3年前に自殺した元財務省近畿財務局の職員赤木俊夫さんの妻・雅子さんが、「真実が知りたい」として、国と佐川宣寿元財務省理財局長を相手取って起こした損害賠償請求訴訟をの第1回口頭弁論が、7月15日、大阪地裁で行われました。
天木直人氏は16日のブログを以下のように書き出しています。
「いよいよ森友問題自殺訴訟が始まった。きのう7月15日に大阪地裁で第一回口頭弁論が行われた。
自殺に追い込まれた近畿財務局の職員の妻である赤木雅子さんが読み上げる意見陳述は、これ以上ない迫力をもって聞く者の心に迫る。
国家権力の不正義をたったひとりでここまで法廷で糾弾した陳述を私は知らない。
その勇気に感銘するとともに、何としてでも安倍首相に責任を取らせなければいけないのだ」
天木氏のブログの残りの部分は紙面の関係で割愛させていただき、ここでは、ずっと赤木雅子さんの相談相手になってきた大阪日日新聞の相沢冬樹記者の記事と赤木雅子さんの意見陳述全文を紹介します。
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森友改ざん 赤木雅子さんの法廷闘争が始まった
大阪日日新聞 2020年7月16日
7月15日朝7時36分、赤木雅子さん(49)からLINEが届いた。
「今の心境。夫が改ざんをしてから3年余りの間。夫を亡くす地獄のように苦しい日々を経験しました。でも今はたくさんの人に出会い応援していただき、そして助けていただき私はとても強くなりました。今日がスタートです。堂々と裁判に臨みたいと思います」
夫、赤木俊夫さんは、財務省近畿財務局の職員だった3年前、森友学園への国有地巨額値引きに関連する決裁文書の改ざんを上司に迫られ、反対しても押し切られた。改ざんを悔いてうつ病になり職場からの助けもないまま命を絶った。54歳だった。
裁判2時間前の正午、大阪地裁近くの代理人弁護士の事務所を訪れた雅子さんに、弁護士は1枚の小さなカードを示して告げた。「このカード、裁判で証拠に出しましょう」
国家公務員倫理カード。亡き俊夫さんが常にスケジュール帳に挟んでいた。内容を見て雅子さんはドンと胸を突かれる思いだった。
・国民全体の奉仕者であることを自覚し、公正に職務を執行していますか。
・職務や地位を私的利益のために用いていませんか。
・国民の疑惑や不信を招くような行為をしていませんか。
「だって、みんながこの通りにしていたら夫は改ざんなんかしていないし、死ぬこともなかったはずじゃないですか」。カードがすり切れるほど肌身離さず、その言葉通り行動していた俊夫さんが改ざんを押しつけられ命を絶った。その不条理に胸が詰まった。
午後2時、裁判が始まった。冒頭、雅子さんは中央の証言台に進み意見を述べた。「決裁文書を書き換えることは犯罪です。安倍首相、麻生大臣、私は真実が知りたいです。最期の夫の顔は絶望に満ちあふれ、泣いているように見えました」
涙で声を詰まらせながら懸命に読み続ける。最後に「裁判官の皆さまにお願いがあります」と述べると、手元の書面に目を落としていた裁判長が真っすぐ雅子さんに目線を向けた。
「ぜひとも夫が自ら命を絶った原因と経緯が明らかになるように訴訟を進めてください。よろしくお願い致します」
裁判所を出た雅子さんに尋ねた。「きょうの意見陳述と記者会見、いかがでしたか」「言いたいことが言えたんで満足してます」「百点満点で点数を付けると何点くらい?」「そりゃあ百点ですよ。すっきりしました。でも疲れた。これから帰ってNHKのクローズアップ現代を見ます。一番長く取材してくれたんですごく楽しみです」
にこやかに言い残して去っていった。次の裁判は10月14日。国や佐川氏がどう反論してくるのか注目だ。
(大阪日日新聞編集局長・記者、相沢冬樹)
「私は真実が知りたい」“森友”自殺財務省職員の妻・赤木雅子さんの意見陳述全文
文春オンライン 2020/7/15
森友学園との国有地取引をめぐって財務省の上司に公文書の改ざんを強いられ、それを苦にした財務省近畿財務局の上席国有財産管理官・赤木俊夫さん(享年54)は、2018年3月7日、自ら命を絶った。
