安倍首相は改憲の本音を隠し、「 道半ば のアベノミクスのエンジンを吹かす」と訴えるという、驚くべき選挙戦術を発揮しています。
経済学者の高橋乗宣氏は、そのアベノミクスについて、「今こそ何ひとつ成果を挙げていない実情を検証すべき時だ」と、厳しく批判しました。
日銀は資金供給量を史上空前の400兆円としたがその75%は銀行に眠っているだけ、国民の実質賃金が5年連続で下がっている状況では個人消費は冷え込む一方、企業活動は当然低迷し「経済の好循環」など起きようがない、としています。
そして、もしも参院選で政権に大打撃を与えることができれば日本経済の低迷脱却の好機となるものの、逆に改憲勢力に3分の2以上の議席を与えるようなことになれば、安倍首相は景気などそっちのけで憲法改訂に邁進するに違いない、と警告しています。
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改憲勢力「3分の2」で奪われる 日本経済の低迷脱却の好機
高橋乗宣 日刊ゲンダイ 2016年7月8日
参院選の投開票まで、あと3日。有権者はアベノミクスの継続を本気で望むのか。今こそ何ひとつ成果を挙げていない実情を検証すべき時だ。
異次元緩和の開始から3年余り。日銀の資金供給量(マネタリーベース)は、とうとう史上初めて400兆円を突破。6月末時点で403兆9372億円に達した。開始直前(2013年3月末)の約146兆円から2・76倍も増え、名目GDPの8割に上る。2割程度の米国やユーロ圏と比べると、ズバぬけて多い。
異次元緩和で資金をジャブジャブにすれば、長期金利の低下が見込める。銀行の融資や企業の設備投資の意欲が増し、経済が活性化する。物価も上昇し、デフレからも脱却できる……そんな触れ込みは今いずこだ。物価上昇率は限りなくゼロに近く、黒田総裁が大見えを切った「物価目標2%」は夢のまた夢だ。
これだけ資金をジャブジャブにしながら、大半は銀行に眠ったまま。実際に世に出回る量は開始前から、ほぼ増えていない。日銀の当座預金残高は6月末時点で303兆2784億円に達し、こちらも史上初めて300兆円を突破。当座預金にダブつくカネから事実上の「預かり賃」を没収するマイナス金利の導入もむなしく、黒田日銀がブクブクと膨らませた資金のうち、実に75%が流通せず“塩漬け”にされているのだ。
理由は単純だ。実質賃金は5年連続で低下し、個人消費は冷え込むばかり。当然、国内での企業活動は低迷し、銀行も新たな融資先など見つからない。空前の利益をあげた輸出大手も、為替のマジックで帳簿の数字を膨らませただけ。だから設備投資には動かず、鉱工業生産指数はわずかなプラス・マイナスの幅を行ったり来たりするばかりだ。安倍首相が訴える「経済の好循環」とは程遠い状況である。
それなのに「アベノミクスのエンジンをもう一度ふかす」と息巻くとは笑止千万だ。賃金アップで家計収入が伸び、消費を増やす。個人消費が底上げされれば、おのずと企業も活性化し、設備投資に踏み切って生産量を増やし、さらに売り上げを伸ばそうとする。こうしたサイクルを国内で起こしてこそ初めて経済を動かす「エンジン」と言える。アベノミクスは景気の循環を詰まらせただけだ。
今や多くの大企業は海外の稼ぎを海外で回すのみだが、その海外展開すら、安倍首相は勇ましい「テロとの戦い」で危うくしている。
今度の参院選で改憲勢力に3分の2以上の議席を与えれば、安倍首相は景気そっちのけで憲法改訂に邁進するに違いない。そんなことになれば日本経済が低迷から脱するチャンスを失うのは言うまでもない。