2016年7月12日火曜日

参院選の総括 有権者は改憲勢力をどう意識したのか

 参院選では野党共闘は一定の成果を上げましたが、自民・公明・おおさか維新の3党に3分の2を超える議席を与えてしまったので、衆参両院で改憲を発議することが可能になりました。
 しかし別項の記事にあるように、自民・公明・おおさか維新など改憲4党の考え方はそれぞれ異なっているので、簡単に改憲が発議されることはなさそうです。ただ安倍首相は任期中の改憲に執念を持っているので、この先どんな展開になっていくのかは予断を許しません。
 いずれにしてもこれからは改憲の発議を許さない闘いが重要になります。
 
 参院選の結果について総括した3つのブログを紹介します。
 東京新聞の記事:「有権者、改憲は票に結び付かず・・・」も末尾に添付します。
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改憲勢力が3分の2を上回った参院選の結果をどう見るか
五十嵐仁の転成仁語 2016年7月11日
 歴史の曲がり角として注目されていた参院選の投・開票が終了し、結果が出ました。今回の参院選での各党の議席は、以下の通りです。
 
自民56、 民進32、 公明14、 共産6、 維新7、 社民1、 生活1、 無所属4
 
 自民党は単独過半数となる57議席に1議席足りない56議席を獲得しました。公明党は14議席を得て、安倍首相が勝敗ラインに設定した与党の改選過半数である61議席を上回り、70議席になりました。
 自民・公明・おおさか維新の3党など改憲勢力の非改選議席は88議席で、参院で憲法改正の発議ができる3分の2(162議席)までには74議席が必要でした。今回の選挙で3党の議席はこれを上回る77議席に達したため、衆参両院で改憲発議が可能になっています。
 参院で27年ぶりに単独過半数を回復することはできませんでしたが、それ以外の目標を安倍首相は達成したことになります。私が注目していた「9年目のジンクス」は不発に終わり、自民党の大敗も首相の辞任も幻にすぎなくなりました。
 
 このような結果になった理由の一つは、「選挙隠し選挙」とも言うべき自民党の戦術が功を奏したことです。今回の参院選では、選挙についての報道が極めて少なく、選挙が行われていたこと自体、どれだけの国民に知られていたのか疑問に思われるほどです。
 
 特に、テレビ番組での取り上げ方はひどいものでした。安倍首相が断ったために選挙が公示されてからの党首討論はTBSでの一回しかなく、政策論争は言いっぱなしで深まることはありませんでした。
 選挙への関心も高まらず、2013年参院選から2.09ポイント回復したものの、最終的には54.70%で過去4番目の低さでした。このような投票率の低さは、参院選についてのテレビでの報道などの低調さを反映していると言えるでしょう。
 
 第2に、「争点隠し選挙」も与党の勝利に貢献しました。安倍首相は選挙前に必ず引き上げると約束していた前言を翻し、「新しい判断」だとして消費増税の先送りを表明しました。
 本来であれば最大の争点になっていたはずの消費再増税の是非という問題を消滅させてしまったわけです。また、改憲についても街頭演説では口を閉ざして争点化を避け、「改憲隠し選挙」を徹底しました。
 アベノミクスを煙幕に使って、国民に評判の悪い争点を「隠す、歪める、嘘をつく」という選挙戦術を駆使したわけですが、しかし、それでも隠し切れなかったところでは自民党が苦杯をなめています。TPPが問われた東北各県の1人区で、秋田を除いて野党共闘が勝利し、原発や震災復興が問われた福島県では現職の岩城光英法務大臣が落選、米軍基地のあり方や新基地建設が問われた沖縄でも現職の島尻安伊子内閣府特命担当相が落選しました。
 
