知的障害者団体が出した緊急声明 と 障害のある人たちへの声明
神奈川県相模原市の障害者施設で起こった戦後最大のに障害者大量殺傷事件について、海外からもプーチン大統領、メルケル首相、米国務長官などからいち早く弔意が寄せられています。
一方安倍首相は、26日午前の自民党役員会で、「多数の方がお亡くなりになり、重軽傷を負われた。心からご冥福、お見舞い申し上げる。真相解明をしていかないとならない。政府としても全力を挙げていきたい」と述べたに留まりました。ネットでは通り一遍の対応だと批判されています。
TVや新聞などは連日この大事件について伝えていますが、どうすればこの種の事件を防止できるのかの議論は収斂していません。
そんななか知的障害者と家族の会である「全国手をつなぐ育成会連合会」はいち早く26日に、緊急声明を出して犯人の未曽有の凶行を非難するととともに、報道関係には障害者の家族たちが少しでも穏やかに過ごせるように特段の配慮を要請しました。
そして翌27日には「障害のある人たちへの声明」を出し、「私たち家族は 全力でみなさんのことを守るので、安心して、堂々と 生きてください」と訴えました。
いずれも振り仮名付の文章で、意を尽くした声明でした。
今度の事件で強く指摘できることは、少なくとも措置入院・退院後の患者のフォロー体制の不備が深刻であるということです。それを確立するためには、行政だけでなく司法も社会の安全を保障する責任を担う仕組みづくりを進める必要があります。
29日付の夕刊フジがその問題を取り上げましたので、併せて紹介します。
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知的障害者団体が出した緊急声明 (全文)
2016年7月26日
全国手をつなぐ育成会連合会
(知的障害者と家族の会)
平成28年7月26日未明、障害者支援施設「神奈川県立津久井やまゆり園」(相模原市緑区、指定管理者・社会福祉法人かながわ共同会)において、施設入所支援を利用する知的障害のある方々が襲われ、19人が命を奪われ、20人が負傷するという未曾有の事件が発生しました。被害に遭われ亡くなられた方々に、衷心よりご冥福をお祈りするとともに、ご家族の皆様にはお悔やみ申し上げます。また、怪我をされ治療に当たられている方々の一日も早い回復をお祈り申し上げます。
抵抗できない障害のある人に次々と襲いかかり死傷させる残忍な行為に私たちは驚愕し、被害にあわれた方々やそのご家族の無念を思い、悲しみと悔しさにただただ心を震わせるばかりです。職員体制の薄い時間帯を突き、抵抗できない知的障害のある人を狙った計画的かつ凶悪残忍な犯行であり、到底許すことはできません。
事件は、当会会員・関係者のみならず、多くの障害のある方やご家族、福祉関係者を不安に陥れ、深く大きな傷を負わせました。このような事件が二度と起きないよう、事件の背景を徹底的に究明することが必要です。今後、事件対応に関わる皆様には、まずは被害者及び被害者の遺族・家族、同施設に入所されている方々のケアを十分に行ってくださるようお願いいたします。
その上で、事件の背景・原因・内容を徹底して調査し、早期に対応することと中長期に対応することを分けて迅速に行いつつ、深く議論をして今後の教訓にしてください。加えて、本事件を風化させないように今後の対応や議論の経過を情報として開示してください。また、事件で傷ついた被害者やご遺族が少しでも穏やかに過ごせるよう、特に報道関係機関には特段の配慮をお願いします。
事件の容疑者は、障害のある人の命や尊厳を否定するような供述をしていると伝えられています。しかし、私たちの子どもは、どのような障害があっても一人ひとりの命を大切に、懸命に生きています。そして私たち家族は、その一つひとつの歩みを支え、見守っています。事件で無残にも奪われた一つひとつの命は、そうしたかけがえない存在でした。犯行に及んだ者は、自らの行為に正面から向きあい、犯した罪の重大さを認識しなければなりません。
