言うまでもなく日本は、かつて西欧から繰り返し隊列を組んで中東に侵攻した十字軍とは全く無縁です。しかし今ではイスラム国などから「十字軍の国」とされています。
つい数年前までは日本は中東のどの国からも友好国として扱われました。それが安倍首相が登場してからは、完全にイスラム国から敵国とされるようになりました。
あの湯川遥菜さんと後藤健二さんが、冷酷にも安倍政権から見殺しにされた悲劇はまだ記憶に新しいところですが、その後シリアの反体制組織に拘束された安田純平さんに対しても、政府が何か救いの手を差し伸べているようにはとても見えません。現に、これまで仲介の労を取ろうとしてきたところは、日本政府が全く応じないことにさじを投げたとして、「手を引く」声明を出したばかりです。
そして今回のダッカの悲劇です。
安倍首相はあのとき「日本人には指一本触れさせない」と高言した筈です。勿論それは単なる出まかせであり、それによって何か実効性のあることが行われるなどと信じた人はいませんでした。それどころか、実際に悲劇に見舞われるのは当の安倍氏ではなくて、世界の最前線で働いているごく普通の日本人たちであるということを100人が100人思いました。そして事実そうなりました。
五十嵐仁氏は、バングラデシュでの許されざる惨劇は、戦争法の成立によって日本が踏み込もうとしている領域がどれほど危険なものであるかを垣間見せたとして、そこに日本を引きずり込んでしまった安倍首相の罪は極めて重いとしました。
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戦争法を成立させ「日本人を標的」にしてしまった安倍首相の罪
五十嵐仁の転成仁語 2016年7月4日
「イタリア人を含む『十字軍の国』の人々を殺害した。イスラム教徒の殺害を続けるかぎり、十字軍の国の人々に安全は確保されないと知らしめるためだ」
歴史的な常識からすれば、日本は「十字軍の国」ではありません。それなのに、このイスラム国(IS)を名乗る声明は「『十字軍の国』の人々を殺害した」と述べています。
いつから、日本は「十字軍の国」になったのでしょうか。国際テロが「日本人を標的」とするようになったのは、いつからなのでしょうか。
バングラデシュの首都ダッカで1日夜に武装集団がレストランを襲撃した人質テロ事件で、治安部隊は人質のうち13人を救出しましたが日本人7人を含む外国人20人が死亡しました。実行犯6人は殺害され、1人は拘束されたそうです。
またもや理不尽なテロによって多くの方が犠牲になりました。亡くなられた方を悼むとともに、満腔の怒りをもって蛮行を糾弾するものです。
亡くなった男性の父親は「煮えくりかえる思い。息子は帰ってこない」と無念さをにじませたそうです。突然、肉親を奪われた人々の怒りと悲しみはいかばかりでしょうか。
救出された人質たちの証言によれば、武装集団は外国人を標的としてコーランを暗唱させ、できない場合に殺害していたそうです。銃声の中で「私は日本人だ、撃たないで」 という声が聞こえたといいますが、それはかえって逆効果だったかもしれません。
ISの声明にあるように、標的とされたのは「十字軍(対IS有志国連合)参加国の市民」であり、日本人もそれに含まれていたことは明白です。それは日本が「十字軍(対IS有志国連合)参加国」とみなされているからです。
つまり、今回の事件の背景には、ISと戦う周辺諸国への資金援助を表明したエジプトでの安倍首相の演説や有志国連合への参加など、この間の安倍首相による外交政策が存在していました。安保法制(戦争法)の整備によって日米同盟の絆が強化されたと安倍首相は自慢していますが、その絆の強まりによって日本はアメリカの仲間とみなされ、ISなどの国際テロの標的とされるようになりました。
かつてアメリカのブッシュ大統領は9.11同時多発テロに対して「反テロ戦争」を宣言し、大量破壊兵器の開発・保有という濡れ衣を着せてアフガニスタンンやイラクを侵略することでISの前身と言われる「イラクの聖戦アルカイダ」を誕生させました。日米同盟によってこの侵略を支持し、自衛隊をイラクに派遣したのが小泉首相です。
この時から、国際社会の日本を見る目が変わり始めたのではないでしょうか。「やはり日本もアメリカの仲間だったんだ」とイスラム社会からの敵視が強まり、日本人も狙わるようになって香田証生さんが犠牲になりました。
その後、アルジェリアでも10人の日本人が殺害され、昨年の初めには2人の日本人がISによって命を奪われました。その時、ISは「アベよ、お前の悪夢を始めよう」と警告していたのです。
このようななかで昨年9月に成立したのが戦争法であり、これによって日米同盟の絆が強まったのは、安倍首相の言う通りです。しかし、その結果、日本もアメリカ主導の有志連合国の有力な構成員であるとみなされるようになり、日本への国際テロによる敵意と脅威も強まりました。
そのような敵意の強まりは直ちに表面化します。戦争法が成立した翌10月、バングラデシュで60代の日本人がISの現地支部を名乗るグループに殺害されたのです。
そして今回の事件では7人の日本人が犠牲になりました。このような事件を防ぐのは極めて困難ですが、これまでに書いてきたような一連の経過と背景がなければ、今回のように日本人が標的にされることもなかったのではないでしょうか。
このような明確な経過と背景があるにもかかわらず、マスコミではほとんど触れられず解説されてもいません。はっきりと指摘するべきでしょう。
戦争法の成立による日米同盟の絆の強まりは海外での日本人の安全を守るうえで全く無力であるばかりか、かえって有害であるということを。それは国際テロに対する抑止力にならないどころか、かえって呼び水となっているということを。
安倍首相が歩もうとしている「この道」は、国内ではすでに失敗し破たんしているアベノミクスからの離脱を阻害し、国外では国際テロによって標的とされるような危険な状況に在外邦人を追いやることになります。そのような誤った「道」を今後も歩み続けて良いのかどうかが、現在の参院選で問われている重大な争点の一つなのです。
日本は、イラク戦争への加担や対IS有志連合国への参加によって新たな危険な領域へと足を踏み入れてしまいました。戦争法の成立によって日米同盟は文字通り「血の同盟」になろうとしています。
今回のバングラデシュでの許されざる惨劇は、日本が踏み込もうとしている領域がどれほど危険なものであるかを垣間見せました。同時に、戦争法の成立によって、そのような領域へと日本をさらに深く引きずり込んでしまった安倍首相の罪の大きさをもはっきりと示しているのではないでしょうか。