2020年11月11日水曜日

 ~ バイデン政権で日米どうなる(前・後)(日刊ゲンダイ)

 米国の大統領戦は民主党のバイデン氏が制しました。しかし二大政党である民主党と共和党は似たり寄ったりの体制派政党なので、対外的に何ほどの変化があるとも思えません。

 トランプ氏は性格的にあまり軍産複合体の掣肘を受けなかったので、在任中に新たな戦争を始めることはありませんでした。その点は戦争に明け暮れたオバマ氏とは大いに違いました。
 バイデン氏の背後には当然金融資本、グローバル企業、軍産複合体がいます。バイデン氏はそれなりの良識は持っていますが、別に市民派という訳ではないのでオバマ時代に戻らない保証はありません。

 日刊ゲンダイが「 ~ バイデン政権で日米どうなる」という記事(前・後編)を出しました。日本に関わる要点をピックアップすると下記の通りです。
 ▽オバマ政権の副大統領時代に安倍首相の靖国参拝を批判 ▽政権組織的な力で日本に対する圧力を強めてくる ▽拉致問題協力は絶望的 ▽法外な駐留経費負担を迫ることはなさそう ▽日本はアジア太平洋地域の第1防波堤。日本を含む同盟国の力を借りて中国を牽制する ▽沖縄の辺野古移設期待できない ▽財政上の理由から日本に武器購入圧力を強める ▽中国のTPP参加を探る可能性、日本にコメなど農産品の市場開放を激しく求める可能性がある ▽環境問題を重視 ▽学術会議問題⇒菅首相を反知性派と見る

 日刊ゲンダイの記事の「前・後編」を併せて紹介します。後編は「非公開」のため、記事集約サイト「阿修羅」より転載させてもらいました。
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巻頭特集
“トランプと蜜月”のツケ バイデン政権で日米どうなる <前>
                          日刊ゲンダイ 2020/11/09
狂気のトランプと蜜月だった恥辱にがんじがらめ
 まれにみる混戦となった米大統領選は、日本時間8日未明、ようやく民主党のバイデン前副大統領の勝利確実と速報された。米国内では支持者が歓喜に沸き、各地で祝賀パレードが自然発生。トランプ大統領が過去に出演していたテレビ番組での決めゼリフの「YOU’REFIRED!(おまえはクビだ)」などと書かれたプラカードを掲げる人の姿も目立った。英国のジョンソン首相、ドイツのメルケル首相ら世界各国のリーダーも相次いでバイデン勝利への祝意を表明。ヘイトとフェイクをまき散らして分断を煽り、民主主義をおとしめてきた狂気の大統領がホワイトハウスから去ることに安堵が広がっているように見える。
 もっとも、バイデンの勝利に焦りまくっているのが、トランプべったりで追従してきた日本だ。
「各国首脳にならって、菅首相も8日早朝にツイッターでメッセージを送りましたが、公式に祝意を伝える電話会談の時期などは慎重に見極める方針です。来年1月20日まではトランプ氏が現職大統領ですし、安倍前政権から蜜月関係でやってきたのに、いきなり右から左へと手のひらを返しづらいのも事実。トランプ氏がゴネている間は、日本政府は様子見するしかありません」(官邸関係者)
<ジョー・バイデン氏及びカマラ・ハリス氏に心よりお祝い申し上げます。日米同盟をさらに強固なものとするために、また、インド太平洋地域及び世界の平和、自由及び繁栄を確保するために、ともに取り組んでいくことを楽しみにしております>
 この菅の投稿に対して、「祝意は時期尚早」「まだ決まっていない」と反発するリプライ(返信)が多数寄せられていることも興味深い。
 再選を願っていた日本政府に同調してか、自民党支持者にも「トランプ命」がしみついているようだ。

 安倍前首相はトランプとの蜜月を売りに「外交特使」として政権に協力するとか言っていたが、それもバイデン勝利でアテが外れた。なにしろ、安倍が2013年に靖国参拝を強行した際、「失望」を表明して安倍の歴史観を批判したのは、当時のオバマ政権で副大統領だったバイデンその人なのである。
「今回の大統領選は、米国全体がトランプ氏を拒否した選挙でした。それに勝ったのがバイデン氏ですから、ひたすらトランプに媚びへつらってきた日本は、最初から厳しい目で見られているし、そこへ『世界一トランプと親しい』が自慢の安倍氏がシャシャリ出て行ったら日米関係はめちゃくちゃになります。これまではトランプ個人の機嫌を取っていればよかったが、バイデン政権は組織的な力で日本に対する圧力を強めてくるはずです」(元外務省国際情報局長の孫崎享氏)
 トランプと戦い、勝った男と日本がうまくいくわけがないのだ。ポチ外交のツケは、重くのしかかってくる。

