都は5月25日に緊急事態宣言を解除し、6月12日には東京アラートも中止しました。しかし、宣言解除以降、新型コロナ感染者数は漸増の一途をたどり、それはアラートの中止前後でも変わりがありませんでした。
小池都知事は、感染者の増加は、接客を伴う「夜の街」が発生源になっていることに検査数を増やしたことが重なった結果だとして問題視しませんでした。
しかしここにきて流石に放置できないと考えたようで、30日に新たなモニタリング項目として次の7項目を決めました。
(感染状況)1. 新たな感染者数 2. 東京消防庁の電話相談窓口「#7119」に寄せられた発熱などの相談件数 3. 新たな感染者のうち、感染経路がわからない人の数と増加比率
(医療体制)4. PCR検査と抗原検査の陽性率 5. 救急医療の「東京ルール」の適用件数 6. 入院患者の数 7. 重症患者の数
ところが具体的な数値基準は設けずに「必要に応じて警戒を呼びかける」と、恣意的な運用が出来るものとしました。
確かに第1波の時の様に、不十分な補償のなかで「休業・自粛」の要請を繰り返されては、とても経済弱者は生きていけないし日本の経済は沈没します。しかしこのまま推移を見守ることだけでいいのでしょうか。それでは都内の市中感染はさらに広がるし、現実に都内に由来する(疑いがある)感染は首都圏だけではなく、福岡、福島、石川、静岡などにも及んでいます。
感染拡大防止の鉄則は、徹底的に検査をして誰が感染しているかをキチンとつかむことです。児玉龍彦・東大先端科学技術研究センター名誉教授は、
「大量の検査をしないというのは世界に類を見ない暴挙です。感染症を専門としている人間にとって、この発想はあり得ない。感染症対策のイロハのイは、誰が感染しているかをきちんとつかむことです」(毎日新聞 30日)と述べています。
小池知事は検査体制について「現在は1日およそ3100件の体制をすでに整えている」と述べていますが、都のPCR検査が500件/日を超えたのは6月18日以降であり、3000件を超えたのは1日、2000件を超えたのは3日あっただけで、その他の日は全て2000件以下です(6月30日現在)。要するに都にも国にも、検査を拡大して感染拡大を抑え込むという姿勢がいまもないということです。これでは発生が明らかになった都度クラスターを追跡したものの、やがて手に負えなくなって爆発的な感染に向かった第1波と同じことを繰り返すことになります。秋以降に予想される第2波が到来したときの悲劇が目に見えるようです。
アラブ首長国連合(UAE)在住の伊勢本ゆかり氏が、全国新聞ネットに「UAEがPCR検査を1日4万件行う理由~」 https://www.47news.jp/47reporters/4963793.html を載せましたが、それによると人口990万人(東京都は1400万人)のUAEは、国内で感染が拡大する前から徹底した予防策を取り、4万件/日のPCR検査能力を保有しているということです。それはせいぜい2000件/日程度の東京都の実に約20倍、人口比ベースでは28倍です(因みに直近6月30日の東京都の実効再生産数は1・49です)。
ところで厚労省は医療体制の確保に関連して、都道府県に人口10万人あたりの新たな患者数が1週間の平均で2・5人を超えた日を「基準日」としていて、自粛など社会への協力要請を行うとしているのに対して、東京都の新たな感染者数は、29日までの1週間では2・61人と既にオーバーしています。
厚労省の関係者は、「協力要請のタイミングが遅れれば遅れるほど ピーク時の感染者数や入院患者数が増えることが専門家の分析で指摘されている」と述べていますが、そんなことを口にするだけではどうにもなりません。
今こそ精力的に検査をやるべきこの時に、何の反省もなく従って何の改善もない国や都の姿勢ではただただ先が思いやられます。
日刊ゲンダイの二つの記事を紹介します。
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小池都知事のご都合主義「悪いのは私じゃなくて夜の街」
日刊ゲンダイ 2020/06/30
(記事サイト阿修羅より転載)
「第1波」の余波が続いているのか、それとも「第2波」襲来の始まりなのか。このタイミングで政府の「専門家会議」が廃止され、詳しい状況がさっぱり分からないものの、いずれにしても終息していないことだけは間違いない。
