2020年7月22日水曜日

岩手県・達増知事が語る「半年感染者ゼロ」の理由

 新型コロナ感染者の再拡大が明確になり、首都圏をはじめ全国的に増加の勢いが増しています。そんな中で現在(7月20日)に至るも岩手県は日本の中で唯一「感染者ゼロ」を維持しています。
 5月15日付の米紙「THE WALL STREET JOURNAL」「100万人以上の地域が無傷で残ってい」と報じたということです

 文春オンラインが岩手県の達増(たっそ)拓也知事をインタビューしました。
 因みに達増知事は、去年9月8日の政権与党と野党勢力の全面対決となった岩手県知事選で、自民党の候補を県内全市町村で破る「完全試合」で4選を果たしました。

 また岩手県は、国に核兵器禁止条約署名・批准求める意見書を、県と県内の33市町村全ての議会が可決した国内唯一の県でもあります。

 開明な知事がいると全県の雰囲気も変わるという証明でしょうか。
 文春オンラインの記事を紹介します。
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岩手県・達増知事が語る「半年感染者ゼロ」の理由と「岩手1号ニュースだけではすまない」への意見
  文春オンライン 2020/07/21
「文春オンライン」編集部
 日本国内で新型コロナウイルスの感染者が初めて確認されたことを厚労省が発表した1月16日から、半年あまりが経った。唯一の「感染者ゼロ」を維持している都道府県が、岩手県だ(7月20日時点)。5月15日付「THE WALL STREET JOURNAL」では「100万人以上の地域が無傷で残っています」と報じられた。
 その一方で、実際に暮らす人たちは「うちの会社や団体から出したくない」という切実な思いを抱えているという。岩手県出身の人が実家の父親に「そろそろ帰っていいかな」と聞いたところ、「絶対に帰るな」「岩手1号はニュースだけではすまない」との返信があったというツイートも話題を呼んだ。首都圏を中心に感染者数が再び増えるなかで、帰省や旅行についてはどう考えるべきか。岩手県の達増拓也知事に聞いた。
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「第1号になっても県はその人を責めません」
――7月5日、達増知事は「 7.2 新しい別の窓 」(Abema)に出演されましたが、「新しい地図」の3人は岩手県のコロナ対策にどんな関心を持っているように感じましたか?
達増 なぜ岩手県では感染者ゼロのままであるのか、それゆえのプレッシャーをどう乗り越えようとしているのか。私が記者会見で「(陽性)第1号になっても県はその人を責めません」と話したことも話題にのぼりました。
 感染者ゼロには、色々な要因があると思っていまして、岩手は1都3県、東京、神奈川、千葉、埼玉を合わせた面積より広く、人口密度が低い。県民性が真面目で慎重だということ。岩手県は日本の中でも外国との行き来が比較的少ないほうだという要因もあると思います。また、世界各国と比べると日本全体の感染者数はまだ少なく、もし岩手がアメリカやヨーロッパにあったとしたら、ゼロということはないだろうと考えています。

――一時、PCR検査数が少ないから感染者ゼロなのではないか、「ゼロは怪しい」という声もありました。東北5県の感染者数と検査実施数を見てみると、青森(31人/1201件)、宮城(126人/4914件)、秋田(16人/1018件)、山形(75人/2772件)、福島(84人/8232件)と、検査数は意外と岩手より少ないところもあるんですね(各7月16日~17日時点)。
達増 岩手の累積検査実施数も1224件(7月16日時点)と、1000を超えました。最近では全国最下位ではなくなってきています。県で行うPCR検査は4台の機械で1日に80検体行うことができ、県職員OBなどを臨時に採用して、マンパワーも増やしています。途中から民間検査も行うようになり、今ではそちらのほうが多くなりました。6月19日からはあらたに抗原検査も実施しています。
 岩手県はドライブスルー型や臨時の施設でPCR検査を受けられる「地域外来・検査センター」の数が、東北で一番多いんですよ。県が広いので盛岡から離れたところのニーズに応えられるようにしています。5カ所が開設済みで、これから計10カ所、医師会と連携してやっていきます。

達増知事のフォロワーは6万人
達増 「新しい地図」の稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんのお三方は東日本大震災の復興支援で岩手沿岸のほうにも入っていますし、映画の最初の舞台挨拶は盛岡市内の映画館で行われたんですよ。岩手の自然や風土、県民性について、いろいろ知っているし、好意を持ってくださっていると思います。「盛岡冷麺、いいなあ~」とおっしゃっていました。

