワシントン支局長の山口敬之氏(53)に1100万円の損害賠償を求めた訴訟。東京地裁は18日、「酩酊状態で意識がない伊藤さんに合意がないまま性行為に及んだ」と認定し、山口氏に330万円の支払いを命じた。
鈴木昭洋裁判長は判決で、ホテル内でのやりとりなどについて山口氏の説明は、重要な部分で不合理な変遷が見られると指摘。「伊藤さんの供述が客観的事情とも整合し、相対的に信用性が高い」と判断した。
また山口氏は、詩織さんの会見や著書で名誉を傷つけられたとして反訴し、1億3000万円もの巨額の賠償を求めていたが、地裁はこれも、詩織さんが主張する「内容は真実で、名誉毀損には当たらない」として棄却。詩織さんの全面勝訴だ。
「一般常識に照らして当然の判決です。むしろ、民事でしか争われないことが信じられない。山口氏には、レイプ容疑で逮捕状まで出ていたのです。しかし、なぜか逮捕を免れ、不起訴処分になった。安倍首相に近い記者だから逮捕されなかったのではないかという疑念は今も拭えません。性被害への理解がなかなか進まない日本で、被害女性が顔も名前も公表して被害を訴えることは、大変な勇気が必要だと思う。それを名誉毀損で訴え返して高額の賠償金を要求するなんて、口封じのつもりでしょうか。あまりに卑劣なやり方です」(政治評論家・本澤二郎氏)
山口氏は判決に不服で控訴するというが、あらためて振り返ってみると、この事件は不可解なことだらけなのである。
■土壇場で逮捕状が見送られた
事件のあらましはこうだ。2015年4月、詩織さんは就職相談のため、一時帰国中だったTBSワシントン支局長の山口氏と都内で会食。2軒目の店で突然、記憶を失い、山口氏と一緒のタクシーに乗せられた。
酩酊状態にありながらも「近くの駅で降ろしてほしい」と懇願したが、山口氏は自力で歩くこともおぼつかない詩織さんを宿泊先のホテルの部屋に連れ込んだのだ。未明に痛みで目が覚めた詩織さんの上に山口氏がまたがっていて、レイプされていることに気づいたという。
その後、詩織さんは警視庁に被害届を提出。高輪署が受理し、同年6月8日、逮捕状を手にした捜査員は、帰国する山口氏を準強姦(当時)容疑で逮捕するために成田空港で待ち構えていた。
ところが、土壇場になって逮捕は見送られる。上層部からストップがかかったのだ。当時、警視庁刑事部長だった中村格氏は「私が決裁した」と「週刊新潮」の取材に答えている。官邸で菅官房長官の秘書官を長く務めた中村氏は、レイプ事件もみ消しの褒美というわけではないだろうが順調に出世を重ね、昨年は警察庁ナンバー3の官房長に就任。安倍政権が続けば、警察庁長官も視野に入る。
結局、山口氏は15年8月26日に書類送検されたが、1年後の16年7月に地検が不起訴判断。詩織さんは17年5月に検察審査会に審査申し立て、9月に「不起訴相当」の議決が出た。それを山口氏は「私は不起訴になった」「検察審査会でも不起訴相当だ」と振りかざし、伊藤さんとの性交渉は認めながらも、「合意だった」「法に触れる行為は一切していない」と主張してきた。詩織さんに対する心ないバッシングも後を絶たなかった。
権力の私物化が捜査を歪めた疑念は払拭されない
「確たる証拠が揃ったから、現場はいけると判断して、逮捕状まで取ったのだろうに、上からストップがかかるのは、よほどの政治案件としか思えません。検察審で不起訴相当の議決に至ったことも、一般常識からして不可解ですが、検察審に出される証拠は検察側の裁量で恣意的に決められるので、シナリオ通りの結論に誘導することもできてしまう。
