2016年7月27日水曜日

改憲勢力3分の2 に直木賞作家の中島京子が強い危機感!

 参院選では、ついに改憲勢力に3分の2の議席を与えてしまいました。それなのに国民からはあまり危機感が表明されていません。仮に政府が改憲を発議しても国民投票で阻止できると考えているからでしょうか。

 山田洋次監督が松たか子主演で映画化した『小さいおうち』などの作品で知られる直木賞作家の中島京子氏は、政府が緊急事態条項から手をつけようと世論を誘導していることに、国民が殆ど忌避感を示さないでいる現状に対して、強い危機感を持っています(LITERA)。
 
 彼女は、改憲には国民の過半数の賛成を要するということが、実はそれほど大きなハードルにはなっていないとして、若しも投票率が50%であればその半分の25%以上で改憲が成立してしまうので甘く考えてはいけないとし、かつては例えば女中をしていた人が気がついたときには戦争になっていたという風に展開しましたが、いまは自分たちが選挙権をもっていて改憲への賛否を投じることができるのだから、未来において同じようなことが起きたらそれは私たちに責任があると述べています。
 そして『小さいおうち』に描かれている太平洋戦争に突入していった状況と現在の政治状況がよく似ていて、いまを生きている人々のメンタリティ当時と同じだとして、反動政治への無関心と無知こそが最大の敵であると強調しています。
 
 LITERAはもう一つ、思想家の内田樹氏が、安倍政権任期との関係で時間的余裕がないから改憲への道筋、「緊急事態条項」の一点で勝負に出ると予測していることに触れ、「緊急事態条項」の本質は憲法改正よりも危険な、“憲法停止”であり、もしもその加憲が成立すれば事実上の独裁体制が成立すると述べていることを紹介しています
 
 しかしなぜか、事態がそれほど風雲急を告げていることを国民理解していません。
 中島氏の危機感はそこにあります。
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改憲勢力3分の2 に直木賞作家の中島京子が強い危機感! 
内田樹も「安倍の狙いは憲法停止」と恐怖のシナリオを予測
LITERA 2016年7月25日
 改憲隠しという姑息な戦略によって参院選で勝利をおさめた安倍政権だが、早くも憲法改正に向けて水面下で動き始めたらしい。公明党、おおさか維新の会に対しては、まず、緊急事態条項から手をつける“お試し改憲”の方向で根回しを開始。テレビでも、“安倍応援団”の評論家・ジャーナリストにその緊急事態条項の必要性を叫ばせるなど、露骨な世論誘導を展開し始めた。
 ところが、これに対する国民の反応は鈍い。改憲勢力が3分の2を占めたというのに、昨夏の安保法制のときのような危機感はほとんどなく、むしろ「改憲なんてそんなに簡単にできるわけがない」と、楽観的な空気が支配している。
 こうした状況に、警告を鳴らしているのが、山田洋次監督が松たか子主演で映画化した『小さいおうち』(文藝春秋)などの作品で知られる直木賞作家の中島京子氏だ。
 
 中島氏は先週発売の「女性自身」(光文社)8月2日号で、参院選の結果について、「『改憲勢力が議席の3分の2を獲得』という最悪のもの。私自身も大変なショックでした」と嘆き、国民投票に向けて憲法を守るための準備を始めるべきだと力説している。
「改憲は『国民の過半数の賛成』がないと成立しないと思っている人が多いようですが、大間違いです。国民投票は有効投票数の過半数で可決し、最低投票率は設けていない。今回の参院選の投票率は五十数パーセントでしたから、それと同じレベルだとすると、その過半数で可決となる。国民の『4分の1』ほどの賛成で改憲されてしまうのです」
 「だから、国民投票を棄権してはダメ。日本国憲法やその解説書を読んだり、識者の意見に耳を傾けたりして、投票の準備をしてほしい。自分のためだけでなく、お子さんや、未来に生まれてくる子供たちに胸を張って渡せるバトンは『平和憲法』だけなんです」
  
