2020年11月19日木曜日

自衛隊が米、豪、印3軍とアラビア海で軍事演習する理由 (櫻井ジャーナル)

 海上自衛隊は17日から、北アラビア海で米・豪・印との4ヵ国合同の艦隊演習に参加しました。この4カ国は、その前の113日から6日にかけてベンガル湾でも軍事演習を行いました。
 櫻井ジャーナルは、「自衛隊はアメリカの戦争マシーンにしっかり組み込まれた」と述べました
 米海軍は18年5月に太平洋軍をインド・太平洋軍に改名しました。これはユーラシア大陸の南側及び東側周辺の三日月形の海域を支配することによって内陸部のロシアと中国を締め上げるという、英国の学者ハルフォード・マッキンダー1904年に発表した戦略に沿うもので、現在中国めている「一帯一路」の「海のシルクロード」を断ち切るのが目的です。
 15年6月安倍首相(当時)が赤坂飯店で開かれた自民党の懇親会で「安保法制は、南シナ海の中国が相手」と口にしたのはその意味で、安倍氏は当初から自衛隊が米国の意に沿って中国と敵対することを肯定していたのでした。
 国のトップが根っからの好戦派だったことには唯々驚き、呆れます。
 なお「三日月帯」は櫻井ジャーナルには時々出てくる言葉です。内部三日月帯、外部三日月帯について説明した櫻井ジャーナルの2019.07.07の記事を併せて紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自衛隊が米、豪、印3軍とアラビア海で軍事演習する理由 
                          櫻井ジャーナル 2020.11.18
 アメリカ、オーストラリア、インド、そして日本の4カ国の海軍が北アラビア海で艦隊演習を11月17日から始めた。演習の中心はアメリカ海軍の空母ニミッツとインド海軍の空母ヴィクラマーディティヤだ。この4カ国は11月3日から6日にかけてベンガル湾でも軍事演習を実施している。自衛隊はアメリカの戦争マシーンにしっかり組み込まれた
 アメリカ軍は2018年5月に太平洋軍をインド・太平洋軍へ変更、太平洋からインド洋にかけての海域を一体のものとして扱うことを明確にした。日本を太平洋側の拠点、インドを太平洋側⇒インド洋?の拠点にし、インドネシアが海域をつなぐという構想だ。
 ユーラシア大陸の周辺部を支配し、内陸部を締め上げるという長期戦略戦略がイギリスやアメリカにはある。この戦略をハルフォード・マッキンダーは1904年に発表したが、実際は19世紀から始まっているように思える。ジョージ・ケナンの「封じ込め政策」やズビグネフ・ブレジンスキーの「グランド・チェスボード」もその理論に基づいている。
 締め上げるターゲットは中国やロシア/ソ連。制圧して略奪しようということだが、ロシア/ソ連を支配できればアングロ・サクソンが世界の覇者になると考えていた。

 1991年12月にソ連が消滅した際、アメリカは唯一の超大国になったとネオコンなどが喜んだのはそのためであり、21世紀にロシアを曲がりなりにも再独立させたウラジミル・プーチンを彼らが憎むのもそのためだ。
 ネオコンはロシアを屈服させるためにロシアとEUを分断しようと考え、2014年にウクライナでネオ・ナチを利用してクーデターを成功させた。同じ年の9月から12月にかけてはイギリスと手を組み、香港で佔領行動(雨傘運動)を仕掛けて中国を揺さぶろうとした。
 しかし、この強硬策は裏目に出る。ロシアと中国が接近して戦略的同盟関係に入り、それまでアメリカと友好的な関係にあった中国はアメリカから離れていく。カネ儲けさせておけば中国人はアメリカに従属すると思い込んでいた人も少なくないようだが、それは間違いだった。

 その後、中国は一帯一路(BRI/帯路構想)を推進。そのうち「海のシルクロード」は東シナ海からインド洋、アラビア海を経由してアフリカやヨーロッパへつながる。その海路を断ち切ることがインド・太平洋軍の役割であり、今回の艦隊演習はその意思を誇示することにあるのだろう。
 ユーラシア大陸を囲む三日月帯は西端のイギリスからイスラエル、サウジアラビア、インドを通り、東端が日本。アヘン戦争で勝利しても中国を占領できなかったイギリスの傭兵的な役割を果たすことになるのが日本にほかならない。

