しんぶん赤旗が沖縄臨床研修センター長の徳田安春さんに、コロナ感染の現状とその対策について聞きました。
徳田さんは、いまのコロナ再拡大は第1波の継続であり、行動制限からの出口戦略として、安全な経済活動再開の条件をつくることが必要だったのに政府はそれを怠り、単に制限を解除し経済活動再開を進めたために感染の再拡大を招いたと述べました。
コロナ対策としては何よりもPCR検査の拡大が重要で、エピセンター化している新宿などについては、地域全体(住人だけでなく昼と夜の勤務者全員)に対して徹底したPCR検査を行う必要があるとし、「PCRの産業化」(=検査に必要な防護資材の生産・確保、陽性者の保護・隔離のための療養施設の確保・提供、療養者の保護・支援システムなどを社会的に構築する)を提言し、それは補正予算のうち1兆円を使えばできるとしています。
またPCR検査の感度が70%(30%の感染者を見逃す)と低いとする指摘に対しては、発症から2週間以上経過すると多くの患者ではPCR陰性になるのでそういう要因まで含めればそういうことになるが、それは複数回の検査でカバーできるし、無症状者の唾液にウイルスがいるかどうかの検査感度は100%に近く、また特異度も高い(=偽陽性の確率が非常に低い)ので、PCR検査はゴールドスタンダードだと述べています。
厚労省や分科会はいい加減PCR検査の価値を低めて普及させないようにする策動は止めるべきです。そもそも第1波の一応の鎮静後にPCR検査の拡充などの対策を取らないまま、いまの再拡大を起こしたことに何の罪悪感も持たないのでしょうか。
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2020焦点・論点
新型コロナ 群星沖縄臨床研修センター長 徳田安春さん
PCRの戦略的拡大いまこそ 感染伝播の抑制に大きな力
しんぶん赤旗 2020年7月25日
東京都内で新たな感染者が4日連続で200人を超えるなど、新型コロナウイルスの感染が全国で急拡大しています。感染の現状とその対策について、群星(むりぶし)沖縄臨床研修センター長の徳田安春さんに聞きました。(中祖寅一)
―感染急拡大が進行し、全国的にも深刻な状況となっています。
「第2波」と言われますが、私は第1波の継続だと思います。
緊急事態宣言と政府の自粛要請にこたえた国民の努力で一定の収束を見ました。そこで政府が緊急事態宣言を解除し、行動制限(自粛)を解除し、経済活動を再開しましたが、人の接触が増えれば感染が再拡大することは自明でした。
だから、行動制限からの出口戦略、安全な経済活動再開の条件をつくることが必要でした。収束から活動再開に向かう時期に、PCR検査を戦略的に拡大し、感染実態の把握、特に無症状感染者の発見と保護・隔離を進めることをシステム化することが必要でした。
しかし政府はそれを怠り、単に制限を解除し、経済活動再開を進めたために感染の再拡大を許している。
しかも経済活動最優先にこだわり、感染が拡大しても、3、4月の時は「ステイホーム(家にいて)」と言ったのに、今回は「Go Toトラベル」と言って国民を混乱させています。
―東京・新宿の検査スポットの陽性率が7月に入って30%を超えています。検査数も増えましたが、陽性率が上がっています。
陽性率33%と聞きましたが、これはかなり高い。陽性者の数よりも陽性率の方が大事です。陽性率がここまで高くなるとその地域で市中感染が広がり、ウイルスがまん延しエピセンター(震源の真上)化する危険な状況です。エピセンターとは、クラスター(感染者集団)が出続けて止められない、大規模なクラスターが起こっている状況です。
すべてのエピデミック(流行)、パンデミック(大流行)はローカル(地域)から始まります。今回は中国の武漢市の市場から始まりました。そういうエピセンター化したローカルエリアに徹底的に防疫介入すべきです。
ところが政府の動きは遅い。自治体任せ、医師会任せ、地域任せになっていて積極的な防疫を行っていない。
ウイルスは人の体の中に隠れており、防疫介入は、日中に地域を消毒するだけではだめです。地域の人びと全体の検査を徹底する必要があります。
東京・新宿では、特に感染拡大の震源になっている場所―歌舞伎町エリアにPCRをかける。昼の人口と夜の人口がいることを考慮し、検査の範囲を決める必要があります。住人だけでなく飲食業関係者、オフィスの会社員なども当然対象になる。職業リスクもあるので、接客業のホスト、ホステスなどは優先的に検査する。これは急ぐ必要があります。