――達増知事個人のアカウントで、「先週はお世話になりました」とツイートされていて、県広報のアカウントとはちょっと雰囲気が違いますよね。フォロワーは6万人。ツイッターを使う時に気を付けていることはありますか。
達増 1996年、最初の衆議院議員選挙の準備をしている頃はインターネット以前のパソコン通信で、「みちのくデモクラシーフォーラム」という電子会議をやっていました。このフォーラムにはじまり、衆議院議員時代はインターネットでホームページとブログをやって、岩手県知事になってからツイッターにしまして、もう10年以上経ちます。今はなき、日経ゼロワンというデジタル情報雑誌でインタビューを受けたことがありまして、「サイバー議員」と呼んでもらったこともありました(笑)。それぞれのツールは発信だけでなく、情報を集めることにも大変有効なので、ツイッターでも読む時間を結構とっていますね。
 200人くらいの方をフォローしながら、タイムラインを見て。あとは「岩手県知事」でエゴサ、エゴサーチと言われるかもしれませんが、仕事上必要なことだと思いますので、時々検索します(笑)。実は「新しい地図」のお三方が、番組のゲストに小池東京都知事、吉村大阪府知事と続いて、次は岩手県知事さんもいいかもねと言っていたというのを1カ月ほど前からツイッターで発見していましたので、「声がかかるかも」と思っていました。

――実際にご自身がつぶやくんですか?
達増 だいたい1日に1~2件くらいずつ発信しているんじゃないかと思いますけれども、自分でツイートしています。あくまでも個人の見解ということで、趣味のことも。NHKの朝ドラ「あまちゃん」を放送していた頃は、連日解説をツイートしていました。タブレットを使っています。大きくて見やすいですし、キーボード形式で入力できるところがいいですね。

「絶対に帰るな」「岩手1号はニュースだけではすまない」のLINE
――6月の終わりに、岩手県出身の方が実家の父親に帰省の相談をしたところ「絶対に帰るな」「岩手1号はニュースだけではすまない」というLINEのやり取りを紹介したツイートが反響を呼びました。当時、達増知事のタイムラインには?
達増 ワニの絵が書いてあるやつですよね。そのものは見ていなかったんですが、ネットで話題になっているのを見ました。

「親子の情」みたいなものはわかるところもあります
――岩手県では、「感染者ゼロ」の状態が半年以上続いています。個人差はあると思いますが、緊張の糸が張りつめて、そろそろ辛いな、疲れてきたな……という人もいるのではないかと。達増知事の現在のご心境としては、いかがでしょうか。
達増 そうですね。過剰に思いつめたり世間体を気にしたりするのは、ないほうがいいと思っています。このところ記者会見などでは、「県としては第1号の陽性者は咎めません。むしろ全力で優しくケアしていきますよ」ということを発信しています。先日、県の対策本部の決定事項として「 7月10日以降における留意事項 」という文書を発表しました。

〈県内では未だ感染未確認の状態が続いておりますが、県は「感染ゼロ」を目標としているものではありません。〉
〈何よりも大事なことは、「命と健康を守ること」です。発熱等体調の悪い場合には、医療機関の受診をお願いします。〉

 こう明言しています。「診療控え」、第1号になりたくないから検査を受けないというのが最も避けたいことです。
 ただ私も気持ちとして、自分の子供が帰省することで感染を広げさせたくないという「親子の情」みたいなものはわかるところもあります。その意味で「絶対に帰るな」と言う方の気持ちを全面的に否定はしないのですが、かえってストレスやプレッシャーになったり、怖くて検査を受けないということになると本末転倒です。そういう風にならないように、「第1号でも大丈夫ですよ、咎めませんよ」と発信していきたいと思います。

――ああいうツイートだけでなく、「第1号になるのが怖い」という声は届いていますか?
達増 県に対する訴えや要望という形ではないんですけれども、そういう声があちこちであがっているということは数多く聞きます。私自身、会う人会う人から、そういう話も聞きます。企業や団体の関係の皆さんと仕事でお会いした時などに、「うちの会社から出したくない」「うちの団体から出したくない」とおっしゃいますね。

「COCOA」のインストール率、岩手が全国1位
――接触確認アプリ「COCOA」のインストール率、全国で岩手県が1位だったというアンケート結果もありました。県民性と感染者ゼロの関係については、どうなんでしょう。
達増 先ほど申しました「真面目で慎重」という県民性。これが東日本大震災の経験で強化されたと私は思っていまして、それが発揮されているということ。それと同時に、「COCOA」については岩手の意外な「先進性」が出ていると思っているんですよ。世界遺産に「明治日本の産業革命遺産」というのがあるんですけれども、ほとんどが九州と山口県であるなか、近代製鉄の元祖として岩手県の釜石がぽこっと含まれているんです。そういう意外な先進性を岩手は発揮するところがあります。英語で武士道を書いた新渡戸稲造も岩手県出身です。