 明治維新後、日本は琉球を併合し、台湾に派兵して侵略の拠点を整備し、1875年には朝鮮の要衝、江華島へ軍艦を派遣して挑発、大陸に橋頭堡を築くことに成功した。
 現在、似たようなことをアメリカは行っている。自衛隊は与那国、石垣、宮古、奄美へ活動範囲を広げ、アメリカは台湾での軍事演習に参加させるためだとして海兵隊の部隊を派遣。そして韓国に対する締め付けを厳しくしている。
 安倍晋三は首相だった2015年6月、赤坂にある赤坂飯店で開かれた懇親会で「安保法制は、南シナ海の中国が相手なの」と口にしたと伝えられているが、安倍は日本の立場を理解していた。そうした日米の動きを中国が理解していることは言うまでもない。


自由な海上輸送を許さないアングロ・サクソンの長期戦略  
                          櫻井ジャーナル 2019.07.07
 イランが運行するタンカー「グレイス 1」をイギリスの海兵隊がジブラルタル沖で拿捕した。シリア向けの石油を運んでいる疑いが拿捕の理由だというのだが、それはイギリスやアメリカの勝手な言い草であり、海賊行為以外の何物でもない。
 ちなみに、ジブラルタルはイベリア半島の南端近くにあり、地中海と大西洋を結ぶ狭い通路。そこをイギリスが占領、領土としている。海運を支配する一環だ。
 かつて、中国から西アジアを経由して地中海へ至るシルク・ロードという交易ルートがあったが、物流の中心はやはり海運だった。その海路を支配することで勢力を伸ばした国のひとつがイギリスである。海路を支配するということは、自由な航行を許さないということでもある
 その戦略を体系化したのがハルフォード・マッキンダーというイギリスの学者。1904年に世界制覇のため、ユーラシア大陸の沿岸地域を制圧して内陸部を締め上げていくという戦略を発表している。
 マッキンダーは世界を制覇するためにロシアを支配する必要があると考えた。ロシアには耕作地が広がり、19世紀には領内で油田が発見された資源国であり、国民の教育水準も高い。ロシアの南にある中国も古くから栄え、莫大な資産が蓄えられている。
 ロシアや中国を締め上げるため、マッキンダーは西ヨーロッパ、パレスチナ、サウジアラビア、インド、東南アジア諸国、朝鮮半島をつなぐ内部三日月帯を、その外側に外部三日月地帯を想定した。
 内部三日月帯を海路でつなぐためにスエズ運河がイギリスにとっていかに重要かということは言うまでもないだろう。地中海からスエズ運河を通って紅海へ入り、そこからインド洋へ抜ける際に通過するアデン湾はアラビア半島の南端(イエメン)とアフリカの角(ソマリア)に挟まれている。

 マッキンダーが想定する内部三日月帯はアラビア半島を通過しているが、かつて、そこにイギリスの拠点はなかった。そしてイギリスはイスラエル(1948年)とサウジアラビア(1932年)を作る。その三日月帯の東端に日本はある大陸を侵略する拠点として格好の場所だ。
 イギリスは19世紀から中国(清)を食い物にしようとしてきた。そして実行されたのが1840年に勃発したアヘン戦争と56年に始まった第2次アヘン戦争だ。
 前にも書いたことだが、アヘン戦争と第2次アヘン戦争でイギリスは勝利したものの、内陸部を支配する戦力がない。アヘン戦争に投入されたイギリス軍は5000名。7000名はインドの兵士だった。第2次アヘン戦争でイギリス軍は兵士の数を増やしたが、それでも1万3127名。フランスから7000名ほどが参加している。
 要するに、イギリスは戦力が圧倒的に不足している。そこで目をつけられたのが日本だ。明治維新はそうした側面から考える必要がある。ちなみに日清戦争で日本軍は24万人が投入された。明治維新以降、日本は大陸侵略の拠点であり、日本人はアングロ・サクソンの傭兵としての側面があるのだ。明治維新によって安藤昌益を生んだ徳川時代は終わり、大陸を侵略する天皇制の明治時代が始まる。

 イギリスがアヘン戦争を仕掛けたのは資本主義が破綻したからにほかならない。資本主義は富を循環させるのではなく集中させる。必然的に貧富の差が拡大し、経済は持続できない。そこで国外で略奪するしかないのだ。世界市場の形成、原料の入手と言えば聞こえは良いが、押し売りと略奪だ。押し売りの商品の中には麻薬も含まれている。

 今回のタンカー拿捕はアメリカが東シナ海や南シナ海で展開している軍事行動の性格も示している。中国などアメリカに楯突く国の海上輸送をいつでも断ち切れる体制を確立したいということだ。日本はその手先にされている