安倍首相は参院選中には改憲のことはおくびにも出しませんでしたが、開票が終わった途端、「自民党は元々改憲を党是としていて、その案は既に自民党改憲草案として発表してある」と、態度を豹変させました。見事な変わり身です。
改憲の第一目標は緊急事態条項のようで、選挙が終わると同時に、御用コメンテーターたちは「大災害時のために」ということで緊急事態条項の必要性に言及し出しました。
そんななか安倍応援団として知られている評論家・宮家邦彦氏(元外務官僚)が、ついに、「東京五輪で安全を確保するためには基本的人権の制限もやむを得ない」と言うに至りました。これまでのようなあいまいな言い方ではなく、「基本的人権の制限」とストレートに表現したのはある意味で潔いのですが、一体なぜ「戒厳令状態」にしないと五輪開催中の安全が維持できないというのか、余りにも短絡的です。これでは、「大災害便乗」商法を単に「五輪便乗」商法に切り替えただけということになります。
それを取り上げたLITERAによると、宮家氏は「五輪警備の安全性の確保のためには基本的人権の制限もやむを得ない」というフリップを局に作らせておきながら、口頭では、「もちろん基本的人権は大事ですから、それを制限するということよりも、基本的人権で許される枠のなかで、・・・」と補足説明をし、議論を締めくくるに当たっても、「誤解のないように申し上げますけど、私は基本的人権を制限しろと言ったんではないんです。どこの国だって、基本的人権を守ろうとしているんですよ。・・・」と、重ねて基本的人権の制限を否定したということです。
一方で「基本的人権の制限もやむを得ない」と明記しておきながら、口ではそれを否定するとは一体どうしたのでしょうか。
本心は「基本的人権の制限が必要」であることは明らかで、それが出席メンバーの顔ぶれから簡単には通りそうもなかったので、急遽そう言い繕ったのでしょうか。いずれにしても、一方で「Aである」と書き、他方で「Aでない」と否定するとは、醜態を晒したというしかありません。選挙中は改憲に全く触れることなく、選挙が終わると改憲は党是でありその案は発表済みであるとした首相の卑怯さに通じるものです。観測気球を上げただけというには余りにも幼稚でお粗末です。
25日付の別記事に載せましたが、トルコの現実を一体どう見ているのでしょうか。大弾圧が行われても自分は弾圧される側ではないから関係ないというのも卑怯な話で、とてもインテリと呼ばれる資格はありません。
LITERAの記事を紹介します。
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安倍応援団の評論家が「東京五輪時にはテロ対策で基本的人権を制限せよ」
フジ解説委員も「監視社会にすべき」と同調
LITERA 2016年7月23日
先の参院選で改憲勢力が3分の2以上の議席を獲得したことにより、政権はいよいよ憲法改正に向かって前のめりの姿勢を示し始めた。選挙の争点から憲法改正を隠し続けていたのにも関わらず、選挙が終わった途端にこのような態度をとるのは姑息としか言いようがないが、周知の通り、現在メディアではまったく必要性のない「緊急事態条項」がさも必要なものであるかのように盛んに喧伝されている。
そんななか、元外務官僚でキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の評論家・宮家邦彦氏が、7月17日放送の『新報道2001』(フジテレビ)でとんでもないことを言い出した。
「(東京五輪で)世界基準のセキュリティーを実現するためには、基本的人権の制限もやむを得ない」
太平洋戦争前の日本に回帰したかのようなトンデモ発言だが、宮家氏のこれまでの主張を鑑みれば、これくらいのことはいかにも言いそうである。
宮家氏といえば、典型的な安倍首相応援団の一員。昨年8月に発表された戦後70年談話を検討するための有識者会議(20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会)にもその名を連ねていた。
イスラム国邦人人質事件の際には、一貫して安倍首相および政権に対する擁護発言を展開。昨年2月1日放送の『サンデースクランブル』(テレビ朝日)では、日エジプト経済合同委員会合において安倍首相がイスラム国と戦う周辺国に2億ドルの支援を行うとしたスピーチがイスラム国を刺激したとの意見を真っ向から否定し、さらに「これまでの安全保障を見直す必要がある」と、その年の夏に強行採決されることになる安保法制の必要性を事件に絡めて主張する始末だった。
当サイトで取り上げたが、先日7月11日放送の『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ)でも、田崎史郎時事通信社特別解説委員が自然災害時に政治の混乱を招かないために「緊急事態条項」は必要だとデマを語り、視聴者を騙して改憲への道筋を敷こうとしていたばかり。
今回の『新報道2001』では、いったいどのような経緯で「基本的人権の制限もやむを得ない」などという治安維持法もかくやという発言が飛び出したのだろか?