バイデン大統領で拉致問題“他力本願”の絶望
 バイデンの北朝鮮への姿勢は強硬だ。
 トランプ頼みだった安倍の独り相撲すらとれず、菅は拉致問題で絶望的な状況に陥りそうだ。
 大統領選のテレビ討論会で金正恩朝鮮労働党委員長との「友情」を自賛したトランプに対し、バイデンは「トランプ氏の言う良い友達というのは悪党で、ヒトラーが欧州を侵略するまではいい関係だったと言っているようなもの」と吐き捨てた。続けて「トランプ政権で北朝鮮はミサイル能力を向上させた」と批判。自身が米朝首脳会談を実施する前提条件に「非核化」を突きつけた。
 国際ジャーナリストの春名幹男氏はこう言う。
「米国の対北政策は相当に行き詰まっています。ブッシュ(子)政権下の6カ国協議で非核化交渉がまとまりかけたものの、最終盤で空中分解。その後、北朝鮮は人工衛星打ち上げと称して弾道ミサイル発射実験を強行し、オバマ政権が『戦略的忍耐』を決め込んだことで核ミサイル開発の時間を与えてしまった。そして、トランプ大統領のデタラメです。新型コロナウイルスの感染再燃、大統領選で深まった分断と、バイデン氏は深刻な内政問題に直面することになる。北朝鮮側が動かない限り、当面は目を向けることはないでしょう」
 だいたい、安倍が言い出した「無条件会談」が金正恩を遠ざけているようなものだ。
「安倍前首相はいいアイデアだと評価しているようですが、北朝鮮にとって条件なしでは会談するメリットがない」(春名幹男氏=前出)
 北朝鮮は、菅の存在をほぼ無視しながらも、小泉訪朝にかかわったベテラン外交官が9月末に談話を発表。「われわれの誠意と努力により、すでに後戻りできないまでに完全無欠に解決された」と従来の主張を繰り返した
 被害者家族は、いつになれば光明を見いだせるのか。

沖縄や基地負担、貿易交渉専門家はこう見ている
 バイデンは同盟国との関係強化を表明。同盟軽視のトランプのように在日米軍撤退をチラつかせ、日本に法外な駐留経費負担を迫ることはなさそうだが、米国における日本の地政学的位置は変わらない
 日米同盟と自衛隊の役割に大きな転換は望めそうもない。
「米政権が変わっても、日本にはペストとコレラの違いでしかありません。米国にとって日本はアジア太平洋地域の第1防波堤。国際協調路線に戻っても、日本を含む同盟国の力を借りて中国を牽制する方針に変化はない。残念ながら、沖縄の辺野古移設見直しも期待できません」(軍事評論家の前田哲男氏)
 バイデンは4年で2兆ドル(約206兆円)の環境投資を公約。財政上の理由から日本に軍事力強化の圧力を加え、「政府・自民党内で敵基地攻撃論が進んでしまいかねない」(前田哲男氏=前出)との懸念もある。
「バイデン氏はTPP再交渉が持論。市場開放に慎重な『ラストベルト』の激戦州に配慮して今は封印していますが、むしろ日本政府はTPPに積極的です。米国の離脱後もTPP11を成立させただけに、菅政権は前のめりでバイデン氏に再参加を呼びかけそうです」と指摘するのは、経済アナリストの菊池英博氏だ。こう続けた。
「安倍政権が『TPP反対』の公約を覆し、『推進』に転じたのは中国包囲網と結び付けたいためで、その路線を菅政権も継承しています。ただ、バイデン氏は対中貿易戦争の緩和のため、中国のTPP参加を探る可能性もある。となると、日米は同床異夢。しかも民主党の牙城で今回もバイデン氏が制したカリフォルニア州は、最大のコメ産地です。トランプ政権とのFTA(自由貿易協定)交渉以上に、コメなど農産品の市場開放を激しく求めることは大いにあり得ます」
 菅はバイデンに一層の従属を迫られそうだ。