赤木さんの妻・雅子さんは「真実が知りたい」として、国と佐川宣寿元財務省理財局長を相手取った損害賠償請求訴訟を起こした。7月15日、この裁判の第1回口頭弁論が大阪地裁で行われた。雅子さんが法廷で行った意見陳述の全文を公開する。
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私の夫、赤木俊夫は決裁文書を改ざんしたことを悔やみ、自ら人生の終止符を打ちました。2018年3月7日のことです。
夫は震える手で遺書や手記を残してくれました。
私は夫の死後2年経過した2020年3月18日、やっと遺書や手記を公表しました。
そして、同じ日に、夫が自ら命を絶った原因と経緯を明らかにし、夫と同じように国家公務員が死に追い詰められることがないようにするため、そして、事実を公的な場所で説明したかったという夫の遺志を継ぐため、国と佐川さんを訴えるところまで進みました。
以下、この訴訟に対する私の思いを陳述させて頂きます。
夫は、亡くなるおよそ1年前である2017年2月26日(日曜日)、私と神戸市内の梅林公園にいた時、近畿財務局の上司である池田靖さんに呼び出され、森友学園への国有地払い下げに関する決裁文書を改ざんしました。
決裁文書を書き換えることは犯罪です。
夫は「私の雇い主は日本国民。国民のために仕事ができる国家公務員に誇りを持っています」と生前知人に話していた程国家公務員の仕事に誇りを持っていました。
そのような夫が決裁文書の書き換えという犯罪を強制されたのです。夫の残した手記によると、夫は改ざんを指示された際に「抵抗した」とあります。また、私は、夫の死後、池田さんからも、夫は改ざんに最初から反対していたと聞きました。
夫が決裁文書の改ざんによって受けた心の痛みはどれだけのものだったでしょうか。国家公務員としての誇りを失ったでしょうし、強い自責の念に襲われたと思います。
夫は手記や遺書に「この事実を知り、抵抗したとはいえ関わった者としての責任をどう取るか、ずっと考えてきました。 事実を、公的な場所でしっかりと説明することができません。今の健康状態と体力ではこの方法をとるしかありませんでした。(55才の春を迎えることができない儚さと怖さ)」、「現場として相当抵抗し、最終的には小西次長が修正に応じ、修正前の調書に合わせて自ら、チェックマークを入れてを整えました。事実を知っている者として責任を取ります。」と書いています。
夫は改ざんしたことを犯罪を犯したのだと受け止め、国民の皆さんに死んでお詫びすることにしたんだと思います。夫の残した手記は日本国民の皆さんに残した謝罪文だと思います。
国は、夫の自死の真相が知りたいという私の思いを裏切り続けて来ました。
(1)財務省は、夫が亡くなった5日後の2018年3月12日に改ざんしたことを認め、3か月後の6月4日に調査報告書を発表しました。
しかし、この調査報告書の中には、誰のどのような指示に基づいて夫が改ざんを強制されたのか記されていません。夫が自死したことすら記載されていません。夫の手記についても、提出を求められていないので当然ですが、一切触れていません。
池田さんは、夫が亡くなってから1年後、自宅で私に「赤木さんはきっちりしているから、文書の修正、改ざんについて、ファイルにして、きちっと整理していたんです。」、「パラッと見たら、めっちゃきれいに整理してある。全部書いてある。どこがどうで、何がどういう本省の指示かって。修正前と修正後、何回かやり取りしたような奴がファイリングされていて、パッと見ただけでわかるように整理されている。これを見たら我々がどういう過程で改ざんをやったのかというのが全部わかる」と仰っていました。でも、調査報告書にはこのファイルについても記載がありません。
(2)私は、夫の自死が公務災害となった理由を知るため、人事院に対して情報開示請求をしました。しかし、人事院の開示した文書は70ページのほとんどが黒塗りで、夫がなぜ自ら死を選び悩み苦しんだのか、私の知りたいことは何一つわかりません。
