2020年11月13日金曜日

菅首相生出演の「NW9」 質問に激怒してまたNHKに圧力(LITERA)

 NHKの人気番組であった『クローズアップ現代』の国谷裕子キャスター降板させられたのは、14年7月に集団的自衛権の行使容認について政権の要である菅官房長官(当時)にインタビューした際に、国谷さんが菅の発言をさえぎって本当にそうでしょうかと食い下がったことが気にくわず、官邸に戻ってから『怒り』をぶちまけたのが原因でした。

 厳しい質問に対しても、何とかそれなりの理屈をひねり出してかわすというのが、良かれ悪しかれ政治家たる者がやることであり、やってきたことです。それなのに、そんなことで激怒するとは余りにも狭量で、そんなことを理由に降板させるのは前代未聞のことでした。
 今にして思えば「あいつだけは許さない」という菅氏特有のスイッチが入ったということでしたが、その程度の人間が安倍政権下で“メディアへの圧力”を担ってきたのでした。

 ところが同じことが10月26日NHKの『ニュースウオッチ9』で起きました。
 この日登場した菅首相は有馬嘉男キャスターが日本学術会議の任命拒否問題について「国民は理解できないと言っているわけなので、もう少しわかりやすい言葉で、説明される必要があるんじゃないですか?(要旨)」と突っ込んだことに対し、『キレ気味にこう述べました。「説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか。105人の人を学術会議が推薦してきたのを政府がいま追認しろと言われているわけですから」
 有馬キャスターは極めて当然のことを口にしただけで、その程度のことでキレ気味になってしまうとは驚きですが、今回もまた官邸に戻ってから周囲に怒りをぶちまけたようで、翌日、山田真貴子内閣広報官からNHKの原聖樹政治部長に対し、
「総理、怒っていますよ」「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う。どうかと思います」という電話が入ったと言うことです。
 何という狭量さでしょうか。勿論それは自尊心の裏返しです。しかし国会であれだけ連日 立往生を繰り返しても、その自尊心に全く変化がないというのも不思議な話です。

 いずれにしてもこんな異常な官邸の反応については聞き流せばいいだけの話ですが、原聖樹氏は安倍政権寄りの人物として知られていた人なので、もしも過剰反応をすれば国谷降板事件の二の舞になります。公共放送の面目にかけてもそんなことにならないことを祈ります。
 LITERAが報じました。
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菅首相が生出演『ニュースウオッチ9』の質問に激怒し内閣広報官がNHKに圧力!『クロ現』国谷裕子降板事件の再来
                             LITERA 2020.11.12
 菅義偉政権の誕生によって恐れていたことが、すでに起こりはじめているらしい。菅首相は安倍政権下で“メディア圧力”を担ってきた張本人だが、菅官邸でも報道現場に直接的な圧力をかけているらしいのだ。しかも、今回ターゲットとなったのは、公共放送・NHKだ。
 菅官邸によるNHKへの報道圧力を報じたのは、「週刊現代」(講談社)11月14日・21日号。菅官邸が問題視したのは、菅首相が所信表明演説をおこなった10月26日に生出演した『ニュースウオッチ9』(『NW9』)だ。
 この日、菅首相は『NW9』で日本学術会議の任命拒否問題について、有馬嘉男キャスターが「国民への説明が必要」と突っ込んだことに対し、キレ気味にこう述べていた。
「説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか。105人の人を学術会議が推薦してきたのを政府がいま追認しろと言われているわけですから。そうですよね?
 つまり、信じがたいことに総理大臣が「説明できないことをやった」と自ら公共放送でゲロったわけだが、問題はこの放送の翌日に起こったと「週刊現代」には書かれている。
〈その翌日、報道局に一本の電話がかかってきた。
「総理、怒っていますよ」
「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う。どうかと思います」
 電話の主は、山田真貴子内閣広報官。お叱りを受けたのは、官邸との「窓口役」と言われる原聖樹政治部長だったという。〉
 山田真貴子内閣広報官は、総務省出身で安倍政権下の2013年から2015年まで広報担当の首相秘書官を務めた人物で、新政権発足で菅首相が官邸に呼び戻した“子飼い”だ。そんな人物が、番組の内容に「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う」とクレームをつけ、「総理、怒っていますよ」と言い放つ──。無論、この「総理、怒っていますよ」というひと言のインパクトは絶大で、NHKが震え上がったことは間違いない。
 というのも、菅首相にはNHKの報道に介入し、圧力をかけた“前科”がある。本サイトでも何度も取り上げてきたが、代表的なのが『クローズアップ現代』の国谷裕子キャスター降板事件だ。国谷キャスターは2014年7月の『クロ現』生放送で当時官房長官だった菅氏にインタビューしたのだが、当時、閣議決定されたばかりの集団的自衛権容認について厳しい質問を繰り出したことから、放送終了後に菅官房長官が激怒。この菅氏の怒りが、後の国谷キャスターの番組降板へとつながることとなったのだ。ちなみに、NHKへの直接的な圧力を担ったのは、学術会議問題でもキーマンとなっている杉田和博官房副長官だと言われている。