 第3に、選挙直前の客観的な情勢も与党に有利に働いたように見えます。熊本地震の発生、イギリスのEU離脱をめぐる世界経済の不透明化、バングラデシュでの邦人テロ被害、北朝鮮のミサイル発射や中国の軍事活動など不穏な周辺情勢の推移などは、国民の不安を強めるものでした。
 国際情勢の不安定化の責任は、本来、戦争法の制定によって日米同盟の絆を強めてきた安倍首相自身が負うべきものであったにもかかわらず、ここでも「隠す、歪める、嘘をつく」という選挙戦術が駆使されました。そのために不安感を高めた有権者は事態の背景を理解できず、安心・安全を求めて政権党に対する依存心を強めたのではないでしょうか。
 安定を求めて変化を嫌った結果が、現状の維持を選択することになったと言うわけです。アベノミクスについても、不安定な経済情勢の下で有権者はもう少し様子を見ようという気になったのかもしれません。
 
 これに対して、野党は32ある1人区で共闘を実現し、改憲勢力の3分の2突破を阻止しようとしました。その結果は、11勝21敗というものです。
 この野党共闘は大きな成果を上げたと評価して良いでしょう。このような共闘がなければ選挙区での接戦は生じず、11の1人区で野党候補が当選することは難しかったでしょうから。
 
 参院選と同時に実施された鹿児島県知事選で元テレビ朝日コメンテーターの三反園訓候補が現職の伊藤祐一郎候補を破って初当選しましたが、これは参院選での野党統一候補として県連合事務局長が立候補する代わりに県労連事務局長が県知事選統一候補となった後、川内原発の一時稼働停止などの政策協定を三反園さんと結んで辞退した結果でした。このような形で事実上の野党統一候補となったために三反園さんは当選できたわけで、これからの都知事選や将来の衆院選でも生かされるべき重要な教訓です。
 
 この選挙の結果、安倍首相は改憲に向けての攻勢を開始するにちがいありません。すでに、憲法審査会での協議を始める意向を明らかにしています。
 いよいよ、憲法をめぐる本格的な対決が始まろうとしています。改憲に反対する野党4党の存在は重要であり、今回の選挙で改選議席を倍増させた共産党の役割はますます大きなものとなるにちがいありません。
 
 
与党圧勝、改憲派が3分の2以上の議席になるも、展望開いた野党共闘。
1人区は2勝29敗から11勝21敗へ。
Everyone says I love you ! 2016年07月11日
 2016年7月10日の参院選では、全国で32ある改選数1の「1人区」のうち、自民が21選挙区を制して大きく勝ち越し、全体でも自民、公明、おおさか維新、こころの改憲4党と無所属議員のうち改憲派の議員を合わせると3分の2の議席を確保しました。
 ただ、3年前の前回参院選では自民が29勝2敗と圧勝したのに対し、今回は野党側も1人区の全32選挙区で候補を一人に絞り、その結果11選挙区で議席を確保しましたので、野党共闘が一定の成果を上げたと言えそうです。
 
 もし、野党共闘にしなかったらどんな惨状だったかということを考えると、市民が橋渡し役になって野党が共闘した野党共闘には確実に効果があったと言えます。
 とくに凄かったのは、全部1人区になった東北6選挙区
 福島、宮城で改選数が2から1に減る中、自民党は1議席を獲得。統一候補を擁立した民進、共産、社民、生活の野党4党は5議席を得て、野党共闘対与党は5対1と野党の圧勝でした。
 また、野党側は、今回から改選数が2から1に削減された宮城、新潟、長野の全てで自民に競り勝ちました。
 そして、福島、沖縄では、自民の現職閣僚を破っています
 
 今回は、1人区しか野党共闘ができませんでしたが、1人区の野党共闘を深めていくだけでなく、次回の参院選では複数が当選する選挙区でも野党共闘をできるだけ進めるべきでしょう。
 また、今年末から来年にかけて解散総選挙が予想される衆院は選挙区がすべて小選挙区ですから、全選挙区での野党共闘をこれから進めてほしいものです。
 自民党が勝ったという以上に、民進党が負けたという選挙。民進党はもう4回連続で負けていますから、ちゃんと考えないとだめですね。
各党の議席は世論調査の通りで、ほぼほぼ予想の範囲内、むしろ自民党の議席はもう少し多いかと思っていたくらいでした。
 リベラル派の方々も無所属を含めて、改憲派で3分の2以上になることは覚悟されていたのではないでしょうか。
 一回の選挙で一喜一憂して絶望したりするべきではありません。
 常に闘いは今ここからです。
 まず、改憲発議をストップすること。
 