東京から感染が飛び火するリスク
――そろそろ夏休みがやってきますが、首都圏や他県からの帰省についてはどんな風に考えていますか?
達増 私の気持ちとしては、日本政府、菅官房長官や西村大臣が言っているように、県境をまたぐ移動に制限は必要ない。移動はOK。ただ、感染対策をしっかりやっていただきたいということで、受け入れたい思いはあるんです。ただ、東京都では1日あたりの新規感染者数が200人をなかなか下回らない状況があり、3月や4月よりも東京から感染が飛び火するリスクが高くなってしまっています。まずは東京で、その頃よりも高い山を作らないようにお願いしたいです。
 東京オリンピックの開会式があるはずだった24日を含む7月23日~26日の4連休、この時期を経てさらに新規感染者数が増える可能性もあるので、そうなってきますと東京から自由に外へ出るというわけにはいかなくなるのではないかということを恐れています。

――ゴールデンウィークの時に言われていた「オンライン帰省」のような別の形を考えたり、夏は難しいかもしれないけれども、年末くらいには帰れたら、という長い目で見ることが必要かもしれないですね。
達増 残念ながら、そういう可能性には注意しておかなければならないと思います。

――「自粛警察」や「コロナ八分」という言葉も生まれ、岩手県でも3月~4月頃に感染を恐れるあまり「県外お断り」の対応が相次いで、県立病院では県外から来た人の受け入れ拒否も起きました。達増知事が説かれた「正しく怖がること」と観光を含む経済活動について、どうバランスを取っていけばいいものでしょうか。
達増 バランスというよりも、感染対策はないがしろにできないので、とにかくまず感染対策です。現在は全国的な一律の自粛や休業が求められていない中で、お店も開いているし、ホテルや旅館、観光地やスポーツ施設も開いている。各々の感染対策を徹底させることに集中するのがいいと思っています。
 岩手競馬は、先々週末からお客さんを入れています。熱を測ったり適切なディスタンスを取るという感染対策をしっかりやる。感染対策の経験値というのは、積めば積むほど上がっていくと思います。たとえばディスタンスの取り方、食べる前後にどのようにマスクを付け外しするか、人と話す時に飛沫を浴びせないような方法は。これらを一つひとつ学んでいけばいいんです。
「自粛警察」や「コロナ八分」は、恐怖に突き動かされて起きたことだと思います。もし感染している人がそこにいても、うつらないようにする。あるいはもし自分自身が感染していても、人にうつさないようにする。こういった水準の対策が「新しい生活様式」だと紹介されているのですから、実行に移していけばよいのだと思います。

Go Toキャンペーンと新幹線半額
――Go Toキャンペーンは東京発着を外して7月22日から実施されそうですし、JR東日本の新幹線半額キャンペーンも始まります。他県から岩手県へ行きやすい流れができていくなかで、感染対策をしっかり行うことが要になるでしょうか。
達増 盛岡駅をはじめとする新幹線の発着駅や、花巻空港を利用する人の数は、もちろん落ち込んでいますが、ピーク時よりは回復基調にあります。岩手県では、5月あたりから市町村の中での観光や飲食の利用について力を入れはじめ、6月~7月は「オール岩手」と、その範囲を県内に広げているところです。馴染みのあるところで、よく知った人との間で感染対策の経験を積み、上達させていけば、県外から来る人たちとの間でも感染対策はできるようになるだろうと見込んでいます。

ピーク時で入院266人、軽症者等が113人
――岩手県に陽性の人があらわれた場合、病床数についてはどのように想定していますか。
達増 岩手県では、国が示している「高齢者群中心モデル」で患者数を推計したところ、ピーク時で入院266人、軽症者等が113人になるという流行シナリオが想定されています。現状では150病床と、軽症者用の宿泊療養施設を85室、確保しています。さらに事態が悪化した場合に備えて、病床は350床まで、宿泊療養施設も300室まで増やせるように、関係する病院や施設と調整しています。

――最後に、感染対策のほかに、達増知事が体調管理で気を付けていることがあれば教えてください。石原慎太郎元都知事が効果を語っていたこともある、呼吸法「ロングブレス」運動を取り入れていると伺いました。
達増 ロングブレス運動は、空き時間を見つけて回数を増やしてやっていますね。7年前に腰痛気味になりまして、友人に教えてもらって改善しました。
 基本的な感染対策を怠らず、人と会う時、人の中に入っていく時に手を洗う。睡眠不足、栄養不足にならないように、睡眠時間はきちんととるようにし、食事も規則正しく、栄養をとるように心がけています。私、結構風邪をひきやすいタイプなんですが、今年に入ってから風邪をひいていないです。基本的なことが効いてくるんだなと実感しています。コロナ対策では、オール岩手で取り組みを着実に重ねていきたいですね。
(「文春オンライン」編集部)