菅首相は一体何にキレたのか? 『ニュースウオッチ9』のやり取りを再現
 ようするに、今回伝えられた『NW9』に対する菅官邸からの「総理、怒っていますよ」というクレームは、NHKの現場にとっては『クロ現』事件を思い起こさずにはいられない、紛うことなき“恫喝”にほかならなかったはずだ。
 実際、NHK幹部職員は「この件は理事のあいだでも問題となり、局内は騒然となりました。総理が国会初日に生出演するだけでも十分異例。そのうえ内容にまで堂々と口を出すとは、安倍政権のときより強烈です」と証言している。
 安倍政権のときより強烈な圧力──。いったい、この日の『NW9』で菅首相は何にキレたのか。あらためて振り返ってみよう。
 この日の菅首相の生出演では、『NW9』のキャスターを務める有馬記者と和久田麻由子アナウンサーのふたりのほか、菅官邸からの恫喝を受けた政治部トップである原聖樹政治部長を交えて進行。所信表明演説で菅首相が打ち出した「新型コロナ対策と経済活動の両立」や「温室効果ガス削減」などについての質問が飛び、菅首相も淡々とそれに答えていた。
 そして、生出演の終盤に、話題は所信表明演説で菅首相がひと言も触れなかった日本学術会議の任命拒否問題へ。菅首相は「総合的・俯瞰的」「民間出身者や若手研究者、地方の会員も選任される多様性が大事」などと話したが、この説明に対し、有馬キャスターはこう質問を重ねたのだ。
「総理は国民がおかしいと思うものは見直していくんだということを就任前からおっしゃっていたと思います。で、この学術会議の問題については、いまの総合的・俯瞰的、そして未来的に考えていくっていうのが、どうもわからない、理解できないと国民は言っているわけですね。それについては、もう少しわかりやすい言葉で、総理自身、説明される必要があるんじゃないですか?

「国民に説明を」と繰り返されてキレた菅首相 国谷裕子のときとそっくり
 しかし、この質問に対して菅首相は「私が任命する105人について、学術会議が選考して持ってきちゃうんです。それを追認するだけなんです」などと強弁。相変わらず任命拒否の理由にまったくなっていない上に、法に則っておこなわれている学術会議側の選考・推薦を「持ってきちゃう」などと言い出す始末で、まさに滅茶苦茶だったのだが、有馬キャスターは粘りを見せ、こう畳み掛けたのだ。
「あの、多くの人がその総理の考え方を支持されるんだと思うんです。ただ前例に捉われない、その現状を改革していくというときには大きなギャップがあるわけですから、そこは説明がほしいという国民の声もあるようには思うのですが」
「多くの人がその総理の考え方を支持されるんだと思うんです」という前置きは明らかにへっぴり腰だが、それでも「国民に説明を」と食い下がった有馬キャスター。だが、この食い下がりに菅首相はキレて、冒頭でも紹介した「説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか」という発言を繰り出すことになったのだ。
 お読みいただいたとおり、たしかに有馬キャスターは菅首相がもっとも追及されたくないこの問題でよく食い下がった。「説明できることとできないことがある」という発言を引き出した点も評価されるべきだろう。だが、過去の政府見解から逸脱した「任命拒否の違法性」という問題や、拒否された6人が法案に反対していた学者である点から「政権に批判的な学者を排除したのではないか」という問題など、追及すべき基本的な問題を直接ぶつけることは一度もなく、ただ「国民にわかりやすい説明を」と繰り返しただけなのだ。つまり、食い下がったものの、質問の中身はかなり弱腰だったのである。
 しかし、このことこそが菅首相の逆鱗に触れたのだろう。というのも、前述した『クロ現』での国谷キャスターに激怒した際も、「国谷さんが菅さんの発言をさえぎって『しかしですね』『本当にそうでしょうか』と食い下がったことが気にくわなかった」とNHK関係者が明かしていた(「FRIDAY」2014年7月25日号)。今回、有馬キャスターは、手を替え品を替えさまざまな角度から問いただした国谷キャスターのような鋭さも、前のめりで質問するような場面もなかったが、菅首相にしてみれば、追及されたくない問題で食い下がられたことが、よほど腹に据えかねたのではないか。

NHK改革を進める菅首相は安倍政権以上に圧力をかけ「報道の自由」を奪う
 しかし、ただ食い下がっただけで、「総理、怒っていますよ」「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う。どうかと思います」などと恫喝をかけてくるとは──。ようするに、当然おこなわれるべき当たり前の質問や、納得のいかない回答に対する追加質問など、菅首相には何もぶつけられない、ということだ。これで真っ当な政権追及などできるはずがない。
 さらに問題なのは、今後のNHKだ。菅首相は総務相時代からNHK改革を掲げてきたが、首相となったことでさらに規制改革を進め、NHKの番組づくりの自由を脅かすのではないかとテレビ朝日の玉川徹氏も懸念を示している。しかも、今回「総理、怒っていますよ」とNHKに電話をかけたとされる山田真貴子内閣広報官は総務省出身だ。“下手な報道をするとNHK改革でどうなるかわかるか”という脅しのメッセージが含まれているとNHK側は受け取ったはずだ。
 安倍政権時には「安倍サマのNHK」と揶揄されたが、菅政権でもついにはじまったNHKへの圧力。これからはより強く、NHKのみならず現場で踏ん張ろうとする「忖度しない」放送人を応援していくことが重要になってくるだろう。 (編集部)