安倍政権は任期中に必ず改憲案を発議しますが、問題は、改憲の突破口としてどの条項を出してくるのかです。
思想家の内田樹氏は、安倍政権は短期決戦で臨んでくるとして、それには「緊急事態条項」1本で来るしかなく、そうする筈だと述べています。
「緊急事態条項」の危険性はこれまで何度となく取り上げてきましたが、それこそは基本的人権も立憲主義も三権分立も停止させられる・・・要するに憲法を実質的に停止させることができる万能の条項です。
そしてひとたび緊急事態条項が盛り込まれれば、国会の過半数を制した政党は永遠の独裁体制を維持できます。
しかもそれほど超危険な条項であるにもかかわらず、一般の国民にはあたかも「緊急事態条項」は「大規模自然災害」が起きた際に有効に作用する条項であるという印象を与えることができるので、国民に受け入れられやすい=国民投票で支持されるからです。
内田氏によれば、政府は最初からその条項を国会にぶつけるようなことはしないということです。
政府はとても周到であって、最初にいくつかの議論を呼ぶ条項を提案しておいて、それらが膠着状態になった時点で、「どうも話がまとまりそうもありませんから、どなたにも異論のなさそうな、この『緊急事態条項』だけを『加憲』するというとことで手を打ちませんか」と持ち出してくるだろうということです。
なるほどさもありなんと納得させられる、実に説得力のある話です。
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基本的人権も立憲主義も三権分立も、
すべて「緊急事態宣言」の発令中は停止されます
内田樹 ツイッター 2016年7月13~14日
『女性自身』に送稿。
安倍政権には「タイムリミット」があります。
首相の総裁任期と次の衆院選です(3分の2とれる保証はありません)。
短期決戦となると、逐条的な議論はできません。
改憲勢力とのすり合わせの時間さえない。
すから、「緊急事態条項」一本で来るはずです。
緊急事態条項を一般国民はせいぜい「大規模自然災害」のときの緊急避難的措置だと思っているはずです(与党もそう言い張るはずです)。
でも、これは総理大臣が「特に必要があると認める」ならば、どんなことでも「緊急事態」に認定でき、それが宣言されると憲法が停止されるということです。
政府が発令する政令が法律に代わる。
基本的人権も立憲主義も三権分立も、すべて「緊急事態宣言」の発令中は停止されます。
そして、草案をよく読めば分かるとおり、この宣言は100日ごとに国会で継続決議を繰り返せば無限に延長できます。
緊急事態宣言を承認した国会議員たちは、解除の宣言を総理大臣がするまで「終身国会議員」の身分を保証されます。
つまり、ひとたび緊急事態条項を通してしまえば、国会の過半数を制した政党は永遠の独裁体制を維持できる。
これを変更するためには革命しかないという窮地に国民は追い込まれるのです。
与党はまず九条、十三条、二十五条といった「論争的な条項」の改定を持ち出して国論を二分する大騒ぎを作り出す。
しかるのちに「どうも話がまとまりそうもありませんから、どなたにも異論のなさそうな、この『緊急事態条項』だけを『加憲』するというとことで手を打ちませんか」と言い出す。
条文についての些末な議論に倦んだ国民は、「それで政府が『ひっこむ』というのなら、それくらいは認めてやってもいいじゃないか」と妙な寛大さを発揮して、「大規模災害のときに指揮系統を一元化するだけのことでしょ?」くらいの理解で、国民投票に臨む・・・そして日本の立憲主義は終わる。
官邸はそういう「絵」を描いています。
僕がいま官邸にいて首相のスタッフだったら、必ずそのシナリオを書きますから。
ですから、みなさんよく見ていてくださいね。
これから「僕の言う通り」に官邸と与党は動きますから。
昨日の夜に書き込んだツイート(改憲は「緊急事態条項一点張りで来る」という予測)が2500RTに達しました。
すごいですね。
「そうだ!」と同意してくれた人がそれだけいたということだと思います。
自民党は必ずその手で来ます。
それが改憲の実を取る一番確実な方法だからです。
何度でも書いておきますけれど、緊急事態条項というのは「憲法を停止できる場合についての規定」のことです。
総理大臣は「特に必要があると認めるとき」はいつでも好きなときに緊急事態を宣言して、憲法を停止することができます。
認める」だけで立憲政治が未来永劫に停止できるのです。
緊急事態とはどんな場合でしょう。
「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる」「内乱等による社会秩序の混乱」というのがくせものです。
自民党政治家はこれまでも国会外でのデモや街宣を「テロ」だという発言をしてきましたが、安倍首相はその発言を一度も否定したことがありません。
デモや街宣を「内乱等」の「等」に認定するかどうかは総理大臣の一存で決まるのです。
「閣議にかけて」も総理独裁の制約にはなりません。
ご存じのとおり、安倍内閣になってから閣議の平均時間は13分です。
大臣と官房長官で20人。
一人40秒しか発言していない勘定です。
そもそも閣議で発言するためには事前に書面で発言内容を官邸に告知する義務があるんだそうです。
自民党改憲草案には「要件」と言えるような規定はありません(総理が「等」に「認定」すれば済むのですから)。
憲法停止状態が非常事態宣言時点での国会多数派の賛成さえあれば永遠に延長できるというのも法理的に異常です。
非常時に憲法を停止する国家緊急権は世界の多くの国に規定があります。
けれども、その「要件」については厳密な規定があります。
基本原則は「憲法を停止することによって国民が得られる利益が、憲法を停止することによって国民が失 う利益を超えることが確実であること」です。
ナチスの全権委任法は33年に制定された4年間の時限立法でした。
ですから37年に失効するはずでした。
でも、当然のように延長され続け、最終的に43年を最後に国会さえ召集されなくなりました。
全権委任というのは、よほど厳密に有効期限と範囲を規定しなければ、必ずこの前例を繰り返します。
非常事態条項について、諸外国の憲法やコモンローでは国家緊急事態に際して、どのようなしかたで行政府の暴走の「歯止め」を効かせているのか、専門家のご教示を承りたいです。
「これを読んだらいいよ」という本があればお教えください。
>池田清彦 どんな形の改憲であれ、改憲は独裁への道ですから、絶対に賛成してはダメですよ。権力は甘言をろうして国民を騙しにかかって来るでしょうが、うっかり賛成すると、国政選挙はもう二度と行われなくなる可能性すらあります。後は権力の意のままになり、日本は中国や北朝鮮と同じレベルの国になります。
やっぱり予想通りになりました。
これから官邸とメディアは「緊急事態条項は災害の場合には絶対必要」「緊急事態条項は世界中のどこの国の憲法にもある」と言い出します。
ここが今から立憲政治の存否の戦いになります。