2020年11月1日日曜日

「自助」押しつけと規制緩和 3周遅れのスガ政治/科学の営みねじ曲げる

  経済評論家の内橋克人氏は、菅首相が採っている新自由主義路線は既に破綻が明らかになっている「3周遅れの思想」だと評しました。

 規制緩和民営化40年前、アメリカのレーガン大統領やイギリスのサッチャー首相が始めました(日本では中曽根氏が継承しました)。その結果が、現在の巨大多国籍企業の莫大な利益と、経済格差の拡大を生みました
 経済の流れは元々「弱肉強食」性を持っているので、それにさまざまな「規制」を掛けて抑制するのが政治の役割でした。それを「市場原理に任せれば合理的な姿に落ち着く」という口実の下に、逆に「規制」を外し、大企業が思いのままに経済活動を行えるようにしたのが、小泉・竹中政権(2001年~2006年)が採った新自由主義政策でした。
 竹中氏が通常の労働に非正規労働者を採用することを可能にした結果、低所得の非正規労働者が急増し、安い労働者を使用することで大企業は大儲けをしました。大企業と富裕層はますます富み、国民はますます貧しくなりました。日本の大企業は、このコロナ禍のなかでも内部留保を1年で10兆円も増やしました。

 菅政権は登場するや否やかつて誰も行わなかった「学問への介入」を行う一方で、分かりやすい携帯電話料金の値下げで国民にアピールしつつ「規制緩和」を謳っています。規制改革を何か革新的なものと受け止めるのは間違いです。「自助・共助・公助」は勿論「自己責任」強調の裏返しの表現です。
 内橋氏が、菅氏がこれまで何をして来たのか、これから何をしようとしているのかを分かりやすく語りました。しんぶん赤旗日曜版の記事を紹介します。

 併せて同紙に載った「日本科学史学会長・木本忠昭さんに聞く…科学の営みねじ曲げる 学術会議 政権が恣意的選別 学問の世界に忖度を持ち込む狙い」を紹介します。
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経済評論家 内橋克人氏に聞く
スガ政治すでに三周遅れ 
「自助」押しつけと規制緩和では格差拡大するばかり
共産党含む連合政権へスピード上げて
                      しんぶん赤旗日曜版 20年11月1日号
 菅義偉首相が繰り返す「安倍政権の継承」と「自助・共町・公助」という言葉の真の意味は何か。国民を不幸にする「構造改革」路線を厳しく批判してきた、経済評論家の内橋克人さんに聞きました。                 北村隆志記者
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 共産党の柔軟な対応のおかけで、野党共闘が進んできました。野党共闘なしに政権交代はあり得ません。すべての野党がこのことを肝に銘じてほしい。
 野党共闘を本当に力のあるものにするためには、ただ数をそろえるだけでは不十分です。党と党の壁を越えた共闘の、思想的意味と政策的内実を深めなければいけません。
 次の総選挙で政権交代し、共産党を合む連合政権を実現するためには、スピードが必要です。
 国民の広い共感を得られる、野党共闘の新しい標を掲げてほしいと思います。
 