29日、新たに58人の新型コロナウイルス感染者が確認された東京都。1日あたりの感染者数は、緊急事態宣言が解除されて以降で最多となった28日の60人よりは減ったものの、4日連続で50人を突破した。
都内の1日あたりの新規感染者数は4月17日に206人を記録してから減少傾向にあったが、宣言解除前後からは一転して増加傾向にある。
こうなると、気になるのが感染拡大の警戒を都民に呼びかけるために都が設けた「東京アラート」だ。発令する主な指標は、①1日あたりの感染者数(1週間平均)が20人以上②感染経路が不明な人の割合(同)が50%以上③週単位の感染者数の増加率が1倍以上――で、6月2日には②と③が指標を上回ったとしてアラートが発令され、都庁とレインボーブリッジがそれぞれ赤くライトアップされた。
この指標に沿うのであれば、都庁やレインボーブリッジは再び、赤色の警告を灯していてもおかしくないが、都は、新たな感染者はホストクラブなど「夜の街」関連の人が多く含まれ、院内感染も含めて感染源をたどれることや、市中感染ではない――といった理由からアラートを発令する気はないらしい。だが、仮にこのペースで新規感染者が増え続けた場合、都民はどう対処すればいいのか。まったく無責任極まりないだろう。
コロナ対策はCMを流してやっているフリ
一体、何のために「東京アラート」が作られたのか分からないが、本をただせば、アラート解除について、「数字(感染者数)は落ち着いており、東京アラートの役目も果たしたのかなと思う」とノンキに構えていた小池都知事の政治姿勢にも原因があるだろう。
「このところの(感染者数の)高止まりを私も大変気にしております。(感染)経路が分からないという方は、そんなに多くはないんですけど、ただ(感染者の)絶対数はかなり増えていて……」
29日、囲み取材でこう答えていた小池。増加傾向にある新規感染者数について問われた際には、「今は積極的な検査をしているから」ともっともらしく説明していたが、この発言は裏を返せば、今まで積極的な検査をしていなかった、と認めたのに等しい。つまり、都民にとって何の説得力もないのは言うまでもなく、結局、都の新型コロナの感染状況というのは「東京アラート」の解除前後で何も変わっていないという証左だ。
都は30日にも、休業要請などの目安としてきた「週平均で1日の感染者数が50人以上」など7つのモニタリング指標を見直し、新たな方向性を示すというが、何も分からずに新たな方向性もヘッタクレもない。「東京アラート」でバカ騒ぎし、都知事選挙に合わせて解除した「自分中心」の都知事が、選挙前に再びアラートを出すわけもないが、一事が万事、ご都合主義と言っていい。小池都政を取材し続けてきたジャーナリストの横田一氏がこう言う。
「要するに自分が目立ちたい。新型コロナ対策にしても、都の税金を使ってCMを流し、やっているフリをしていただけ。東京アラートも口先ばかりで、都民の命など二の次なのでしょう。1期目の公約の実現度を見ても何ひとつマトモに達成していない姿勢を見れば、嘘と詭弁まみれの都政といっていいと思います」
課題山積の都政運営の舵取りは極めて難しい
「感染経路が不明な症例のうち夜間から早朝にかけて営業しているバー、そしてナイトクラブ、酒場など接客を伴う飲食業の場で感染したと疑われる事例が多発している」「こうした場への出入りを控えていただくようにお願いしたい」
小池が新型コロナ対策として、名指しで自粛要請を呼び掛けていたのが「夜の街」だ。
大阪府の吉村知事が休業要請に従わない「パチンコ店」をやり玉に挙げていた強権手法と同じで、小池が「夜の街」をことさら強調するのは、「悪いのは私じゃなく夜の街」とアピールしたいためではないのか。
おそらく、小池はホストクラブなど「夜の街」で働く人の感染は自業自得などと映っているのだろうが、誰だって感染したくて「夜の街」で働いているわけじゃない。
生活苦でやむを得ずに働いている人だって大勢いるのに、そんな現実は少しも見えていないし、想像もできないのだろう。
本来は、そういう弱者に対して手を差し伸べるのが政治の役割だが、かつて希望の党(当時)の党首として、民進党(同)からの合流組の一部を「排除します」と切り捨てた小池にとって、弱者に責任転嫁するという「排除の論法」は当たり前の発想なのだ。ノンフィクション作家、石井妙子氏の「女帝 小池百合子」(文芸春秋)で描かれている危険な思想そのものではないか。
小池リードの理由は消極的支持に過ぎない
