2020年11月4日水曜日

04- 任命拒否対応を巡る国会審議 各紙社説は厳しく首相を批判

 国会はいよいよ予算員会の審議に移りましたが、菅首相の対応を相変わらず酷く、不誠実・的外れ・矛盾だらけ と呼ぶに尽きます。
 こんな状態ではいつまでたっても議論は進展しません。それを「不毛」と呼ぶのを菅首相は知っているのでしょうか。
 3つの地方紙の社説を紹介します。 
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学術会議で予算委論戦 疑問解消とは程遠い
                             佐賀新聞 2020/11/3
 菅義偉首相は衆院予算委員会で初の本格論戦に臨んだ。焦点の日本学術会議の会員任命拒否問題では、野党の追及に対し理由の説明を拒み続け、疑問はむしろ深まった。
 国民が知りたいのは
 (1)政府に批判的な6人の任命拒否は学問の自由を侵害していないか
 (2)従来の政府答弁・法令解釈の変更に当たり、手続きに違法性がないか
 (3)任命権者である首相本人が「候補者名簿を見ていない」としており、誰が任命拒否
   を実質的に判断したのか
―の3点だ。
 ところが首相や自民党は学術会議の組織改革の必要性を繰り返し主張。会員構成や活動内容の問題点を強調することで、任命拒否の「正当性」を訴える意図を感じざるを得ない。しかし組織問題と任命拒否は本来別問題だ。因果関係があるように「印象操作」するのは不適当と言うべきだ。
 自民党の大塚拓氏は、人文・社会科学の研究者は全研究者の1割なのに学術会議の3分の1を占め、法学・政治学の研究者は電気・電子工学より100倍会員になりやすいとして「科学アカデミーを正しく代表しているのか」と厳しく批判。
 呼応して首相は現会員らに推されないと会員になれない仕組みに言及し「閉鎖的で既得権益のようになっている。前例踏襲は今回やめるべきだと判断した」と述べた。だが、これらは人文・社会科学系に有利な選出の問題点を列挙したにすぎず、うち6人をどんな理由で任命拒否したかの疑問には答えていない
 首相は、立憲民主党の江田憲司氏らが任命拒否理由や人事決定の基準明示を求めたのに対し「公務員の人事に関わるので差し控える」と答弁を避け続ける一方、学問の自由については「全く侵されていない」と強調。しかも、6人を除いた名簿しか見ないで決裁したと改めて述べた上、6人のうち1人以外は名前も知らなかったと認めた。
 これでは「法に基づいて私が判断した」との首相答弁は到底納得できない。任命拒否に関与したとされる杉田和博官房副長官を早期に参考人質疑して解明する必要がある。招致を拒む政府与党は、「行政官の国会出席拒否はあり得ない」との野党の声を聞くべきだ。
 また首相は任命拒否に関連し、会員の出身が旧7帝大などが多く、私大、女性、若手が少ないとバランス論を展開。だが、任命拒否された6人の半分は私大教授で女性も1人含まれると野党に反論され答弁に窮した。総務相時代、NHK改革に反対した課長を更迭したと明示した自著との整合性を突かれ、しどろもどろになる場面もあった。
 結局なぜ6人に限り拒否したかの疑問は晴れない。それは、安全保障法制などを巡り政府に批判的だったことが理由である可能性が依然高い。だが、それを認めれば学問の自由侵害を認めることになる。ゆえに首相は「人事」を隠れみのに答弁を拒むほかない苦しい対応を余儀なくされた。
 首相は学術会議を「10億円の予算を使う機関の公務員であり、国民に理解される存在でないといけない」と言った。その論法でいくなら、年に100兆円を超す予算を執行する政府のトップの説明責任は比較にならないほど大きいはずだ。
 任命拒否理由をきちんと述べ、非を認めた上で、改めて6人を任命することで自ら招いた混乱を収拾すべきだ。(共同通信・古口健二)


