2020年7月7日火曜日

「敵基地攻撃」の無謀(孫崎享氏)/辺野古新基地も計画停止の時機(木村草太氏)

 元外交官の孫崎 享氏が、日刊ゲンダイの連載記事(1回)「日本外交と政治の正体」に、「『敵基地攻撃の無謀 ~ 」とする記事を載せました。
 まず「イージス・アショア」秋田県などに配置することが日本防衛全く意味を持たないことを述べた後、その導入計画が停止されたことを受けて、安倍首相がミサイル攻撃を未然に防ぐため発射前に相手の基地を攻撃する「敵基地攻撃能力」の保有も検討対象とする考えを示したことについて、中国1200発以上の、北朝鮮には200300のミサイルがある以上、それらを全て事前に撃破することは不可能で、逆に相手国から一斉攻撃(反撃)を受けることになるとしました。誰もが納得できることです。
 そして日本を守る上では役に立たなくとも米国に貢献できればいいというのが、日本の政治家安全保障担当官僚の考え方だと指摘しました。売国奴と言うしかありません。

 また東京都立大の木村草太教授が沖縄タイムスの連載記事「木村草太の憲法の新手」に、「イージス・アショア断念 政府の説明は不十分 辺野古新基地も計画停止の時機」とする記事を載せました。
 木村氏は同じく「イージス・アショア」の配備断念の方針に触れ、国には計画変更から生じる不利益や権利制約の内容を正直に説明する責任があるとして、「このことは、辺野古埋め立て計画や他の防衛政策の進め方にも重大な示唆を持つ」と述べています
 そして敵基地攻撃能力の整備に注目が集まっているとして、「国際法上、攻撃国による武力攻撃の着手があれば、ミサイル自体は未発射でも、個別的自衛権に基づき、ミサイル基地の攻撃が可能」ではあるものの、「敵基地攻撃をすれば、相手国の巨大な反撃を誘発するので、配備するなら中途半端な攻撃能力ではなく、殲滅能力を持つ覚悟が必要し、「敵基地攻撃能力があれば、当然、それが相手の攻撃目標になるとして、事実上保有を否定する見解を述べました

 二つの記事を紹介します。

 追記)当ブログでは以前に「敵基地先制攻撃は国際法上認められていない」と述べました。この場をお借りして訂正します。
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孫崎享 日本外交と政治の正体
「敵基地攻撃」の無謀 日本を守るより米国への貢献を重視 
 日刊ゲンダイ 2020/07/03
 日本の安全保障が大きく動き始めている。
 河野防衛相が、新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の山口県と秋田県への配備計画を停止する考えを表明した。
「イージス・アショア」が日本防衛にとって、全く意味を持たないことを秋田県の配備を例に考えたい。
 配備の目的は「仮想敵国」である中国、北朝鮮がミサイルを発射することを想定し、それを防衛するためとされている。
 中国、北朝鮮が日本を攻撃する場合、その最大の標的は東京都や大阪府などの大都市圏だろう。しかし、秋田は東京、大阪の東に位置している。秋田上空を飛ぶミサイルはUターンしない限り、東京や大阪を攻撃することはできない。つまり、秋田配備の「イージス・アショア」は、日本の本土防衛には何ら軍事的貢献をしないのである。

「イージス・アショア」の導入計画停止を受け、安倍首相は国家安全保障会議で安保戦略を練り直す方針を表明。ミサイル攻撃を未然に防ぐため、発射前に相手の基地を攻撃する「敵基地攻撃能力」の保有も、検討対象とする考えを示した
「敵基地攻撃」は一見、勇ましく響くが、これもまた、日本の国土防衛の観点からすれば意味がなく、極めて危険な考えである。
 この場合も、仮想敵国は中国、北朝鮮であろう。中国は日本を攻撃しうる短距離・中距離弾道ミサイルや、クルーズミサイルを1200発以上、中国各地に配備している。これらが日本の攻撃で破壊できるなどと考えている人はいない
 そして北朝鮮は、日本に攻撃しうるミサイルを200~300発配備しているといわれている。
 頑強な山岳地帯に配備したり、移動式で配備したりしている。このうち、「敵基地攻撃」で何発のミサイルを破壊できるというのだろうか。せいぜい、3~5発程度だ。おそらく、日本の攻撃を受けた北朝鮮は、残りの200~300発で日本を一斉攻撃するだろうから、こんなにバカな戦略はない。