「クラスター」「オーバーシュート」「ロックダウン」……。詰まるところ、小池都政の新型コロナ対策とは、横文字を並べて「やっているフリ感」を強調していただけ。「ウィズコロナ」だって、「自分の身は自分で守れ」という自己責任を都民に押し付けている論法に過ぎない。
もはや、小池が都知事に就いていること自体が「東京アラート」と言ってもいいのだが、そんな小池を多くの都民が支持しているのだから、恐ろしい世の中だ。
7月5日投開票の都知事選をめぐるメディア各社の世論調査でも、「現職の小池百合子氏がリード」(時事通信)、「現職の小池百合子氏が他候補を大きく引き離し、安定した戦いを展開」(読売新聞)、「現職の小池百合子氏が優勢」(毎日新聞)など、小池有利との見方が支配的だからクラクラしてしまう。三浦麻子大阪大教授ら心理学者の研究グループがまとめた調査で、米国や英国などと比べて、日本では新型コロナに感染するのは本人が悪い、と考える割合が高かった――と報じられた。
こうした「自己責任論」「弱者排除」の危うい風潮が、小池支持の土台になっている面は否めないのだが、今の都政の現実といえば、見れば見るほど、暗澹たる思いが強くなる。
新規感染者が増えているにもかかわらず、小池の見せかけのパフォーマンスによって都の「貯金」(財政調整基金)はスッカラカン。金がない都は仕方なく、営業自粛をどんどん解除し、巨額の追加負担を強いられると分かっていながらも五輪は強行と旗を振るしかない。うまい具合に新型コロナが収まったら儲けもの。そんな「奇跡の神業」に頼るしかないのが都政の実相なのだ。政治評論家の小林吉弥氏はこう言う。
「小池氏の支持が高い理由は2つ。1つは他の候補者と比べて消去法で『まあいいか』ということ。現職の強みに加え、新型コロナ対策でメディアにバンバン露出した効果でしょう。2つ目は、安倍政権があまりに酷いので、やはり『小池都政の方がまだマシ』と考える有権者が多いことです。いずれにしても、消極的支持で小池氏がリードしているわけですが、新型コロナ、都財政、五輪……など課題山積の都政運営はこれまでのようにはいかない。舵取りは極めて難しいと思います」
仮に小池続投になっても、任期途中で放り出すかもしれない。
小池都知事の“コロナ独裁”で東京発の第2波が全国拡散危機
日刊ゲンダイ 2020/07/01
30日、都内で新たに54人のコロナ感染者が確認され、5日連続の50人超となった。これまでの都の基準に従えば、東京アラートや休業要請が出される感染レベルだが、都は30日「新たなモニタリング指標」を発表し、基準を撤廃。小池知事の“コロナ独裁”により、東京からウイルスが全国に広がるのは必至だ。
◇ ◇ ◇
新指標では医療提供体制の状況を重視し、具体的な数値基準は設けず、必要に応じて警戒を呼びかける。
昨夜の臨時会見で小池知事は、基準の撤廃について「流れを見ていく」「全体像をつかむ」などとごまかした。
西武学園医学技術専門学校東京校校長の中原英臣氏(感染症学)が言う。
「基準をなくすということは、合格点を教えないようなもの。都民は何を目指して頑張ればいいのか。結局、小池知事は客観的な数字に縛られずに、フリーハンドを持ちたいのでしょう。恣意的な政策が可能ですからね。しかし、感染症対策はサイエンス。独裁ではうまくいきません」
基準が見えない中で都民が動き回れば、市中感染がさらに広がり、東京のみならず、全国にウイルスが拡散しかねない。すでに飛び火は始まっている。
すでに各地に飛び火
埼玉では直近2週間の感染者の半数以上が都内で感染した疑いが判明し、神奈川や千葉でも確認されている。
都内由来の疑いがある感染は隣県だけではない。福岡、福島、石川、静岡などでも見られる。例えば、29日、静岡県浜松市で都内に勤務する70代の男性会社員(浜松に帰宅中)の感染が確認された。市内で約2カ月半、感染者が出ていないことなどから、市は都内での感染と推察している。浜松市からすれば、「せっかく抑え込んでいたのに」という思いだろう。
「東京だけが感染抑制に失敗し、他の地域は感染者がゼロや1桁程度になっていました。しかし、知事選で勝利し、小池都政が続くことになれば、東京発第2波が全国を襲い、全国的な大流行になる恐れがあります」(中原英臣氏)
会見の7、8時間前の30日午後、小池知事は急きょ追加した公務で特別顧問を務める「都民ファーストの会」が都議補選に唯一候補を擁立している北区に出向き、都営住宅を“行政視察”。事実上の選挙活動をしていた。コロナより自分なのだ。