NEWS ポストセブンが、21日付で「女性セブン」8月4日号の記事:「天皇陛下の生前退位をNHKがまず報じた理由」を、また23日付で「週刊ポスト」8月5日号の記事:「生前退位 ここまで陛下を追い詰めていたと国民気づく」を抜粋し紹介しました。
前者は、天皇が、皇太子が天皇の代理を務められるご名代や摂政という方策ではなく、また公務の削減でもなくて、敢えて「生前退位」をお選びになったのであり、そのお考えを皇太子、秋篠宮、そして美智子さまに伝えられたことで、宮内庁は天皇のご決断が強固なものであることを知ったものの、それを天皇が直接表明されれば「政治関与」ともいわれかねないために、NHKで放送させる一方で、宮内庁は「そういうことは何も仰られていない」と否定するという、一連の経過となったことを伝えています。
そして後者は、『天皇論』を著わした漫画家・小林よしのり氏と『皇室典範と女性宮家』などの著書がある法学者・所功氏の対談を通して、「率直に申せば、(高齢による体力の減退で)陛下は悲鳴をあげておられる。・・・現行の皇室典範に則ってやろうとしてもできない状態を迎えておられる。・・・ここまで陛下を追い詰めていたのかと、国民ひとりひとりが気づかされた(所氏)」として、宮内庁がアレンジした「ご決断」の伝え方も「ああいう形しかなかった」と肯定しました。
いまや、一度即位すれば退位もできず、生涯天皇としての役割を全うすることを義務付けられるという、天皇の人権さえも認めていない皇室典範のあり方に問題の根源があることは明らかで、その責任はこれまでそのことに全く鈍感であった国民に、具体的には国会と政府にあります。安倍政権は改憲などというたわごとを言っていないで、まず皇室典範の改定に全力を尽くすべきです。
(関係記事)
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天皇陛下の「生前退位」をNHKがまず報じた理由
NEWS ポストセブン 2016年7月21日
生前退位のご意向を国民は深く考えるべき
「生前退位」の意向を示していると報じられた天皇陛下。国民に大きな驚きを与えたこの報道だが、皇太子さまが陛下の代理を務められるご名代や摂政といった方策ではなく、なぜ生前退位をお選びになったのか。ベテラン皇室記者は語る。
「その理由は、陛下のご体験に拠る面もあるのではないでしょうか。両陛下は皇太子同妃時代の1981年、イギリスのチャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚式に昭和天皇のご名代として出席されました。天皇皇后なら最前列でも、ご名代ということで4列目くらいの席に案内されたことがありました。また、接見や地方公務の折、ご名代となるとやはり人々の気持ちも少し変わるものです」
だが、そのご意向は大きな問題もはらんでいた。憲法で規定されているとおり、天皇は象徴であり、国政に関する権能を有していない。また、皇室典範では天皇の退位については規定されておらず、天皇は崩御するまで「終身天皇」とされている。つまり、もし陛下のご意向によって法律が改正され生前退位が行われるようなことがあれば「政治関与」ともいわれかねない。
「宮内庁のほか、首相官邸も陛下の退位の意思をうすうす感じ取っていました。ですが実際に実現できるかといえば、その可能性は低いという認識だったのです」(官邸記者)
大きく潮目が変わったのは、宮内庁が公務削減を提案し、陛下が皇太子さまと秋篠宮さま、そして美智子さまにご決断を伝えられたこと。そこで陛下のお考えが強固であることが知れることになった。
「宮内庁としては、陛下の口から直接退位について言及されることだけは避けたかった。そこでNHKに陛下が退位の意思をお持ちであることを報じさせ広く世に知らしめると同時に、宮内庁は否定して政治関与がないよう手はずを整えたといわれています。NHK報道ならば一定の信憑性があります。国民の意識も“これまで身を賭して務めを果たされてきたのだから、ゆっくりされたほうが…”という方向に傾きやすい。結果、世論に後押しされる形で皇室典範の改正の議論が進むのではないかと踏んだのだと思います」(前出・官邸記者)