 
北海道・奥羽越列藩同盟が参院選で大勝利
植草一秀の「知られざる真実」 2016年7月11日
第24回参議院議員通常選挙が実施され開票結果が明らかになった。
改選定数121議席のうち
改憲勢力は
自民    56
公明    14
おおさか    
こころ     0
反改憲勢力は
民進    32
共産     6
社民     1
生活     1
無所属    
の各議席を獲得した。
改憲勢力が77議席を獲得し、非改選84を合わせて161議席を占有する。
ただし、非改選議席の4議員が改憲賛成を示しており、改憲勢力が165となって、参院議席総数の3分の2を超える。
安倍政権が憲法改定に駒を進める可能性が高い。
 
焦点の1人区における自公対野党4党の戦いは21対11になった。
前回参院選では1人区において自公勢力が29対2で圧勝したから、著しい変化が生じた。
とりわけ秋田を除く東北・北海道の全道県で反自公勢力が自公勢力に勝利した。
反自公勢力が勝利を収めた地域は地続きの新潟、長野、山梨まで続いている。
北海道、秋田を除く東北、長野、新潟、山梨の面積は日本全体の44.8%を占めており、
東日本で 反自公勢力が優勢 西日本で 自公勢力が優勢 となった。
明治維新の際の戊辰戦争では奥羽越列藩同盟が形成されたが、東日本が反安倍自公政権、西日本が親安倍自公政権という図式が形成されたとも言える。
北海道では民進党が2議席を確保、青森、岩手、福島、宮城、新潟、山梨で反自公勢力が厳しい戦いを制した。野党共闘は大きな成果を発揮したと言える。
 
しかし、投票率は54.70%。
前回選挙よりも2.09%上昇したが、それでも主権者の半分近くが選挙に行かなかった。
比例代表選挙における各政党の得票率は以下のとおり(推計)
      得票率        絶対得票率
自民    35.91    19.63
公明    13.52     7.39
おおさか    9.20     5.03
こころ     1.31      0.72
民進    20.98    11.47
共産    10.74      5.87
社民     2.74      1.50
生活     1.91      1.04
 
全有権者のうち、自公に投票した人は   27.02%、改憲4党に投票した人は 32.77% だった。
他方、反自公4党に投票した人は19.88%だった。
33対20で改憲勢力に投票した者が多い。ここから三つの事項を引き出せる。
1.東日本全体で反安倍政治の気運が極めて高まっていること。
2.野党共闘によって安倍自公勢力に打ち克つことは十分にできることが証明されたこと。
3.投票率を引き上げて、「安倍政治を許さない!」主権者の投票を促すことが極めて大事なこと。
「安倍政治を許さない!」側の「声掛け作戦」=「F(フレンド)作戦」が足りなかった。
次の衆院総選挙に向けて、「安倍政治を許さない!F作戦」を全開にすることが日本政治を救う切り札になる。
(以下は有料ブログのため非公開)
 
 
有権者、改憲は票に結び付かず 経済を重視、共同通信世論調査
東京新聞 2016年7月11日
 共同通信社は、参院選での有権者動向を探るため、計3回にわたり全国電話世論調査を実施した。憲法改正については反対派が多かったものの、投票する際の判断基準とする人は少なかった。野党は争点化を狙ったが、投票行動にはあまりつながらなかったことがうかがえる。安倍晋三首相が主要テーマにした経済政策への関心は一貫して高かった。
 
 調査は6月初旬、中旬、7月上旬にそれぞれ実施。安倍首相の下での改憲について聞くと「反対」との意見は、第1回と投開票直前の3回目ではいずれも50%を上回り、2回目も48・2%だった。「賛成」はいずれの回も30%台にとどまった。(共同)