そういう“ブラックボックス”だったものが、今回の民事訴訟である程度は明らかになった。それで地裁が性暴力の事実を認めたことは、庶民感覚としてはまっとうな判断だとは思う。ただ、地裁はたまにマトモな判断をしますが、高裁、最高裁と上にいくほど、政治的になる傾向がある。控訴審が同じ判断をするとは限りません」(司法に詳しいジャーナリストの魚住昭氏)
一貫した説明もできずに“完敗”した山口氏が事件の裁判を続けることは、一般的に恥の上塗りのように見られがちだが、「すぐ控訴する!」と息巻いているのは、政権のオトモダチが増える上級審なら今回の判断が覆る自信があるからなのか。
この事件では、レイプ疑惑について取材を受けた山口氏が、“官邸のアイヒマン”の異名を持つ警察官僚の北村内閣情報官(現・日本版NSC局長)に助けを求めた可能性も指摘されている。取材のメールを送った「週刊新潮」に、<北村さま、週刊新潮より質問状が来ました。伊藤の件です。取り急ぎ転送します>というメールが送られてきたというのだ。
焦った山口氏が誤って、「北村さま」に転送すべきところ、新潮に返信してしまったものとみられる。
■政権がらみで“国策不捜査”が続く
著書に“安倍ヨイショ”本の「総理」がある山口氏はTBS退社後、「安倍首相に最も近いジャーナリスト」を売りにテレビに出まくっていた。その彼に嫌疑がかかった事件の周囲で蠢く官邸の警察官僚。逮捕状が下りるまで証拠が揃った事件で、なぜ急に逮捕が取り消され、最終的に不起訴になったのか。民事訴訟で詩織さんの主張が全面的に認められた今こそ、この異様な事件と捜査の徹底的な検証が必要なのではないか
「この政権下では、本来捜査されるべき案件がきちんと捜査されてきていない。甘利元経済再生相が大臣室で現金を受け取った問題を筆頭に、小渕優子元経産相の政治資金問題、財務省の公文書改ざんなど、本来なら起訴されてもおかしくない案件で“国策不捜査”とでも言うしかない事態が続いています。これは『1強』政権への忖度が検察組織にまで及んでいる証左でしょう。
警察も同様で、警備・公安部門を中心とした警察官僚が官房副長官や日本版NSCの局長などに次々抜擢され、官邸中枢に深く食い込んでいる。本来は一定の距離を保つべき政権と警察・検察が近づき過ぎるのは非常に危うい。民主主義国家として極めて不健全な状態と言わざるを得ません」(ジャーナリストの青木理氏)
容疑の証拠が揃っていても、首相のオトモダチなら逮捕を免れるというのなら、それはもう法治国家とは言えないのだ。三権分立にも反する
「この政権では、法の下の平等という憲法の基本概念さえ蹂躙されている。権力の私物化が捜査も歪め、オトモダチの犯罪をもみ消したという疑いを持たれるだけでも大問題ですが、それがもし事実ならば政権が吹っ飛ぶ話です。警察官僚が官邸を支配する暗黒政権の最大の急所といっていい。この長期政権で、権力側の疑惑は常に『問題ない』『違法性はない』のセリフで片付けられてきた。司法を抑え込んで、やりたい放題なのです。
一方で、権力に盾突けば社会的に抹殺されかねない恐怖社会になってしまった。首相に近い山口氏の性犯罪を告発した詩織さんにも、おぞましいまでの誹謗中傷がありました。安倍政権は反社会勢力について『社会情勢に応じて変化し得るもので定義は困難』と閣議決定しましたが、社会秩序を破壊する官邸こそが反社そのものに見えます」(本澤二郎氏=前出)
「桜を見る会」でまざまざと見せつけられた権力の私物化や言論封殺が、詩織さんの事件にも見え隠れすることが恐ろしい。
政権に対する忖度の横行が警察行政や司法にも及び、政権から見捨てられた庶民は何があっても泣き寝入りするしかないとすれば、一体何を信じればいいのか。
