2020年7月19日日曜日

いまの新型コロナ感染症対策の分科会ではどうにもならない

 政府が組織した新型コロナ感染症の専門家会議は、その後経済専門家を加えた分科会に改組されました。しかし水と油のような人たちを混ぜてみても、合理的な結論が得られる筈がありません。
 感染症専門家と経済専門家のそれぞれが出した結論をベースに、政府が統合的な結論をまとめるのが本来のあり方なのにそうしなかったのは、政府がその政治責任を負いたくないからでしょう。それでは政府と分科会の関係が依然としてスッキリしないのは当然のことです。

 それは兎も角として、分科会の尾身茂会長の発言も依然としてスッキリしません。
 尾身氏は 16日経団連のフォーラムで「旅行自体が感染を起こすことはない」と発言「Go Toトラベル」キャンペーンを支持しました。しかしそのあと参考人として出席した参院予算委員会では一転、「私の個人的な意見はですね、感染が拡大しているということがある程度判断されればですね、いまの段階で全国的な『Go Toキャンペーン』をやる時期ではないと思います」と答弁しました。
 分科会のトップがそんなに簡単にクルクル言い分を変えるようでは話になりません。何より分科会では、他の感染症専門家にはロクに発言の機会が与えられなかったということです。これは政府による分科会の政治利用以前の問題です。

 尾身会長は16日夜の会見で、またもPCR検査の偽陽性・偽陰性の話を持ち出し、無症状者に対する大規模な検査の実施を否定したということです
 それでは、感染を防ぎながら経済を回すことのできるどんな方法があるというのでしょうか。まさか「クラスター追跡班」の活動で十分というのではない筈です。感染者が出た後その濃厚接触者を調べるのは当たり前の話しで、世界中が行っていることです。そしてそれだけでは決して感染拡大を防止できないことは、第1波で証明されたし、現状でも明らかになっていることです。

 こんな人が分科会のトップになって政権と馴れ合っているのであれば、16日の参院予算委で、参考人の児玉龍彦・東大名誉教授が
「国会で、国を挙げてワンストップの対策センターをつくって、感染者数を減らす。感染エピセンターを制圧する。それをきょうから、今週からやらないと、大変なことになります」、「東京にエピセンター(震源地)が発生しており、いま、全力で食い止めないとニューヨークのような事態になる」
と述べた通りになるのは明らかです。
 LITERAの記事を紹介します。
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分科会はなぜ東京除外だけの「Go To」実施に反対しなかったのか? 
 官邸の言いなりになった医療専門家たちのひどい言い訳
LITERA 2020.07.17
 昨夜、東京除外を決めた「Go Toトラベル」キャンペーンが波紋を広げている。きょう会見をおこなった赤羽一嘉国交相は新たに「若者や高齢者の団体旅行は控えてもらうことが望ましい」と言い出し、さらに除外された都民や都内で宿泊予約をしていた人のキャンセルについても国は補償しないというからだ。
 だが、根本的な問題は、東京以外でも感染が拡大するなかで旅行を後押しすることの危険性だ。政府は「体調が悪い人は旅行を控えて」などと言うが、無症状者が医療体制の脆弱な地方で感染を広げてしまえば、その地域は一体どうなるのか。こんなことは素人でもわかりきった話だ。
 しかし、こうした問題を無視して政府は東京除外を発表し、「Go Toトラベル」を中止にはしなかった。しかも、絶句したのは、昨日夜から開催予定だった政府の分科会での判断を待つことなく、分科会開催前に赤羽国交相と西村康稔コロナ担当相は安倍首相と面会し、その後、唐突に「東京除外」を発表したことだ。
 西村コロナ担当相は直前までおこなわれていた参院予算委員会でも「分科会で専門家に議論してもらい、適切に判断して対応する」と繰り返し答弁していた。つまり、分科会の議論を踏まえて答えを出すと答弁していたにもかかわらず、その分科会をすっ飛ばして方針を固めたのだ。
 これはようするに、分科会で「Go To」実施自体に異論が出る前に政府の方針を突きつけ、それによって専門家を黙らせようとしたのではないか。
 これまでも政府は専門家会議から出される提言や見解に対し、都合の悪い文言を修正・削除させる一方、安倍首相は何かあると「専門家」に責任を押し付け、さらには全国一斉休校など専門家の意見を聞きもせず打ち出した政策を、あたかも専門家の提言があったかのように語ってきた前科がある。今回も分科会で「Go To」を容認させて「専門家」に責任を押し付けようとしたが、あまりに反対の声が大きいために、分科会より先に東京除外を打ち出すことで「安倍首相の判断」であることを強調させ、東京除外の方針で分科会にも追認させようとしたのだろう。