そこで、私は、2020年4月13日に近畿財務局に対して情報開示請求をしました。しかし、1か月後の5月13日に開示されたのは、年金の金額や支払日などが書かれたたった10頁の文書でした。残りの文書については、新型コロナによる緊急事態宣言に伴う処理可能作業量の減少などを理由に、1年後の2021年5月14日までに開示決定をするそうです。国はこの裁判でも同じような態度をとるのでしょうか? これではこの裁判でも真実には近づけません。
(3)私は夫が自死に追い詰められた真相を明らかにするため第三者委員会による再調査を求める電子署名を始めました。電子署名には35万人を超える方々から賛同の署名を頂きました。
電子署名は2020年6月15日に安倍首相や麻生財務大臣へ提出しました。しかし、安倍首相も、麻生財務大臣も、すでに検察の捜査も済んでいるので調査しないと夫のことを切り捨てました。でも検察の捜査は刑事処分のためのもので、真相解明の調査とは別の物です。
国は国民にも夫にも向き合わず、あるものを出さずズルズル先延ばしにして逃げています。再調査を実施して、正直に全て明らかにしてください。再調査の結果はこの訴訟でも役に立つと思います。
安倍首相は、2017年2月17日の国会で、安倍首相や安倍昭恵さんが森友学園の国有地払い下げにかかわっていたら総理大臣も国会議員も辞めると発言しました。
財務省秘書課長だった伊藤豊さんは、2018年10月、私に対して、「この首相の発言によって野党が理財局に対して資料請求するなど炎上したため理財局は改ざん前の文書を出せなかった。その意味で、首相の発言と改ざんは関係がないとはいえない。」と言いました。
安倍首相は、自分の発言が改ざんの発端になっていることから逃げているのではないでしょうか。安倍首相は自分の発言と改ざんには関係があることを認め、真相解明に協力して欲しいと思います。安倍昭恵さんも森友学園への国有地売却の関係を明らかにしてほしいと思います。
池田さんも、池田さんの前任者の前西勇人さんも「裁判になれば本当のことを話します」と私にはっきりと言いました。この裁判では、前西さんには安倍昭恵さんと籠池夫妻のいわゆるスリーショット写真がどのように国有地の取引に影響したのかを、池田さんには国有地値引きと決裁文書改ざんをめぐり近畿財務局の中で何が行われたのかを話して頂きたいと思います。
また、佐川さんをはじめとする理財局の幹部の人達や、美並局長をはじめとする近畿財務局の幹部の人達も、事実をありのままに話して欲しいと思います。
もしこれらの人達が裁判に来なかったり、裁判に来ても事実を話さなかったとしたら、国が本当にあったことを国民から隠し、全てなかったことにするために止めたのだと思います。
安倍首相、麻生大臣 私は真実が知りたいです。
夫は亡くなった日の朝、私に「ありがとう。」と言ってくれました。
最期の夫の顔は「絶望」に満ち溢れ、泣いているように見えました。決して生き残らないように電気コードは首にきつく二重にくくりつけていました。怖がりだった夫がこんなことをしなければならないなんて。
真面目に働いていた職場で何があったのか、何をさせられたのか私は知りたいと思います。
最後に、裁判官の皆様にお願いがあります。
私は、訴状でも書いてありますが、3つの目的のために訴訟を始めました。その中でも一番重視しているのは1つ目の夫が自ら命を絶った原因と経緯を明らかにすることです。
訴訟の手続は私には難しくて分かりませんが、是非とも夫が自ら命を絶った原因と経緯が明らかになるように訴訟を進めてください。夫が作成したファイルを含めてできるだけ沢山の資料を集め、できるだけ沢山の人の尋問を行って事実を明らかにしてください。そしてその上で、公正な判決を下してください。宜しくお願い致します。
「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年7月23日号