また、国民の皆様には、今回の事件を機に、障害のある人一人ひとりの命の重さに思いを馳せてほしいのです。そして、障害の有る無しで特別視されることなく、お互いに人格と個性を尊重しながら共生する社会づくりに向けて共に歩んでいただきますよう心よりお願い申し上げます。
障害のある人たちへの声明 (全文)
2016年7月27日
全国手をつなぐ育成会連合会
(知的障害者と家族の会)
7月26日に、神奈川県にある「津久井やまゆり園」という施設で、障害のある人たち19人が 殺される事件が 起きました。容疑者として逮捕されたのは、施設で働いていた男性でした。亡くなった方々の ご冥福をお祈りするとともに、そのご家族には お悔やみ申し上げます。また、けがをされた方々が 一日でも早く 回復されることを 願っています。
容疑者は、自分で助けを呼べない人たちを 次々におそい、傷つけ、命をうばいました。とても残酷で、決して 許せません。亡くなった人たちのことを思うと、とても悲しく、悔しい思いです。
容疑者は「障害者はいなくなればいい」と 話していたそうです。みなさんの中には、そのことで 不安に感じる人も たくさんいると思います。そんなときは、身近な人に 不安な気持ちを 話しましょう。みなさんの家族や友達、仕事の仲間、支援者は、きっと 話を聞いてくれます。そして、いつもと同じように 毎日を過ごしましょう。不安だからといって、生活のしかたを 変える必要は ありません。
障害のある人もない人も、私たちは 一人ひとりが 大切な存在です。障害があるからといって 誰かに傷つけられたりすることは、あってはなりません。もし誰かが「障害者はいなくなればいい」なんて言っても、私たち家族は 全力でみなさんのことを 守ります。ですから、安心して、堂々と 生きてください。
(知的障害者大量殺傷事件)
措置入院後のフォロー体制の不備深刻 ドイツではこうしている
夕刊フジ 2016年7月29日
逮捕された植松容疑者は相模原市が決定した措置入院からの退院後、間もなく凶行に走っていた。市は「退院後は動向を一切把握していなかった」と説明。現在、法律上定めのない退院後の措置について、フォロー体制を構築すべきとの声があがる。
「大量殺人は日本国の指示があればやる」
植松容疑者は2月、警察からの事情聴取でそう答えたという。警察から連絡を受けた相模原市は措置入院を決定。入院期間は13日間だった。
短いようにも感じるが、「措置入院は強制力を伴うもので、指定医が『自傷他害の恐れがない』と判断したら解除するのが一般的だ。根拠なく入院を継続すれば、人権問題にもなり得る」と、新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)は説明する。
実際、2013年(6月30日現在)の措置入院患者1663人のうち、在院期間は1カ月未満が561人と最多。措置入院は長期に及ぶとはかぎらない。
一方、元慶応大法学部教授(医事刑法)の加藤久雄弁護士は「人格障害を持つ患者は、虚言や知的障害者をたき付けて騒動を起こすなど、入院先でトラブルメーカーとなっていることも多い。早く退院させたい病院側の意向が働くこともある」と指摘。措置入院後の患者のフォロー体制の不備は深刻だと語る。
植松容疑者は退院後の行き先として、「家族と同居」と申告。虚偽だった可能性があるが、市は本人が家族と暮らしているかの確認はせず、退院後の動向も把握していなかった。そして、退院からわずか4カ月余りで事件は起きた。
加藤弁護士によると、ドイツでは退院に当たっては、医師、患者のみならず、家族やソーシャルワーカーらの間で会議の場が設けられる。退院後は患者が地域社会に溶け込めるよう就職支援などを含め、関係機関が連携するシステムが構築されているという。
また、ドイツでは責任能力を問えない触法精神障害者でも裁判官が判決を宣告し、保護観察が付けられる。「行政だけでなく、司法も社会の安全を保障する責任を担う仕組みづくりを国内でも進めていかなければ、再び同じような凶行が繰り返される可能性はある」と加藤弁護士は警鐘を鳴らしている。