 まさに、切実な危機意識と日本国憲法への思いが伝わってくるコメントだが、中島氏はこれまでも、憲法について積極的に発言してきた。
 その大きなきっかけは、やはり、中島氏が2010年に第143回直木賞を受賞した前述の小説『小さいおうち』だ。この作品は1930年代から40年代後半の日本が戦争に突き進み、次第に戦況が悪化する時代とその後を描いたものだが、“普通の人々”が、知らず知らずのうちに戦争に巻き込まれていく様がていねいに活写されている。中島氏は映画公開後のインタビューでこんなことを言っている。
「驚くのは本当に戦争が悲惨になるまで、ふつうの人々に悲愴(ひそう)感がないことですね。裏を返すと、人々が気づかないうちに、戦争が泥沼化し、気がついたら後戻りがきかなくなった。戦争って、そんなふうに始まるんですね。(略)時間を追って、戦争の経緯を背景に人々の日常を調べていったら、怖くなりました。今もまた、いつの間にか、ハチマキを巻き、竹やり持ってしまうんじゃないか。そういう可能性があるわけです。この小説を書いたのは安倍政権の前です。当時は『もしかしたらちょっと怖いな』という感じでした。でも、一昨年、安倍政権が誕生し、あっという間に時代が進み、今は『もしかしたら』が外れた感じがしますね。本当に私、怖いです」(日刊ゲンダイ14年2月8日付)
 
 中島氏はその後も講演などで、戦前と戦後の違いとは平和憲法である日本国憲法があるかどうかだと訴え続け、参院選前の5月8日に東京・高円寺で行われた太田啓子弁護士との「直木賞作家・中島京子さん×太田啓子弁護士の対談 憲法カフェ」では改憲に無関心でいる怖さについて語っている。
 
「小説の中では、それまで楽しく過ごしていた女中のタキちゃんが、「はっ」と気がついたときにはものすごい戦争になっています。実際に、そういう人も多かったと思う。(略)だけどいま、私たちは選挙権をもっているし、新しい憲法もある。未来に同じようなことが起きたら、それは私たちに責任があると思うんです」
 「今日があって明日が来て…と生活している中で、突然何かが大きく変わるわけじゃないんですよね。じんわりじんわりと、気がつかないうちに変わっていく」(「マガジン9」より)
 中島氏が指摘するのは、『小さいおうち』で描いた太平洋戦争に突入していった状況と現在の政治状況、そして当時といまを生きる人々のメンタリティは同じだということ、そして、無関心と無知こそが最大の敵であるということだ。
 
 しかし、残念なことに中島氏のこうした指摘や危惧は次第に現実味を帯びてきてしまっているといわざるを得ない。
 
 最初の中島氏のコメントは、「女性自身」が5週連続で掲載していたキャンペーン企画「自民党『改憲草案』を解く」の「特別編」として掲載されたものだが、その同じ企画のなかで、思想家の内田樹氏は今後の安倍政権が強行するであろう憲法改正への道筋を予測している。
 内田氏はまず、安倍首相には任期の関係で時間的余裕がないと分析し、憲法本体には手をつけず、「緊急事態条項」の「加憲」の一点で勝負に出ると予測する。そして、その狙い、本質はむしろ、憲法改正よりも危険な、“憲法停止だと指摘するのだ。
「『緊急事態条項』を通せばそれから後は何が起きようと総理大臣がこれは『緊急事態』だと認定すれば、憲法が停止できます。政府の出す政令が法律に代わる。つまり、事実上の独裁体制が成立します。(略)『改憲』ではなく『廃憲』です。緊急事態条項さえ通せば、総理大臣は憲法を好きなときに停止できる。つまり国民主権・立憲主義をうたう憲法の全体が無効化されるということです。」
 いまから3年前、麻生太郎財務相が「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。あの手口を学んだらどうか」と発言し、暴論だと大きな批判を浴びたが、しかしそれが暴論などではなく現実化しつつあるというのだ。
 
 中島氏の危惧する国民の無知、無関心がこのまま続けば、内田氏が警告する恐怖の改憲シナリオは現実のものになるだろう。心あるメディアは安倍政権の改憲への水面下の動きを暴露し、護憲派は政権の先手を打たれる前に、憲法を守る国民運動の流れをつくり出さなければならない。 (伊勢崎馨)