番組では、先日発生したフランス・ニースでのトラック突入テロ事件を取り上げ、その事件を踏まえて2020年東京オリンピックの警備はどうあるべきかという議論が行われていた。
その議論の口火として大島由香里アナウンサーが掲げたフリップに書かれていたのが、先の宮家氏による「世界基準のセキュリティー実現のためには基本的人権の制限もやむを得ない」という意見だった。そして、そのフリップに対して宮家氏はこう補足説明を行う。
「もちろん基本的人権は大事ですから、それを制限するということよりもね、基本的人権で許される枠のなかで、公共の安全のために福祉のために、ある程度の義務を負わなければならないと思うんです」
これに対し猪瀬直樹元東京都知事は、ロンドンオリンピックでの前例をあげながら、警備を考えるなら基本的人権の制限などではなく、警察で補いきれないところを最新のテクノロジーをもつ民間警備会社とどう協力し合っていくかを議論するのが重要なのではないかと答えた。
猪瀬氏の提起した、イノベーションの進んだ民間警備会社との協力という議論について、前鳥取県知事の片山善博氏もこう賛成の意を示し、宮家氏の「基本的人権の制限」というトンデモ案をはねのけた。
「基本的人権を極端に制限することに繋がらないような、技術とか情報を駆使して、犯罪を抑止するってことは私は大いにやったらいいと思うんですね」
さらに片山氏はこう続けて宮家氏の「基本的人権の制限」がいかに危険な発想かを語る。
「基本的人権をかなり制限するってことは、よほど慎重でないといけないと思います。平和の祭典であるオリンピックで基本的人権がかなり制約されましたというのは……。また、日本の場合にはですね、いったん制約したものが、非常時に制約したものが日常化するっていう懸念があるわけですよね。だからそれをよく念頭において、できる範囲っていうのはかなり限られてくるんじゃないかなと」
片山氏の主張する通り、いったん制限された人権は間違いなく、オリンピック後も元に戻ることはないだろう。自民党憲法改正草案を一読すれば分かる通り、政権は国民の権利をできる限り制限したいと考えているからだ。
それを裏付けるかのように、政権応援団のひとりであるフジテレビの平井文夫・上席解説委員は片山氏の意見をこのように否定するのだった。
「一般の人を対象にある程度の基本的人権の規制があっても、ある程度、カメラをいっぱいつくるなど監視社会にしないともたないと思うんですけど」
そして、平井氏の発言に続き、宮家氏はこう語り議論を締めくくったのだった。
「誤解のないように申し上げますけど、私は基本的人権を制限しろと言ったんではないんです。どこの国だって、基本的人権を守ろうとしているんですよ。しかしながら、テロの脅威があれだけ強くなったときにね、日本は海で守られているんですよ、ですからまだまだ、いままでよかったんです。今後、世界、グローバルスタンダードのテロリストがやってくる場合を考えれば、やはり、いままでのやり方では絶対に不可能だと思います。そこは考えなきゃいけないと思います」
口では「私は基本的人権を制限しろと言ったんではないんです」と言っているが、この東京オリンピックに乗じて緊急事態条項のようなもので人権を制限し、その制限を政権のよいように永続的なものにしたいと宮家氏が主張しているのは明白だ。
片山氏が指摘していた通り、日本においては、いったん権限を制約してしまえば、それが元通りに戻ることはないだろう。実際、他の識者からも、緊急事態条項ができてしまえば、それからなし崩しに制限される分野が広がっていくと懸念されている。というのも、自民党の憲法改正草案自体、そのようになし崩し的に制限範囲を広げられるような余地を残しているからだ。ウェブサイト「WEBRONZA」に掲載されている自民党憲法改正推進本部副本部長の礒崎陽輔氏と憲法学者の木村草太氏の対談のなかで、木村氏はこのように指摘している。
「自民党憲法改正草案の99条3項の内容だけだと、指示を、強制力のあるものとして、人権を制約しても問題がないんだという条文の作り方になっているわけです。少なくとも憲法解釈の基本通りに読んでいくとそういうふうになっている。
国民に指示をする場合には「この範囲にとどめなければいけない」というようなことをいろいろ書いておかないと、やはり警戒心ばかりが生まれてしまいますし、実際、99条3項はこのまま作ったらこれはやっぱり人権制限に歯止めがきかなくなる、ということは指摘しておきたいと思います」
「98条の「緊急事態の宣言」についてですが、「武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害」といった具合に「等」がたくさん書いてあって、さらに「その他の法律で定める緊急事態」とまでありますから、緊急事態については法律の定義に丸投げしているようなところがあります。やはりここはもっと限定をかけていただかないと、何でもかんでも「緊急事態だ」ということになりかねません」
また、この緊急事態条項はナチスによって悪用されたことでワイマール憲法を停止させ、ヒトラーの独裁を招いた「国家緊急権」に酷似しているとの意見も多数ある。
緊急事態条項の危険性を特集した16年3月18日放送の『報道ステーション』(テレビ朝日)では、ワイマール憲法の権威であるドイツ・イエナ大学のミハエル・ドライアー教授がこのように述べている。
「この内容はワイマール憲法48条(国家緊急権)を思い起こさせます。内閣の一人の人間に利用される危険性があり、とても問題です。
一見、読むと無害に見えますし、他国と同じような緊急事態の規則にも見えますが、特に(議会や憲法裁判所などの)チェックが不十分に思えます。(中略)なぜ一人の人間、首相に権限を集中しなければならないのか。首相が(立法や首長への指示など)直接介入することができ、さらに首相自身が一定の財政支出まで出来る。民主主義の基本は「法の支配」で「人の支配」ではありません。人の支配は性善説が前提となっているが、良い人ばかりではない」
震災、テロ、東京オリンピック──政権と、彼らに寄り添うことで甘い汁を吸っている評論家たちは、こういった事例を並べて国民の危機感を煽ることで、危険な条文を憲法のなかに織り込もうとしている。加えて、そういった「基本的人権の制限もやむを得ない」などというトンデモ意見をテレビ放送局自らが提示する始末。毎度のことだが、メディアの政権へのおもねりも行き着くところまで来てしまったと思わせる宮家氏の発言であった。我々はこの嘘っぱちがまかり通ることのないよう、声をあげ続ける必要がある。(編集部)