 それではなぜ、「敵基地攻撃」という発想が出てくるのか。それは「米国の先兵」になるという考えである。
 米国は絶えず、北朝鮮の政権や指導者を軍事攻撃で破壊する考え方を持っている。その時、日本が北朝鮮にミサイル攻撃すれば軍事的選択肢は増える。残念ながら、日本の政治家、安全保障担当官僚は、日本を守ることより、米国に貢献することを重視する人々のようだ。

孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。


[木村草太の憲法の新手](131)
イージス・アショア断念 政府の説明は不十分 辺野古新基地も計画停止の時機
沖縄タイムス 2020年7月6日
 6月15日、河野太郎防衛大臣は、山口・秋田両県への新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備断念の方針を発表した。24日には、国家安全保障会議が計画中止を正式決定した。
 防衛省はこれまで、迎撃ミサイルのブースターは自衛隊演習場内に落下させることができ、民家に落ちることはない、という趣旨の説明をしていた。しかし、このほど、民家への落下防止には、ソフトだけでなくハードの改修も必要になることが判明し、工期・工費に鑑み、計画を停止せざるを得ないとした
 防衛専門家からは、民家に落とさないという説明に無理があることは、容易に想定できたはずだとの声が上がっている。防衛問題は近隣住民・自治体に大きな影響を与える。国には、計画から生じる不利益や権利制約の内容を正直に説明する責任がある。

 このことは、辺野古埋め立て計画や他の防衛政策の進め方にも重大な示唆を持つ
 まず、辺野古埋め立てでは、軟弱地盤が広がっていることが判明し、工事着工後に設計変更が必要となるなど、工期・工費膨張の可能性が深刻な問題となっている。政府はこれまで、軟弱地盤について十分な説明をしてこなかったし、工期・工費の膨張を防ぐ具体的な方策も示せていない。こんな状況で、地元住民・自治体の理解・協力を得ることなど不可能だろう。
 この点、菅義偉官房長官は、6月7日の県議会議員選で辺野古容認を公約した自民党が議席を増やしたことから、辺野古移設への地元の理解が進んだとの認識を示した。しかし、依然として議会では辺野古移設反対派が多数を占めているし、自民党が工期・工費膨張を解決する具体的な方策を示したわけでもない。中谷元氏や長島昭久氏のように、自民党内からも計画の再検討を提案する声が上がり始めている。
 辺野古基地建設に対する国の態度は、十分な説明からは程遠い。地元住民・自治体の協力を得られるような説明ができるようになるまで、計画を停止するタイミングに来ていると言えよう。
 次に、イージス・アショア計画断念後、敵基地攻撃能力の整備に注目が集まっている。国際法上、攻撃国による武力攻撃の着手があれば、ミサイル自体は未発射でも、個別的自衛権に基づき、ミサイル基地の攻撃が可能だ。また、政府解釈によれば、憲法9条の下でも、専守防衛としての実力行使は許容される。その意味で、敵基地攻撃能力の保持は、法理的に絶対に禁止されているとは言えない。

 ただ、防衛専門家は、敵基地攻撃をすれば、相手国の巨大な反撃を誘発するので、配備するなら、中途半端な攻撃能力ではなく、殲滅(せんめつ)能力を持つ覚悟が必要だと指摘する。個人的には、敵基地攻撃能力を持つのはハードルが高く、別の方策を考えるべきだと思う。特に大きな障害となるのは、政府の不誠実さが招いた、地元住民・自治体の不信感だ。
 敵基地攻撃能力があれば、当然、それが相手の攻撃目標になる。敵基地攻撃能力の議論を進めたいなら、政府には、地元の信頼を勝ち取るだけの誠実な説明が不可欠になる。そして、見た目の誠実さが本物かどうか、国民は監視し続けねばならない。(東京都立大教授、憲法学者)