―経済活動の再開へ向かう時期に必要とされた検査体制のシステム化とは。
一定の収束の中では、検査の希望者も減り検査需要は減りますが、その時、経済活動再開を目指すのであれば、無症状で感染を引き起こす人を発見し、保護隔離するシステムの構築が必要でした。
私たちはPCRの産業化を提言してきました。検査に必要な防護資材(ガウン、フェイスシールド、N95マスクなど)の生産・確保、陽性者の保護・隔離のための療養施設(ホテルなど)の確保・提供、療養者の保護・支援システム(モニタリング、送迎、メンタル支援)など、産業界とも協力して継続的な検査・保護のシステムを社会的に構築することです。ドライブスルーもシステム化すべきです。
これは補正予算のうち1兆円を使えばできます。アメリカは3兆円使っています。日本政府は、検査体制を拡充するという約束を果たしていません。本来6月は、このシステム化を進めるための1カ月でしたが、1カ月を無駄にしました。
いまは無症状感染者を保護するホテルも解約し、保護するスペースがない。むしろ6月に借り上げて数千室を確保するべきでした。
―PCR検査の積極拡大の主張に対し、「デメリット」を強調する主張もあります。その根拠として、そもそもPCR検査の感度は高くないと。
検査目的を、「感染力」を測定する防疫検査としてほしい。
そもそもPCR検査は、ごく微量のDNAサンプルから、酵素の働きで対象となるDNAを増幅させて分析するもので、少量のものを検出・感知するという点で感度は非常に高い。「感染力」を測定する防疫目的検査の場合、ウイルス特有のDNAを増幅させ、それが新型コロナウイルスであるかを判定するわけで、ごく少量でも検知可能という意味で非常に感度は高いのです。
―厚生労働省や政府対策本部の分科会(専門家会議)は、診断目的の検査として「感度は70%程度」として、3割の偽陰性が生じると強調しています。
例えば肺や気管支の細胞、消化管や腎臓、鼻の神経の場合など身体の中の細胞のどこかにウイルスがいれば感染です。その時、唾液や咽頭液にウイルスがいなければ、PCR検査をしても確かに感度は低く、PCR陰性でも感染しているということはありえます。
感染から発症、症状の進行の過程で、唾液や咽頭などの上気道部にウイルスが大量に存在する時期と、そうではない時期に変化があります。発症から2週間以上経過すると、多くの患者ではPCR陰性になります。ですから、最終的に感染の有無を診断するには、単回のPCR検査の感度は7割程度といえます。
しかし、いま戦略的にPCR検査を拡大しようとするのは、感染者の感染力を確認し隔離するためで、しかも無症状者が問題です。
感染予防にとって大事なのは、Aさんに感染しているウイルスがBさんに感染伝播(でんぱ)するかどうかです。Aさんが無症状なら咳も痰も出ません。その時の感染力の有無は唾液や咽頭液にウイルスがいるかいないかが決定的です。発声(しぶき)など唾液等から感染が起こります。
無症状者の唾液にウイルスがいるかどうかの検査感度が問題で、そう考えるとPCR検査は100%に近い高い感度を持つゴールドスタンダードです。
また、感染していない人を感染者と間違って判定する(偽陽性)確率も非常に低いのです。時間変化を考慮して頻回の検査も必要です。頻回の検査ができるようなら、抗原検査でもよいです。
私の知人のアメリカの先生や友人もこのような考え方でPCR検査の拡大を追求し、エピセンターだったニューヨークでも検査と隔離を徹底し、抑え込みに成功しつつあります。
PCR検査の感度と特異度の議論はもう終わりにしましょう。今こそ、検査数を世界の国々なみに拡充させることが、経済と感染抑制の両方を達成するために必要なのです。
検査の感度・特異度 検査の性能を表す指標。感度とは、陽性の人を陽性と判定できる確率。特異度とは陰性の人を陰性と判定できる確率のことです。PCR検査は、もともと分子生物学や医学、法医学の検査技術として非常に高い感度・精度を持ちます。新型コロナウイルスの臨床検査に用いられる場合は、検査対象となる人のウイルス排出量の時期的変化や個体差によって感度に変化が出ます。そのため検査を繰り返すことや、他の抗体検査、抗原検査と組み合わせることで判定を確実にする手法がとられます。
とくだ・やすはる 医師。琉球大学医学部卒。2005年にハーバード大学大学院で公衆衛生修士号取得。聖路加国際病院一般内科医長などを経て17年から群星沖縄臨床研修センター長。