民主主義国家とは、法治国家とは何かを考えさせられる事件だ。決して詩織さんひとりの問題ではない。
山口敬之被告の控訴断念とともに終わる安倍権力私物化政権
天木直人 2019-12-19
総理の権限を最大限に利用してお友達を優遇した安倍首相の権力私物化が、最初に大問題になったのは、森友学園疑惑と加計学園疑惑だった。
そしてその時、おなじく、元TBS記者山口敬之氏の準強姦疑惑もみ消し事件という三番目の権力私物化事件が起きた。
当時の報道によれば、あらゆる状況証拠がそろっているのに、安倍首相をよいしょする本や記事を書きまくった山口氏が、安倍首相を忖度する検察、警察官僚によって無罪放免されようとした事件だ。
私はこの三つの疑惑の中で一番許せないのがこの山口疑惑であると当時何度も書いて怒りをぶつけた。
その山口疑惑について、きのう12月18日、東京地裁が画期的な判決を下したのだ。
すなわち鈴木昭洋裁判長は、「酩酊状態で意識のない伊藤(詩織)氏に対し、合意がないまま性行為に及んだ」と断じたのだ。
これは、これまでの流れから見て画期的な判決である。明らかに、安倍1強の陰りと共に、忖度しない官僚が出て来たということだ。
しかし、私がここで書きたい事はその事ではない。
きょう12月19日発売の週刊新潮(12月26日号)が、この山口準強姦罪事件に関し、とどめを刺す記事を掲載した。
「闇に葬られたドアマンの供述調書」と題するその記事の要旨は、事件当日夜のホテルのドアマンが高輪警察署に語った供述内容である。
そして、その供述内容が、東京地裁の審理が10月7日に結審してしまったため、きのうの判決に活かされなかった悔しさだ。
その事について週刊新潮のその記事はこう書いている。
「・・・この原稿の締め切りは判決(12月18日)前日で、どう逆立ちしても結果を見ることが出来ない。とはいえ、確実に言えるのは、結果がどうであれ、どちらかが、あるいはいずれもが控訴するということ。だから両者は、東京高裁で更なるお上の裁きを待つことになる・・・」と。そして、その記事の通りの展開になる。
山口敬之氏は「法に触れることは一切していない」と判決を全面否定して、控訴の意思を明らかにしたからである。
ところがである。私が書きたいのはこれからだ。
山口敬之氏が控訴した時こそ、週刊新潮が報じたドアマンの供述書が東京高裁で活かされる時だ。そして、その供述書が公になれば、準強姦罪をもみ消そうとした当時の警視庁刑事部長であった中村格(いたる)氏の大罪が満天の下にさらされる事になる。
その中村氏が権力の私物化に加担した論功行賞で次期警視庁長官に栄転する不条理が明らかになる。すべてを知った一般世論は、今度こそ安倍政権の権力私物化は許せないとなる。
ただでさえ「桜を見る会」で急速に衰えつつある安倍首相の権力だ。おまけに森友疑惑も加計疑惑も終わっていない。その上に東京高裁におけるドアマンの証言が明らかになれば、その時こそ安倍首相は終わりだ。
そしてもはや完全に4選をあきらめた安倍首相は、何としてでも東京五輪までは首相を続けたいと考えている。8月まで総理を続け、連続首相在任期間で桂太郎を抜いて、文字どおり史上最長の長期政権記録を打ち立てようと考えている。
だから、その邪魔になるような山口氏の控訴はあってはならないのだ。
この週刊新潮の記事を読んだ安倍首相と菅官房長官は、山口氏に控訴断念を迫るだろう。
そして山口氏はそれに逆らう事が出来ず、控訴の手続きを控え、そして最後は控訴断念を東京高裁に伝えることになる。その時こそ安倍政権が事実上終わる時である。山口敬之被告の控訴断念とともに終わる安倍権力私物化政権と私が書いた理由がここにある(了)