昨年、安倍政権下で安保法制が成立し、憲法改正論議がにわかに持ち上がっている。自民党の憲法改正草案では、天皇は《(日本国民の)元首》という文言が加えられている。
「陛下が『平成皇室』において何より重要視されてきたのは、国民の象徴としての戦後の天皇の歩みです。憲法を遵守し、戦前のように天皇に権力が集中するようなことがあってはならないとお考えになられてきた。
明治にできた帝国憲法と皇室典範で生前退位が認められなくなった背景には、他国に例のない万世一系の天皇制という権威を、より神秘的なものにしようとする意図もありました。そうした安倍政権下の時代の空気や、皇室典範の在り方を、陛下がどのようにお考えになられているのか、今回の生前退位のご意向が象徴しているように思えてなりません」(前出・皇室ジャーナリスト)
※女性セブン2016年8月4日号
生前退位 ここまで陛下を追い詰めていたと国民気づく
NEWS ポストセブン 2016年7月23日
国民に大きな衝撃を与えたNHKによる「生前退位」報道は、皇室を研究してきた識者らにとっても激震だった。『天皇論』(小学館)を著わした漫画家・小林よしのり氏と『皇室典範と女性宮家』(勉誠出版)などの著書がある法学者・所功氏が感じた、天皇の強い意志とは──。
小林:あのニュースが出たときはちょうど外出中で、いろんなメールがどんどん来るからびっくりして見たら、「生前退位」という言葉が並んでいたんです。生前退位となれば、皇室典範にその規定がないことは知っていたんですよ。これはとんでもないことをやってしまわれたのではないかと、身震いしました。
所 :率直に申せば、陛下は悲鳴をあげておられる、それが聞こえてきたのだと感じました。いつまでも今まで通りにできるはずと、多くの国民から期待されるなかで、それが叶わなくなれば象徴天皇の機能不全に陥ってしまう、現行の皇室典範に則ってやろうとしても、できない状態を迎えておられる。そうした陛下の実情とご意向を知り得る立場にあった近くの方が、信頼できるNHKを通じて漏らしたということでしょうか。
小林:陛下自身の発言となると、政治的発言で憲法違反と批判される可能性が高いですからね。
所 :ああいう形しかなかったのでしょうね。ここまで陛下を追い詰めていたのかと、国民ひとりひとりが気づかされたはずです。
小林:今回のことで、陛下は本当に疲れておられる、陛下のお望みのことをしてあげるべきだと、ここはようやく国民の合意が取れたと思うんですよ。
陛下が譲位すれば当然、皇太子殿下が天皇になられる。すると、現行の皇室典範では天皇の直系男子しか皇太子になれないため皇太子が不在になるという問題や、結婚適齢期を迎えられる眞子さま佳子さまのために女性宮家をつくらなくていいのか、天皇の直系にあたる愛子さまはどんなお立場になるのか、といったさまざまな問題を同時に考えるしかなくなる。
これまで皇室典範改正問題は何度説明しても理解してもらえなかったのが、陛下の生前退位によって一気に国民的関心事になった。わしのブログがアクセス多すぎてパンクしたくらいだから(笑い)。そのアイディアは見事と言わざるを得ません。
所 :一方で皇室典範の改正に否定的な人々が、皇室典範には摂政という規定があるじゃないかと言い出しそうです。しかし現行の皇室典範では、高齢を理由に摂政を置くことができません。なにより側近の方々が公務の軽減を何度申し上げても、象徴天皇の務めを陛下がご自身ですべきだという強い使命感をお持ちであり、それを削減するとか、まして代行で済ますとかいうお考えはないと拝察されます。
小林:昨年8月15日の全国戦没者追悼式で、黙祷の段取りを間違えられたじゃないですか。完璧主義者の陛下にとってはショックだったはず。公務を完璧にやり遂げたいという陛下に対して、摂政を置くというのは“倒れるまで働け”と言っているのと同じなんですよ。
所 :先の天皇は昭和62年秋に手術をなさり、翌63年秋には大量吐血され、明日をも知れぬ状態になられましたが、それでも摂政を置かれなかった。
皇太子時代の大正10年(1921年)から重病の父君に代わって5年間摂政を務められた昭和天皇としては、お父上がおられるのに天皇代行をすることの難しさを経験してこられた。そのいきさつを今の陛下は十分ご存じですから、主役交代のほかにないと、そう道筋を考えられたのだろうと推察されます。
※週刊ポスト2016年8月5日号