人事で脅して人心操る
 菅義偉首相は安倍政権を継承するといいます。
 その最大の真意は「モリ、カケ、桜」をはじめ安倍政権の数々の疑惑は一切究明しないということです。つまり、国民の求めには応じないという意思表示です。
 安倍政権は外交安保が安倍晋三氏、内政が菅氏でした。「安倍は外、菅は内」と節分の豆まきみたい。だから政策的には菅レガシー(政治的遺産)を菅首相が継承するのが実態です。
 実際、ふるさと納税、「Go To」キャンペーン、2014年の内閣人事局の創設、すべて菅首相自身が官房長官時代にやったことです。さかのぽれば第1次安倍政権の総務相の時からやってきたことです。
 これらは霞が閣では「スガ案件」と呼ばれ、特別扱いされてきました。なかでも内閣人事局の創設は重要です。高級官僚600人ほどの人事権をすべて官邸人事局に集中した。官僚を意のままに動かすうえで最大の力を発揮してきました。
 菅首相のやり方の一つは組織のトップを威圧することです。これは言論介入の時によくみられます。NHKはその典型です。一つ一つの番組のクレームをトップに伝えるんです。・
 二つ自分や権力に対して少しでも批判的な言動は、人事を通じて徹底的に排除することです。
 菅首相は総裁選中、「私たちは選挙で選ばれているので、決まったことに(官僚が)反対するのであれば、異動してもらう」と言いました。これは一種のブラフ(脅し)です。
 組織のトップにクレームをつけ、人事で脅す。それが現場に官邸への忖度を生ませるという法則をよく知ています。日本人の競争意識と立身出世故にうまく乗っかって、人心を操るのがスガ手法です。
 「天空回廊」と私は呼んでいるのですが、霞が関の官庁街と官邸をむすぶ、目に見えない回廊があります。そこで忖度競争が加速しています。今までは上を見るというと、事務次官や局長など各省庁の幹部を見ていました。今はみんな官邸を見ています。官邸独裁です。
 今回の日本学術会議で排除された会員候補6人は、権力を批判してきました。私から見れば正当な批判です。そういう批判を自信をもって行った人びとを菅首相は排除するのです。

損得あおるスガ案件
 ふるさと納税や「Go Toキャンペーン」をみると、「スガ案件」の共通点がよくわかります。
 ふるさと納税は、自治体間の返礼品競争をあおる仕掛けです。公共自治体同士の間に競争を仕込むのです。
 寄付した分は、所得税・住民税で還付・減税が受けられます。高額所得者ほど多額の還付・減税が受けられる仕組みです。
 Go Toトラベル」「Go Toイート」は、コロナ禍で大変な業者に直接支援の手を差し伸べるものではありません。消費者を巻き込んで、ソントク勘定(感情)を刺激しながら、集客を業者・店同士に競い合わせるものです。
 そもそも制度を利用できるのは、時間的、経済的、精神的にゆとりのある人です。万人ではありません。そして使う額が大きいほど、戻ってくる額も大きい。中高額所得者を優遇した税の使い方です。公平な税の使い方ではありません。
 コロナウイルス感染症対策を看板にして、巨大な税を、問題ある使い方に投入しています。財政赤字はますます膨らむ。これがいつまでも続かないことは菅首相もわかっています。うっかり□を滑らせたのが消費税増税です。たちまち火消しに追われました。でも、ツケは消費税率引き上げで、と考えているのではないでしょうか。
 最初は携帯料金の値下げなど、国民受けのいい政策から手を付けています。長期政権を狙うスガ手法の典型です

いまこそ「公助」の出番
 菅首相は「自助、共助、公助」発言を繰り返しています。最初に「自助」を持ってきて、福祉や社会保障の「公助」は最後にもってくる。まず「自分で何とかしろ」、だめなら家族で支えあえ、政府に頼るのは最後だというのです。要するに「小さな政府」を目指して、規制緩和と民営化をすすめる新自由主義の思想です。
 規制緩和と民営化は40年前、アメリカのレーガン大統領やイギリスのサッチャー首相が始めました。その結果が、現在の巨大多国籍企業の莫大(ばくだい)な利益と、経済格差の拡大です。
 菅首相は格差是正をやる気がまったくありません。相変わらずの「規制改革万能論」です。これでは格差は拡大する一途です。
 コロナ禍で休業・失業や、悲惨な派遣切りが急増しているなど、いま「公助」の出番です。新自由主義はすでに二周遅れ、三周遅れの思想です。

内橋克人さん 経済評論家  うちはし・かつと=1932年生まれ
 神戸新聞記者を経て評論家活動に。『もうひとつの日本は可能だ』『共生経済が始まる』など著書多数。NHK放送文化省などを受賞