巻頭特集
“トランプと蜜月”のツケ バイデン政権で日米どうなる <後>
                         日刊ゲンダイ 2020/11/09
                      (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
環境で攻められたら、にわか仕立ての菅政権は立ち往生
 バイデンの看板公約は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることだ。大統領就任初日に、トランプが離脱した「パリ協定」に復帰すると宣言。環境問題は外交の優先課題でもあるのだ。
 菅も就任後初の所信表明演説で、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「脱炭素社会」実現の目標を打ち出したが、その本気度には疑問符がつく。
「バイデン勝利の可能性があると伝えられ、“保険”の意味で盛り込んだ政策目標で、具体策があるわけではない。来年1月に召集される通常国会の冒頭で成立させる予定の3次補正には、再生可能エネルギーや省エネ関連投資の予算が計上される見込みですが、総理自身、これまで環境問題に熱心に取り組んできたわけではありません」(官邸関係者)
 それは、2日の衆院予算委で菅が「温室効果ガス」を「こうしつおんかガス」と言い間違えたことからも分かる。肝いり政策なら、あり得ない。本音では興味もないのだろう。 
バイデン氏の背後にいるのは金融資本とグローバル企業、軍産複合体と考えられますが、環境や人権問題も重視しているのが特徴です。バイデン支持層の左派は、気候変動問題は『存在しない』と目を背けてきたトランプ大統領の反知性主義を厳しく批判している。国際社会から見たら、トランプの家来とみなされてきた安倍前首相の亜流が菅首相で、日本学術会議の問題では、英国の科学誌にトランプやブラジル大統領とともに反知性の代表として扱われていました」(孫崎享氏=前出)
 バイデンは、温室効果ガスの排出削減目標を満たさない国からの輸入品に「炭素調整料」を上乗せすることも公約している。
 環境問題で、ゴリゴリに攻められたら、にわか仕立ての菅はひとたまりもない。

バブル後最高値の株価は一瞬の幻か、さらに伸びるか
 マーケットが沸いている。米株式市場は1週間で7%、計1800ドル超の急上昇。つられて日経平均もバブル崩壊後最高値を更新した。実に29年ぶりの高値で、4日間の上昇幅は計1300円以上。バイデン当確による政治空白リスク後退などが要因とされるが、市場の期待通り年内に2万6000円を突破するのか。お祭りムードはいつまで続くのか。
「株式と債券が投資の2本柱ですが、世界的な金融緩和で債券では利ザヤを得られない。ジャブジャブとなった投資マネーは相対的に有利な株式市場になだれ込み、株価を押し上げている状況です。企業価値を度外視したマネーの動きなので、第1波、第2波を上回る新型コロナの感染拡大や、大統領選をめぐる前例のない展開など、ショッキングな材料が出てくれば一気に不安定化するでしょう」(経済評論家・斎藤満氏)
 感染が再燃した欧州の主要国はロックダウンに再突入。大統領選でヒートアップした米国では新規感染者が過去最多の13万人を上回った。その上、完全決着はまだ。トランプは「敗北宣言」を拒み続け、法廷闘争の時間稼ぎで逆転勝利を狙っているからだ。
 マーケットの節目は12月14日の選挙人投票。年明け1月6日に連邦議会で行われる選挙人投票の開票、そして、同20日の新大統領就任式だ。
「東京市場は大統領選を巡り、生じる可能性のある大混乱を織り込んでいません。大統領のイスを争う前代未聞の闘争が長引けば、分断はますます深刻化。両候補の支持者がそれぞれデモを繰り広げ、衝突を誘発する事態になれば、内乱状態に陥るリスクもはらむ。そうなれば、マーケットはパニック必至です」(斎藤満氏=前出)
 市場も常識で測れない未知のゾーンに入るのか。

「分断」を煽るスッカラカン 政治への絶望が広がる予感
「青(民主党)も赤(共和党)もない。白人も黒人もアフリカ系もアジア系もない。すべてのアメリカ人の大統領になる」
「国民を分断するのではなく、団結させる」
 バイデンは「勝利宣言」の演説で、何度も「分断の傷を癒やす時だ」と語った。それだけ米国内の分断が深刻化しているということだ。
 大統領選に負けたとはいえ、約半数がトランプに投票したことを忘れてはいけない。「親トランプ」と「反トランプ」の対立は簡単には解消されず、今後も混乱が続く可能性がある。
 だからこそ、トランプ政権で分断され、傷んだ米国社会を癒やし、統合し、再び立て直そうとバイデンは国民に語りかけた。
「大統領にふさわしい知性と品格にあふれたスピーチでした。しかも、用意された原稿を読んでいるのではない。プロンプターも使っていない。彼我のトップの知性の差に愕然としてしまう。一国の大統領が国民の分断を煽って、自分の権力を強化する手法は民主主義国家として異常だし、そういう大統領に媚びへつらう日本の首相もどうかしているのです。米大統領選では、民主主義の底力が示された。民意の強さを日本国民も学ぶべきです」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)
 トランプの悪夢は4年間で終わりを告げるが、この国では異論を排除し、批判の声は敵とみなして攻撃し、自画自賛を続ける安倍前政権からの8年間の流れは、菅政権に引き継がれ、まだ続くのだ。
 国民を納得させる言葉を持たないスッカラカンは、分断を煽ることでしか権力を維持できない。それで世界の潮流から取り残され、絶望だけが広がる日本でいいのか。未来は選挙で変えられる。国民が民意の力を信じられるかどうかだけだ。