 つまり、またも安倍官邸は専門家を「政治利用」して都合よく使ったわけだが、「Go Toトラベル」の実施に反対しなかった専門家のほうも同罪だ。
 とりわけ呆れたのは、分科会の尾身茂会長の発言だろう。まず、尾身会長は昨日16日に経団連のフォーラムで「旅行自体が感染を起こすことはない」と発言。春には「不要不急の外出自粛」を訴えていた人物が、再び感染拡大の局面にあるいまは一転してこんなことを言い出すのか、さっぱり意味がわからないが、この発言のあと参考人として出席した参院予算委員会では一転、「私の個人的な意見はですね、感染が拡大しているということがある程度判断されればですね、いまの段階で全国的な『Go Toキャンペーン』をやる時期ではないと思います」と答弁した。
 もしかすると、この変わり身の様子から考えると、答弁の時点ですでに政府の方針は東京除外で固まっており、それが尾身会長にも伝わっていたのかもしれないが、問題は分科会での議論だ。

分科会メンバーの釜萢敏・日本医師会常任理事は「しゃべる機会がなかった」
 分科会後の記者会見で尾身会長は「どこかで線引きをしないといけないですよね。そういうことで、東京を一つ例外としたのは合理的な判断だと思います」と語り、東京除外で分科会も了承したと報告。分科会メンバーの岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長も、分科会後に記者団に対し、「『Go Toキャンペーンを止めるべきではないか』とか『3カ月様子を見よう』という意見は出なかった」と述べた。
 しかし、同じように記者団に囲まれた分科会メンバーの釜萢敏・日本医師会常任理事は、こんなことを語っていたのだ。
「地域によって感染の様子は違うわけだし、東京だけが感染しているわけじゃないから、東京だけということよりは、まずは自分の県、あるいは隣県くらいまでのあいだでやりながら広げていったらどうかなっていうようなことを言おうと思ったんですけども、それはとくにしゃべる機会がありませんでした」
 つまり、東京以外でも慎重に運用するべきではと提言しようと思ったものの、それを発言する機会がなかった、というのである。発言機会が与えられなかったのか、それともたんに日和っただけなのかはわからないが、ともかく、忌憚なく意見を出し合うという場にはなっていないことはたしかだ。

 さらに、今朝の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)によると、経済学者である小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹も、「東京と隣接する県や大阪も対象外にしなくていいのかと質問したが、分科会の中ではそれ以上議論は深まらなかった」とコメントしていた。
 繰り返すが、東京のみならず他府県でも感染拡大の局面にあるというのに、東京以外はどうするのか、全国で実施して大丈夫なのかという議論が深まらないまま「東京除外」でどうして決着をつけられるのか。というか、これがほんとうに感染症の専門家が入った会議体なのか。

片山・元鳥取県知事が「ウイルスの専門家なら止めるべき」「本音を言えない文科会は害悪」
 実際、分科会の姿勢に対し、片山善博・元鳥取県知事は本日放送の『ひるおび!』(TBS)で、こう批判した。
「岡部さんの発言ですけど、『止めようとか3カ月遅らせたほうがいいんじゃないかという発言はひとりもいなかった』っていうのは、ちょっと私なんかは分科会のあり方としては異様に感じますよ。専門家集めたみなさんで、やっぱりウイルス対策からすれば止めるべきだというのは当然出て然るべきですよね」
ウイルスの専門家のみなさんがまったく本音を言わないというか言えないというか、そういう会はね、私は害悪だと思いますよ」
 専門家会議の姿勢にも疑問は多々あったが、分科会に改組し、今回の件でさらに「政府の追認機関」としての立ち位置が浮き彫りとなったといえるが、この調子で感染再拡大を食い止めることなど、どだい無理だ。
 事実、昨夜の会見で尾身会長はまたも偽陽性・偽陰性の話を持ち出し、無症状者に対する大規模な検査の実施を否定。感染を防ぎながら経済を回すことのできる状況をつくり出すというなら、必要な業種には補償をした上で検査を大規模に実施し、感染を広げる無症状者を把握、隔離・療養をおこなうことで職場や学校での感染リスクを低くし、その上で経済や社会活動を再開させるしかないが、この国にはそれをやる気がまったくないらしい。
 徹底した検査もないまま、“自己責任”で実施される「Go Toトラベル」。この政策によって、無用な混乱と不幸が起こることがなければいいのだが……。 (編集部)