日本科学史学会長・木本忠昭さんに聞く
科学の営みねじ曲げる 学術会議 政権が恣意的選別
学問の世界に忖度を持ち込む狙い
                      しんぶん赤旗日曜版 20年11月1日号
 菅義偉首相が日本学術会議の会員候補6人の任命を拒否した問題で、日本科学史学会は会長声明を発表しました。会長の木本忠昭・東京工業大学名誉教授(77)に思いを聞きました。
                            宇野龍彦記者
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 今回の任命拒否は、日本学術会議法に反した乱暴な政治的人事介入といわざるを得ません。任命拒否を撤回し、任命決裁までのプロセスと、拒否理由の正確な説明を私は求めます。この問題が、学術会議のみならず、広く科学界、国民生活に害をもたらすと強く危惧しているからです。

戦時の弾圧反省
 憲法23条には「学問の自由」が独立した条項として書き込まれました。それは戦前・戦中の体制が、学問を弾圧してきたことからの反省です。
 戦前の学問に対する政治介入としては滝川事件(1933年)や天皇機関説事件(35年)などがありました。こうした学問、言論の自由への弾圧は、結局は国のためにも、国民のためにもならなかったという深い反省があったからです。
 当時は、軍事研究の分野にはお金がでたけれど、軍事とは直接関係ない研究にはお金もでず、できなくなりました。学問全体が戦争に引っ張られていった。国が直接、学問の行き先を指図するようなことになると、学問の健全な発展は阻害されます。この反省から 「学問の自由」は書き込まれたのです。
 科学、学問の自由は、全人類の幸福にとっても大事です。そのことは日本だけでなく、国際的にも認められてきました。そういう世界と日本の経験をあわせ、憲法にうたわれたと思います。
 研究者個人が自由に自分の学問・研究を発展させることは重要です。同時に、それを育て、守っていく科学者のコミュニティー、研究組織のありかたも学問の自由と深く結びついています
 戦後、東工大では戦前の反省をもとに大学改革が行われ、名古屋大学でも、物理学の研究者で坂田昌一という先生が主導して「教室憲章」を作りました。教授も若い人も教室の中では同じく自由に発言できるという運営で、それから優れた研究が育っていきました。ノーベル賞を受賞した益川敏英・京大名誉教授や小林誠・高エネ研特別栄誉教授もその一員でした。

提言300以上
 日本学術会議は戦後、平和復興をうたうとともに、政府から独立性をもつということで誕生しました。学術会議はその立場から科学の発展と、国民のための科学利用をめざして活動を行ってきました。2008年以降、300以上の提言をしてきています。
 科学研究は未知の問題に立ち向かいます。その過程ではさまざまな意見、評価があり得ます。そのうちの一部の科学者を時の政権が恣意(しい)的に排除すれば、科学的なプロセスをねじ曲げてしまうことになります。
 新型コロナウイルス感染症の研究でも未知の問題にあふれています。そこに政権の利害に合わないからと政治判断基準を導入するなら、科学的究明が阻害され、結局は国民の期待に応えられないことになります。
 今回の任命拒否で、政権がその理由を示さないことは「忖度(そんたく)」政治を科学界にまで持ち込もうとする狙いか、と疑わざるをえません
 学術会議の会員候補については、学者たちが、学問の到達にのっとって議論したものです。それを、政府が政治的な良しあしの判断や、あるいは政治的利害から「選別」をすることは、あってはなりません。
 菅首相は、任命拒否について「総合的に俯瞰(ふかん)的に判断した」と説明しています。これは、首相自身が学術会議法にない別の判断基準を持ち込んだ、みずからの違法性を認めたに等しいものです。
 日本学術会議は、政府の諮問会議とは違います。政府から独立性を保つことができるかどうか。このことが、一番大事です。政府から独立し、研究者が自由に意見を交わし合わす組織でなければ科学者の集団として意味をなさないと思います。