衆院予算委員会 首相答弁は矛盾だらけだ
                                                信濃毎日新聞 2020年11月3日
 肝心なことは何も話さない。
 きのうから始まった衆院予算委員会での菅義偉首相の答弁だ。日本学術会議が推薦した会員候補6人を任命拒否した理由は不明のままである。
 菅首相の姿勢は国会軽視であり、説明責任を果たしていない任命拒否問題は学術会議の独立性や学問の自由に深く影響する。理由が不明のまま放置できない
 菅首相が説明しないのなら、任命拒否に関わった杉田和博官房副長官の国会招致が必要だ。招致に同意することを与党に求める。
 首相答弁は矛盾だらけだ。会員選考に問題があったとし、「出身大学は旧帝国大などに偏りがあり、閉鎖的で既得権益のようになっている」と批判した。その上で民間や若い人が増えることが必要との認識を示した。
 6人の半数は私立大で、1人も会員のいない大学の教授や50代前半の教授もいる。整合性が取れない。首相は拒否理由は「個々人については答えを控える」と繰り返し、拒否した50代前半の大学教授は若手と「認めない」と述べている。論理的に説明できない理由があるとしか思えない。
 日本学術会議法は会員候補を「優れた研究または業績がある科学者」から選ぶと定める。首相は6人のうち5人の研究や業績は「知らなかった」とも述べた。それでは、誰がどのような基準で任命対象から外したのか、明らかにしなければならない
 共通点は、安全保障関連法など政府の政策に反対していたことだ。首相は拒否理由として「あり得ない」と述べている。一方で「政府に反対したことを理由に任命を拒否するのは違法か」との問いに、明確に答弁しなかった
 首相が理由を説明できないから学術会議側に「忖度(そんたく)」を求めているようにも受け取れる。これでは会議側に萎縮が生まれ、独立性が脅かされる懸念がある。
 首相や自民党には、学術会議のあり方に論点をすり替える意図を持った答弁や質問が多い。予算委は、あり方と任命拒否は別問題であると明確にして議論を進めることを確認するべきだ。
 首相は新型コロナウイルスの今後の経済対策を問われても「経済や社会の変化を見た上で判断する」と述べることが目立った。2050年の脱炭素社会実現に向けた取り組みも、石炭火力発電の今後の方針は説明しない。
 これでは具体性を欠き、国会の議論は深まらない。首相は答弁の姿勢を改めねばならない。


学術会議で論戦 矛盾と疑問尽きぬ答弁
                                                        北海道新聞 2020/11/03
 菅義偉政権発足後、初の予算委員会での論戦がきのう、衆院で始まった。
 野党は焦点の日本学術会議の会員任命拒否問題を中心にただしたが、首相は核心の質問には答弁を避け続けた
 最優先で明らかにすべきは、会議が推薦した105人の会員候補のうち、なぜ6人だけ任命拒否したのか、その具体的理由だ
 この疑問に首相が「個別の人事は答えを差し控える」と言い続ける限り、自身が目指す「国民に理解される政権」にはなれまい。
 首相が苦し紛れの答弁を繰り返すたびに、疑問と矛盾が膨れあがっていった。
 首相は会員選考について「会員約200人、連携会員約2千人の先生と関係を持たないと会員になれない。閉鎖的で既得権のようになっている」などと指摘した。
 その結果、構成が偏り、旧帝大出身が45%を占め、民間出身者や若手が少ないことを問題視した。
 ただこの指摘は必ずしも事実に即していない。
 会員の推薦は性別、地域性などに配慮し、近年は女性や地方出身が増えるなど、構成は改善されている。政府の有識者会議も学術会議側の対応を評価してきた
 そもそも拒否した学者の半数は私大で、うち2人は同じ大学からの推薦者はゼロか、1人しかいない。女性1人も拒否された。
 こうした矛盾を野党に指摘されると、首相は答弁を拒んだ。
 驚いたのは、首相が推薦会員の名簿を見ていないだけでなく、任命拒否した6人のうち加藤陽子氏以外は知らず、著作も読んでいないことを明らかにしたことだ。
 それでなぜ拒否の判断ができるのか。疑問が尽きない。
 1983年、現在の首相任命制に法改正した際、当時の中曽根康弘首相は「政府が行うのは形式的任命にすぎない」と述べ、歴代内閣はこの法解釈を踏襲してきた。
 今回の任命拒否は明らかに法解釈の変更に当たろう。
 だが政府は2年前、会議の推薦通りに任命する義務はないとする内閣府見解をまとめていたことを盾に、解釈変更を否定している。
 国会に報告もせず解釈変更していたとなれば問題だ。そのため、つじつま合わせの説明をしている疑いが拭えない。前例のない検察官の定年延長の時と似ている

 首相は問題のすり替えをせず、推薦候補全員をただちに任命するのが筋である。組織改善を提起するならその後だ。順番が違う。